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"元"東国無双の美姫は平和を望む

作者: 赤条あめ
掲載日:2026/10/29


 今日も私の目の前には、書類が山積みになっている。

 溜め息をつきたいけど、もうこの状況が当たり前だから、ついても変わらない。


 クソ上司め、と最後に思ったのは何年前だろうか。

 

 仕方ない。やらないといけないのだ。そうだ、私は大人なのだ。我儘は通用しない。

 私は自分の双眼を擦る。眠気なんて吹っ飛ばす。おっけ、よし、やろう。


 と、思いました。思っただけで、手が動かないのです。

 今日は調子が悪いな。む、怒られたから?でもいつも私、怒られているし。気にしていないつもり、なのだが。……考えることは原因じゃない。必要なのは、結果。


 ほら、隣の同僚も結果を残すために、一生懸命、頑張っている。頑張って昇進した仲間もいるのだから。……だから。


 時間が過ぎていく。チクタク、チク……

 眠いのかな、少し、仮眠するぐらいなら……いいよね?

 

 おやすみ……。


 



 


「ひ、姫様ー!」


 う、ううー。頭が痛いなぁ。頭痛が痛い、なんちゃって。


「甲斐、大事ないか!?」


 あ、もしかして書類に頭を預けちゃったかなぁ。うわ、どうしよう。大事なことが書いてあることもあるのだぞ。……うん、いっか、別に私のじゃないし、と思うことが出来ないのが悲しい。


 ていうか、今、何時?結構、寝ちゃったかも!


 やばい、やばい。終わらない、明日提出なの!

 締切を守らないと!


  ……どうしよう、目が開かない。パチパチしても開かない。あ、聞いたことがある。すごい疲れた日は寝ると、金縛りにあうって。身体がびくともしないから、金縛り?


「甲斐!」

「「あねうえ!」」

「甲斐姫様!」

 

 むう。外が騒がしいですな。少し、辟易しちゃうよ。


 ……え、かい?

 甲斐国、という国名ですか。それとも、甲斐甲斐しい、みたいなそのまんまの意味ですか。美味しい貝ですか。


 でも、姉上って……。人名の甲斐、でしょうか。あと、姫様?


 残念です。ここには、姫様はいませーん。

 いたとしたら、交番へ拉致します。怖いので。


 そういえば、身体が熱くなった。燃えているような熱さだ。

 閉じている目をギュッとする。勿論、暗い。

 私がいる場所はわかる。ここはオフィス。なのに、何故か怖い。私がどこにいるのか不思議で。

 ……子供じゃないのに。ああ、土の匂いがするから?


「甲斐、目を開けなさい!!」


 バチッ。


 目が開いた。ええー、開いた。今、呪いが解けたように金縛りも解けた!

 ああ、良かった。よし、仕事だ。ん、なんか明るくない?ま、まさかの朝とか……。


 恐る恐る身体を起こす。バッ、と上を見ると。そ、外?

 おお……そして貴方達はどなたです?時代遅れの着物……。

 不審だけどキョロキョロする。

 

 ……え、え、えー。ここ、どこーー!!


 目を限界まで開く。驚かない人はいないよ、この状況。しかし、何故かしっくりくる。なんか落ち着いてしまう。でもでも、何、あの建物。博物館にしかないやつだよぉ。う、え。ゆ、夢かな、そうだよ夢……。

 

「「あねうえーー!!」」

「わっ」


 我ながら甲高い声が出たな——って思う前に。

 二人のちびっこちゃんが私に飛びついた。


 ギュッギュッと。久しぶりに触れた人の肌は温かかった。特に子供は。

 子供と触れるのが久しぶりすぎて、あまり動揺出来なかった。ちびっこちゃん、可愛いなぁ。無意識に二人の背に手を置いちゃうよ。


 そっと、ちびっこちゃんを見ると。

 ……へ、着物ですか?


「……どういうこと——」


 視線を下にずらすと自分であろう手がとても小さかった。これは凝視するしかない。


「……は?」

 

 数秒後経った後に思わず、手を離してしまった。すると、二人は顔を見合わせて、不安そうに瞳を曇らせる。


「あねうえ、どうかしましたか?」

「しましたか?」


 決まっています。キャパオーバーです。メンテナンスをしますので、時間が経ってからでお願いします。


「甲斐!無事で……。これ、二人とも、静かに。あら?甲斐、熱が——」


 お姉さんかな、べっぴんさんがやって来る。わあ、着物の柄が素敵——

 そこで意識が飛んだ。

 なんという馬鹿げた夢なの。




 なんてね。

 



「——夢じゃないなら、誰か現実だ、とか言ってよー!!」

「ひ、姫様?」


 いえーい。転生しましたー。

 転生は前世で少し憧れたけど、えらいとこに来てしまったよ。異世界でも未来でもない、戦国時代に。

 私はどうやらあの"甲斐姫"になりました。あの、です。


「姫様。お休みになられたほうがよろしいかと……」


 あ、ごめん、そうだね。と私のそばにいる女性に言う。そうしたら女性は、また参りますと部屋を出て行った。……多分、侍女?


 記憶が正しいなら、どうやら甲斐姫こと私は武芸の練習をしていたそう。で、なんかあって家臣と対決!そしたら……どこかやっちゃって。ということで自室で寝込んでいました。

 確かに発熱はしたけど、なんか軽かったみたいで三日で治った。

 戦国時代、ってすごいね。治療方法は、祈り。私、何もされていない。強いて言うなら、妹たちから貰った果物。みずみずしくて美味しかったなぁ。

 回復したのに、父である成田氏長に休めと言われたのが今朝です。


 一言で言うならつまらない。スマホもテレビもないからなぁ。せめて本を……。


 本、ね。私自身、甲斐姫のことはわからない。こちら、平安時代が専門なので。でも本好きかつ歴女の友達から戦国時代の姫の話は、よく聞いていた。友達は姫たちがお好きのようで、マイナーなお姫様も知っていた。本当にすごい。何十人の人生を覚えている記憶力だけ褒めて差し上げたい。

 

 甲斐姫は成田の生まれ。成田氏は、ころころ主君を変えていたそう。今は……えっと北条氏かな?


 1590年に秀吉が天下統一を成し遂げたことは学校でも習った、と思う。その裏には、忍城の戦い、という戦がある。忍城は、現在の埼玉県行田市にあるところ。当時は成田氏のお城だった。今の秀吉は北条氏を倒そうとしていたから、北条の家臣である成田にもちょっかい出すのはまあ、妥当だね。


 結果的には、北条は負ける。忍城は水攻めをされたのだけど——流石、「浮き城」と称えられているお城。水攻めに耐えて、落ちませんでした!


 つまらない友達の話を流そうと思っていたら。なんか興奮する内容でついつい聞いてしまったのが私の運命。そのあと、延々と歴女っぷりを見せられたのは内緒。


 そんな忍城の戦いで極めて活躍したのが、この甲斐姫。全部が甲斐姫、というわけではないし、多分優秀な家臣もいたと思う。けど、友達曰く「『成田記』によると甲斐姫は戦ったらしい。……かっこいいよね、普通だったら怖いはずなのにね」と。


 その時は、戦うお姫様を知らなかった。よーく深掘りしてみると戦うお姫様はいっぱいいたそう。勿論、お姫様じゃなくても。……戦国時代だもんね。敵がきた!どうする? はい、戦いましょう、です。


 つまり、未来は刀を握り弓を引く、ということです。……無理無理無理!

 戦えと?断言しましょう。怖くて無理です!死にます、はい!


 未来、未来。……あ、未来を知っているからこそできることがある……?

 うん、ある!


 未来を変えればいいんだ!


 へへ、私ったら天才ー。多分、1590年まで後十年はありそう!


 そうだ、変えるんだ。戦わない未来のために。


「今すぐ、平和になーーれ!」

 

 夢はでっかく、身体は小さく!

 

 とりあえず、大きい目標は平和にすること。


 さて、今は何年ですか?

 1579年。天正7年。

 甲斐姫、1572年年生まれ。


 うち、八歳。あー、八、ですか。ちっちゃいな。自分で言うのは躊躇いがあるけど、甲斐姫、可愛いよ。後に東国一の美女とも東国無双の美姫と言われるんだもん。今もきっと可愛いと自負しましょう。


 子供にできることがー、できることが、あることを願って。

 

 ……なんか、ワクワクしてきた。戦国時代は怖いけど、少しは楽しみたいもん。折角の第二の人生!


 (多分)過労死した前世の人生も含めて、この人生を精一杯生き延びたいです!


 よーし、本能寺の変をどうしようか考えなくては!

私の知識が間違っているように、史実も定かではないのが痛いところです。

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