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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

新生活

作者: 辰城ナオ
掲載日:2026/10/18

えーとですね。

こちらわたくしめが見ました夢を物語仕立てにしたものです。

稚拙な所はございますがお楽しみくださいませ。

FPSは得意だしそこそこ上手な自覚はあった。

そんな時、新作オンラインFPSのクローズドβテスターに選ばれた。

これまでにないリアルを売りにするフルダイブVRのFPSゲームらしい。


いつもつるんでる友達も運よく選ばれたみたいで、みんなで遊びに行くことにした。

たまたま設置場所が近所のアミューズメントセンターだったのもあって、気軽に来れた。


ゲームの特性上、遊ぶために健康診断みたいなのを受けないといけない。

少し怪しく感じたがフルダイブならそんなもんか。

せっかく当たったテスター権!

使わなきゃ勿体ないよね!


受付でタブレットを渡されて利用規約を読まされる。


なんだか長い気がするがクローズドβなんだから守秘義務とかそういう事だろ?


サッサと遊ばせてくれよー!


はいはい。承認承認。


次に通された処置室には遊ぶだけにしては大掛かりな手術台のような物があった。


へーなかなか本格的じゃん。

演出も凝ってるね。


誰も遊んでない、未知のゲームにワクワクしながら手術台に寝転んだ。


チクっと腕に痛みが走った後、麻酔か何かの影響で意識が落ちる。


気が付くと、目の前に見慣れない画面が広がっていた。


おーおー?これ自分のアバター?なんかテレビで見た事あるやつじゃん!

しかもめっちゃリアル!

こりゃあ期待が高まりますな!


それといちいち操作しなくても、考えただけでカーソル動くの便利だなぁ。


…んでもこれ選択肢少なくない?

ベースボディは一つ?

プレイヤーネームもなんか固定される?

一応…細かくカラーは変えれるのかぁ…。

ロードアウトで選べるのは武器2種類と背面オプションが選べるだけかぁ…。

まあβテストだしそんなもんか。


よし…!それならそれでメッチャカッコよく作ろう!

武器は…アサルトライフルとソードが良いかな?

背面オプションは…ジャンプパック!これだ!

カラーは…装甲っぽい所は濃い緑。

関節とかはライトグリーン。

忘れちゃいけない左肩は濃い赤!やっぱこれね!


一通り設定が終わったのでOKを選択する。


一瞬視界が暗くなる。

気が付くと装甲車の中に居た。


自分の手を見てみる。


おおー指動かすだけでシリンダーとかガチャガチャ動いてる…。

いや拘り過ぎだろ…。

しばらくリアルに作られた腕の挙動を眺めてると、向かいの長椅子に座ったプレイヤーが目に入った。

同じ機体だが思い思いのカラーリングで個性を出してる。


ユーザーネームは…?K4965?A3909?


ちなみに俺は…G6735…か。味気ないな。


とりあえずここがロビー的なやつだろう。まずは挨拶。


「どうも初めまして!G6735?です。」


「あれ?その声?お前か!」

頭上にK4965と表示されたプレイヤーのスピーカーアイコンが点滅する。


聞いたことのある声だった。

「なんだよ知り合いかよ!丁寧にあいさつして損したわ。」

「んじゃそっちのA3909ってのは…?まさか?」


「そうだよ俺だよ…!」

こちらも聞いたことのある声だった。


「結局いつものメンバーか!まあいつも分隊組んで遊んでるから連携バッチリだろうしな!」


「しっかし…揺れるなこれ。超リアルじゃん!」


「俺チョット酔って来たかも。」

K4965と表示されたプレイヤーがそう言った。

「なあ?遊び終わったら最近できたラーメン屋行かねぇ?」

そんな他愛も無い雑談をして過ごしていた。


『到着60秒前!準備しろ!』

ビジュアルは無かったがいかにも鬼軍曹といった男性の声でアナウンスが流れる。


それぞれの横のロッカーが開き選んだ武器が出てくる。


お互いのチョイスに突っ込みを入れあってると後ろのハッチが開いた。


「よっしゃ!一狩行こうぜ!」


威勢よく飛び出したそこは現実と間違えるほどよくできた世界だった。


視界も画面越しではなく裸眼で見ているのと遜色ない。

地面の凹凸、頬を撫でる風、火薬の匂い、湿度さえも感じられた。


「おお…!おおおおお!すげぇ…!」

それ以上言葉が出なかった。


いやーこれは凄いわ…これは売れるわ…。

これ…発売されたらβテストに参加してたの、ちょっと自慢できるやつやん?


ビィーと電子音が鳴って敵接近の表示が視界に浮かぶ。


「早速来たみたいだ!いつも通りやろうぜ!」


「おう!」

「…了解」

K4965とA3909が答える。


…さてとアサルトライフルは?おおう超リアルじゃん…よっしゃ、早速撃ってみよう。

こちらに殺到する甲殻を備えた蟲型生物に向けて撃つ。


タタタっと軽い音を立てて銃弾が発射される。

ストックを通じて肩に軽い振動がはしる。

直撃した蟲はそのまま爆ぜた。


おおう…振動とかリアル…本物撃った事ないけど。多分実物もこんなもんだろう!

でもゲーム的には…ちょっと銃の反動が弱いかな?


しかし操作感すげぇ…まじで思った通りに動く…!


よっしゃ次は…。


アサルトライフルを背中にマウントしてソードを持つ。


柄に巻いてある滑り止めのゴムの質感まで感じられた。


いや拘り過ぎだって。


とりあえずジャンプパックだな…!


頭の中でジャンプするイメージを描く。


背中のジャンプパックが稼働して体を上空に押しあげる。


うお…ジェットコースターで下る時の…あのふわっとした嫌な感じまで…!どこまで再現してんだよ!


そのまま落下しつつ細かく向きを調整して、少し大きい蟲の背中にソードを突き立てる。

そのまま振り抜く。豆腐を切るみたいに真っ二つになった。


うわ…なんかぬちゃっとした嫌な感触…でも…これなかなか爽快!ハマりそう。


一緒に降りた二人も遠くの方で戦っている。


片方はガトリングガンで並居る群体を一撫で。あとには蟲の残骸しか残ってなかった。


もう一人は巨大なハンマーで撲殺の限りを尽くしていた。


VC(ボイスチャット)からは楽しそうな声が聞こえてきた。


「この反動と弾幕!ふぅーーーはははぁ!逃げる奴はよく訓練された蟲《バグ》だぁ!たまんねぇな!」


「うげ…いつもの癖でハンマー選んだけど…はぁ…打撃でつぶれる感触が手に…やめときゃよかった…。」


二人とも楽しんでるようだ。


そんなこんなで戦闘を楽しんでたが、敵が途切れないどころか少しずつ強力になっていった。


「あら…?弾切れ?」

「えっ?これどうやって弾補充すんの?」

「うお!やべっ!」


弾切れの隙を突かれて蟲の群体に友人が呑み込まれた。


VC(ボイスチャット)も静かになった。


あー倒されるとVC(ボイスチャット)切れるのかリアルでいいけどその後暇そうだな。


「おい!ちょっとヤベェのがいるぞ!」


そちらを見ると、4本の鎌状の腕を生やした巨大な蟲が居た。

体長は3mほど。直立歩行する姿は、明らかにそれまでの個体とは違っていた。


…ボスに違いない…!あいつ倒せばクリアだな!


「おいおい手柄を横取りするなよ…!?」


ハンマーを構えた友人が突撃する。

横薙ぎの一閃をハンマーの柄でいなす。

反対からの一撃はシールドで受け流す。

しかしあと2本あった鎌は避けきれなかった。


うわ…俺らの中でもまあまあ上手いやつなのに…。


これは…なかなか手強そうだな…!腕が鳴るぜぇ…!


アサルトライフルを捨てて両手でソードを構えてボスに向かって走る。


鎌状の腕の横薙ぎ。そこでジャンプパックを起動して空に浮かび上がる。


が、ボスの腕は4本あるのだ。


うひょぉ!怖えぇ!


細かくジャンプパックを吹かしてギリギリで避ける。


しかし最後の1本はオーバーヒートで避けられなかった。

空中で無防備な俺に一振りが迫る。


右腕を根元から砕かれ地面に叩きつけられた。


次の瞬間、肩から先に、焼けた鉄を押し込まれたような痛みが走った。


なんだこれ。

痛い。

痛い、痛い、痛い!

ゲームだろ!?

なんでこんなに痛いんだよ!


「痛覚まで再現してんのかよ…!クソ仕様じゃねぇか…!」


右腕があった場所にもうそれは無い。

根元から引きちぎられるように壊された腕の基部が見える。

パチパチとスパークが走り、駆動油だろうか。青い液体が血のように噴き出してた。


…いやいくらリアルでも…この仕様はダメだろう…アンケートに絶対書こう…。

などと考えてるとボス個体が近づいてくる。


鎌を振り上げて一突き。胸が貫かれた。

そこにあるはずの心臓の感触が無くなる。

さっきまでうるさい程だった鼓動も感じ取れなくなる。


…グッ…胸に風穴開いたことねぇが…もし開いたら…こんな感じなのかな…まあ普通は即死か…。


痛覚が許容量を超えましたので低減措置を実行します。

システムがそう告げる。


だったら…痛覚そのものを切れよ…痛っ…。


しかし…いってぇなあ…。

とりあえず死んだよな?

それなら…ロビーに戻してくれねぇかなぁ…。

いやもうダメだ痛すぎて耐えらんない。

ログアウトしよう…。


脳内に表示されるメニュー画面からログアウトできそうな項目を探す。


項目ねえじゃん。


ロビーに戻れねぇ。ログアウトもできねぇ…それならせめて痛覚切ってくれよ…。


待てどもロビーに戻る気配はなく漏れ出た駆動液の水たまりに放置されたまま時間が過ぎて行った。


視界の端に表示される『リアクター喪失』と『非常電源作動中』の文字。身動きすらできなかった。


いったい…どれだけ待たせるんだよ…こっちはずっと…胸に穴が開いてるんだぞ…。

もしかして…まだ戦闘中扱いなのか…?何だよこの仕様はよぉ…せめて先にやられた奴と話でもさせろよ。


長い時間が過ぎて何か動くものが見えた。

トラックだ。

荷台には俺と同じアバターの…残骸が山と積まれていた。


トラックが俺の近くで止まる。

降りてきたのは、全身を覆う防護服を着た男二人だった。


周辺の残骸を漁りだした。


そのうち一人がこちらに近づく。


「ん?あぁ!班長!ここに落ちてましたよ!」

落ちてた?なに言ってるんだこいつ。


「おお。やっと見つかったか。うわひっでぇ…装甲ごとリアクター貫かれてるじゃん…こんなん廃棄だよ廃棄。」

廃棄?なに言ってんだ?

あぁ、そういう演出?


「でも班長。思考ユニットは生きてません?」

若い声の作業員がそう言った。


「もう…お前はさぁ…ホントに真面目が過ぎるんだよ!」

「もう今月ノルマ達成してるんだからこれ以上面倒増やすなよ!」

「荷台見てみろよ!もう一杯じゃねえか!」

班長と呼ばれた男は声を荒げている。



「いやでも…状態いいじゃないっすか?持って帰って使い物になったら報奨金貰えるっしょ?これなら行けるっすよ!」


若い作業員がそう言うと班長は少しの間考えて口を開いた。

「…しゃあねぇな…。積むか…管理番号は…G6735か。」


G6735…俺の名前…?


「向こうのはどうだった?」


「K4965とA3909っすか?ダメっすね。片方はユニット外殻が食い破られて、中身出てました。」

「もうひとつも容器がへしゃげてどーみても使い物になりません。思考ユニットは頑丈にできてるはずなんっすけどね。」


K4965とA3909?あいつらの名前?さっきまで喋ってた?

いや…あいつら…先にロビーで待ってるか観戦モードじゃねぇの…?


いやまさか…ゲームだろこれ?多分そういう演出…なんだろうけど…?

ホントにそうか…?


さすがに気味が悪いから聞いてみるか。


「すみません…ログアウトしたいんですけど…できないんですよ。」

若い作業員がこちらに気が付く。

だが声が聞こえたわけでは無さそうだ。


こちらをよく観察して透明シールドの奥の表情が明るくなる。

「ん?パワーランプ点滅してる?まだ稼働してる?!」


「班長!!行けるっすよ!これまだ生きてます!ぜったい貰えますよ!報奨金!やったっすね!」

「へへっ。今夜はガキどもにちょっと良い物食わせてやれますよ!」


なんだよ…なんで聞こえてねぇんだよ…。


『外部スピーカー損傷中』の文字列が出力される。


…ああそうかよ…!

そういうイベントね!負けイベント!

なんだよここまでチュートリアルってことか!?

痛覚はあるわログアウトはできねぇわ!

ロビーにも戻れねぇわ!

終わってから暇すぎて死にそうだぞ!

挙げ句の果てにこっちの声も届かねぇってなんだよ!

βテストだからって何やっても許されると思うなよ運営!

なんでもいいから早く抜けさせてくれ!

もう2度と遊ばねぇよ!


トラックに備え付けられたクレーンで吊られて荷台に移される。

荷台の上に来た時にワイヤーを外されて残骸の上に落ちる。


痛っ!おいこら!俺はお客様だぞ!もっと丁寧に扱えよ!絶対クレーム入れてやる!



身動き一つ取れないままトラックに揺られて大きな工場のようなところに着いた。


かろうじて動く首を動かしてあたりを見回す。

俺が放り込まれたトラックと同じような車が何台も見えた。


そのまま工場内で自動車の組み立てラインのような固定台に乗せられた。


チッ…部品扱いかよ…!


俺以外にも同じように固定されたアバターが何体も居た。


隣にも同じラインが見えた。

しかしそこに固定されてるアバターは酷い状態だった。

かろうじて胴体の形が残っているようなものばかり。


天井から伸びるロボットアームのプラズマトーチが動く。

アバターの装甲やユニットをパーツごとに細かく切断していく。

切断されたパーツは種類ごとに決まったコンテナに放り込まれていく。


…おいあれ…?まだ動いてない?


1体のアバターが動いていた。

手足をばたつかせ身をよじって固定具を外そうとしている。

スピーカーからノイズ混じりの音声が流れる。

何を言ってるかはわからない。


プラズマトーチが装甲の継ぎ目をなぞる。

そのアバターの両腕と脚がでたらめに動く。

頭部センサーがこちらを向いた気がする。


…あいつ…本気で嫌がってないか?

いやいや…ゲームだろ?これ。


アバターの腕が作業用アームに衝突し、アームの関節が不自然に折れ曲がった

警報が鳴り赤色灯が回転する。

搬送ラインが止まる。


すぐに作業員らしき男たちが近寄り会話を始める。


「またかよ!前工程のやつら!横着して思考ユニットそのままにしてたな!」


「しゃーないっすよ。外すの面倒ですし。」


「中途半端に生きてるやつはこれだから…ユニットの外殻割れてるやん。あんなもん見た目でアウトって分かるだろうが!トーシロめ!」

悪態をついた作業員が破損した作業用アームに目を向ける。

「あーー!しかもアーム壊れてる!最悪やん…。」


「まーまーいいじゃないっすか。俺ら悪くないですし。前工程の担当者、始末書っすかね?」


「だろうなぁ…そんな適当な奴、辞めちまえば良いのに。おい!いつものやっとけ!後ろから行けよ。」


「うっす。」

一人の作業員が暴れるアバターの背後から近寄り、腰に差していた短い棒をその首元に押し当てて…。

一瞬の眩しい光。

それまでもがいてたそいつは糸が切れた操り人形のように動かなくなった。


その後は予備のアームだろうか。何事も無かったように解体作業を再開した。


リアルを売りにしてるけど…ここまで作り込む必要あるのか?


そんな様子を横目にレーンは先に進んでいく。


遠く前方にレーンの分岐が見えてきた。


アバターの損傷具合によって振り分けられてるようだ。

損傷がひどいと左へ。それ以外なら右へ。


…おい待てよ…左って…その先はさっきの解体レーンじゃねえか!

絶対あれペナルティだろ!


…これがゲームなら…戦績で評価されるのが普通だよなぁ…?

なら…自慢じゃないが腕には自信がある。そこらのプレーヤーに負けるとは思えねぇ…。


文字列が流れ始める。

自己診断モード起動

セルフチェック開始

頭部:正常

思考ユニット:正常

胴体:リアクター喪失:胸部装甲破損

左腕:正常

右腕:喪失

右足:破損

左足:損傷


そこまで流れて最後に


修理可否:可

文字が緑で点滅する。


そのまま俺を載せた台は右へ流れていった。


…無駄に痛い思いをせずに済んだな。


レーンの動きが止まって地面に固定された作業台に移される。


「おおう!これだけボロボロなのにユニットは無事か!珍しいな。」

端末を操作していた作業員が声を上げる。


天井からアームが下りてきて体中のボルトを外していく。

右腕、左脚、右脚と…あっという間に新しいパーツに付け替えられていく。

その度に無くなっていた感覚が戻ってくる。


胸部だけは細かなアームで精密な作業が必要だったようだ。

新しいリアクターが収められて胸部装甲をボルト止めしてアームは格納位置に戻っていった。


全機能正常稼働中の文字が緑色で表示された。

…と同時に『作業員の安全確保のために全関節をロック中』の文字も表示されている。


とりあえず…治ったみたいだな。

動けねぇけど。

それなら声も出せる?


「あ…あの…聞こえますか?」

意を決して声を出してみる。なんだこれ俺の声じゃねぇ。

機械的な合成音声が流れた。


目の前で端末を操作していた作業員がこちらを見る。

「おー、どうした?えーと…G6735か。」


「…もう戦闘終わったからログアウト方法を教えてくれませんか?できますよね?」

変な声だなぁ。違和感がすごい。


少し驚いて作業員はこう続けた。

「ログアウト?ん?あっ!疑似人格の不具合か!」


「あーG6735?それは俺じゃ答えられねぇからメニューからサポート?ってのを選択して連絡してみてくれ。」

そう言うと作業員は隣の台へ移動して端末を操作し始めた。


サポート?そういやそんな項目あったかな?


…なんか増えてる。戦闘中は表示されないのか。

まあいいや連絡しよう。

そう考えるとすぐにサポートセンターとの通話が始まった。


『はい。こちらサポートセンターです。G6735様。どうなさいました?』

明朗な男性の声が聞こえてきた。


「すみません。ログアウトしてゲームをやめたいんですけど。ログアウトの項目が見つからなくて…。」


『あーそうですか…先ほどの戦闘で何か大変な事を経験されましたか?』


「あっ。そうです。すっごく痛い目に遭いました。ゲームなのに。このゲームって痛覚を無くすオプションとか無いんですか?あ、もしかして課金要素?」


『あーそれはお辛い経験をなさいましたね。』

『申し訳ありません。痛覚はご自身の状態を正確に把握するために設定されてまして。』

少し言葉尻を濁す。

『低減のレベルを上げる事は出来ますが無くすことはできません。』

『…とくに破損を意識付けていただく為、損傷した直後は低減無しで感覚をお伝えする仕様になっています。』


その答えに少し苛立ちを覚えた。

やっぱりクソ仕様で直す気無いのかよ。


「…じゃあもういいです。ログアウトの方法だけ教えてください!もうこんなゲーム遊びません。」


少し長い間を置いてオペレーターが口を開く。

『申し訳ありませんG6735様。先ほどからおっしゃってるログアウトとは何のことでしょうか?そもそもG6735様は一体何にログインしていらっしゃるのですか?』


なんて?

いまなんて言った?


待てよ?俺は超リアルなFPSで遊んでただけだろ…?βテスターに当選して。


これまでのすべての出来事が一つに繋がりだす。

いやおかしいだろ…なんだよこれ…?何がどうなってるんだよ?


「いやそういう演出いりませんから!」

「ログアウトの方法!教えてください!」


オペレーターはさらに続ける。

『こちらは義体兵の方の為のメンタルケアセンターですので…そういったご要望にはお応えしかねます。』

『ご希望でしたら専門医の方に通話を繋ぎますがいかがなさいます?』


なんだよ義体兵って。

誰だよそれ。

いやこれゲームだろこれたぶん。

あの風の感覚も?戦場の匂いも?銃の反動も?ブレードの感触も?


腕を引きちぎられた痛みも?

胸を貫かれたのも?


「おいちょっと待てよ!おかしいだろ!?」

ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!


「これゲームだろ!?なんだよ義体兵って!そんなもんになった覚えねぇぞ!」

マジでこれ現実!?

いや詐欺だろこんなん!?


「なんでもいいからさっさと元に戻せよ!あと声も!なんだこの音声!」


隣で作業していた整備員は、やれやれまたかといった仕草をした。


『申し訳ありませんG6735様。こちらはゲームではありません。』

『それと義体兵になられる前の音声は先の戦闘でデータが破損してまして…プリセットデータをご使用ください。男性型12種、女性型3種からお選びいただけます…オプションから設定を…。』


「そんなもん知らねぇよ!さっさと元の体に戻せよ!いい加減にしろ!訴えるぞ!」


オペレーターは困り果てた様子で続ける。

『申し訳ありません。しかしながら既に義体化は完了しておりまして…。規約にも同意していただいてますので。』


「いつそんなの承認したんだよ!そんな覚えねぇぞ!」


『…ですがG6735様自身で承認なさった記録が残っておりまして…。』


あの時のか!

あのやたら長いの!

俺が読み飛ばした!

そんな大事な事書いてあったのか!?


「わかったよ…規約読んで無かった俺も悪かった…です。…でも…元に戻れますよね?この体から出たいので。」


『申し訳ございません。そういった処置は承っておりません。』


肉体なら声が震えていただろうが機械の体はそれを許さない。

「他の病院とかでできませんか?どれだけ費用が掛かってもいいです!一生かけてでも払いますから!」


『申し訳ありません。』


さっきからそればっかり。


だったらせめて。

せめて元の肉体のありかだけでも。


「元の体はどうなったんですか?」


『G6735様の肉体は義体化完了後に当社の規定通りに焼却処分いたしました。』


『ほかにご質問はございますか?』


『…大変お気の毒に思います。もし何かありましたら、いつでもご連絡をお待ちしております。わたくし共はG6735様の味方です。』


しばらくして手足が自分の意志と無関係に折りたたまれる。

輸送モード:ON

そのままコンテナに積み込まれる。

首すら動かせず前を見つめるしかできない。

コンテナには俺と同じ末路を辿ったやつらがぎゅうぎゅうに詰め込まれてる。

しばらくすると、視界に映像が表示される。

『義体兵のみなさんこんにちは!こちらはエテルノヴァリス社がお送りする娯楽サービスです!』

『古今東西の名作映画から最新作まで!ニュースや娯楽番組など、多種多様な映像コンテンツをお楽しみいただけます!次の出撃は8時間後を予定しておりますので、それまで存分にお楽しみください!』


視界の端に7:59:59と表示された。

まあみなさん…契約書の類はよく読みましょうね。

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