7.自宅に帰ってきた
レンタカーで家路に向かっていると、ラジオから茨城上級ダンジョン攻略のニュースが流れてきた。
IDCから攻略者は公表せず、後日オークションを開催するという発表のみで、何が出品されるかも明かされていない為、報道が加熱している。
攻略者が公表されないから憶測が飛び交い、一部SNSで話題の無姫だったなどとも流れているとか。
「マジでやめて欲しい……いやそもそも私じゃない!確かに攻略したのは私だけど、私は無姫じゃない!月姫だ!!」
ラジオを聴きながら車の中で叫ぶ。
車借りれて良かった本当。
その後もずっと上級ダンジョン攻略の話題ばかり。
先月ミスリルがオークションに出たものだから、またミスリルが出品されるのではないかとか、新しいアイテムが出るのではないか、攻略者のレベルはこのくらいじゃないか、岡山上級ダンジョン攻略者とは別だろうから国内2人目の上級アイテムボックス獲得かなどなど。
確かに人類滅亡の危機だし、新しい情報に貪欲になる気持ちはわかるけど、攻略者の情報まで明かす必要ってあるのかな?
どんなクラスで、レベルどのくらいで攻略したってのは目安になるから良いかも知れないけど、私生活掘り返す勢いにきこえるから怖いのよ、SNSも報道も。
私、一般人よ一般人。頼むよ。
「あぁ、家にスマホあっても買い換えようかな……でもオークションの連絡来るのかぁ」
いつスマホの電源が切れたかはわからないけど、電源付けたらたくさん連絡くるとかは嫌だな。
もし攻略について聞かれても、親しくない人には話す必要はないな。
もちろん、家族や親しい友人に聞かれたら答えるだろうが。
でも、ラジオの中でこれまで攻略された上級ダンジョンについて出てきたのは良い収穫だった。
K共和国、A国、N国、日本の順で一つずつ上級ダンジョン攻略が発表されている。
ダンジョン発生から1年ちょっとしか経ってないのに攻略した人達はレベルがすごく高いんだろうな。
本当に人類の順応力の高さには驚くばかりだ。
攻略者に関しては3人公表されていて、N国の攻略者が非公表。
アイテムに関してはどのダンジョンも公表していない。
思うに、どのアイテムも高性能すぎるから何じゃないかと。
私が獲得したアイテムもヤバかったけど、同じくらいヤバいなら買取に出さない可能性は高いよね。
そうだ、家に帰ったらあのテントとやらをいじってみようなんて考えていたら、ある重大な事を思い出す。
私の自宅は今どうなっているんだろうと。
実家でなく一人暮らし。
一年以上記憶がないのだ。勝手にダンジョンで戦っていたようだけど家には帰っていたんだろうか?
動画を見る限り、顔は映っていないから感情は読めないけど全ての問いかけに無視をしていた私らしき人物。
なんだか動きは機械的にすら見えた。
そんな動画上の人物はいつも服装は一緒で大変に汚かった、全てが。もしかしたら、一度も帰っていないんじゃないかと思えてきてならない。
そして、バックパックの中には家の鍵が見当たらなかった気がする。
帰っていないなら家の鍵が開けっぱなしである可能性すらある。
「ヤバいな……お金は置いてないけど印鑑とか……あ、冷蔵庫の中も大変な事になってるかも。お風呂とか、カビ、虫、怖っ、どうしよ」
そんなとめどない不安が押し寄せてくるが、車は順調に進み自宅近くでレンタカーを返却した。
もし家が大変なことになっていたら困るから、ドラッグストアで掃除用具をまとめて購入する。
スーパー銭湯でもウミクロでも普通にカードが使えたし、ATMで口座残高を見てみたら減ってはいるけど0円になっていないし、減り方も許容範囲内だったから大丈夫だと思いたい。
うん、きっと大丈夫、大丈夫。
幸い家の近くには誰もいない。
動画を見て個人情報突き止めた人がいたのか分からないけど、取り敢えず今は大丈夫そうだ。
階段を上がり二階の自宅扉の前。
マスクを一度下げ、扉あたりを嗅いでみるが特に変な匂いは漏れていない。
後は鍵が開くかどうか、家の中が問題ないかどうかだ。
マスクを付け直し、深呼吸をしてドアノブをひねると、簡単にドアは開いた。
ああ、やはり鍵がかかっていなかったか。
慎重に扉を引き中を覗くが、これまた特に匂いがするなどは無いし、玄関から虫が飛び出してくることもなかった。
先ほど購入したスリッパを袋から出しタグを引きちぎり履き、念の為ゴム手袋も着用して中へ。
玄関脇の電気スイッチを押すと電気が付き、通電は確認出来た。
次に室内。
手前にあるトイレにお風呂、奥にあるリビング、寝室は異常なし。
いや、異常な気がする。
部屋が綺麗すぎるのだ。
もしや、知らぬ間に合鍵を渡していた母が家に来て掃除をしてくれていたのかもしれない。
それなら鍵を閉めていってくれたら良いのになんて思ったが、まあそれは置いておき後で電話して聞いてみよう。
幸い部屋は荒らされていないし、家の鍵はいつも通り玄関に、スマホは炬燵の上に置いてあったので強盗には入られていない様子だ。
スマホの電源はつかないから、充電器に繋ぐ。
そしてまたキッチンに戻り、大きく息を吸い呼吸を止めて冷蔵庫を開けた。
「良かった……」
冷蔵庫の中は綺麗に片付いていた。
自宅の通電も確認出来、懸念事項だった汚部屋疑惑も晴れて安心する。
部屋が寒いので炬燵の電源を入れ、充電中のノートPCとスマホの電源も入れる。
意外と埃のかぶっていない炬燵に入ると、我が家に帰ってきた安堵感からか体の力が抜ける。
この半日を思い返すがとても現実であったと受け止められない。
いや、受け止めたくないの間違いかもしれない。
藤井さんと鮫島さんから話を聞く限り、ダンジョンの戦闘で死ぬ事は無いけど負った傷は治らないらしい。
敗戦でダンジョン放出時、致命傷である傷のみは治るが、それ以外は治らない。
そんな事知らないんだからあの時は怖かった、本当に死ぬかと思った。
そんな恐怖が込み上げている私をよそに電源が入ったスマホから、トークアプリやメールの通知音が鳴り止まない。
携帯番号に送られるショートメッセージにはいくつも留守電が入っていた。
ホーム画面の着信通知もすごいことに。
取り敢えずそれら全てを無視して母に電話をかける。
「もしもし月姫!? あんた大丈夫なの!?」
コール音が数回鳴って母の声が聞こえた。
「っ、っお母さん……おかあ、さんっ」
母の声を聞いたらもうダメだった。
♢ ♢ ♢
「っ、ごめんお母さん」
『いいよ、あんたが無事なら』
母の声を聞いて気が緩み、涙が暫く止まらなかったがなんとか落ち着く。
『でも本当に心配したんだからね!電話しても出ないし、職場も退職してたなんて聞いてないんだから!』
「ご、ごめん」
『家に行っても帰ってくる気配ないし、お父さんだって陽太だって心配して何度も』
「ごめんってば!」
『はぁ……で、どこ行ってたの?陽太が動画がどうのって言ってたから行方不明者届は出さなかったんだけど、お母さんもお父さんもちっともわからなくて』
「ははは、なんか昨日までの記憶がなくて大変だっ」
『記憶がない!?』
「そう、去年の元旦あたりから記憶がなくて……兎に角今度帰るわ」
『今は大丈夫なの?昔の事も思い出したの!?』
「うん、記憶がないのはここ一年くらいだから取り敢えず大丈夫だと思う」
『そ、そんな事もあるのね……帰ってくる前にちゃんと病院に行くのよ?』
「うん、わかった。また行く時連絡するね。あ、家の掃除とかありがとうね」
『でもそっち、一ヶ月は行ってないから埃がすごかったんじゃない? 冷蔵庫の腐りそうなものだけ捨てておいたけど。そう言えばあんた鍵とか電話置きっぱなしだったけど家に入れたのね?危ないから鍵閉めちゃったけど』
「え、……あ、うん、大丈夫、鍵屋さん呼んだから」
いや、呼んでない。だって開いてたし……
『そう。じゃあまた来る前に連絡しなさいよ。あと、ちゃんと病院もね』
「うん、ありがとう、お父さんにも心配かけてごめんねって伝えて」
「じゃあね」と母との電話を切りしばし考える。
母は鍵を閉めたと言った。
だが、実際玄関ドアの鍵は開いていた。
「っ!? そうだ印鑑!!」
ただただ部屋内の汚さを気にして先に確認してしまっていたが、印鑑の確認をしなければと焦り出す。
幸いにも印鑑は所定の位置にあった。
さっきATMで残高は確認したけど、念の為スマホでオンライン明細を見ると家賃や光熱費、保険、クレジットなどの必要な自動引き落とし分だけだったので悪用されていないようで安心する。
だけど、玄関は母以外の家族が来た際に鍵をかけ忘れたのだろうか?
荒らされてもいないし、盗られたものもなさそうだからまあ良いかなんて危機感のない考えかもしれないが、被害がないからそれで済ませた。
「あ、ポスト確認してなかった」
もし何か身分証などで悪用されていたら督促状や変な通知が来ているかもしれない。
母や家族が来たときにポストから出していてくれた分が玄関脇に置かれていたが、暫く来ていなかったと言っていた。
案の定、ポストを見に行ってみると溢れかえっていてもう何も入らない状態。
なんとか引っ張り出し部屋に戻る。
積み重なった内容物は不要な広告ばかり。いくつか不在票や通知書が入っていたが、中身を確認すると急ぎのものではないし提出や支払いをしなければならないものも入っていないし、覚えの無い請求書も無いから一安心。
「はあ、良かった。けど、この一年何してたんだろう……」
この一年ちょっとのことは何も覚えていないけど、とりあえず今不調なところはない。
だからと言って見えない部分、特に脳などの状態はわからない。
母からも言われたように病院で一度診てもらった方がいい気がするから、明日にでも予約の電話をしよう。
後、確定申告もしていないから税務署にも行かなければと明日の予定を決める。
「……なんか、疲れたな」
自宅に帰ってきて然程時間は経っていないが、長時間の運転と心労、母の声の安心感から眠くなり、こたつに入ったまま私は目を閉じた。
「んがっ……やば、よだれ」
自分のイビキで目が覚める。
乙女として大変情けない目覚めだが、疲れていたんだ。
スマホで時間を確認すると21時過ぎ。
帰って来る前に寄ったサービスエリアでラーメンは食べたけど、それから六時間以上は経っているからお腹が空いた。
しかし、冷蔵庫には食べられるものは何もない。カップラーメンも見れば賞味期限切れ。
大人しくコンビニで何か買い出しして食べようとスマホとお財布を持ってこたつを立つ。
ついでにパジャマや下着など明日必要な衣類と、ベッドのシーツ、敷きパッド、枕カバー、掛け布団も持ちコンビニ横のコインランドリーで洗濯しよう。
だいぶ大荷物になってしまったが、先にコインランドリーに洗濯物を突っ込んでからコンビニに向かいおにぎりやカップ麺、お菓子などを買うが、必要な生活用品が足りていないことを思い出す。
流石に一年以上前の化粧品や洗剤類を使うのは躊躇う。
帰る前に寄ったドラッグストアでは掃除用具のことしか頭になかったから、シャンプーなど生活用品を失念していた。
ドラッグストアに行き、必要なものを購入してコインランドリーへ戻った。
洗濯終了まで誰もいないコインランドリー内の椅子に座り、スマホをチェックする。
母以外の家族やよく連絡を取っていた友人からの連絡はとても私を心配しているもので、すぐさま返信をした。
だが、何年も連絡の取っていなかった知人程度の人や、元職場の同僚、知らない人からの連絡は既読がつくのも嫌なので今のところ開いていない。
なぜ知らない人からも連絡が来ているのか謎である。
メールもひどく溜まっていたので件名や宛名を見ながら開いていると、電話が鳴った。
着信は弟の陽太だ。
「もしもし?」
『姉ちゃん、無事で良かった!』
「連絡遅くなってごめんね、家も来てくれたんでしょ?」
『ああ、俺は2回だけ、母さんと父さんがね。それより上級ダンジョン攻略したのって姉ちゃんなの!? 前から動画見た奴らから連絡きてたけど、今もひっきりなしに俺に連絡くるんだけど!』
「え、え、ごめん、なんで陽太に?」
『知らねーけど、SNSの特定してる奴らが、姉ちゃんのSNS経由で俺が弟ってバレたのかDMめっちゃくるし』
「うわぁ……ごめん。さっきお母さんにも言ったけど、私もこの一年近く記憶ないのよ。起きたら今日の夜中で、色々あって、ダンジョン攻略してたんだよね」
『……はあ!?』
「いや、信じられないよね。記憶ないのに何故かダンジョンにいてさあ、何故かドラゴン倒してたんだよ。私も言ってて意味わかんない、ハハハ」
『いやまじで意味わかんねぇ……記憶ないってまじ? んっ? ってドラゴンっ!?!?』
「そう、もうねぇ、死ぬかと思った。あ、でもこの事は内緒にしといて!お母さんにも!」
『あ、ああ、わかった。けど、まじで姉ちゃんだったのか……』
「うん、でも今外だから今度実家帰ったらゆっくり話すから」
『ああ、悪い、今度姉ちゃんが実家帰る時合わせて俺も帰るわ。だから連絡して』
「うん、わかった。病院で検査してもらってからにするから決めたら連絡するね」
そう言って弟との電話を切った。
一応電話しながらも誰か入ってこないか見ていたから今の会話は誰にも聞かれていないとは思う。
しかし、動画は厄介だなぁ。弟にも迷惑かけてるみたいだし。
でももう上げられちゃったら消しても意味ないって言うし。
幸い顔にモザイクはかかってるしそのうち噂も落ち着くだろうから、周りには私が上級ダンジョン攻略したって認めなければ良いだけか。
なんて楽天的に考えながらメールやSNSを確認していると、洗濯も終了したのでそれを持って家に帰った。
自分のSNSにえらい大量のDMが来ていたけど、見ていない事にしてそっと閉じた。
友人しか投稿内容は見れない設定なのに、よく特定できるな……
それから、マットレスに掃除機をかけ、シーツなどをセットして、そう言えば背負っていたバッグパックの中にも飲み物とブロック栄養食が入っていたなと思い出し、アイテムボックスの中からバックパックを取り出す。
そしてバックパックから飲み物やブロック栄養食を出していてはたと気づく。
ダンジョン攻略で得たアイテムを帰ってきたら使ってみようと思っていたことに。
お読みくださりありがとうございます!
なかなかアイテムまで話が進まず……また明日投稿いたします。どうぞ、よろしくお願いいたします!




