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アイテムが欲しい、ただそれだけ  作者: 秋海棠


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3/7

3.脱出した


 どうやら私が大きくて赤い竜を倒したのは現実らしい。

 さっきまで目の前にいた存在感が半端ない赤竜が跡形もなく消えているし、転んで打ちつけた全身が痛くて動かないもの。

 肋にヒビとか入ってそうだ。入ってないかもしれないけど。


 多分、たまたま槍投げ風になってしまった槍が、竜の急所にでも刺さり倒せたのかもしれない。そう思うとあまりに幸運過ぎる。

 恐らく一生分の幸運を使い切ってしまったかもしれない。

 まあ、命が助かったから今使い切っても悔いは無いけど、この後悪いことが起こるかも知れないと思うと怖い。


 ん? でも、さっき機械音はポーションがどうのって言っていたような。

 しかも、ダンジョン。竜だって非現実的なのにダンジョンって、ファンタジー世界じゃない。

 

 いや、思えば起きてからずっとファンタジーだ。

 この部屋に落ちた時点でボス部屋のフラグ自分で立てるくらいにはファンタジーに馴染みがあったんだから、早いところ受け入れればいいのに、今になってようやくここがダンジョンと受け入れた。

 だからと言って何故今ダンジョンにいるのかは理解できていない。

 本来ならばダンジョンなんて物語やゲームの中でしかあり得ないのだ。

 でも、今私が負った傷は現実でしか無い。

 それに機械音は茨城って言ってた。

 日本であることにも変わりないとは思う。


「じゃ、今の機械音の報酬がどうのも現実なのか……なんて言ってたっけ?」


 死んだと思ってたからちゃんと機械音の言ってた事を聞いてなかった。ただ、ダンジョンクリアとポーションだけは聞き取れた。


 と言う事は、この横にある宝箱の中にはポーションが入っている可能性がある。この痛んだ体が治るかもしれないポーション。そりゃ開けるしかないでしょ。


「い、いたい……いだ、あともうちょっと」


 推定、肋にヒビの体をおして宝箱に向き直る。そして鍵穴はあるがどこにも鍵が見当たらない宝箱の蓋に手をかける。

 なんとなくだが鍵いらずで開けられるだろうと、蓋を上げる。


 ガチャッっと予想通り難なく開いた。

 中にはこれまた小さな宝箱と、青色の液体が入った小瓶が十本、そして折り畳まれた綺麗な生地が入っている。


 人生で初めて開けた宝箱。子供の頃の宝箱はここではカウントするまい。

 今日は人生初体験が多過ぎる気がするが、先程までの命のやり取りが嘘のように今はワクワクしている。すでに開けているにも関わらずまだ宝箱が入っているのだ。どうしてこうも胸ときめく存在なのだろうか宝箱。


 なんて子供のような思考はさておき、箱の中の青い液体が入った小瓶を一つ取り出す。


「イダッ」


 宝箱に興奮し怪我をしているのを忘れて、その小瓶を上空に翳したら体が軋んだ。

 やはりヒビは確定だろう。だけどこれがポーションならばこの怪我も治るかもしれない。


 そう思い、毒かもしれないそれを疑いもせずわたしは煽った。

 すると転んだ時にできた手や腕の抉り傷がみるみるうちに消えていき、体の内部で何か起きているような気がすると思ったら、先程まで感じていた痛みがスッと消えた。


「マジもんだった……」


 さっき一瞬体が光ったエフェクトのようなものはなかったけど、全身の痛みが消えたなら本物だ。

 立ち上がりジャンプをしてみたがやはり体は軋まない。むしろ今まで経験した事がない程体が軽い。


「ポーション確定だ。って、傷が一瞬で治るポーションって現実でありえないよね……残り九本か。大事に取っておこう。後は、布と小さい宝箱。気になるけど先にここから脱出したい……」


 このポーション以外の小さい宝箱や布も気になるんだけど、まずはここから出たい。

 もし仮に、本当に私がこのダンジョンをクリアしたなら外に帰れるはずだ。

 いや、それは楽観的過ぎる?

 漫画やゲームだとそうだと思ってたけど、このダンジョンがそうとは限らない。

 もしかしたら、このダンジョンをクリアしたら次は違うダンジョンに転送させられるなんて事もあるかもしれない。

 もしくはダンジョンから出ても日本が崩壊しているとか、全く違う世界だとか……

 考えれば考えるほど悪い方向にいってしまうけど、ここから出てみないことには何もわからない。

 しかし、クリアしたからといって新しく扉ができてこちらが出口ですみたいなものもない。

 詰んでいるのではないか?


「どうしたら帰れるんだ……」


 そう諦めかけていたら、


【後五分デ出口へ転送シマス】

【宝箱ノ中身ヲ全テ取リ出シテクダサイ】

【ナオ、宝箱ノ中ニアル小箱ハソノママ持チ出セマス】


「え!? 出口転送!? 宝箱から中身出せって!? 時間ないじゃん!!!」


 私は急いで背負っていたバックを下ろし中を開く。

 宝箱の中にあった大きな布にポーションが壊れないよう包んでからバックへしまい背負い直す。

 宝箱の中の小さな箱は左脇に挟み、槍を右手に持った。

 ギリギリ間に合ったようで、目の前の宝箱はスーッと消えてしまった。

 そして、私の足元から天井に向けて激しい光の柱が登ると、私の体が浮き始めた。


「うわぁ……浮いてるし……何かもう叫ぶのも」


 言いかけて次の瞬間には薄暗い空間に立っていた。


「……外じゃないんかい」


出口だと転送された空間が薄暗いってどういう事だろう?

 外では無いっぽいし。

 茨城上級ダンジョンって聞こえたから、もし外に転送されたなら明かりが一つはあってもおかしくないのに、今いるこの場所は現代の灯りを感じ取れない。

 何度か周りを見回していると暗さに慣れてきて、一箇所だけより暗い空間が奥に見える場所を見つけそこへ向かう。


 奥が全く見えないその場所には扉などはない。今の空間ぐらいの薄暗さなら歩くことも可能だが、目の前にある出口と思わしき場所の先が見えないぐらいなのだから、照明もなく歩けるとは思えない。


 だけど、転送するって言ってたくらいなんだから外へは出られるのだと思う。意を決して真っ暗な空間に足を踏み入れると、とんでもない光に包まれた。

 明るい空間から薄暗い空間へ、薄暗い空間からまた明るい空間へ移動したものだから目がバグる。眩しすぎて目の前が真っ白だ。何度か瞬きをするも治らず。

 しばらく瞑ってみる事にしたが、周りから微かに人の声も聞こえ、やっと外に出られたのだと感じられた。


「っ!? うっ……だ、大丈夫ですか?」

「あ、すみません、今目が見えないみたいで、もう少ししたら治ると思います」


 私が目を瞑って立っていたからだろう、女性が声をかけてくれた。

 優しい、優しいけど「うっ」って言ったのは聞こえてますよ。臭いんですね、ごめんなさい。


 暫くして薄目でゆっくり目を開けていくと、ボヤッとした視界が鮮明になる。


「えっ!?」

 

 いや、本当にびっくりだ。

 離れた所に話しかけてくれたと思われる女性を発見するが、それに驚いたのではない。

 どう見ても今いる場所はどこかの施設の会場だからだ。ダンジョン出たら施設会場ってどう言うこと?


「あの……後ろがつかえてしまいますので、お怪我をされていないようでしたらこちらへどうぞ」


 私が唖然としていると、先程声をかけてくれた女性が私に移動を促す。


「あ、ごめんなさい」


 私への周囲の視線は何だか厳しいが、女性について行きながら施設の中を見回す。

 大きさは小学校の体育館ほどだろうか? 

 カウンターが左右に分かれて二箇所設置されていて、個々でのやり取りができるようにか簡易的なブースで仕切りがされている。

 そして驚くことに、ネームホルダーを首から下げているラフな格好の職員さんと対峙している人が、何かの武器を持っていたり、防具をつけているのだ。

 左側のカウンターで今しがた立ち上がった人は、刀と思しき武器を持ってもう一つあった真っ暗な空間に向かって歩き出した。


「えっ!? 入るの?」

「いかがされました?」

「あ、いえ……」

「? 彼の方は今からダンジョンへ挑戦される方ですね」

「……」


 やっぱりダンジョンで合ってるんだ。


「どうぞ、こちらにお掛け下さい」

「失礼します……」

「では、PNカードをご提示ください」

「え、あ、はい」


 右側のカウンターの一番端に案内され、着席を促された。そして「PNカード」の提示を求められる。


 「PNカード」とは「personal number card」の略で、国民一人ひとりに割り当てられた番号を記載した本人確認証だ。

 この「PNカード」には殆どの個人情報が登録されている。

 氏名・生年月日・住所・口座・年金・保険・運転免許・勤務先などなど。

 PNカード情報は「PNゲート」というアプリで個人個人で確認もできる。

 

 これ程大事な情報が詰まった「PNカード」を提示しろと言う目の前の女性のネームホルダーには、『IDC日本支部 茨城県 ダンジョン課 鮫島美和子』と書かれている。


「IDC? 県ダンジョン……?」と呟きながらもバックパックの底から財布を取り出し、女性に「PNカード」を提示した。


「お預かり致します。佐藤様、これで帰還の登録は完了致しました」


 「PNカード」を受け取った女性はそれを機械に取り込み、パソコンに打ち込みをしたと思ったら直ぐカードを返された。いそいそとそれを財布に仕舞っていると。


「それでは、佐藤様。茨城上級ダンジョンを攻略された事に間違いございませんか?」


 鮫島さんはカウンターに置いた宝箱を見てからそう私に言った。


「……そうみたいです」

「では、別室へご案内致します……と、その前に、宜しければ入浴施設が隣にございま「行きます! まず行きます!!」……ご案内致します」


 入浴施設と聞いて色々聞きたい事があったけど、吹っ飛んでしまった。

 被せ気味になってしまったのは申し訳ない。


 やっと、やっとお風呂に入れる!!


 鮫島さんの案内でたどり着いた入浴施設はとても広かった。

 庁舎とは別の県庁構内に建てられたスーパー銭湯と言えるだろう。


 サラッと言ったが、茨城県庁の構内にダンジョンの入り口がある施設はあったのだ。謎すぎるけど、今はそれよりも入浴が優先。

 外が暗く人の往来も少ない為今は夜中なのかもしれないが、すれ違う人の視線が痛いので早く入りたい。


「では、入浴が終わりましたら庁舎内一階の総合窓口にお声がけ下さい」


 入浴施設への案内をしてくれた鮫島さんはそう言って庁舎に戻って行った。


 入浴施設内に入り、券売機を前にする。

 そこには入場料やタオルなど入浴に必要な物と、武器預かりなんて項目もあった。

 着替えなんてないかなと思っていたら、女子更衣室内でいくつか下着や作務衣など後払いで購入できるみたいでホッとした。


 購入したチケットをカウンターに持っていき商品など交換してもらったが、受付の男性の何とも言えない表情に申し訳なさが天元突破だ。

 とっととキレイになりたい……


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