16.初級ボスに挑んだ
斎藤さんと高田くんからもらったアドバイスでインターホンに張り紙をしたら、その後誰も訪れる事はなかった。
お陰でのんびりした時間を過ごせて、二日間の疲れも癒えたよ。
二人はちゃんと攻略できたかな?
そんな二人の心配よりもまずは自分の心配。
私も今日はボスに挑む日だ。
弟曰く、ホブゴブリンは動きは早く無いけど力が強いって言ってたっけ?
高田くんからも、一回り大きくなったゴブリンと聞いている。(高田くんも攻略情報から知ったと言ってたが)
うん、いける、ちょっと大きいゴブリンは大丈夫。大丈夫。
ボスと戦うと思うと不安になる。
不安になると、大丈夫と言い聞かせる癖は治らない。
朝食を食べて、装備もOK。
現在朝八時。
「よし、行くか!」
と気合を入れて「テント」を出た。
「テント」を仕舞い、セーフティーエリア内を見回すと昨日とは打って変わって閑散としている。
10人いるかいないか位だ。
《挑戦者》だけで生計を立てている人はまだそこまで多く無いのかもと思えるほどに昨日と差がある。
このくらいがちょうど良いななんて思ったらいけないのか、人類の命運がかかっているのだから。
初級は区や町に出現しているからそれなりに数がある。
その分たくさんのアイテムもあるから、ダンジョンマップやSNSを見ていてとても飽きない。
そんな人類の命運より自分の欲を優先する私は早速ボス直結のボタンの前に行き、待機人数を確認する。
『現在の待機者3人』となっていた。
やはり平日朝イチに挑む人もいるか。
そんな前の人たちに倣い、私もボタンを押す。
前回押した時はパニック状態だったけど、今日は冷静だ。
と言ってもすぐに落ちるわけでは無い。
ちゃんと私の視界の端に『前の待機者2人』と表示されている。
もう一人減ったのかと、意外に進みが早い事にちょっとアタフタするが、今焦ったところで何も出来ない。
しかし、座って落ち着くと、今度は待っている時間が長く感じる。
まだ二分くらいしか経ってないのに五分は過ぎた感覚。
ボーッとボタンの辺りを見ていると、そう言えば、上級ダンジョンで押したセーフティエリアのボタンには待機者何人と表示されていなかったと思い出す。
あれは、待機している人がいない場合は表示されないのだろうか?
上級ダンジョンだから待機者がいなくても不思議じゃないか。
そんなことを考えている間に『前の待機者1人』となっていた。
そろそろ準備しようと隣に置いていた長槍を手にし立ち上がる。
そして漸く視界の表示が『前の待機者0人』となったが転送されなかった。
「ん?」
おかしいなと思ったが、よくよく考えれば前に待機してる人がいなくなったなら次が私ってことだ。
1人に惑わされて、次転送されるのが自分だと思って張り切ってしまった。
しかし、次である事に変わりはないから準備をして丁度良いのだと言い聞かせ恥ずかしさを紛らわす。
そこからどの位経っただろうか、『最下層へ転送シマス』とどこか聞き覚えのある機械音が耳元で聞こえた。
そして、前回同様私の足元の空間がなくなり落下し始める。
2回目の体験だから心の準備はできているし、落下先が問題ない事も分かってはいるがこの浮遊感は慣れないものだ。
これまた2回目のボワンっと柔らかいものの上でバウンドし、綺麗に着地。
ここまでは一緒だ。
しかし、前回の空間よりも狭い。
〇〇ドーム1個分くらいではないだろうか?
【千葉第三初級ダンジョン最下層へヨウコソ】
【ボスモンスターガ出現シマス】
【戦闘態勢ヲ整エテクダサイ】
「えっ? 早くない?」
前回は確か少し時間的猶予をくれていた気がするんだけど?
そんなことを思っていたら空間中央がビカっと光って何か叫んでいる生き物が現れた。
恐らくボスのホブゴブリンだろう。
しかし、空間の中央にいるからか小さくてあまりわからない。
前回の赤竜と比にならない小ささだからだろうか、何も怖くない。不思議だ。
そのホブゴブリンが恐らく私に気づき、こちらに近づいてくる。
近くになってようやく分かったが、体色は淀んだ緑色でゴブリンよりも一回り大きく棍棒を持っている。
私より少し小さいかなってくらいの身長。
ここまでは皆の言っていた通りだが、何故棍棒を両手に一本ずつ持っているのだろうか?
左手に持っている棍棒は下を引きずって、右手の棍棒はぐるぐる回しながら向かって来る。
二刀流のつもりだろうか?
しかし、左右に大きくドタドタと揺れる走りも醜い。
そして走るスピードもびっくりするくらい遅い。
うーん、ある意味すごいなと冷静に見ている私。
いけない、今は戦闘中だとホブゴブリンに意識を戻し、戦闘態勢に入る。
胸の辺りが急所だろうとリーチの長い槍で近づいてきたホブゴブリンに向かって突き出す。
「一閃突き」
スキルの使用方法は弟に伝授してもらっていた。
と言うか使用すると思ってスキル名を発せば繰り出せる仕様だ。
そしてこの「一閃突き」はなかなかの威力だ。ゲームで言うクリティカルヒットになる。(クールタイムはあるが)
なので、今この瞬間棍棒は私に当たることなく、ホブゴブリンは胸を貫かれ動けなくなった。
パァーンと光になって消えるホブゴブリン。呆気ない。
これで経験値500らしい。
10階層のモンスター5体分、高いのか低いのか丁度良いのか。
【最下層ボス・ホブゴブリンヲ撃破シマシタ】
【千葉第三初級ダンジョン初回クリア報酬、銀ト鑑定鏡ヲ獲得シマシタ】
【千葉第三初級ダンジョン通常クリア報酬、ポーション(初)ヲ五本獲得シマシタ】
機械音が攻略のアナウンスを告げる。
今回私の体は光らなかったが横は光り、宝箱が出現した。
前回体が光ったのはアイテムボックス付与の演出かと納得。
【間モ無ク出口へ転送シマス】
【宝箱ノ中身ヲ全テ取リ出シテクダサイ】
【ナオ、宝箱ノ中ニアル小箱ハソノママ持チ出セマス】
え、だから前回より早くない!?
急いで宝箱を開け、中の小箱と虫眼鏡、ポーションをアイテムボックスへ仕舞った。
仕舞うと同時に宝箱は消え、体が浮き始めまた違う空間へと転送された。
正味10分も経たないぐらいだろう。弟の計算は合っていたのか。
初級は《挑戦者》が多いからこの対応なのかもしれないが、それにしても忙しなさ過ぎる。
宝箱の中身の取り漏れとかあるのだろうか?
そんなどうでも良いことを考えながら外に出る。
また恐ろしく眩しいが、薄目でなんとか慣れてくる。
そして受付に行き、PNカードと宝箱を出し、退場と報奨金の手続きを行なってもらった。
「初級初クリアおめでとうございます。こちらはお預かりし確認出来次第、報奨金をお振込いたします。本日はお疲れ様でした。」
おお、なんとも事務的なやり取り。早くて助かる。
それでは一度実家に戻り、今回の戦利品の確認をゆっくりしよう。
もちろん、銀の延棒は持ち帰り、宝箱のみ提出した。




