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アイテムが欲しい、ただそれだけ  作者: 秋海棠


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16/21

15.トイレを貸した


 急に鳴ったインターホンにびっくりして「うわっ」と声が出てしまった。

 インターホンが押されたのはこれが初めてだ。


 ソファから起き上がり、恐る恐るモニターを確認すると男女二人が映っている。

 歳は10代後半くらいに見える。結構モニターの映像は鮮明だ。


「はい、どちら様ですか?」


『うわっ、本当にインターホンだった』


『急にごめんなさい、あの、もしお手洗いがあれば貸して欲しいんですが……私たちボス待機組で』


「ちょっと外に出るので少し待ってもらえますか?」


『はい』


 まさかのトイレ貸してください訪問。

 男の子の方はインターホンに驚き、女の子も驚いた顔をしていたが要件をちゃんと伝えてくれた。

 お願いの仕方も悪い印象を受けなかったから一旦出てみる事にした。

 別に貸すのは問題ないんだけど、どんな対応が正解なのか……

 この中を見たら初級や中級の「テント」と思わないかもしれない。

 こう言う時に弟がいて欲しかった!そして、こう言う時の対応を聞いておくんだった!


 取り敢えず廊下から見える全ての扉を閉めておき、中を見えないようにした。

 そして、スマホのライトを付けて廊下の電気も消す。

 廊下の電気を付けているとファスナーから中が丸見えだからね。

 あと、結んでいた髪は一旦下ろして装備も外した。外見は”無姫”に対してのほんの少しの抵抗だ。

 準備をしてスリッパを用意。


「お待たせしました、お二人ともですか?」


「うわっ」

「キャッ」


「あ、急にごめんなさい」


 いきなり私の顔が出てきたからか二人ともびっくりしていた。


「いえ、私たちの方こそ突然ごめんなさい。私たち二人共貸してもらえたら嬉しいんですけど……今日は【レンタル屋】さんがいないみたいで」


「【レンタル屋】?」


「はい、トイレやお風呂の「テント」を貸している人たちなんですけ、できれば説明の前に……」


 女の子がモジモジしている。限界なのかもしれない。


「あ、ごめんね。でも、中で見た事は他言無用でお願いできる? 出来なければお貸しできません」


「わかりました! 料金もお支払いします!」


 女の子は何よりも早くトイレに行きたいようで、すぐさま返事をしたので入れてあげる事にした。

 男の子からの返事は置いておいて、まずは一人ずつね。


 女の子の入室を許可し、中に入ってもらってからファスナーを締める。

 女の子は暗いと言ったが、スマホのライトで照らして廊下のスイッチを点けるとびっくりしていた。


「じゃ、スリッパをどうぞ、トイレはこちらです」


「……お邪魔します」


 びっくりしながらもスリッパを履いてトイレに入って行った彼女。

 廊下にいた私には、トイレの中での「すごい!」という声は聞こえているぞ。


 暫くして彼女が出てきてお礼を言われる。


「うん、良いんだけど、この中の事は絶対言わないでね。あと、彼に貸したら【レンタル屋】の事も教えてくれる?」


「はい!絶対に言いません」


 と真面目な顔で言ってくれたが、赤の他人だ。信用はほぼ無い。貸すのはこれっきりにした方が良いのかもしれない。


 その後一旦彼女は外で待機してもらい、男の子を案内した。

 女の子と同じような反応だったけど、こっちの子の方が軽い感じだからちょっと心配だと思ったら、


「さっき違うやつがこの「テント」のこと聞いてきたっすけど、普通のテントだって言っておいたっす。持ち運び用の俺たちが今使う分の簡易トイレしかないって言ったら別のテントに行ったっす」


「ファインプレー!」


 軽そうなんて思ってごめんよ。

 そうか、普通のテントで簡易トイレを使うって手もあるのか。

 そして、その聞いてきた人はその簡易トイレすら持っていなかったってことね。

 この「テント」、見た目はほんとシンプルな一人用テントにしか見えないからね。


 それからは外で話そうとなったけど、良い子達だと思ったから、リビングに案内する事にした。

 その前に、外のインターホンに被せるように「トイレはありません」と書いて貼っておくと良いとアドバイスをくれたのでその通りにした。


 

「うわぁ……中がこんなに広いなんて」

「……ヤベェっすね。こりゃ他言無用っていうっすわ」


 リビングに案内してソファで座っててと言っても、彼女らはこの広さに立ったままキョロキョロとして驚くばかりだ。


 そんな二人は置いておき三人分のお茶を入れる。


「お待たせ。どうぞ座って」


 と再度着席を促すと素直に座ってくれた。


「改めまして、お手洗いを貸してくれてありがとうございました。斎藤ちかと言います」


「助かったっす。俺は高田宗っす」


「斎藤さんと高田くんね。私は佐藤月姫です」


「佐藤さん、もしかして巷で噂の」


「違うよ?」


「え、でも」


「違うよ?」


「……うっす」


 高田くんの追求に笑顔で違うと言い続けたら引いてくれた。空気が読めて聞き分けのいい子だ。


「ところで待機組って言ってたけど、後何人なの? まだ時間は大丈夫?」


 そう私が問えば、


「はい、ようやく後15人になりました」


「俺はあと17人っす」


「あれ、斎藤さんの次じゃないんだ」


「多分、ちかが押した後に別の階層で誰か押してたっぽくて、間に入られたっす」


 へえ、そんな事もあるのかなんて彼女らのことを聞いていたら、二人は恋人同士なんだとわかった。

 同じ高校を今月卒業するらしい。

 大学は別々だけど、二人とも都内の名門大学に進学が決まっていて将来有望だ。

 ただ、二人とも私立大学だから少しでも学費を稼ごうと、攻略時の宝箱目当てでダンジョンに潜ることにしたそうだ。


 偉いじゃないの。

 私利私欲の私とは大違いだ。

 何度も言うが軽そうなんてはじめに思ってごめん。


 そんな二人はステータスのクラスやレベルまで教えてくれた。

 斎藤さんがクラス僧侶でレベル20、高田くんはクラス剣闘士でレベル21なんだそうだ。

 僧侶は回復がメインのサポート役、剣闘士は盾と剣を使って戦う攻撃型みたいだ。

 斎藤さんは回復がメインだけど、杖だけでなく短剣も使って攻撃してレベルを上げていたとか。すごい。


 そして一番聞きたかった【レンタル屋】についてだが、これはアイテム「テント」の間取りがトイレやトイレ付きユニットバスの物を持っている《挑戦者》が、セーフティエリアで商売をしている事らしい。

 人によって違うが、トイレ貸し出し一回500円とか、お風呂付きで1,000円だとか。

 よくそんな商売考えたなと思ったが、ダンジョンを途中退場したらまた1階層からやり直しというところをついている。

 ボスだけ挑むならセーフティエリアのボタンを押せば良いが、階層が高くなるにつれ経験値が上がるため、経験値を稼ぎたい人は上層で長く多く稼ぎたい。

 簡易テントと使い捨て簡易トイレを持っていれば借りる必要もないが、長く潜るならとても嵩張り邪魔になるだろう。

 そんな時に活躍するのが【レンタル屋】だ。

 よく考えたな。


 アイテム「テント(小)」が発見されている初級ダンジョンは結構あるらしく、そのダンジョンは年中混み合っているとか。

 待機時間も恐ろしい事になっているが、人は殺到しているんだそうだ。

 二人も欲しいけど自分たちでは到底時間が足りないと嘆いていた。

 なので、結構「テント(小)」を持っている《挑戦者》は多くて、ダンジョン挑戦の傍ら15階層以降で【レンタル屋】をする。

 一応【レンタル屋】をする場合は、PNカードに登録が必要で税金も払わないといけないのだが、中には黙ってやっている人もいるとか……でも、IDC所属の《挑戦者》は抜き打ち確認をする許可もあるからバレることもあるそうだ。


 しかし、今回この17階層にはそんな【レンタル屋】がいなくて、昨日から泊まり込みできていた二人は簡易トイレも使い終わってしまい、どうしようかと困ってこの「テント」に声をかけた。

 まさかインターホンが付いていると思わず押してびっくり、中に入ってまたびっくりしたそうだ。


「トイレ貸してもらえて本当に良かったです!何ヶ所か聞いてダメだったのでここもダメかと、もう、本当にもう……危なかった」


 「ハハハ」と苦笑いしか出なかった。


 そんな【レンタル屋】の話をなどを聞いていたらあっという間に斎藤さんの順番があと二人までに迫っていた。


「じゃ、私たち行きますね。今回は本当にありがとうございました!」


「ありがとうございましたっす」


「いいえ、こちらこそ色々教えてくれてありがとうね」


 「頑張ってきてね」と言って「テント」から送り出した。


 良い子達だったからまた会いたいなとは思ったけど、連絡先は聞かずに別れた。

 彼女たちも私の雰囲気を察してか、聞いてはこなかった。


 でも、またどこかで会えたら良いな。





お読みくださりありがとうございます!

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