13.初級ダンジョンに挑戦した
今話は本編に戻ります。
迎えた土曜日。
今日は弟と初級ダンジョンに挑む日だ。
「姉ちゃん本当にそれで良いの?」
千葉市第三初級ダンジョンに来て、男女別更衣室で着替え、更衣室前にある休憩所で合流した時の弟の言葉だ。
そう言われたのは、ほぼ動画の”無姫”と呼ばれていた時の格好と同じだからだろう。
「だって、装備これしかないし」
そう、記憶にない勝手にレベル上げ時代の槍と胸当てしか私にはないのだ。
なので、自ずと動きやすいデニムとトレーナーに胸当てと槍だと、ほぼそのまま”無姫”装備となる。
まあ、化粧もしっかりしているし、デニムもトレーナーも全く違うものだから大丈夫だろうし、上級ダンジョンを攻略した人が初級に入るとは思わないだろう。
そう言えばしぶしぶ弟も納得してくれた。
ダンジョン入り口前にある受付でPNカードを提示し、入場の記録をしてもらう。
そして、皆が入っていく入り口の列に並ぶ。
近くから「おい、あれ」とか「いやまさかなぁ」なんて声が聞こえてくるが、きっと私のことでは無い。
そうだ、私のことだと思うのは自意識過剰だとこの前電車に乗って思ったではないか。
土日だからかやたら人が多いけど、気にしない。気にしたら負けだ。
「やっぱ、気付きはじめてねぇ?」と弟。
「知らん、私では無い」そう言って無視。
周りが遠巻きにヒソヒソしてるだけなら、自分が反応する必要もない。
声をかけられたら答えれば良いだけだし、そもそも”無姫”と言う自覚がないのだから違うと言うしかない。
そんなこんなで私たちの順番が来た。
薄暗い入り口の中に入ると、そこは洞窟のような空間が広がっていた。
初めてダンジョンで目を覚ました時のように、どこに灯りがあるのかわからないが中は明るく周りははっきり見える。
「ここの一階層はバットってコウモリ型のモンスターだよ。結構うじゃうじゃいるから必ず戦闘になるけど、あいつらのHP10くらいしかないから、姉ちゃんなら当たれば一発で倒せる。経験値も一律10だし。攻撃が当たったとしても恐らく2くらいしか削られないから安心していいんじゃない?もし素肌に怪我したら初級ポーション使えばいいよ」
「分かった」
今回事前にポーションもしっかり用意した。
元々目が覚めた時に持っていたみどりの小瓶が外傷用の中級ポーションで、ピンクの小瓶が魔力回復用の初級ポーションだったのだ。
なので新たに黄色の外傷用初級ポーションを3つ購入していた。
上級攻略時のは外傷用の上級ポーション。
攻略アナウンスでポーションしか行ってなかったけど、魔力回復用はどうやらマジックポーションと言うらしい。知らなかった。
そして少し進んでいると分かれ道になる。
ここで皆散り散りに分かれていくんだとか。
あまりに人が多いと戦いづらいものね。
そしてしばらく進むと前方から三匹バットが飛んできた。
その一匹が私に、もう一匹が弟に、残り一匹は待機となり、私とバットはシールドで覆われた。
これが戦闘開始の合図なのかと感心しながら、迫ってくるバットを避ける。
やはり攻撃は自然に躱せるのかと不思議に思いながらも、バットに向かって槍を突き出してみたらしっかり真ん中を射抜き倒すことができた。
と、同時にシールドが解除されたが、待機していたもう一匹のバットと戦闘体制になり、難なくそいつも倒す。
「……うわぁ、動きエグっ」
弟も戦闘終了していたらしく、私の戦闘を見ての一言。
「そう? 自分でもよく分かってないけど勝手にね……」と言えば呆れた目で見られたのはおかしいだろう。
ダンジョンで目を覚まし、ドラゴンを倒して以来の初めての戦闘は、意外に安定して戦える自分がいることを知れた良い経験だった。
もはや、なぜ動けるかなどは考えないことにした。
自然に動けるほど頑張ってレベルを上げてくれていた“無姫”さんに感謝すら覚えてしまったが、せめてお風呂だけは入って欲しかったな。
しかし、戦闘が終わってもモンスターが消えるだけで何も残らないのはなんとも言えない気持ちになる。
経験値が溜まっているのだろうが、何か欲しくなるのはゲームをやっていた人ならわかる感覚だろう。
そりゃ、ダンジョンショップを見つけたら何か買っちゃうよ。
ダンジョン内の戦闘は順調で、階層が上がるたびに得られる経験値も上がる。
初級の1階層は10、2階層は20というように、19階層まではモンスター1体につき一律の経験値らしい。
そんな話を弟から聞きながら、6階層のセーフティエリアについたのは夕方17時頃。
戦闘は順調だけど、人も多いし、ダンジョンも各階広いからここまでくるのに結構時間がかかってしまった。
土日は泊まり込みで来る人も多いみたいで、セーフティエリア内にはまあまあな人がいるし、テントを張っている人たちも結構いる。
そんな私たちも泊まり組なので、空いていた端のほうに行き、私のテントを取り出して展開する。
意外や意外、全自動のテントに周りの人たちはあまり驚いていない。
と思ったら、ちょっと離れたところの人も自動で組み上がるテントを使っていた。
「えっ?」と言ってしまったが、弟に手を引かれ、自分の「テント」の中に入った。
「多分だけど、どっかの初級で手に入る「テント」だと思うよ、さっきのは」
と、教えてくれた。
そう言えば茨城IDCの鮫島さんがそんなことを言っていたなと思い出す。
確か初級は1部屋、中級は4部屋選べるんだっけ?
選べる部屋もグレードが下がるって言ってたけど、それでも弟は中級が欲しいと。
持ち運びの出来るワンルームと考えたらそれもすごい事で、つくづく反則だなアイテムは。
それよりワンランクもツーランクも上の私の「テント」の中は、充実し始めている。
リビングにはアイテムのタワーファンと先日購入したL字型のソファを、マスターベッドルームにはクイーンサイズのベッド、元々自分の部屋にあったシングルのベッドは弟が使う部屋に、テーブルやチェストなど使える家具もそれぞれの部屋に設置した。
ドライヤーやスマホ充電に必要な電気はポータブル電源を2つ購入したので、それで都度使えるようにした。(充電はたまに実家に依頼しようかと……)
常時電気がないと使えない家電類や炬燵はまだアイテムボックスの中だ。
ちなみに従来の洗濯機も使えないので、しばらくはコインランドリー通いが続くだろう。
そんなテントの中、アイテムのタワーファンを付けて、ソファで寛ぐ弟。
私はキッチンで夕ご飯準備。
と言っても、朝作っておいたおにぎりと、買い置きしておいた唐揚げをアイテムボックスから出して、味噌汁を作るだけ。(一応漬物もある)
「でも、このダンジョンマップってアプリはすごいね」
2人でご飯を食べながらスマホのアプリを見る。
「これがないとダンジョンに入るのは厳しいよ」
弟からダンジョン入場前にインストールしとけと言われたダンジョンマップアプリ。なんと全世界共通で各国のダンジョンが閲覧可能。
その時点ですごいのに、各国の言語に対応しているのはもちろん、ダンジョン内の詳細なマップ、自分の現在地表示、獲得アイテムや現れるモンスターの情報まで閲覧できる。
ただ、ほとんどの初級と一部の中級までで、全ての初級・中級のダンジョン内マップが完成しているわけではない。
だから、未確認の情報があればIDCへ報告し、確認に入り、確認出来たら情報料が支払われる仕組みなんだとか。
「へぇ……ちゃんとシステム出来てるんだね。あれ? 私、上級攻略したけど情報料貰ってないよ?」
「ああ、初めて攻略されたダンジョンボスの情報提供は義務なんだよ。ダンジョン法で2ヶ月前制定されたの。拒否すると罰金とか、ダンジョンに何ヶ月潜れなくなるとかあった気がする。だから報奨金額が高いって話だよ」
「ええ……そんな事鮫島さんたち言ってなかった。まあ、全部答えてたからかもだけど」
「どっかの国の攻略者が秘匿しようとして、その法が出来たらしいよ」
ちなみに、ダンジョン内の他の情報は報告義務がないらしい。
定期的にIDC所属の《挑戦者》が潜ってマップやモンスター情報の更新をしてるからなんだとか。
いや、本当に私の記憶がない間にあっという間に色々整備されているものだと感心する。
「ん? この休眠中のダンジョンって何?」
「それは、今そこのダンジョンに入れない表示。姉ちゃんも初めて攻略したからアイテムボックスもらっただろ? 他のダンジョンも同じなんだけど、その初めて攻略した奴がライフオーバーとかステータス没収なんてなった時に、そいつが攻略したダンジョンが入れなくなって初期化されるんだ。そうするとまた初めて攻略した奴にアイテムボックスが与えられるってわかってさぁ」
「へぇ」なんて呑気な声を出してたら、
「初めはそれがわかってから大変だったんだよ!初級なんて結構簡単に攻略できる奴多いから1番に入るやつの取り合いになってさぁ、各町とかで揉め事多発よ」
そんなものだから、IDCが入る順番を抽選にしたんだとか。
その応募総数もすごいらしい。
「俺も何回も抽選申し込んだけど当たりすらしないよ」と嘆いていた弟。
抽選は5人まで選ばれて、順番もランダムなもんだから相当な運が無いとダメだろう。
5人目以降はもう、普通に列に並んだ順で入っていくとか。
まあ、大体初級は5人以内で攻略しちゃうから難しいけど、中級は攻略自体まだ難しいから、抽選で外れた実力者たちが何日も前から並んで待つ人が多いんだそうだ。
流石に中級ボスまで挑むレベルじゃ無いと弟は諦めているが。
ライフオーバーやステータス没収になった人のアイテムボックスの中身はどうなるのかと聞いたら、一応時間制限が設けられて、その時間を超えてまだ入っていたら、一気に噴き出すんだと。
大物家電とか重いものが吹き出てきたら恐ろしいな……
私もライフオーバーにならないようにしないと。
ちなみに、アイテムボックスを使って万引きしようとした人も過去にいて、ステータス没収になったらしい。
どこで判断しているのかわからないけど、スキルの悪用は許されないんだとさ。
悪いことはしないに限るね。
「あ、そう言えば、アイテムボックスってダブってもてるの? 初級の初攻略を2回したり、中級初攻略したり」
結論、ダブりはできないんだと。
初級ダンジョンの初攻略を二箇所で行っても初級で与えられる500枠のまま。
もちろん1枠に入る重量も変わらない。
ただ、初級のアイテムボックスを持った人が中級を攻略したら中級の5,000枠数まで上がったが、5,500枠にはならなかったとIDCから発表されたらしい。
なので、私が特級以外のダンジョンを初攻略してもアイテムボックスの量などは変わらないままというわけだ。
まあ、特級なんて無理の無理なのはわかりきっているが。
そんなダンジョンや昨今のダンジョン法律云々を聞いていたらあっという間に夜は更けていく。
遅くなったのでお互いお風呂に入り、明日は朝7時起きにしようと就寝した。
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