月姫日記①
短い他者視点です。ストーカーや死を連想させる表現が多く含まれて不快に思われるかもしれません。その場合、読み飛ばしください。
大和2年4月1日
天使に会った。
そして救われた。
昨日書いたけど、今日は人生最後の日にする為電車に飛び込むつもりだった。
人でごった返す朝の通勤ラッシュ時に。
これでもかと多くの人に迷惑をかける為に。
人混みの中、誰も僕になんか目を向けない。
そう思ってた。
だけど彼女と目が合った。
でも、それも気のせいだと思った。
僕の事なんか気にするやつはこの世にいないから。
だからそのまま人混みに紛れて飛び込もうとしたんだ。
そして足に力を入れて踏み出した。
あと一歩、あと一歩進めばそこは現実からの解放だったんだ。
だけど、大きな力で後ろに倒された。
倒れ込んだ衝撃による驚き、それから、解放されるはずだったのに叶わなかった怒りをもって振り返った。
長く伸ばしたストレートロングの黒髪、前髪は切り揃えられ、小ぶりな顔に、大きな瞳からは大粒の涙がハラハラと流れていた彼女の顔がそこにあった。
目が合った彼女だ。
その大きな瞳と合うと涙を流しながらも彼女は顔を大きく左右に振るのだ。
何も発さず、ただ顔を横に振るだけ。
僕のトレーナーの裾を強く掴んで。
彼女も僕を引っ張った勢いで倒れていたからか、両膝をついた状態だ。
その膝は履いていたストッキングが破れているのがわかるし、恐らく膝を擦りむいていただろう。
周りにいた雑踏達が「大丈夫か」と声を掛けてくるが、忙しい雑踏達は到着した電車の波に飲まれてそのまま乗っていく。
僕と彼女も立ち上がり、降りる波に押されながら人のいない空白地へ。
暫く無言のままだったけど、僕が「もう大丈夫」と言うと、彼女はせせらぎの様な澄んだ声で「そっか」と言ってトレーナーを掴んでいた手を離した。
そして、彼女は次に到着した電車に乗り込み、ドアが閉まり出発するまで、ホームに残った僕をずっと見ていた。
何か言うでもなくただずっと見てた。
遠ざかる最後に見えた彼女の顔は笑顔だった。
天使がいるなんて信じてなかったけど、彼女が天使だと言うなら納得出来る。
彼女に掴まれたトレーナー部分を触る。
何故か心が軽くなっていることに気づいた。
「死ぬな」「生きろ」「他人に迷惑をかけるな」「助かって良かった」そんな言葉を聞いていたら、僕はきっとまた飛び込もうとしただろう。
彼女が何を思って僕を引き止めたのか、何を思って何も言わなかったのかわからない。
でもそれで僕は救われた。
彼女に止められた命、また命を絶とうとは思えなくなった。
もう二度と思わない。
この命は彼女の為に。
名前もわからない。
僕よりも少し年上に見えた彼女。
御礼を言うべきなのか、いやでも、死のうとした奴に声を掛けられたら彼女はどう思うだろうか。
拒絶されるだろうか。
それは耐えられない。
それでも近づきたい。
遠くから見るだけなら良いだろうか。
彼女に不快感を与えない遠くからなら。
明日、同じ時間に彼女は現れるだろうか。
大和2年4月2日
彼女に会えた。
昨日と同じ時間帯の電車だ。
スーツを着ているし、会社らしきビルに入って行ったから社会人なんだろう。
今日一日彼女を遠くにでもずっと感じていられて幸せだった。
朝、ホームの一車両分離れた場所にいた彼女を見つけた時は思わず声が出そうになった。
だけど気づかれたら気持ち悪いと思われるかもしれないと声を殺した。
彼女に気づかれない為に、昨日髪を切って色も変えた。眼鏡も外した。
外野の反応が煩かったけど、どうでもいい。
そのおかげか彼女が僕に気づくことはなかった。
何かを探す様にキョロキョロしている彼女はやはり天使だ。
そこだけ輝いて見える。
隣にいた男も彼女を気にしている素振りをしていたのが気になった。
隣の車両だが同じ電車に乗った。
車両の扉越しに彼女をみていたら、ホームで近くにいた男と離れているのを確認して安堵した。
彼女は乗り換えも入れて40分くらいの駅でおりて、徒歩10分のビルに入って行った。
彼女の帰りを待っている間、このビルに入っている会社を調べた。
20社近くあるけどこれのどこかで彼女は働いているのだろう。
帰り際の彼女は疲れた顔をしていた。
仕事だったなら仕方ないけど、彼女にはずっと笑っていて欲しい。
そして無事に家までつけるか心配だから見守った。
僕の家とは正反対の場所だけど彼女の家もわかった。
戸建ての一般住宅。表札には佐藤と書かれている。
天使の苗字が判明した。
明日は土曜日だから駅では会えないかな?
お読みくださりありがとうございます。
たまに他者視点投稿予定です。不快な場合は読み飛ばしください。
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引き続き頑張ります!




