1.起きた
とても久しぶりの投稿かつ新作ですが、だいぶ見切り発車です。辻褄が合わない箇所等あるかと思いますが、温かい目で見ていただけますと幸いです。
「う、うーん……?……んっ!?」
なんだか窮屈で動きにくいなと寝ぼけ眼で見た真上の天井に見覚えが無い事に驚き、一気に目が覚める。そして、勢いよく起き上がろうとすると自分が寝袋に入っている事に気づく。
「え、何? どう言う事……? 何で寝袋?」
今の自分の状況に理解が追いつかない。
使った事のない寝袋の開け方に四苦八苦しながら上半身を起こし周りを確認。
天井は高く、全体的に岩のようなゴツゴツした広い空間で、周りには人っ子一人見当たらない。
この空間にどうやら私一人の様だ。室内には照明が見当たらないのに、周りを確認出来るくらいの明るさはあるから不思議。
来た事も無いこんな怪しい謎空間に何故私は寝ていたのか?
「誘拐……な訳ないか。ん? これは私の荷物……? いやいやいやいや! なにこれっ!?」
一瞬誘拐かと疑ったけど、そもそも誘拐されるほどの身分でもなんでもない。
独身無職のただのアラサー女子だ。
実家も特に裕福ではなく一般家庭。
そんな私が誘拐の対象にはなり得ないだろう。
そんな事よりも寝袋の隣に置かれたものを見て叫んでしまったのだ。
見覚えのない薄汚れた焦茶のブーツに焦茶の革手袋、大きなバックパックと、私の身長ほどありそうな大きな槍。
そう、私の横にはどう見ても槍と言う名の凶器が転がっているのだ。
「何で……槍……? 本物?」
その槍はなかなか装飾にも拘っていて、柄の部分には細かい彫刻が施されているし、先端は長く鋭く尖っている。見るからに本物と思えるが、過去の経験で槍を見る事など無かったので本物かわからない。
もし本物だったら怖いから触りはしないが、顔を近づけマジマジとその先端を見てみると、どう見ても鋭利な刃物にしか見えない。
「ちょっと、この状況が全く理解できないんだけど。家にいたよね?」
落ち着け、落ち着け、私。
冷静になって思い出してみよう。
確か、元日の朝、混んでいるだろう参拝を夜に行くことにしたからその前に食料品を買いに行こうとしていたんだよね?
あれ、違うか、そう思ってたけどソシャゲに夢中になって炬燵でのんびりしていたんだ。
そろそろ動き出さなきゃなと思ってソシャゲをスリープオートモードに切り替えようとしてたら、大音量の変な声が耳元で聞こえて、ビックリしてそれからどうしたんだっけ?
うん、驚いてスリープオートモードの起動ボタンを押したってところまでは覚えてるな。
それから急に睡魔が襲ってきたような……で、今に至る?
いや、全然理解できない!
家からここまでどうやってきたんだ私!
そして、この槍は!?
「ふぅ……、結局何もわからないけど、とりあえずここがどこか位置情報を確認しとくか」
スマホで調べようと、まずは着ている服のポケットを探ろうとしてまた唖然とする。
「いや、これ何? 何でこんなの付けてるの?」
私が身につけていたものは、厚手のトレーナーにデニムと一般的ではあったが、トレーナーの上に付けているものが一般的では無かった。
左胸の心臓を守るように革と鉄で作られた胸当てをしているし、腰には何かを下げられるようになっている革ベルトが装着されている。しかも隣には物騒な凶器。
「えっ、なにこの戦ってますみたいな感じ。夢? まだ寝てる?」
ありきたりだけど、頬をつねってみたがとても痛かった。
「痛いよ……ならやっぱ現実って事? いつの間にか記憶失くしてこんな所来ちゃってたって事? え? 私は私で良いんだよね?」
ここまでの記憶が無いことで急に不安になる。
デジタル漫画で読んだことがあるような状況か?
色々読んだけど、気がついたら知らない人の体に魂が入って目覚めたとかの話が鉄板だった。
それを思い出してまためちゃくちゃ不安になった。
手で自分の顔を触ってみる。
しかし、手だけで顔の造形がわかるかと言われれば否であった。
自分が自分では無いかもしれないと言う最大の不安が押し寄せてきているので、それを振り払うためにスマホをまた探す。
だが、身につけている衣服の中にも寝袋の横にも、自分のものかもしれないバックパックの中上部にも見当たらない。
混乱からの絶望だ。
しかし、バックパックの中底に見覚えのある財布を見つけ、その中のカード類を見て安堵した。
「私の財布だ……」
見慣れた自分の顔が貼られた身分証を見て、まだ実際に鏡で確認したわけでは無いのにどうやら私は私であると思えて、財布を強く抱きしめた。
暫く財布を抱きしめ自分であると噛み締めていたが、その間この空間に誰かが入ってくる事はなかった。
本当にここはどこなんだろう?
「喉が渇いた……これ飲んで良いのかな?」
先ほど漁ったバックパックの中に入っていた二リットルペットボトルのスポーツドリンク。
飲みかけのようだけど、私が飲んだのかはわからない。
バックパックの中には他にもブロックタイプのバランス栄養食が沢山入っている。と言うか、食料と飲料とお財布しか中には入っていない。しかも飲料は見覚えのあるスポーツドリンクの他に、見たことのない小さな小瓶に入ったピンク色や緑色の飲み物もある。これでもかってほど着色料を使っているのがわかるくらいの色。ちょっと飲む気がしない。
取り敢えず誰が飲んだかわからないけど、財布が入っていたバックパックに入っていたのなら私が飲んでいたと思うことにして、スポーツドリンクを飲む。生ぬるいが、今の私には色々染みる。
「ふぅ……待ってても誰もこなそうだし、あそこから出れば外に行けるのかな?」
兎に角、この訳のわからない空間にいても状況が好転する気がしない。
幸い、私が寝ていた対角線上奥に出口らしきものが見えるから出てみようと思ったら、
「……臭っ!? え、えっ!?」
鼻炎気味の私の鼻が、漁ったバックパックの中の荷物や寝袋を片そうとして漸く、とてつもない臭いを感知する。
一瞬この部屋が臭いんだと思ったが、饐えたような臭いが自分が動く度に香って来るのだから原因は私だと察したし、実際に顔を肩あたりに近づけ匂いを嗅ぐと吐き気すら覚えた。
これはヒドイ。どの位お風呂に入っていないのか、どの位汗を拭っていないのかわからないレベルだ。
一応女の自覚はあるし、普段綺麗にするよう心がけている身としてはこんな状態は耐えられないし、外に出たら迷惑すぎる。
かと言って、それを解消するほどのものがバックパックの中にもないし、この部屋の中にも水場なんて見当たらない。頭を抱えたくなるが、それでもこの部屋から出なければお風呂に入ることも出来ない。
私の周りに置いてあったものは全て私のものとして何とか荷物を整理し終え、息をする度に襲ってくるこの臭いに悶絶しながら、立ち上がる。
「オェッ……後はこの槍だけど、何と無く持って行った方がいい気がするんだよね……でも持てる気がしないんだけど……」
自慢じゃ無いが筋力はない。
明らかに重量感があるように見える目の前の槍を、自称非力な私が持てるとは思えなかった。
なので先にバックパックを背負おうと肩紐に腕を通し背負うと、あまりの軽さにビックリした。
「えぇ!? 嘘!? 荷物結構詰めてたよね!? 瓶もペットボトルも入ってたよね……」
実際軽いと言うわけではなく重さはそれなりにあるが、苦もなく背負うことのできる自分にビックリしたのだ。自分のポテンシャルに驚きながらも、それならば槍もいけるのではと思い持ち上げてみる。
「えぇぇ……何で持てるんだろう……しかも何かしっくりくる……やっぱり私じゃ無いんじゃないかな……ハハハ……あ、でも、眉毛触ってもないからやっぱ私かも」
友人にすっぴんが酷いと言われるほど化粧前と後で変わるそうだ、私の顔は。
特に眉毛が無い辺りが。
だから、眉毛辺りを触ってツルツルしているならば今はすっぴんなんだろうなと、現実逃避しながら、理解できないことが多すぎて笑えてきた。
重たいバックパックと槍を持てた自分が笑えるけど、まずはこの部屋から出ようと出口に向かおうとしたが、先ほどからチラチラ目の端に映る何かが気になる。
壁に埋め込まれたような赤く丸い突起物。その中央には大きく下矢印が描かれている。このごつごつとした空間のなかでも特に異質。
とても気になる。
いつの間にかそれに近付いていて、目の前まで来てしまった。近くに来てもやはり異質。直径30センチくらいはありそうな大きな押しボタンに見える。
そして、明らかに危険な匂いがする。今の自分以上に。まあ、危険だとわかるんだから押さないけどね、押したいけど。
そんな押したい衝動を抑えて出口へ向き直ると、出口方向から人の声が聞こえてきた。
「漸く着いた……早く眠りたい」
「あぁ、本当な。 残り魔力も少ないし危なかった」
「明日は何時か……え、あれ、もしかして姫……?」
「……マジか、ってか目、合ってんだけど?」
二人の男性が会話をしながら出口から謎空間に入ってきて、後半は私と目があっての発言。
面識のない男性二人なのに彼らは私の事を知っていそうなのは何故なのか、その着ている装備はなんなのかなど色々聞きたい事はあるが、それよりも何よりも自分の今のニオイが問題だ。
大問題いや、私にとっては死活問題だ。
聞きたいことは山ほどあるのに近付いてほしくない。むしろ同じ空間にいて欲しくない。
だけど、彼らは最悪なことに出口付近にいるのだ。逃れられない。非常に困った。
「あ、あの、佐藤さんですか?」
「え、え、ど、え」
顔を見たことがある程度ではなく、何故私の名前を知っている!?
名前を呼ばれたことにより、怖い、どうしよう、逃げたいなどと先ほどよりも混乱してしまった私はパニックになり、この場から逃げたい衝動に駆られ押してはいけないだろうボタンを押す暴挙に出てしまった。
「あっ!? そのボタンは!!!」
「なんで!?」
「っ!? ヒゥッ」
ボタンを押した直後、私を中心とする足元の地面が無くなり私は声を上げることも出来ず落下を開始した。




