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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

さよならの前日

作者: Uki
掲載日:2026/02/23

 三月の空気は、どうしてこんなに澄んでいるんだろう。


 息を吸い込むたび、胸の奥が痛くなる。


 明日、君は卒業する。


 僕は二年生で、君は三年生。


 たった一年の差なのに、それが世界の終わりみたいに思える。


 放課後の教室。

 荷物をまとめる君の背中を、僕はずっと見ていた。


「そんなに見んなよ」


 振り向いた君が、少し照れたみたいに笑う。


「見てない」


「嘘つけ」


 笑い合うこの時間も、今日で最後かもしれない。


 卒業式が終われば、君はもうここに来ない。


 部活も、放課後も、バス停も。


 僕の日常から、君が抜け落ちる。


 怖い。


 こんなに好きになってしまったのに。


 君が体育館で怪我をしたとき、真っ先に駆け寄りたかったのは僕だった。

 文化祭で他の女子と写真を撮っているのを見たとき、胸がぐちゃぐちゃになったのも僕だった。


 全部、僕だけの気持ちだ。


「寂しいな」


 君がぽつりと言う。


「……なにが?」


「後輩とバカやるのも、今日で最後だろ」


 それだけ?


 それだけなのに、泣きそうになる。


「俺さ」


 君が、珍しく真面目な声を出す。


「お前と話してる時間、好きだった」


 心臓が止まる。


「静かでさ。なんか、落ち着いた」


 ……それは、友達として?


 聞きたいのに、聞けない。


 喉が震える。


 今言わなきゃ、きっと一生言えない。


 でも、言ったら壊れるかもしれない。


 沈黙が落ちる。


 教室の窓から、夕焼けが差し込む。


「……先輩」


「ん?」


「俺、」


 好きです。


 その言葉が、あと一センチのところで止まる。


 代わりに出たのは、


「……ずっと、応援してます」


 なんて、ずるい言葉。


 君は一瞬だけ目を見開いて、それから柔らかく笑った。


「ありがとな」


 ぽん、と頭に手が乗る。


 子ども扱いみたいなのに、どうしてこんなに優しいんだろう。


 涙がこぼれそうで、必死に上を向いた。


 言えなかった。


 でも。


 最後に、君が僕を抱き寄せた。


 強くもなく、弱くもなく。


「……お前さ」


「はい」


「好きなやつできたら、ちゃんと伝えろよ」


 胸が裂ける。


「後悔すんの、俺は嫌いだから」


 それ、今の僕のこと?


 違うよね。


 でも。


「……はい」


 震える声で答えると、君は満足そうに離れた。


「じゃあな」


 教室のドアが閉まる。


 足音が遠ざかる。


 僕は、しばらく動けなかった。


 好きだった。


 今も好きだ。


 たぶん、明日も好きだ。


 でもこの恋は、今日で終わりにする。


 そう決めたはずなのに。


 机の上に、小さな紙が置いてあるのに気づいた。


 見覚えのある字。


『連絡先、変わってないから』


 その下に、小さく。


『寂しくなったら連絡しろ』


 ……ずるい。


 こんなの、忘れられるわけない。


 涙が落ちる。


 でも、少しだけ笑ってしまう。


 さよならの前日。


 僕の初恋は終わらなかった。


 形を変えて、ただ静かに、続いていくだけだ。

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