1時間の追憶
「正義のミカタ」の主人公です。
ラスト1時間をご覧下さい
純粋無垢な子供は、いや、何も知らない子供だからこそ、悪は悪でありそれを律する正義こそ素晴らしいものであると信じて疑わない
そんな初心を貫く愚かなほど真面目で優秀な青年のお話をしよう
あと1時間ほどだ
僕はもう分からない
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常に良い成績、高い技能を身につけた僕は、遂に夢である正義の任を得ることができた
僕へと期待を寄せて頂いた人達にも応えることができていたのならば嬉しいかぎりだ
僕にとっては目標の為の通過点ではあったが、社会秩序を保つ一員となれたことが素直に嬉しかった
純粋無垢でいられたのはここまでだったのかもしれない
『正義と悪』
これは相反するものである
それが僕にとっては人生の軸となる概念だった
だが正義として悪を罰していくにつれ揺らぎ始めていった
そもそも悪とは?正義とは?正しさとは?誰が、いつから、何故決まっているのか?
そんな疑問符は度重なる現実から沸いてくる
暴力にも理由があり、殺意には、逸脱には、悪とされるモノには…
そうなり得るほどの根が存在する
そんな事実を目の当たりにするのが『正義』という仕事だった
しかし、悪は悪だ。
己の与えられた任務は社会秩序の為、正しく世の為人の為にある
そう考え続けることで目を背け、人生の基盤となった『正義』の軸は揺らいでいないと安心し続ける
いつしかこれが義務のようになった
僕は間違っていない…社会の治安を守らねばならない…悪意は人の数ほど存在する…
そちら側へ落ちないよう、人々を支えるのが僕達の、正義としての存在意義だ
そう、間違っていない、正しい道を歩み、示している、僕は僕達は正しくあらねばならないんだ悪は罰さねば消えないんだ我々に与えられた義務を
そんな矢先、脆い正義は砕け散った
我々の築いた社会に外部からの大きな圧がのしかかった
彼らは悪、そう直感的に思った
「ケイサツ」を名乗り、この豊かで理想的な秩序を維持する我々よりも、遥かに強い力で抑え込んでいった
"ケイサツ"とやらは僕達のことを悪と断言した
何故?壊すだけしか脳のない、彼らの駆使する暴力こそ、悪の塊ではないか?
僕のことはまだいい、脆い正義となりかけていたのは事実だ
だが僕達の守る、皆が過ごして共に守ってきたこの街を侮蔑される筋合いはない
更にこの暴力の塊共は言う
「こういうヤツらは大概イカれているが…ここは特に酷いな」
「ああ、この街全体が、どれだけの人間を狂わせたか…想像するだけでも恐ろしいよ」
ふざけるな、何を言うかと思えば
反論をする隙も与えずケイサツとやらは、既に拘束した僕らに対して言う
「アンタらが栽培しているこの植物は、それを材料に生産されたクスリはな?違法薬物だ!!お前らマトモじゃねぇよ…このヤクのせいで…俺の弟は…家族が…っっ…
人を人間じゃなくすようなモノで貿易して、ここまで発展したんだな?
人の不幸で暮らしていけるとはさぞ幸せなんだろうな!!
…こんな…濁り腐った街…存在が”悪”そのものだ!」
これは…現実か?子供の頃から見ていたものは?
この街が経済的に豊かになったのは…僕らは悪なのか…?なにが正しいんだ?…正しさとは…?正義は…?
あの時、激しい憤りを感じたものの、あのケイサツの人は僕らのせいで家族が壊れてしまったのだろうか
彼以外にももっと大勢の方々が…
うおん、と重苦しい音が頭の中へ響く
あの日からずっと続く耳鳴りだ
でも今日で耳鳴りも、葛藤も、後悔も、絶望も、焦りも、迷いも、罪の意識さえも何もかも終わる
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「時間だ、出ろ、逃げようと思うなよ?」
「分かりました。ええ、逃げようだなんて思っていませんよ…我々が…やってきたことです…」
「……そうか」
この方とは最後の会話だろう
だがこれ以上話そうとはしなかった
お互い、何かを察したのだろう
「最後、何か言い残すことは」
別の執行役が聞く
「…言い残すことは特にありません…ただ、最期、どうしても分からないことがあって…お聞きしてもいいですか…?」
「…いいだろう」
「ありがとうございます
正義とは、いえ、正しさとは何なのでしょうか…?」
執行官は真っ直ぐ僕の目を見た
「…すまない…俺にも分からない…君のような真面目に…正しくあろうとした者へ、最期答えるべきと思ったんだ…だが正直、その答えは俺にも分からない…」
「そうでしたか…いえ、ありがとうございました」
正義に最初で最後の敬意を示そう、静かに、そして




