7 とりあえずは生活基盤を何とかしたい
朝目覚めてベッドの中で考える。
召喚された35歳のミズキさんは抹消された・・・
おそらくもう出番は無いだろう。
偶々存在したのだ。召喚されたときに偶然そういう姿格好をしていたから。
考えてみるとラッキーだったと言えるかもしれない。
召喚された4人と、ここに実在する17歳の冒険者、
アイラとの接点は全く無いのだから。
ん、ちょっと待って。
確かギルドカードを作って貰った時、受付のお姉さんは
『魔道具に情報が記録されたのでここでの再発行は銅貨1枚です』
と言っていた。
という事は魔道具に記録されただけで他のギルドとは情報が
共有されていない可能性が高い。
他の都市のギルドと情報が共有されていないなら
出番のなくなったミズキのギルドカードの改ざんさえ出来れば
真面目にランク上げする必要がなくなる。
Fランクでは怪しまれる魔物の引き取りも
ミズキのギルドカードを高ランクに改ざんする事で容易になる。
ラノベ感覚でランクについては詳しく聞いていなかったけど
これから冒険者として活動していくつもりだし
この機会にランクについてもしっかり聞いておこう。
冒険者として生計を立てていくにしても、ここで目立つのは良くない。
政治の中枢だけに権力者に目を付けられ易い。
しかし王都だけあって図書館やギルド、店舗の品揃えも充実している。
生活に必要な物も揃えやすい。
もうしばらく情報収集をしてから良さそうな土地へ移動しよう。
着替えて廊下へ出る。焼き立てパンの香りが充満している。
洗面台で顔を洗って食堂へ向かった。
「おはようございます。」
他の宿泊者たちの何人かが顔を向けた。
「おはようございます。空いている席へどうぞ。」
厨房から出て来た少女が挨拶してくれた。
そういえば名前も聞いていなかったな。
手近なカウンター席に陣取る。
暫くすると少女が朝食の乗ったトレーを運んできた。
「苦手な物とかあったら言ってくださいね。」
「なんでも食べますよ。但し食べ物ならね。あなたのお名前聞いてもいい?」
「エミーです。」
「了解。エミーちゃん、いただきます。」
運ばれてきたのは焼き立て丸パン二つと野菜たっぷりシチュー
ソーセージと野菜炒め。
異世界へ来てから朝食は上げ膳据え膳の上豪華だ。
あちらでは牛乳飲んで食パン齧りながら登校準備していた。
周りに流されて生活していたけど、
ここでは自分で考えて行動しないと前には進めない。
食事を終えて立ち上がる。
「うちの朝食どうでしたか?」
エミーちゃんがトレーを下げに来る。
「ご馳走様。とても美味しかったわ。」
「ありがとうございます。温かい物を提供するのが自慢なんです。」
「ホントに出来立てってだけで格段にちがうもの。美味しさ倍増ね。
あっ、これから出かけるんだけど今日、お部屋の掃除をお願いして良いかしら。」
「はい。朝の仕事が一段落したさせてもらいます。」
「じゃあ、よろしくね。」
準備する事も無いのでそのまま宿を出た。
そういえばミズキと付き合いのあった人たち、どうしてるかな。
突然の逃走で昨日も今日もちょっとした騒ぎになってるかな。
まあ、たった一週間の付き合いだったしもう関係のない事か。
もたもたしてたら召喚した人達に感づかれて、どうなるかわからなかったし。
でも親切にしてくれた人達にもう少しちゃんとお礼が言いたかったな。
ギルドに到着すると依頼を探す人でごった返している。
二階に併設されている資料コーナーでカウンターが落ち着くまで
時間を潰す事にする。
ここには、冒険者に依頼される事に関わる資料や各国ギルドについて
詳しく書かれた資料があるらしい。
特に魔物や薬草などの採取についてとか素材の使われ方について
書かれた物が多いみたいだ。
先日倒したビッグボアについて調べてみる。
ビッグボア ランクC
森などの比較的奥地に生息
雑食で気が荒く獰猛
幼獣は体調50センチ~ 成獣になると2メートル以上
オスと子連れのメスは特に気が荒く、大きい物は3メートルを超す
毛皮、牙は主に装飾品、工芸品に使われる
内臓は薬品に使われる部位が多い
肉は食用
見た目と違って使い道の多い魔物なんだね。
高く売れそう。
他の町のギルドについての資料も見てみるが、
主にギルドの歴史と特産品。町の様子は分からない。
そろそろカウンターが空いてきたので階段を下りていった。
ロビーに立つと前回まで気付かなかったが、
ランクについての張り紙が目についた。
一番下は
Fランク?
13歳以上登録可
3か月に依頼を1回達成で継続
1か月以内に3回依頼を達成で Eランクに昇格
Eランク
1か月に依頼を3回達成で継続
1か月に依頼を6回達成で Dランクに昇格
Dランク
3か月にEランク以上の依頼を10回達成で継続
3か月以内にDランクの依頼を5回達成、またはそれに準ずる功績を以って
Cランクに昇格
Cランク
6か月にDランクの依頼を10回達成、またはCランクの依頼を3回達成、またはそれに準ずる功績を以って 継続
6か月以内にCランクの依頼を6回達成、またはそれに準ずる功績を以って
Bランクに昇格
Bランク
1年間にCランクの依頼を12回達成、またはBランクの依頼を3回、またはそれに準ずる功績を以って 継続
1年間にBランクの依頼を5回達成、またはそれに準ずる功績を以って
Aランクに昇格
Aランク
1年間にBランクの依頼を5回達成、またはAランクの依頼を2回、またはそれに準ずる功績を以って 継続
1年間にAランクの依頼を4回達成、またはそれに準ずる功績を以って
Sランクに昇格
※ランク継続依頼が達成されない場合は1ランク降格とする。
上記事項は基準であり、判断は各ギルド長及び役職者に委ねられるものとする。
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依頼のランクは依頼書に書かれているから分かりやすいけど
Sランク以上については記述がないんだ。
Sランクになれる人、滅多にいないんだろうな。
ほとんど人のいなくなったカウンターで受付嬢に声を掛ける。
「すみません。ランクの事とか詳しく教えてほしいのですが。」
「はい。どういった事でしょう?」
「フリーランクってどういった意味なんですか?」
フリーという位置づけが良く分からないので聞いてみた。
「フリーランクは主に身分証を必要としている人向けのランクになります。
他の仕事で生計を立てている人の為のランクです。
ですのでランク維持のための依頼達成も低く設定されています。
教会での身分証発行はそれなりに寄付が必要ですので、
一時金が準備できない方の為の措置です。
よってEランクからが冒険者で生計を立てようとする方向けのランクとなります。」
なるほど。冒険者とは限らない色々な職業の人が混在してるんだ。
「Eランクで普通に食べていけますか?」
「いいえ、Eランクが冒険者稼業の入り口ですので兼業している人が多いです。
依頼を沢山こなすのも可能ですが、依頼料が低い案件しか受注できないのできついですね。
Dランクで冒険者稼業だけで何とか生活できる、Cランクで少し余裕のある生活ができる、といったところです。
Bランク以上になると特別依頼があったりします。
貴族とか国からの依頼ですから収入も格段に上がります。」
「依頼のランクと冒険者ランクの関係は?」
「一番簡単なFランク依頼は誰でも受けられます。
自分のランクと同じランクの依頼までは受けられますが、
高ランクになるほど依頼数が減ってしまいます。
報酬は高くなりますが、難易度も上がります。
依頼に関係なくランク不相応の魔物討伐をした場合などは
ギルド長以上の者の判断で冒険者ランクが昇格する事も有ります。」
「自分から進んでランク不相応の強い魔物を討伐したいとは思いませんね。」
「仰る通りです。危険な事この上無いと思います。」
おっと、肝心な事を聞いておかないと・・・
「あと、こちらで身分証を再発行して頂いたのですが、
他の都市で再発行は可能ですか。」
「いいえ、鑑定の魔道具間の情報共有は出来ませんので
鑑定を受けた事が有るか、一度でも依頼を達成した事のあるギルド以外では無理ですね。
ギルドカードに記録された情報を読み取る事で
移動先のギルドに情報が伝わります。
文章などは伝達魔道具で離れた場所に送る事が出来ますが、
鑑定魔道具に記録された情報量は膨大ですので
直接赴いてカードの内容を記録する以外に共有する伝手はありません。」
「そうなんですね。今度は無くさない様に気をつけます。」
「カードの情報は鑑定魔道具が無いと読み取れませんので
ほとんど悪用される事はありませんが、気をつけてくださいね。」
「はい、気をつけます。そういえば今までに達成した依頼内容とかは
カードに記録されてるんですか?」
「ランクが上がるまでのものは記録されています。
但しランクが上がった時点で依頼達成に関わった分の記録は消去されます。
残っていると次のランク上げの情報に影響してしまう場合がありますから。」
「そうなんですね。
それと、冒険者ギルドの地図?場所とか纏めた物ってありませんか?」
「ちょっとお待ちくださいね。」
カウンターの奥の棚から何か丸めた物を持ってきて
広げて見せてくれる。
「こちら銅貨一枚ですが移動しながら生活する冒険者用の地図です。
この国全てと国交のある3隣国の主要都市のギルドの場所、
主要ギルド近くで採れる素材などが纏められています。」
うん。これがあれば移動しながら計画的にギルドで獲物を売って
現金収入が得られる。
「これ、いいですね。銅貨一枚ですね。」
「ありがとうございます。他に何か質問したい事はありますか?」
「今日はこれだけ教えて頂ければ十分です。
また分からない事があったらよろしくお願いします。」
ギルドを出て考える。
あと一回薬草を採取すればEランクだ。
でもアイラのランクは上げなくてもいいかなあ。
とりあえず、薬草を採ってアイテムボックスに入れておけば
ランク維持には使える。
よし、今日も温泉ついでに薬草採取に出掛けよう。




