6 とあるC級冒険者の呟き
ミズキさんが消えた。
王立学園に通う従妹から話を聞いてからそれとなく気をつけていた。
昨日、再び姪に会って話を聞き夕方宿に帰ると
食堂ににいた人達が教えてくれた。
前日に女将さんにだけ田舎に帰ると告げて、昨日の朝食後
に向かった職場に辞職を告げ、そのまま田舎に帰ったらしい。
今日番兵に確認に行ったが、確かに王都を出たと証言している。
俺は隣国ギリ二ス王国のジェイド・グラント。
由緒ある侯爵家の次男だ。
勇者に同行していた聖女がグラント家の祖先にあたり、
今でも僅かながら聖女の魔力も受け継がれている。
グラント家は代々侯爵家として、とある神殿の守り人をしている。
その神殿には、500年前異世界から召喚され
魔王を倒した勇者に所縁の有る品々が保管されていた。
しかし200年前、正体不明の賊の侵入により
ほとんどの遺産が奪われてしまった。
最近になって我がギリニス王国国境近くにある隣国の街のダンジョンから
勇者召喚の儀式の詳細が書かれた古文書が発見され、
その古文書を参考に勇者召喚の儀式が行われる、
という噂を聞いて真偽を確かめにやってきた。
情報元は件のダンジョンのあるハドソン領に隣接する
オルコット領に嫁いでいるジュリア叔母だ。
現オルコット伯爵がギリニス王国に留学している時知り合い
隣国ナリア王国のオルコット伯爵家に嫁いだ。
今では二男一女の母親だが、かなり活発で男勝りだったと父から聞かされている。
その叔母がほぼ間違いのない情報としてグラント侯爵家に連絡してきたのだ。
グラント家としては事実を確かめに行かないわけにはいかない。
そこで比較的自由の利く次男の俺に白羽の矢が立った。
C級冒険者としてこの国にやってきた俺は先ず叔母のもとを訪れ、
召喚の儀式は発見されたダンジョンがあるハドソン領のジェフェリー魔術師が
中心になって王都で執り行われるとの情報を得た。
更に情報を得ようと王都に向かった俺は
王立学園に通う従妹からも情報を得られないかと考えていた。
特に女学生は噂好きだ。
家での会話や偶然耳にした話などの情報交換に余念がない。
案の定、従妹から最近留学してきた三人の学生についての噂を聞くことが出来た。
最初に聞いた時は三人が黒い瞳に黒髪という珍しい特徴をしている、という事だけだった。
しかしこの特徴は我が家に伝わる勇者の特徴と一致している。
黒い瞳と聞いて、三人とほぼ同じ頃ジェフリー魔術師の伝手で
王城に勤め始めたという同じ宿に滞在する人物を思い出した。
彼は身分証も持っておらず、冒険者について詳しく聞いてきた。
年齢から考えると彼の言った通り甥の為に色々知りたいという理由は妥当だろう。
しかし何かが引っ掛かる。髪の色は黒ではないが一応行動に注視し、
たまたまその日尾行していた彼を見失った直後に現れた
黒髪・黒い瞳の謎の少女に接近を試みた。
アイラと名乗り、少女と思われた彼女はもうすぐ18歳になるという。
背はそこそこ高いが顔は幼く見えた。
そういえば背の高さはミズキさんと同じ位だろうか。
ミズキさんは偽装魔法を使ってはいなかったし、
彼女も偽装魔法は使っていない様だった。
私を支える為の身体強化を使ったらしいのと、
一瞬何かの魔法を発動させたのは分かった。
初対面だというのに怪我を偽装している俺に親切に接してくれて
見返りも要求しなかった。
彼女に対する召喚された人物ではないかという疑念が晴れた訳ではないが、
おおらかな性格に好感が持てた事は確かだ。
その後学園の従妹が留学生達自らが、異世界から来て魔力値や体力値が
常人離れしていると語っている、との情報を得た。
経緯は分からないが、我が王国に保管されていた勇者関連の古文書を手に入れ
勇者召喚の儀式を行った事は間違いないだろう。
ただ、召喚された人数ははっきりしていない。
学園の三人は自分たちの事しか話していない様だ。
学生たちの事は従妹に任せ、俺は例の古文書が発見されたという
ダンジョンに向かう事にした。
どういう経緯で古文書がダンジョンで見つかったのかは不明だが
他にも奪われた遺産が隠されているかもしれない。
消えたミズキさんやアイラの事も気がかりではあるが
この国にも黒髪や黒い瞳を持つ者が全くいないわけではない。
グラント侯爵家としては勇者の遺産の発見が最優先だ。
取りあえずは叔母のいるオルコット領を目指す事にした。




