5 王都脱出?
「何かあったんですか?」
ここは培ってきた演技力を発揮。素知らぬふりを装って近づく。
「いやー、ジェイドさんがヘマやって足を痛めたんですよ。」
「それは大変ですね。怪我の具合はどうなんですか?」
近づきながら一応聞いてみる・・・捻っただけって知ってるけどね。
「捻挫で普通に歩ける様になるまで一週間てとこらしいです。
走ったり、運動するにはさらに一週間近くかかるようです。」
「それは大変ですね。何かお手伝いできる事があったら言ってください。」
顔を覗き込みながら話しかけると、突然膝を打ち
「そうだ、どこかで見た事あると思ったら!!」
ドキッ!
「な、何ですかいきなり・・・」
納得顔で頷きながら
「いやあ、今日助けてくれた子が黒い瞳でね。
珍しいけどなんか既視感あると思ったら、
ミズキさんと同じだ。そうか、なんかスッキリした。」
・・・脅かさないで~
「はあ?、足は大丈夫なんですか?」
「少し痛みますが大丈夫そうです。腫れもだいぶ治まりました。」
「それならよかった。僕は部屋に戻ります。お大事に。」
「ありがとうございます。」
部屋へ戻ってカギを掛ける。
ああ~びっくりした。心臓止まるかと思ったわ。
最初の日に会話したっきりお互い忙しくて挨拶を交わす事も少なかった。
顔を見るまで思い出さなかったなら良い傾向だ。
印象が薄いのだろう。目立たず、出しゃばらず・・・。
夕食までの時間を明日からの行動を確認しながら過ごす。
夕食の時間も情報収集のために他の滞在者の会話に耳を傾ける。
「ここ数日、森の奥にしかいない様な魔物が温泉施設近くで
何回か目撃されたらしい。」
「それって今日ジェイドさんが襲われたビッグボアとかか?」
「ジェイドさんて怪我したの?大丈夫なの?」
「ただの捻挫らしいよ。でも全治2週間とか言ってた。」
「知り合いの娘が王立学園通ってるんだけど、
先週編入した3人の留学生がなんか色々噂になってるらしくて。」
「えっ、気になる。」
「仲良くなった学生に、自分たちは魔力が半端ないとか
聖魔法が使えるとか話してるらしい。」
『んぐっ・・・』
「なにそれ。どこの国の留学生?」
「それが異世界から来たとか言ってるらしい。」
『 っゴホッ、ゴホッ・・・』
「頭、大丈夫なの?」
「知り合いの話だから・・・」
「眉唾物ね・・・」
なんか先行き心配になってきた。
極秘事項にする、っていう話はどうなったんだろう。
知り合い3人一緒ってのが心強くて気が大きくなるんだろうな・・・
私なんて心細くて異世界人てバレないか心配でしかないのに。
この世界へ来て一番忙しかった1日を終えて
この先どうするか色々思案して夜を過ごし・・・
しっかり寝て朝を迎えた。
神経図太くないと異世界でたった一人ではやっていけません。
いつものように職場に向かい、昨夜までに考えてきた事を実行に移す。
昼休憩まで仕事をこなし、マリーに相談する。
「ちょっと具合悪くて辛いんで、今日はあがって良いですか。」
「あら大変。大丈夫?忙しい時間帯は過ぎたから大丈夫だと思うわ。
一応料理長に声を掛けて気をつけて帰ってね。」
「ありがとうございます。そうします。」
料理長に許可を貰い帰途についた。
宿ではなく冒険者ギルドへ向かう。
「証明書の発行をお願いしたいのですが。」
「こちらでは冒険者カードが証明書になるので冒険者登録でよろしいですか?
証明書だけですと教会での発行となります。」
「では、冒険者登録をお願いします。」
「初めてですと銅貨2枚です。」
前回と同じように冒険者登録を済ませ下宿へ戻る。
昼過ぎでほとんどの人は出払っている。
厨房で休憩中らしい女将さんに声を掛ける。
「休んでいるところすみませんがちょっといいですか?」
「あら、どうしたの?こんな時間に・・・」
「お世話になってまだ1週間余りですが、どうも都会には馴染めなくて。
田舎に帰ろうかと思いまして。」
「まあ、もうホームシック?」
「そんなようなものです。夜になると辛いというか、
最初の2,3日はワクワクしてたんですが、
この年になるとやはりなかなか馴染めなくて。」
「もう決めた事なら仕方ないわね。
田舎には身内の方もいらっしゃるんでしょうね。」
「はい。両親の傍でないと落ち着けません。」
まんざら嘘でもない・・・自然と涙が零れた。
「わかったわ。先払いの1か月分の宿代は日割りで返すわね。」
「いいえ、1か月分の下宿代は職場が出してくれたので。」
「まだ仕事を辞めたわけではないのね。」
「ええ、良い方たちばかりでなんだか切り出しにくくて。
でも明日ちゃんと伝えます。」
次の朝、食堂がすいてから女将さんに挨拶をする。
「短い間でしたがお世話になりました。」
「ええ。残念だけど仕方ないわね。
ご両親を大事にしてあげてね。」
「はい。ありがとうございました。」
色々な感情でぐちゃぐちゃになってやばい!
知り合ったばかりなのに色々と親身になってくれた。
涙で化粧が落ちそう。振り向かずに宿を出る。
ハンカチでそっと押さえて涙を拭きとる。
職場に着くとすぐ料理長室へ向かう。
「料理長、突然ですが仕事を辞めて田舎に帰ります。
ホームシックに耐えられなくなりました・・・
なるべく迷惑がかからない見習いのうちにと決断しました。」
「えっ、突然過ぎないか?!」
「もう決めた事です。紹介してくれたジェフリーさんには申し訳ないので、
暫く黙っていてもらえるとありがたいです。
良くして頂いたのに申し訳ないですが、皆に会うと辛いのでこのまま失礼します。」
のんびりしていて召喚に関わった人に連絡が行ったら不味い事になる。
「1週間分の給金を準備するから少し待て。」
んん~、一週間分の給料は魅力的なエサだが、
ここで釣られるわけにはいかない・・・
「いいえ、迷惑料として取っておいてください。お世話になりました。
本当にありがとうございました。」
「おい、こら、ちょっと待てって・・・」
逃げるように…というか捕まらない様に走って逃走?する。
王城を出て城壁門に向かう。
番兵にミズキのギルドカードを見せて郊外へと出た。
森に入り人目につかない茂みで着替えてメイクを落とす。
そのまま何食わぬ顔で薬草採取しながら温泉施設へ向かう。
森の中でいきなりビッグボアが突進してきた。
まだ短剣しか持っていないのでウオーターカッター一撃で仕留めた。
周りを警戒しながら一応、アイテムボックスに収納しておく。
水魔法があれば長剣は必要ないかとも思ったけれど、人前では魔法を連発するのは控えた方がよさそうだ。
となるとやはり長剣は手に入れておきたい。
これからの事をあれこれ思案しながら目的地に着いた。
温泉に浸かって体と心の疲れを癒す。
十日目って、ホントにホームシック真っ盛りだ。
誰もいない露天風呂の温かさが余計に身に沁みて涙が零れる・・・
すっかり習慣になって?帰りも前回同様、マップを広げる為
新しい道を探しながら歩くが、珍しい薬草は見当たらない。
参考のためギルドの買い取り窓口で聞いてみる。
「この辺りって、同じような薬草ばかりで種類が少ないですね。」
「それは王都が出来た時に需要と冒険者の数が一気に増えて結構乱獲されたそうです。
結果、繁殖力の強い数種類が残って、貴重な薬草は絶えてしまったらしいです。
もっとも、魔物の多い奥地に行けば手に入るかもしれませんが
危険を冒してまで採りに行かなくても、地方に行けば比較的手に入りやすいですからね。
領地によっては王都の事を教訓にして採取制限をしている所もあります。」
「しっかりした領主様もいるんですね。」
「ええ。そういった領地は治安もしっかり管理されていますね。その代わり税金がお高めですが。」
「それは仕方ないでしょうね。治安が良くて税金が安ければ沢山の人が押しかけて管理が難しくなりそうです。」
「そういうものなのでしょうね。」
どこかの領地に移動するならこういった情報収集は大事だ。
「ちなみにどこの領地ですか」
「隣国ギリニスとの国境に接したオルコット領です。」
よし、覚えておこう。
ギルドで買い取りを済ませて遅めのランチをとる為に店を探したがちょっと遅すぎて休憩中のところばかり。
仕方ないのでパンを購入してから、メイク用の材料も探す。
この世界の化粧品は改良しないと見違えるほどのメイク効果は得られない。
色々買い揃え宿泊手配しておいた道草亭に戻った。
「すみません、明日から朝夕の食事をお願いします。」
「残りの4日分で銅貨2枚になります。」
「はい。よろしくお願いします。」
部屋でパンを食べながら落ち着いて考える。
因みにこちらのパンは日持ちさせるためか水分が少なくパサパサだ。
唾液を全部持っていかれる。水分もアイテムボックスに常備しておこう。
さて、明日からどうしたものか。
当面の生活には困らないだけのお金は貰ってある。
でもいつまでも持つわけでもないし、
だらだら生活をするつもりもない。
冒険者としてやっていくにもこのまま王都に留まるのは危険な気もする。
近々他の町に移動するか、安全そうな国に移るのも良いかもしれない。
この国も治安は良さそうだけど、
「モノは試し」的に召喚魔法実行する上層部に不安しか感じない。
私が王都外に逃走したと知ったら召喚に関わった人たちはどうするだろう。
学園に通っている3人は召喚されたことを仄めかすような言動をしているようだ。
今更私の口を封じようとも思わないだろう。
いくら私が真実を告白しても召喚されたという証拠は無いのだから。
あとはチート能力だけど、他の3人はチートと言えるステータスだったけど、
私は偽装して一般人並みの能力しかない事になってる。
態々探し出したいとは思えない。
問題になるとしたら自分たちの管理能力のお粗末さ位かな。
お気の毒さま、としか言いようがない。
ざまあみろ!!とも言ってやりたい。
化粧品を改良しながら考える。
とりあえず何処かへ移動してダミーをまた作ろうかな。
若い女一人の生活は色々と面倒に巻き込まれそうだ。
チート能力があっても、面倒ごとには関わらない事が一番いい。
今度は同年代のミズキ君にしよう。
メイクにかける手間も少なくて済む。
名前はもうちょっと異世界風にしようかな。
髪の毛は魔法で色は変える事ができたが、長さは変えられなかった。
カツラの色は魔法で変えることが出来た。
目の色は変えることが出来ない。
コンタクトだったら色を変えれられるんだろうか。
生憎な事に?視力の良い私は裸眼だ。
錬金術でコンタクトを作ってみよう。この世界にもガラスは有る。魔法で軟化させることが出来ればソフトコンタクトだって出来んじゃない?
髪を切ってしまうとホントに男の子にしか見えないので
カツラがあって正解だ。
ベッドで横になってそんなことを考えながら寝落ちしていった。




