31 思いと願い
一方、アイラたちがオルコットを発って暫くしてからの
ギリニス王国グラント家では上を下への大騒ぎとなっていた。
魔法袋を携えたスーザン達が訪れてこれまでの詳細を報告したのである。
早速オルコット侯爵自ら登城し国王に謁見申し込みの上
上級貴族の集まる中で勇者の遺産の奪還オルコット領が不当に
隣国の手に渡った証拠となる密約書等の発見などを報告した。
ギリニス王国には前回送った書簡の返事として既にナリア王国から
「召喚の事実は無い。もちろん勇者の遺産など我が国に存在していない。
歴史にあるようにまた難癖をつけて我が国を貶めるつもりなら
こちらにも考えがある」
という内容の文書を受け取っている。
遺産が戻った今となっては召喚の事実が有ろうが無かろうが
ギリニスにとってはどうでも良い話である。
それどころか200年前の盗難がナリア国国王の指示であったという
証拠迄手に入れているのである。
今は持ち込まれたそれらの証拠の品を元に周辺諸国の協力を仰ぎ
オルコット奪還の為に動いている。
オルコット領が再びギリニス王国領土に戻るのも時間の問題なのである。
一方のアイラ達はオルコット領主館を発ってから何事もなく二日で国境を抜け
更に三日かけてグラント領の侯爵家の門を潜った。
前回ハドソン領へ向かった時とは打って変わって
以前のように時々冗談交じりの会話も出来る楽しい旅程だった。
到着してすぐ侯爵家の立派な客室に通され旅装束から
シグルス商会が用意してくれた簡易的なドレスに着替えて
侯爵家の面々との挨拶に臨んだ。
長旅の直後であり正式な面談ではないという事での配慮だ。
ジェイドの兄であり嫡男であるギルバートは今回の件で
王都に詰めていて不在という事で
ジェイドの両親とアイラより一つ下の妹アンリエッタが紹介された。
グラント夫妻はグラント家の悲願成就の功労者であるアイラに感謝の意と
召喚による被害者である事への労いの言葉を述べた。
アンリエッタはその間大人しく聞き入っていたが
一段落という所でアイラが渡した叔母からの手紙をその場で開封して読み始めた。
暫く手紙に見入っていたが意味深な笑みを溢し、ジェイドを見やった後
「わたくし取り急ぎやらねばならない事が出来ましたので
これで失礼しますわ。
アイラ様、明日からは私のお相手をお願いできますかしら?」
ニコニコとアイラに視線を移す。
「勿論、喜んでご一緒させて頂きます。」
返事を聞いたアンリエッタは満足そうににっこり頷いてその場を辞した。
翌日、長い間休暇を取っていた騎士団に顔を出し
長期不在を余儀なくされた理由とその成果の報告を終え
午後に侯爵邸に戻ったジェイドは庭でテーブルを囲む集団の中に
ドレスで着飾ったアイラを見つけ一瞬見惚れたが
周りに目をやり息を飲んだ。
テーブルにはアイラのほかに妹のアンリエッタ
そしてジェイドより若い見知らぬ貴族令息が二人
楽しそうに歓談しながらお茶を飲んでいた。
アンリエッタが目敏く兄を見つけ声を掛ける。
「あら、お兄様。お早いお帰りね。もうお仕事は終わりましたの?」
いや昨晩、明日は何時に帰宅するのかとしつこく聞いていたではないか・・・
とは言えない。
「ああ。今日は報告だけだったからな。それで今日は何の集まりだ?」
「まあ、アイラさんに早くお友達が出来るように私の知り合いの令息方を
紹介していますのよ。」
「・・・」
「若い者同士、話が弾んで楽しいですわ。お兄様はこれからお父様にも
ご報告がおありでしょ?
こちらの事はお気になさらずお勤めの続きをなさって下さいな。」
「・・・あまり、アイラを気疲れさせるなよ。」
「ふふ、ご心配なく。すぐにお開きにしますわ。
また明日も他の方との約束がありますから。」
「・・・」
「さて、お兄様もお帰りになられた事ですし お部屋に戻りましょう。
そろそろエミリたちのお品物選びも終わった頃でしょうし。」
そう言って立ち上がり揃って応接室に帰るとアンリエッタの友人である
エミリとナンシーがオルコット産の珍しい品々を吟味していた。
「お気に召したものは有りまして?ご婚約者様をお借りしたお礼ですから
遠慮なさらずにお好きな物をお持ちになってね。」
にっこり話しかけたアンリエッタの横で首を傾げるアイラであった。
グラント家は慌ただしい毎日を送っていた。
オルコット領の返還が行われた後に正式な式典を行う事になっているが
取りあえずグラント侯爵家が中心となり神殿への勇者の遺産奉納の
式典を執り行う事が急遽決まった。
五日後の式典では今回の功労者であるアイラとジェイドが馬車に乗り
神殿迄魔法袋に入った品々を運ぶことになっている。
最終の打ち合わせの場でシグルス商会の使者によって
ナリア王国の近況が語られた。
召喚された三人の学生は国の保身のための偽証を請け負った見返りとして
国税で贅沢三昧。
200年前の言いがかりの賠償として手に入れたオルコット領も
当時のナリア国国王が仕組んだことを証明する密約書の発見で返還は元より
賠償の請求もなされるかもしれない。近隣諸国の信用も失墜したという事で
内政は混乱を極めているとの事だ。
上に立つ者たちの自分勝手さと欲深さが招いた結果によるものだが
ナリア王国国民にとって今回の召喚魔法騒動は様々な物を失う結果となり
迷惑以外の何物でもなかったのではないか
とはアイラとグラント家の人々の見解である。
そして迎えた式典の朝。
アイラは白地に銀の刺繍の施されたスレンダーラインのロングドレス。
一方のジェイドはこちらも白地に金のパイピングが施された騎士服に
揃いのマントを羽織っている。
二人ともそれぞれにプレゼントされた飾りを付けている。
馬車に乗り込み、溜まった騎士団の仕事、遠征の後始末等で
落ち着いて会話する事が出来なかった事もあり
ジェイドは気になっている事をそれとなく探る。
「どうだ?ここ数日 妹と・・・楽しそうに過ごしていたが
ギリニスで上手くやっていけそうか?」
「みんないい人でとっても気に入ってはいるんだけど・・・」
「いるんだけど?」
「その、何というか、貴族の生活は堅苦しくて無理みたい。もう少し
ギリニスの事勉強したらどこか部屋を借りて生活できたら良いかなって思ってる。」
俯いたアイラが答えた。
「だったら・・・郊外の小さな一軒家なんてどうだ?」
「?」
「侯爵家と違ってメイド一人くらいしか雇えないから
料理は勿論作らないといけないし・・・他にも自分の事とか・・・
家主の事とか、色々大変かもしれないが・・・」
「家主?」アイラは横を振り向きジェイドを見つめる。
「ああ。しがない騎士団長をやってる・・・
たまに市場や公園で簡単な軽食食べたりっっ・・・」
アイラが首に抱き着いた。
「それって家族になってくれるっていう事?」
ジェイドはアイラに向き直り腰にそっと手を回す。
「ああ。アイラのこの世界での一人目の家族にしてほしい。」
「私が異世界人でもいい?」
「ああ。」
「チート持ちでも?」
「ああ。」
「逃亡生活は…終わったけど勇者の孫でも?」
「そんなの関係ないさ。アイラはアイラだろ?」
「時々ショウだよ?」
「その方が都合が良い時も有るからな。」
「?」
「ただ・・・」
「ただ?」
「家はまだ無いからこれから探さないとな・・・。」
「何それ。」
ふふ、と笑みが零れた。
馬車が停まり拍手の音が聞こえる。
扉が開き先に下りたジェイドが差し出した手を取った。
馬車から降りて二人で並んで神殿へと続く階段の前に立つ。
「まるで結婚式みたい。」
思わず零れたた言葉にジェイドが笑顔で返す。
「今日は取りあえず予行練習という事で。」
アイラもにっこり笑って答える。
「了解。」
従者に手渡された魔法袋の乗ったクッションを掲げる。
棟の上の止まり木にいたピー助が舞い降りながら姿を変えて
アイラの肩に留まった。
集まった人々から歓声が上がる。
そして二人揃って一歩を踏み出した。
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完結しました!
終わりに納得して頂けた方も、そうでもなかった方も
最後までお読みいただき有難うございました。
(*^-^*) ☆彡




