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3 職場


窓の外の聞きなれない喧騒、通りを馬車が行き交う音で目を覚ます。

ぼんやりとした意識が覚醒してくると同時に部屋の中を見回して

昨日の出来事は夢でなかったと自覚する。


えっ、今何時?

慌てて飛び起き、顔を洗う。

衣服を着替えてメイクを施す。

買った化粧品は粒子が荒く化粧乗りも悪かったので

土魔法で粒子を細かく、滑らかに作り替えた。


ドアを開けた途端朝食のいい匂いが鼻をくすぐる。

「おはようございます。今何時ですか。」

「もうすぐ7の時ね。よく眠れた?」

「はい。おかげさまでぐっすりでした。寝過ごしたのでは?

と慌ててしまいました。」

「今日が初仕事だものね。頑張っていってらっしゃいね。」

「はい。美味しい朝食を食べて頑張ってきます。」


当面の目標として王城での仕事に慣れ、冒険者登録をしてこの世界の情報収集

温泉に入る事。


外部からの王城勤めの者は、使用人専用通用口で、職場と職種の記録された許可証を番兵に提示して入城する。

昨日渡された許可証で職場へと向かった。

昨日は緊張で気付かなかったが、途中には騎士団の練習場や厩舎などが見える。

通勤時間という事も有り通りを行き交う人の多さに驚かされる。


食堂の裏口から入って挨拶をするとマリーが駆け寄ってきた。


「ミズキさん、おはようございます。

早速ですが昼の仕込みの下ごしらえをお願いします。」

「おはようございます。何をすればいいですか?」

「あそこに置いてあるかごの中の野菜の皮むきですね。

人参、玉ねぎ、ジャガイモ・・・」

「カレーかシチューでも作るんですか?」

「カレー?聞いたこと無いです。シチューは煮込みですね。

違います。ゆでて付け合わせと、玉ねぎは炒め物用ですね。」

「分りました。早速取り掛かります。」


それから大量の人参とジャガイモの皮を包丁で剥いていく。

ピーラーなんて便利な物は存在しなかった・・・

そして玉ねぎ。薄い皮に手こずる事暫し・・・。

尤も調理には慣れている。劇団員の普段の昼食や夜食などを作っていた。

まあ、流石にこんなに大量ではないけれど。


やっぱりカレーは存在しないんだ。残念。

スパイスが貴重ならハヤシライスとか牛丼の類は作れるかな。

いや醤油や米が無いか、などと食べなれた食事に思いを馳せる・・・

まだ二日目だけどね。


「野菜の皮むき終わりました。次は何をすればいいですか?」

「えっ、もう終わったの?手慣れてるのね。

じゃあ付け合わせように人参とジャガイモを切って茹でて頂戴。

鍋はあの棚に有るのを使って。」

「皮を剥いたの全部茹でちゃって良いんですか?結構な量ですけど・・・」

「そうなのよね。芋なんて他の食材より安いから嵩増しの為に使うけど

残す人多いのよね。」


「ちなみに味付けは?」

「そんなの塩かけて食べるに決まってるわ。

バターなんて高位貴族しか手に入らないし。」


やはりここはあの調味料を作るしかないか・・・


「・・・ちなみに卵とお酢と食用油って使って言い分ありますか?」

「卵は少し予備があるから2,3個なら使っていいわ。

酢と油も少しくらいなら大丈夫よ。」

「卵って新鮮ですか」

「毎朝、農家の人が届けてくれるから、今日の分は調理台の上のね。

余ったのは保冷食物庫にしまってあるわ。」

「野菜茹でている間に試しに茹で野菜用ソース作ってみます。」

「ふふ、田舎のソース?楽しみだわ」


という事で異世界ラノベ定番マヨネーズを作る。

卵は勿体ないので全卵で挑戦。どうせ黄身だけマヨのコクなんて知らない世界。

初体験で知る全卵マヨの味が当たり前のモノとなるはず。


卵を割ってみる。この黄身と白身の状態なら大丈夫。

そこに酢と塩を入れてをもったりするまで混ぜ合わせる。

混ぜ合わせたら分離しない様に慎重に油を少しずつ注いで更に混ぜる。

出来上がったマヨネーズを二つに分けて片方にマスタードを混ぜ込む。

ゆであがった野菜にかけてマリーに味見してもらった。


「出来たのね。見た目、バターっぽいけど匂いは酸っぱそうね。・・・

なにこれ!!!酸味とコクがあってジャガイモが別の物に思えるわ!」

「気に入って貰えましたか。こっちのマスタード入れたのも

香りがよくて美味しいですよ。」


「料理長、ちょっとこちへ来てください。革命的なソースですよ。

コクがあってちょっと酸っぱくて辛くって」

「なんだなんだ、そんな支離滅裂なソースって、俺の理解力を超えてるぞ」

「食べてみれば解りますよ。とにかくジャガイモが別物に思えますって。」

「んんんっ、何だこれは。食べた事の無い味だぞ。一体、何で作ったんだ?」


ふふふ、さすが異世界人初体験の反応。期待以上。

材料と作り方を丁寧にレクチャーする。


そしてやった来ましたランチタイム。

ダイニングの反応が面白い。


「これがバターというものなのか?」

「いや、バターなんてこんな食堂で気安く出せる代物じゃないだろ。」

「なんだこのソース?、バターっぽいけど酸味があるぞ。」

「バターって酸味は無いのか?」

「しかし、ジャガイモや人参の味が全く違うな。

酸味の所為か人参臭さが半減してるきがする。」

「ジャガイモだっていつもより甘味がある気がする。」


といった具合でいつも残される事が多い茹で野菜は

いつもより格段に廃棄される量が少なかった・・・らしい。


この世界の料理の味付けの基本は塩。

もちろん醬油や味噌なんて存在しない。

野菜を熟成したソースもない。

お酒の類はこの世界でもしっかりと存在している。

パンやチーズは発酵させて作っているようだけど、

発酵させた調味料は酒関連からできた酢以外、今のところ見あたらない。


私からすればこの世界の料理は素朴な味付けで、今のところかえって目新しい?・・・すぐに飽きそうな気もするけど。


職員たちの昼食時間が終わり調理人達と和気あいあいと賄を食べながら

情報収集をする。


「田舎で王都に行けばマジックバックって不思議なカバンが有るって

聞いたんですけど、知ってますか?」

「ああ、錬金術師の中にはそんなのが作れる奴が居るって聞いたことあるな。

ただ、とても珍しくてかなり値が張るらしい。」


「俺はダンジョンで見つけた、って話聞いたことがあるぞ。

やはり高額で売りに出されたらしいけど。」

「ダンジョン産のものはいくつか出回っているな。

容量はそれぞれ違って値段も相応に違うな。」


「持っていたら便利だよな。」

「ああ。気軽に手に入れば誰だって欲しいよな。」

「そうですね・・・」


やっぱりレアな物なのか。冒険者ならダンジョンで見つけた、で通せるかな。

チートってのもバレない様にと考えると使い勝手が難しいな。


何時までも偽りの姿で生活するのは危険だ。何時ボロが出るか分からない。

異世界の料理人で一生を終えるつもりもない。

なるべく早く自由に生活できるように考えを巡らす。


異世界に来るまでの周りに流されていた頃とは頭の使い方も変わった。

召喚時の能力付与が何かしら影響しているのかもしれない。

魔法もイメージするだけで使い方が頭に浮かんでくる。


仕事帰りに図書館に寄ってこの世界の情報収集をする。

閉館時間になったら夕食時間ぎりぎりまであちこちの店を回って

この世界の常識を学ぶ。

夕食後眠気に負ける迄、色々な魔法を試してみる。

そして出勤にぎりぎり間に合うように起きる。

そんな受験生生活以上の忙しい日々を送って数日後、初めての休みを迎えた。


朝食を食べ終え、いつものように下宿を出る。

人目の無いのを確認し、認識阻害魔法を使って

あらかじめ見つけておいた裏路地の物陰に入りアイテムボックスから取り出した

女冒険者風の衣装に着替え、カツラとメイクを落とす。

魔法を解いて通りに戻り冒険者ギルドを目指した。

緊張しながらギルドの扉を潜った。


カウンターに向かって受付のお姉さんに声を掛ける。

「冒険者登録をお願いします。」

「身分証はお持ちですか?」

「いいえ、王都に入ってから無くしてしまって。

荷物に入れていたはずなんですが・・・」

「では、銅貨2枚になりますがよろしいですか。」

「はい。お願いします。」


「ではこちらの水晶に利き手を乗せて下さい。『オープン』と唱えて下さいね。」

「オープン」

あらかじめ冒険者用に改ざんしておいたステータスが浮かび上がる」


( アイラ 女 17歳 HP330 MP110 水属性魔法 称号 剣士)


受付嬢が水晶の乗った台の下にカードを入れて「コピー」と唱える。

水晶とカードが一瞬淡く光った。


「登録完了です。HP、MP共に冒険者として申し分ないですが、最初は皆さんFランクからです。

三ヶ月以内の依頼の達成かそれに準ずる素材等の取引が無い場合は

登録抹消となりますから気をつけて下さいね。

ギルドカードが身分証になりますから無くさないよう気をつけて下さい。

魔道具に情報が記録されたので、ここでの再発行は銅貨1枚です。」


「分りました。今度は無くさない様に気をつけます。早速依頼を受けたいのですが、

ついでに温泉に寄ってこれるような依頼は無いですか?」


「温泉目的ですか。森に行かれるなら比較的簡単なのは、薬草採取か、

小さな魔物の素材集めですね。あちらのボードに詳細の書かれた依頼があります。

黄色い縁取りの依頼書は常時発注、赤い縁取りの依頼書は受注受付が必要になります。」


「ありがとうございます。黄色の依頼書から探して行ってきます。」

「初仕事ですね。気をつけて行ってきてください。」

「はい。」


依頼書を見て必要な薬草と素材を覚える。

東の城壁門を目指してこの世界へ来て初めての女の子の格好で街中を歩く。


冒険者姿なので背が少し高めでも目立っていない?

いや、女の子に見られていない?

黒い髪の毛は肩下まであるのでポニーテール。

胸は・・・そこまでは大きくないが、男装の時は補正用コルセットを着けなければいけない程には目立つ。

顔は中性的ではあるが、可愛いと言われた事もそれなりに経験してる。


そんなことを思いながら城壁門で冒険者カードを提示して郊外へ出た。

初めて見る自然の景色。遠くには山脈もある。魔物も存在する未知の世界だ。

緊張、恐怖、ワクワク、大丈夫。攻撃魔法も使える・・・はず。

部屋で掌の上では色々試したが実戦となるとどうなんだろう。


心配になってきた。一応短剣も持っている。

温泉辺りはそんなに危険は無いという話だし大丈夫。


温泉のある方角を確かめ、薬草を探しながら進んでいった。

薬草を探すのは勿論鑑定魔法。発動しながら見つけた薬草を摘んでいく。

誰が見ているか分からないので、古道具屋で買ったそれらしく見えるバッグに薬草を入れる体でアイテムボックスに入れていく。

冒険者だった叔父から譲り受けたマジックバッグ、という設定で通す事にする。


ガサガサと草むらからスライムが飛び出した。

「ロックバレット」

核を狙って小石を打ち込む。

核を失ったスライムは解けた様に形が無くなった。

大丈夫、初めての魔物に落ち着いて対処できた。


そうやって森を進んでいくとログハウス風の建物が見えてきた。

あれが温泉施設に違いない。



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