29 ピー助と勇者の剣
町に着いてから聞いた話によるとハドソン領のダンジョンは
勇者の遺産の盗難から数十年後に発見されたらしい。
その情報が正しければ盗難事件当時には存在していなかった事になる。
アイラとジェイドはそれぞれのギルドカードを提示して
入場の手続きをする。
昨日この街に着いてからアイラは”ショウ”を名乗っている。
ダンジョンに潜る場合、決められた入場料を支払えば
ダンジョン内で見つけた物品はそのまま発見者の所有となるので
一か八かで一攫千金を狙う冒険者は高い入場料を払う。
しかし入場料を払うことが出来ない者はダンジョン内で見つけた全ての物を
ハドソン領の引き取り機関に一定額の手数料を引かれて
売り渡さなければならない。
ハドソン領主にとってこのダンジョンは唯一無二な収入源なのである。
当然二人は入場料を支払いダンジョン入り口に立った。
入り口付近で冒険者たちのほとんどが話題にしているのは
昨日からダンジョン内の魔物の様子がおかしいという事だ。
階層下の魔物が上の階に現れたらしい。
それも徐々に増えてきているというのだ。
ギルド本部での見解も今日一日様子を見て閉鎖を検討するという事らしい。
ジェイドは昨日のうちに到着して正解だったと胸をなでおろす。
しかし、ダンジョン内が荒れているのが気掛かりだ。
ショウとジェイドは気を引き締めてダンジョン内に踏み込んだ。
5階層までは腕慣らしを兼ねて二人とも剣を振るっていた。
6階層辺りから強いと思える魔物が増えてきた。
魔物を狩るのが目的でないので前進に邪魔になる魔物だけを魔法と剣で
ばっさばっさと倒して進む。
しかし20階層辺りでぱったりと魔物の出現が途絶えた。
不思議に思いながらも警戒を解かずに進んで行くと
奥から淡い虹色の光を帯びた何かがすごいスピードで飛んでくる。
しかしアイラは不思議な事に危険を感じない。
隣で警戒して剣を構えるジェイドに待ったをかけた。
「大丈夫、敵意を全然感じない。それどころか何か懐かしい感じがする。」
アイラの言葉に一瞬驚いたが、言われたように剣を下ろした。
飛んできた物体が「ピィーーーッ!」と鳴いて
アイラに飛びついた。
アイラの背丈を越える魔物?!再び警戒の色を濃くし再び剣を構えるジェイド。
しかし淡い七色に光る羽に肩まで包みこまれたアイラは
頬ずりの嵐に晒されている。
アイラの右腕の痣に痛みでない電撃の様なものが走った。
我に返ったアイラは祖父がよく口にしていた名前を思い出し声にする。
「ピー助?!」
するとアイラの声に反応して淡い光が消え姿を露わにしたフェニックスが
嬉しそうにまた一声上げた。
アイラは手慣れた様にピー助の首筋を撫でてあげる。
するとピー助が嬉しそうに目を細めてまた「ピィィィー」と鳴いた。
それを呆気に取られて見ていたジェイドが我に返った。
「勇者の伝説の従魔・・・フェニックスか?」
「多分間違いないと思う。」
アイラの答えにジェイドが思考しながら口にした。
「フェニックスは不死鳥と言われていてグラント家の神殿には
勇者の遺産が奪われた200年前までその姿が確認された
という記録が残っている。
もしこのフェニックスが勇者の遺産を追ってきたのなら
ここに残りの遺産が有るのは間違いないだろう。」
どうやら奥地の魔物はピー助の出現を恐れ逃げていたようだ。
ピー助が落ち着いたのを見計らいアイラが聞いてみる。
「ピー助、勇者の・・・お爺ちゃんの宝剣を知らない?」
するとピー助は待ってましたとばかり「ピィッ」と飛び立った。
しかしその様子を横で見ていたジェイドは
アイラの表情が冴えない事を感じ取った。
不安に駆られながらもピー助について走り出したアイラに続いた。
ピー助について暫く進んで行くと恐らくダンジョンボスの部屋なのだろう。
広く開けた空間に出た。その最奥に何か光るものが見える。
近づいて行くと壁に立てかけるようにして置かれた立派な宝剣と
その近くにある鳥の巣の様な小枝の山の中央に大きな黒い石が鎮座している。
「間違いなく勇者の宝剣と魔王の魔石だな。ここで色々考えても
この謎は解けそうにないからとりあえず外に出よう。」
ジェイドは冷静に判断したが別の問題があった。
「良いけど一緒に連れていくにはピー助は目立ち過ぎない?」
思わず囁いた言葉にピー助が反応し「ピッ」と鳴いた途端
体全体が光り出し小さくなっていく。
淡く七色に輝いていた羽は白一色になり大きさも小型の猛禽類程に変化した。
そしてここが定位置とばかりにアイラの右肩に留まった。
「問題解決だな。この宝剣と魔石の収納も頼む。
手ぶらで帰っては怪しまれるから戻りがてら
倒した魔物の魔石回収もしないとな。」
「それはこっちのマジックバッグもどきに入れていくわ。」
「あとは地上を目指しながら所々に持って来たナリア王国の文書を
ばら撒いて行かないといけないな。
後々他の冒険者が見つける事になるだろう。」
「古いものだから冒険者にとっては何の価値も無いでしょうね。」
「まあ、俺たちが手にしたマリウス王のサイン入り文書の
隠れ蓑となる位の価値しかないだろうな。」
そう言って二人と一羽は出口を目指し歩き始めた。




