28 ダンジョンに向けて
買い物を済ませ領主館へ戻ると上機嫌のジュリアが出迎えてくれた。
どうやら無事にマリウス王のサインと印章の押された書類が見つかったようだ。
その後ジェイドとジュリアはリビングに移動しお互いの情報を交わす。
先ずはジュリアがギリニスの兄から届いた書簡の内容を語った。
「ジェイドが国を発ってすぐにギリニス王国として
今回の古文書発見と召喚の儀が行われる事への真偽を問う書状を送ったらしいわ。
でも現時点では回答を得られていないそうなの。」
ギリニスとしては200年前に遺産もオルコット領も失い証拠が無い限りこれ以上の追及は得策ではないと言っている。
「遺産がこちらの手に戻った今となってはナリア王国が所有している事を
否定してくれた方が都合が良いのですがね。」
「そうね。そうなれば私たちが遺産を手にしていても
ナリア王国に有った物を盗まれたとは言えなくなるわね。」
「ええ。いくら我が国が所有していたと周知されていた物でも
200年も不明になっていた物をあっさり返還するとも思えませんからね。」
「それで昨日見つかった遺産と密約書を魔法袋に入れて
商会の荷馬車でお兄様に届けて貰おうと思うのだけど。」
「シグルス商会が運営しているギリニス王国との取引便を使うのですか?
紛失してもアイラの手元には戻ってきますが
もっと確実に届く方法は無いでしょうか?」
「魔法袋の事を話したらスーザン達自らがグラント家迄届ける事を
買って出てくれたのよ。
一刻も早く証拠を突き付けてナリア王国を痛い目に合わせてやりたいの。」
「まあそういう事ならそちらは叔母上にお任せしますよ。
それで今日のアイラの騎乗の様子では明日にでも出発できそうですが
お願いしたダンジョンまでの経路に詳しい者の話は何時聞けますか?」
「ハドソン領の取引を担当しているシグルス商会の者が
今日の夕方領都支店に立ち寄る事になっているらしいの。
到着し次第こちらによこしてくださるそうよ。」
「では早ければ明日にでも出発できそうですね。」
「貴方は此処に来て数日経つけれどアイラさんは昨日の今日で
疲れも溜まっているのよ。気持ちが急くのは私も同じだけれど
1日くらいはゆっくりさせてあげなさい。
急いては事を仕損じるというでしょ。何より気遣いの出来ない者は嫌われますよ。」
呆れた様にジュリアが窘める。
「・・・失念していました。最初の予定通り明後日の出発にします。」
そんな事もあって次の日は領主館で軽く乗馬の練習と
ゆったりとした時間を過ごし出発の朝を迎えた。
旅程は馬で約四日。
オルコット夫妻に見送られ領主館を後にした。
「今日は初日だからゆっくり走らせよう。明日中にはハドソン領に入るから
落ち着いて寝られるのは今日だけかもしれないな。」
「えっ、野営ってそんなに危ないんですか?」
「オルコットと違ってハドソン領は治安が悪い。
特にダンジョン近くはよからぬ奴らが集まっているらしい。
アイラもしっかり男装していてくれ。
まあ、魔法でも剣でもアイラに敵う者はいないだろうがな。」
「そんな事無いですって。なんか不安になってきました。」
「大丈夫。俺も一応騎士団長をやっている。
そこら辺のならず者には負けないよ。」
「頼りにしてます。」
「一応相棒として同行を依頼したんだからあまり頼られても困るぞ。」
徐々に駆ける速度も上がり会話することなく進む。
途中で何度か休憩を挟み本日の宿に着いた。残り2日は野営になるので食事後
王都でしていたように化粧を落として浴場に向かった。
夕食時に取り決めた通りそれぞれ部屋に帰り翌朝食堂で合流した。
宿を引き払い厩から馬を引いて街道に出る。
「慣れない乗馬でどこか痛かったりとかしていないか?」
「そう思って強化魔法を使ってました。全然平気です。」
ジェイドの気遣いの言葉にサラッと返す。
「反則技だな・・・
じゃあ今日はもう少し飛ばすとしよう。」
「休憩はちゃんと取らせて下さいね。」
「ああ。アイラは良いが馬が心配だからな。」
「酷い・・・」
そんな会話をしながら前もって教えて貰っていた二日目の野営地に着いた。
水場の近くに陣取り、ジェイドは前決め通り竈の準備を始める。
アイラは道中で考えていた献立の下準備に取り掛かった。
初めての割には段取りよく事が進み、二人で並んで座って火を囲む。
石のテーブルの上にはベーコンと野菜の具沢山スープ
ビッグボアの串焼き、黒パンが並んだ。
「簡単な物ばかりだけど、温かいのが一番という事でご容赦を。
キャンプの定番と言えばカレーだけど出来合いのルーしか使った事無いから
必要な香辛料が分からなくて再現は無理みたい。」
「カレー???」
「ふふ、異世界の私の国の定番メニュー。」
「それは一度食べてみたいな。」
「辛くてコクがあって複雑な味でご飯によく合うんだけどね。」
「ごはん・・・」
「パンの代わりになる主食。」
「異世界の料理は分からないが、アイラの作った野営料理は
騎士団のよりも断然美味いな。」
「お褒めに預かり光栄です。」
二人楽しく会話しながらの食事を終え、馬を繋いだ木の傍で
アイテムボックスから取り出した毛布に包まった。
「俺が先に見張りをするからアイラは先に寝ていいぞ。」
「そんな事しなくても防御結界と隠蔽魔法を二重に掛けるから
寝ちゃっても大丈夫だよ・・・多分。」
「・・・そんな事も出来るのか。まあ一応何かあったらすぐに起きれるよう
気をつけておく。」
「流石騎士団長。それじゃあおやすみなさい。」
「ああ。おやすみ。」
何かあったら起きられるようにどころか
近くに寝ているアイラの事が気になってなかなか寝付けない。
オルコットを発ってからしばしば上の空な時が有るように思える事も重なり
熟睡できずに朝を迎えた。
朝食は昨日のスープに炙ったソーセージを長パンに挟んだもので
簡単に済ませて出立した。
三日目ともなると慣れたもので予定より早くダンジョン近くの街に着いた。
先になるべく泊り心地の良さそうな宿を確保し馬を預けて街に出た。
ジェイドはアイラを連れて酒場に行くのを躊躇ったが
本人が”大丈夫”というので一緒に聞き込みをする事にした。
案の定厳つい冒険者が絡んできたがジェイドの凄みとアイラの威圧に怖気付き
すごすごと退散していった。
街中では緘口令が敷かれているのか
ダンジョンで勇者の遺産が見つかったという噂さえ耳にすることは無かった。




