26 オルコット家の晩餐
部屋で寛いでいたアイラは夕食の準備が整ったと迎えに来た
メイドに案内されて先ほどのダイニングに向かった。
ダイニングにはニコニコ顔のジュリアのほかに
夫で領主のオルコット氏とジェイドの三人が揃っていた。
嫡男のベンジャミンは王都で官僚の仕事
次男のジルベスターは隣国ギリニスに留学中だ。
初めて会う領主とお互いの自己紹介をして晩餐が始まった。
ジュリアは昼食前と打って変わって馬車でのアリスを彷彿とさせている。
「アイラさんは王都を出るまでに親しくなった方はいらっしゃるの?」
「はい。短い間でしたけど職場の方や宿の方々にはとても良くして頂きましたし
召喚されてすぐ、ジェイドさんには色々教えて頂きました。
尤もアイラでなくミズキとしてでしたけど。」
「ミズキって、アイラさんが男装していたのよね。
ねえねえジェイド、その時のアイラさんの印象はどうだったの?」
「はあ、ちょっと変わってるのかな・・・ぐらいですね。」
「まあ、そうなの?それでその後はいつアイラさんと知り合ったの?
あっ、アイラさんひょっとしてジェイドと市場で食事したんじゃない?」
「はい。森で助けて貰ったお礼にと昼食を奢って頂きまた。」
ジュリアがジェイドにジト目を送り意味深な笑みを浮かべる。
「ゴホン、ジュリアそのくらいにして今日見つかったという
密約書をどうするか話し合った方が良いのではないか?」
シグルス商会のケビンと同じでオルコット氏も蚊帳の外が好きらしい。
「そうだったわ。先ずそちらを片付けるのが先ね。
あの書類の山からマリウス王のサインの入ったものが見つかったとして
この証拠があればオルコットがギリニス領に復帰できるのは間違いないわね。
お兄様からギリニス国王へ進言して頂くのが良いのでしょうね。
密約書のサインが歴代ナリア王国国王であるという事から
この件は国同士の問題であることは間違いのない事。
交渉はやはり国同士で行うのが筋と言うものですわ。」
「そうですね。密約書の内容が明るみに出れば当時の記録に残っている
”我が国は嵌められた”という主張が証拠によって真実だと証明できます。
ナリア国はオルコットを返還するどころかギリニス王国が要求すれば
賠償請求にも応じなければならなくなるでしょう。」
ジュリアの考えにジェイドも同意する。
「あのゴミの山の様な書類は明日以降アリス達が精査してくれるのだけど
後始末をどうするかが問題ね。
古いとはいえ国の財務記録など重要な書類も含まれている訳ですし。」
「マリウス王のサインを見つけるのにどの位かかりそうですか?」
考えがあるのかアイラが問いかけた。
「そうね、アリス達は手慣れているでしょうから必要な物だけ探すなら
早ければ明日中にみつかるでしょう。」
「それなら古びた箱に入れてダンジョンに置いてくるというのはどうですか?
もともと古文書もダンジョンで見つかったのですから。」
「あはは、それはシャレにならなくて面白い。
しかし古文書がダンジョンで見つかったというのは確かなのか?」
「はい。神殿長とジェフリー魔術師が”ダンジョンに捨てられた紛い物かと思った”
と話していましたから間違いないと思います。」
「埃まみれで放置されてたとはいえナリア国の財務記録なんかを
国外には持ちだせないからな。
我が国の宝だって不明になってダンジョンに有ったんだ。
不明になった保管庫の中身がダンジョンから出て来ても何ら
おかしい事ではないな。」
「では神殿の保管庫から拝借した中の不要の物は
ダンジョン内にお返しする事にして
明日のあなた方二人のご予定は決まっているの?」
「乗馬の練習は外せないとして、後は道中の準備だな。
アイラのアイテムボックスを使わせた貰えるなら色々持って行けるな。」
「それは全然構わないけど・・・あの、お預かりしている品々は
そのまま私が持っていても良いのですか?」
「そうねえ。一刻も早くお兄様に知らせて安心して頂きたいのだけれど
手紙だけでは信じられないと思うの。
何といっても200年間何の手掛かりも無かったのに
一度に見つかった上にナリア王国の陰謀迄暴く密約書迄手に入ったのですもの。
実際に目にするまでは半信半疑でしょうね。」
「そうかと言ってこれだけの物を国外に持ち出すのは
危険もあって困難だろうな。」
「では魔法袋に入れていくのはどうですか?」
「魔法袋に入れていくのは良いが、途中で奪われて中身を取り出されたら
意味が無い。」
「今日の魔法袋を改変して一定の人しか取り出せない様にしますよ。」
「そんな事が出来るのか?」
「おそらく大丈夫です。どこかに持ち去られても私の手元に戻るように
魔法もかけられます。」
「そうか・・・先ほども俺に取り出せなかった中身を取り出せたんだから
出来ない事はないか。」
アイテムボックスから魔法袋を取り出し改変を試みる。
「ジェイドさんの魔力を注ぎ込んでもらってジェイドさんと同じ魔力を
受け継いだ人だけに反応するようにします。
遠縁などの魔力が薄い人には反応しませんけど。」
という事でジェイドが魔法袋に魔力を注ぎアイラが魔法を掛ける。
試しにジェイドが近場に有ったナプキンを入れオルコット氏が
試しに取り出そうとしたが不可能だった。
ジュリアが試すと取り出す事が出来た。
「明日アリスが来たらシグルスの三人にも試してもらうわ。
あなた方二人は別行動ね。」
「はい。買い物ついでに昼食もどこかで済ませてきます。」
これからの話し合いを一先ず終えてこの日の晩餐はお開きとなった。




