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2 衣食住を確保します。


丸投げ!!!

無責任に調理場にほり込まれた感が否めない。

けれど、監視もなく自由に行動できそうな点は運が良いのかも。


「はじめまして、ミズキといいます。

田舎から初めて出て来て世間知らずですがよろしくお願いします。」

気を取り直して挨拶をする。


「俺はジル。ここの責任者だ。とりあえず職場の事は明日説明するとして、

泊まるところを探さないとな。

おい、マリエッタはいるか?」


「おーい、マリー料理長が呼んでるぞー」

「はーい。何でしょう?」

20歳前後の小柄で快活そうな女性が奥から顔を出した。


「お前んとこの伯母さんがやってる下宿、空き部屋あったか?」

「たぶん一部屋空いてたと思うけど・・・

ちょっと前の事だから今は分からないです。」

「新入りのミズキっていうんだが下宿先を探してほしいんだが、頼めるか?」

「いいですよ。おばさんの所がダメでもどこかないか聞いてみますから。」


こちらを見ながら近寄ってきたので軽く頭を下げ挨拶する。

「お世話掛けますがよろしくお願いします」

「ええ。任せて頂戴。」

愛想良くて面倒見も良さそうな人柄にほっとする。


「じゃあ頼んだ。今からミズキを連れて行って来てくれ。」

「わかりました。」

「今日はもうそのまま帰ってくれてかまわない。

ここから近い所ならミズキも迷子にはならないだろ?」


田舎からどころか異世界から来たばかりで不安しかないけど

良い年の大人設定だからここは見栄を張っておく。


「多分大丈夫だと思います。ありがとうございました。

では明日からよろしくお願いします。」

「ああ。よろしく。」


「荷物を取りに行くからちょっと待っててくださいね。」

「はい。待ってる間調理場を見せて貰ってます。」


鍋や包丁は勿論、調理台や調理器具も日本で使っていたものとあまり変わらず、

複雑な造りのものはなさそうだ。

尤も日本で使っている調理器具って、世界中のものが混ざっている。

材質までは分からないが、使い方が分らない器具は見当たらない。


「お待たせ、行きましょうか。」

「よろしくお願いします。」


ふふっ、マップ機能の魔法が使えるので一度通ったところは

頭の中に確実に記録されていく。

これなら初めての場所でも迷子にはならない。

ちなみに服装は異世界の物は目立ちすぎるからと

こちらの世界のものを準備してもらって着替えている。勿論男物だ。


という事で王城敷地内というかこの世界に来て初めて

外の世界へと踏み出した。

町並みは石畳にレンガや木造の建物。

二階、三階建ての家が多い。王城の近くだけあって賑わっている。


「思ったより人が沢山いるんですね。」

「ミズキさん、王都は初めてですか?

あまり見かけない黒い瞳なんですね。」


「ええ。かなり遠くの田舎から出て来たので

この辺りの常識とかさっぱり分からないんです。

色々ご迷惑おかけするかもしれないです。」


「ミズキさんて、その、違ってたらごめんなさい。

お化粧してます?」


「ああ、やはり明るい所だと分かっちゃいますか。

実は昔火傷しまして痕が結構目立つので…

化粧でごまかしてるんです・・・。」

建物の中は薄暗いから気づかれにくかったようだが

やはり女の人は化粧に敏感だ。


「あっ、すみません。余計な事聞いちゃって・・・」

「いや、かまいませんよ。でも気を使われるのは心苦しいから

出来るだけ内緒にしてくれると助かります。」

「そうですよね。なんとなくわかります。」

ちょっと気まずくなっちゃたかな・・・


「着きました、ここです。こんにちは、伯母さんいますか?」

「あらマリーちゃん、久しぶり。今日はどうしたの?

まだ仕事の時間でしょ。」

40代半ばくらいの人好きのするご婦人がカウンター奥から顔を出す。


「新しく職場に入ったこの人の下宿先を探すように言われて。

お部屋ってまだ空いてる?

それと『マリーちゃん』はやめて。もう結婚してるんだし。」


「あらそうだったわね。でもマリーちゃんはいくつになってもマリーちゃんよ。

そうそう、部屋はまだ空いているわよ。」

二人の会話を聞きながら綺麗に片付けられたロビーを見渡す。

花も飾られていて落ち着いた雰囲気だ。


「良かった。ほかを当たる手間が省けたわ。

ミズキさん、ここで良いかしら。」


「はい。とても気に入りました。こんなにあっさりと決まるなんてラッキーです。

ミズキといいます。よろしくお願いします。」


「よろしく。マリーちゃんと同じ職場って事は料理人さんね。食事はどうする?」

「えっと、とりあえず朝晩の二食、お願いできますか。」

「ええ。もし不要な時は前日までに言ってもらえると助かるわ。」


「分りました。あと、田舎者なんで分からない事だらけで

色々教えて頂けると助かります。」


「ええ。少しでも早くここの生活に慣れるように

分からない事は遠慮なく聞いて頂戴ね。」

「はい、お願いします。」


「ありがとうねマリーちゃん。後は私がやるから帰っていいわよ。」

「じゃあ、また明日ねミズキさん。」

「はい。ありがとうございました。また明日。」

まだ夕方というには早い時間だけど、結婚してるなら家に帰ってやる事は沢山あるのだろう。


「部屋へ案内するわ。二階だけど問題ないわよね?」

「はい。足は丈夫ですし、高い所も平気です。」

ロビー横にある階段を上がって廊下を進んでいく。


「こちらの部屋よ。洗面台とトイレ、備え付けクローゼット、ベッド

寝具一式は揃っているけど、潔癖症の人は寝具を持ち込んだりするけど・・・」

楽屋で雑魚寝する事も多いからまあ我慢できない事も無い。


「僕はこれで十分ですよ。宿屋に泊る事を考えると贅沢なくらいですよ。」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。

ほかの入居者さん達ともそのうちに顔を合わせるでしょう。」


やはり異世界生活で気になるのはあの事だ。

「ところで風呂は無いのですか?」


「お風呂は近くの公衆浴場を使うのが一般的ね。

王都といえ貴族のお屋敷じゃないと風呂なんて無いわよ。

あと、冒険者ギルドが温泉を管理しているけど・・・

郊外の森の中になるから一般市民はあまり行かないわね。」


「温泉があるんですか!」

すごく気になる。

「ええ。でもお風呂だけの為に危険な森まで行くもの好きはいないわね。

冒険者が依頼の帰りに寄ったり、森を通る旅人が利用するくらいね。」


「ですよね・・・。ここに滞在している冒険者っていますか?」

「ええ。一人いるわ。夕食の時一緒になったら紹介するわね。

温泉の事、聞きたいんでしょ。」

「はい。是非お願いします。ちょっと街歩きしてきます。

初めての都なんで色々見て回りたいですからね。」

「迷子にならない様に気をつけてね。」

「迷子って・・・僕これでもいい大人なんですけど。

夕方には戻ります。」


何とか住む場所と当面の仕事は確保できたので、

生活圏内の散策をする事にした。


先ずは化粧品を売っている店を探す。召喚された時

コンビニに行くだけだったのでスマホしかもっていなかった。

年齢と性別を誤魔化していくには必需品だ。


あと、マジックバッグもどきも欲しい。アイテムボックスは他の召喚者も持っていなかったようだった。

アイテムボックスは便利だからこそ、使えるなんて他の者には知られたくない。

偽装できるマジックバックが存在するならぜひとも手に入れたいが

もどきでもバレなければ問題ない。


色々な出で立ちの人が行き交っているので、よほど目立つ事でもやらかさない限り

異世界人といえども人目を引くことはなさそうだ。

他の人の買い物の様子を見ながら

化粧品を扱っている店や古着店を探してお目当ての品々を購入した。


化粧品と言っても日本製のもととは次元が違う。

うまく使いこなせるか心配になる。

魔法を使って何とかなるだろうか。帰って色々試してみなければならない。

男性用と女性用の衣服も何点か購入した。

ちょっと怪訝な顔をされたが土産に、と言って誤魔化した。


散策するうちに広場や図書館、冒険者ギルドも見つけた。

飲食店や公衆浴場も探しながら宿舎に戻った。

夕食まで部屋で買ってきた品々を吟味する。


食事時になったので部屋から出て階段を下りていくと

女将さんに声を掛けられた。


「ああ、丁度良かった。さっき話してた冒険者のジェイドさんよ。

ジェイドさん、この人が今日から23号室に入ったミズキさん。

王城の料理人見習いをするそうよ。」


紹介されたのは20代半ば、ブルーグレーの瞳にプラチナブロンドのイケメンだ。

座っているので身長は分からないけど冒険者らしい体格だ。


「初めまして。ミズキです。

王都に出て来たばかりの田舎者で分からない事だらけで・・・

色々教えてもらえるとありがたいです。」


「Cランク冒険者のジェイドです。

今日から同じ釜の飯を食う仲だし、俺に分かる事なら

何なりと聞いてください。」


「そう言ってもらえるとありがたいです。

よろしくお願いします。」

「ええ。こちらこそよろしく頼みます。」


「じゃあ、同じテーブルで良いわね。

すぐ食事をもってくるわ。」

女将さんは忙しそうに厨房へ戻っていった。


「で、何か聞きたいことがあるんですか?」

「ああ。早速だが、冒険者稼業と温泉に付いて教えてほしいんです。」

「温泉についっててのは分かるけど冒険者についてって

料理人になるんじゃないですか?」


「実は田舎の甥っ子が冒険者に憧れていて。

無理そうなら早く教えてやった方が本人の為になるかなって思ってるんです。」

怪しまれない様に前もって考えていた設定で答える。


「そうですか。

冒険者は危険が付きまとうから生半可な気持ちで成れるもんじゃないですね。

腕っぷしも大事だが、とっさの判断力も必要です。

経験を積めば何とかなる物じゃなく才能も欠かせないですね。」


「そうですか。やはり才能も必要ですか。

それで冒険者になるには試験とかあるんですか。」

聖剣士という称号は才能になるのかな。


「いえ、登録だけすれば一応冒険者にはなれます。

後は才能を生かして依頼をこなしてランク上げをして

収入を増やしていけるかどうかですね。」


「才能が無ければ食べていけない、ということですね。」


「ええ。身分証の無い者がわずかな登録料で身分証を得るために

冒険者という肩書を得ることもあります。

登録を抹消されない様に最低限の依頼だけこなして

他の仕事をしている者もそれなりに存在していますね。」


・・・身分証ってあるんだ。そんな話し王宮では聞いてない。

「身分証を得るためですか。身分証はやはり必要ですか?」


「そうですね。まともな仕事に就いたり、他の領地に移動したり

もちろん他国に渡る時にも必要。いくら田舎暮らしでも

王都に入る時に手続きはされたのでしょ?」

やはり持っていない人なんていないのかな。


「身分証ってどうやって作るんでしたっけ?田舎の両親も持っていなかったような・・・

田舎から出た事なかったみたいだし。」


「地元に教会は無かったんですか?どんだけ田舎なんですか。

王都にはどうやって入ったんです?

検問で身分証の提示、求められなかったですか?」


「・・・遠縁の王宮魔術師のジェフリーさんと一緒だったから…かな

ハハハ・・・」

ここは身元保証人として巻き込んでしまおう!


「王宮魔術師の遠縁って・・・まあ身元保証人としては確かか…。

それにしたって身分証が無いとこれから不便ですよ。」


「どうやって作ったら良いんですか?」


「鑑定魔道具の有る教会とかギルドで手数料を払って作ってもらうんです。

この辺りだとやはり手続きが簡単なのは冒険者ギルドですね。」


「鑑定魔道具って王宮にもありますよね。」

「王宮に魔道具はありますが、

一般市民の身分証なんて作って貰えるわけないですね。」


「ですよね。じゃあ近いうちに冒険者ギルドにでも行ってみます。

あと、温泉は・・・?」


「一応料金さえ払えば誰でも入れるますが

場所が場所だけに一般人の利用はほとんど無いです。

羨ましい事に女性冒険者は少ないから女湯はほとんど貸し切り状態らしいです。

男湯なんてもっさい男ばかりでイモ洗い場みたいな状態なのに・・・」


「それは羨ましいかぎりですね。」

「ええ・・・」


途中で女将さんが運んできたのは

黒っぽいフランスパンみたいなのと野菜のスープ、肉と何かの煮込み。

全部塩味ベースみたいだ。

ジェフリーさんと何だかんだと世間話をしながら

異世界初の食事の時間は過ぎていった。


部屋に戻って考える。

召喚されたその場で鑑定され、生活基盤も決まったけど

身分証については一言も話が無かった。

自由に生活して良い様な事を言っていたが

王都からは出す気が無いと考えた方がよさそうだ。

こちらの生活に慣れてきたら行動を制限される気は更々無い。

いずれ王都を出ることを頭の隅に置いておく。



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