19 商会の報告
アイラが使用人の厨房に案内された頃
応接室はちょっとした騒ぎになっていた。
ジェイドを伴ってシグルス商会の面々が待つ応接室に戻ったジュリアは
まずギリニス王国から今回の件で調査に来た甥を紹介した。
そしてジェイドに
幼い頃からの親友アリスとその家族
彼女達が今回の件の情報提供者であることを伝えた。
「今回の情報提供にはグラント家の者として深謝申し上げます。
異世界人の召喚についても確信を得て希望が見えてきました。
何としても勇者の遺産を取り戻し長年のグラント家の悲願を
成し遂げたいと思っています。」
ジェイドの言葉にケビンが答える。
「いいえ。ナリア王国に移り住みまはしましたが
私たち一家もギリニス王国の出身です。協力は当然の事です。」
「私の我儘でこの国に伴わせてしまって申し訳ないけれど、
いつも近くで支えて貰えて本当に感謝しているわ。」
「・・・ジュリア様。勿体ないお言葉を頂きまして光栄です。
私共が好きでしている事ですからどうぞお気になさらないで下さい。」
「そう言って貰えて私は幸せ者ね。それで申し訳ないけれど先ほどの話を
もう一度ジェイドにもして頂けるかしら。」
「はい。私共の本日の急な訪問は学園に在籍している三人のほかに
召喚されたらしいアイラという人物と偶然知り合った事が発端です。
シグ迄の護衛として一緒に行動するうち召喚された勇者様と
確信するに至りました。」
「勇者ですか?」
ジェイドが思わぬ言葉に反応する。
「はい。初日に腕に有る鳥の形の痣を偶然目に致しましたので。」
「その痣だけでは確証は持てないのでは?
偶然似た様な痣を持つ人間は幾らでも存在するでしょう。」
「はい。それで同行している護衛二人にも手合わせなどを通じて
見極めて貰いました。
ジュリア叔母様に引き合わせようと何とか領主館目前まで
同行することが出来たのですが
途中で馬車を下りる彼女を引き止めることが出来ませんでした。」
「本当に残念だわ。その方の証言さえあればナリア王国の召喚の儀遂行は明らか。
追い詰める事も出来たでしょうに。」
「申し訳ございません。我々の力不足が招いた失態です。」
「いいえ。あなた方を責めるなんて罰が当たります。
勇者様であると気付いた上に領都まで同伴してくれたのですもの。」
「実はほかにも気になる事が有るのですが。」
「気になる事?」
スーザンの言葉にジュリアが問い返す。
「はい。昨日、冒険者ギルドから帰ったアイラさんが
”食材として王都から持って来たから”と言って
ビッグボアのブロックを出されたのです。」
「ビッグボア・・・本日献上して頂いたお品もビッグボアでしたわね。」
「はい。昨夕ギルドから貴重な大物のビッグボアを入手したからと
連絡を貰い引き取って参りました。」
「偶然・・・では無いわね。」
「はい。滅多に手に入らない大物でした。
一部の肉のみ本人が持ち帰ったそうです。」
引取りに行ったケビンが答える。
「アイラさんが持ち込んだのね?」
「いいえ、個人の情報になるからと名前までは教えて貰えませんでしたが
狩ったのはÇ級冒険者で若い男性だったという事です。」
「それにしてもÇ級冒険者一人だけでは無理じゃないの?」
「それが急所を一撃だったようです。」
「では、アイラさんとその冒険者が顔見知りという事になるのかしら?」
「王都からシグ迄はずっと私たちと一緒でしたから
途中での接触は有り得ないです。
ギルドで偶然知り合ったか、以前からの知り合いだったのか・・・」
「召喚されたとしてその後に知り合ったのなら関係が気になるわね。」
ジェイドは黙ったまま考えるように聞いている。
本人の頭の中で答えは出ているのだが
どう切り出して説明しようか悩んでいるのである。
しかしあの呑気さでビッグボアを一撃とは・・・
想像して思わず笑みを溢した。
ジュリアがそれに気付き戒める。
「なんですか、勇者様が行方知れずになるかも知れないというのに不謹慎です。」
「あ、いやすみません。しかし俺の考えが当たっているなら
そのC級冒険者に心当たりがありますよ。」
そこへ執事がシドを伴ってやってきた。
「シド様がおいでになられました。」
案内されたシドの顔色はとても悪い。
「すみません。馬車を下りて暫くは付いて行けたのですが
ギルドのだいぶ手前で見失いました。
暫く探して見つけられずギルドに行ったのですが・・・
今まで待っても現れないので戻ってきました。」
「ご苦労様。完全にお手上げね。ついに消息不明になってしまったわ。」
ジュリアは落胆の色を隠せない。
「失礼、こちらは?」
先ほどギルドで見かけたが関係が気になり聞いてみる。
「これは失礼致しました。私はスーザンの夫でシド・ウェインと申します。」
「先ほどギルドですれ違いましたね。」
「・・・ああ、確かもう一人若い青年とご一緒でしたね。」
「ええ。」
ジェイドはしたり顔で返事をした。
「叔母上、ここでこれ以上話していても埒が明かないでしょう。」
「でもぐずぐずしている間にアイラさんが領都から出て何処かへ行ってしまったら
せっかく見えてきた希望が断たれてしまうわ。」
「それは無いと俺が保証しますよ。
先ずはビッグボアを狩ったÇ級冒険者を紹介しますよ。」
「まあ、ジェイドの知り合いだったの?」
「先ほど叔母上もお会いになっていますよ。
呼んできますから此処でお待ちください。」
「待っている時間も惜しいから一緒に行くわ。」
「わかりました。」
という事で応接室を出て二人で談話室に向かった。
扉をノックするが返事が無い。
ドアを開けるともぬけの殻である事に気付き暫し絶句していたが
我に返り執事を呼びつけた。
「ショウはどこへ行った?」
「メイドに接遇を申し付けましたので暫くお待ち頂けますか?
呼んで参ります。」
ジュリアはもとより先ほどまで余裕だったジェイドも苛立ちが隠せない。
漸くやって来たメイドに問うと
「使用人用の厨房の使用を希望されましたので侍女長に相談の上
食堂にお連れ致しました。」
と、思いがけない返事が返ってきた。
二人して食堂へ駆け込む。
厨房の奥から賑やかな声が聞こえる。
「ショウ、こんな所で何をしているんだ?」
「あっ、ジェイドさん、ごめんなさい。
お昼がまだだったのでお願いして調理場を使わせて貰ってます。」
「あ、ああ。それは気付かず悪かった。で何を作ってるんだ?」
「ビッグボアのピカタ。ジェイドさんも一緒にどう?」
「・・・ピカタ?材料は自前か?」
「ごめんなさい。少し調味料とかは分けて貰いました。
胡椒があってびっくりしました。使っては不味かったですか?」
「いや、構わない・・・ですよね叔母上?」
「え、ええ勿論。ビッグボアは自前なのね・・・
納得したわ。
それで、アイラさんとの関係を聞いて頂戴。」
「ここでは不味いですからダイニングへ移動しましょう。
ショウ、調理が終わったのならダイニングに移動する。」
「出来た物をダイニングに運んで頂戴。」
ジュリアの一言で使用人たちが動き出した。




