18 領主館
長い石塀伝いにジェイドさんについて行くと
立派な門が見えてきた。
「もしかして、叔母さんの家ってこのお屋敷ですか?」
思わず立ち止まって尋ねた。
「ああ。領主館だな。色々あって今ここで世話になっている。」
「あの、私急用を思い出したから・・・
またそのうちに寄らせて貰います。」
「今更何を言っている。大丈夫だ。
俺も叔母も必ずアイラの味方になると約束する。
アイラが俺が予想している立場にあるのなら
ナリア国に懸念を抱いているのでは無いか?
俺も叔母もギリニス出身だ。
俺はナリア王国に味方する義理は無い。
寧ろ今は敵視している。その事を説明させてほしい。」
「さあ」そう言って優しくアイラの手首を取って歩き出す。
ここまで来たら腹を括るしかない。
今まで自分の事を何も知らなくても優しくしてくれる人たちに
囲まれていたから一人でも行動して来れた。
だけど事情を知ってもなおその人達が味方してくれるかは分からない。
一人で全部を抱えて誰にも相談できない寂しさや空しさを
このままずっと背負っていく事にいつか限界が来るだろう。
ここで手を差し伸べてくれた彼を信じてみよう。
この先こんなチャンスは二度と無いかもしれない。
そう思い直して彼と一緒に門戸を潜った。
エントランスに入ると執事らしい人が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませジェイド様。」
「叔母上は何方におられる?」
「只今奥様は大変慌ただしくされておりまして・・・
あっ、失礼致しました。お客様をお連れでしたか。」
「ああ。応接室は空いているか?」
「それが、シグルス商会の皆様が私用でお見えになり
応接室にお通し致しましたので。」
「ではリビングに・・・いや、叔母上の書斎横の談話室を使用したい。
確認してきてくれ。」
「承知いたしました。少々お待ちください。」
立派なエントランスに緊張して声を失っていたが
二人になって心が落ち着いてきた。
「凄い。執事さんなんて実物初めて見た。」
「実物以外に何がいるんだ?」
「・・・話で聞いたとか?。それより叔母さまって領主様の関係者でしょ。
ジェイドさんて本当にC級冒険者?」
「それもちゃんと説明する。」
そんなやり取りをしていたら奥から貴族然とした夫人が
飛ぶようにやってきた。
「ジェイド、丁度良かったわ。今迎えを使わそうと思っていたところなの。
大変よ・・・」
「叔母上、落ち着いてください。」
「あ、あらお客様?ごきげんよう。」
「初めまして。…ショウと申します。」
「え、ええよろしくね。今ちょっと色々と立て込んでいて。
お迎えしてすぐで申し訳ないのだけれど
ジェイドをちょっと借りるわね。」
そう言うなりジェイドさんの腕を引いて奥へ歩き出した。
「お、叔母上、何をそんなに慌てて・・・」
「例の件で重大な話が有るの。それもぐずぐずしていられないのよ。
ショウさんには談話室でお待ち頂いて。ダニエル、後はお願いね。」
「承知いたしました。」
執事さんはダニエルさんというらしい。
引きずられながらジェイドさんが振り返った。
「ア‥ショウ、招いておいてすまないが部屋で待っていてくれ。」
「大丈夫。気にしないで。」
呆気にとられながらジェイドさんを見送った後
執事さんに案内されて談話室に通された。
「すぐにお世話する者をよこしますので
こちらにお掛けになってお待ちください。」
「いいえお気遣いなく。」
ダニエルさんが退室して一人になり緊張が解けた所為か
ギルドで依頼を探してから遅めの昼食を摂るつもりで
朝食後から何も食べていない事を思い出した。
誰もいないからと言って知らない貴族のお屋敷で
アイテムボックスから何か出して食べるわけにはいかない。
まあ、一食くらい抜いても死ぬような事はない。
そんな事を考えていると扉がノックされた。
「どうぞ。」
少し間をおいて「失礼致します。」とメイドさんが入ってきた。
「お茶をお持ち致しました。」
そういってワゴンに乗せてきた茶器にポットからお茶を注いで出してくれた。
「ありがとう」そう言って一口頂く。
「何かご要望がございましたら何なりとお申し付けください。
ご不自由をさせない様にと奥様から申し付かっております。」
”何なりと”と言われたのでダメもとで一応聞いてみる事にした。
「それなら使用人用の食堂の厨房って使わせていただく事は出来ますか?
邪魔にならない様に気をつけるので・・・」
「使用人用のですか・・・
侍女長に聞いて参りますので少々お待ちください。」
「お願いします。」
メイドさんが退出してから考える。
使用人用の食堂だから問題ないよね。
ジェイドさんも何時まで掛るか分からないし・・・
簡単な物、何を作ろうかな。
ビッグボアのお肉も手土産にしたのに自分では味も見てないし。
野営用に卵も小麦粉も買ってあるからピカタがいいかな。
胡椒は無いけど贅沢は言えないな・・・
なんて考えていたら、ノックの音で我に返った。
「どうぞ。」返事をしたらメイドさんが入室して
「侍女長から許可が下りましたのでご案内いたします。」
と言って扉脇に立った。
廊下に出て前を歩きだしたメイドさんの後について行った。




