16 シグの街で
先ほどのゆったりとした足取りと違い
急ぎ足で冒険者ギルドを目指しながら思う。
新人冒険者がマジックバッグにビッグボアを丸ごと入れているというのは
流石に不味いだろうか?
ショウに成りすます時間も惜しい。
そこである事を思いついた。
ギルドのカウンターに向かい先ず依頼報酬を受け取った。
「あと取り急ぎ解体を依頼したい魔物が有るのですが、今から頼めますか?」
「魔物の種類は何ですか?」
「知り合いの冒険者から預かったビッグボアなのですが
解体後の引き取りには本人が来るので依頼だけ先にお願いできますか?」
「・・・大物ですね。今からですと急ぎで半時ほどで可能です。
それで依頼の物はどこにお持ちですか?」
「マジックバックごと預かって来てここに持っています。
食用に一番上等な部位を10人分の塊で三つ。
それ以外は全部引き取りでお願いします。」
「それでは引き取りの方のお名前とランクを。預かり証をお渡しします。
あと、こちらの解体指示書と一緒に裏の解体場まで直接お持ちください。
引き取りにいらした時に清算とギルドカードへの登録を行います。」
「ありがとうございます。そう伝えます。」
教えて貰ったギルド裏の解体場へ向かうと
扉の外で体格のいいおじさんが休憩している。
「すみませんが急ぎの解体をお願いします。」
「獲物はどこだ?」
「マジックバッグの中です。」
指示書を渡しながら建物の中へ入る。
「この作業台の上に出してくれ。」
言われた場所にビッグボアを取り出した。
「これはまた・・・大物だな。嬢ちゃんが仕留めたのか?」
「まさか。狩った知り合いから頼まれました。引き取りには本人が来ます。」
「凄いな、一撃で仕留めてある!」
「水魔法の使い手です・・・」
「そうか・・・これだけの物はなかなかお目にかかれない。
ちょっと時間が掛かるな。」
「どれくらい・・・?」
「一時弱だな」
「わかりました。よろしくお願いします。」
「ああ任せてくれ。出来るだけ手早く片付ける。」
ギルドを出て先ほど散策しながら見つけておいた物陰に急ぐ。
辺りの気配を探りながら隠蔽魔法を発動しローブを取り出す。
髪の色をラテベージュに変え後ろで一纏めにする。
とりあえず不自然でない様気をつけて
ちょっと彫りが深く見えるようにメイクを施す。
通りに出て周りの目を気にしながらそれとなく散策を続ける。
大丈夫。違和感は無い様で私に注視する人はいない。
今度は小物店に入って商品を見て歩く。
店にいる客も私を気にする事も無く商品を見て回っている。
何気なしに商品を見ていたが、一つの留め具が目に留まった。
綺麗なブルーグレーのグラデーションの石にシルバーの縁取りが付いていて
ローブを留めるのに丁度良い。
少しお高いが躊躇う事なくカウンターに持って行った。
「ご自分用ですか?」
ああそうか、今男装しているんだった。メイクは完璧の様だ。
「いいえ、お礼の品として使いたいのでその様に包んで貰えますか?」
「はい。わかりました。少々お待ちください。」
また会う事が有るかは分からないがアイテムボックスに入れておけば
邪魔にはならない。
その後もあちこち覗いて少し早めに再びギルドを訪れた。
カウンターで預かり証とギルドカードを提示すると
奥の部屋から大きな塊の包みが三つ運ばれてきた。
手続きを済ませ思ったより沢山の報酬と包まれた獣肉を引き取って
ギルドを後にした。
物陰でメイクを落とし髪色と形を戻す。ローブをしまってシグルス商会へ急ぐ。
少し時間を掛け過ぎたので辺りが薄暗くなってきた。
商会が見えてくると門の前にいたスーザンが駆け寄ってきた。
「迷子になったんじゃないかって心配したわ。」
「ごめんなさい。珍らしい物ばかりでつい時間が経つのを忘れてしまいました。」
「まあ仕方ないわね。そこまで遅くなったわけでもないし。
一人で出かけて長い時間帰ってこないから心配しただけよ。
楽しめていたなら問題ないわ。」
「ありがとうございます。今度は心配かけない様に気をつけます。」
二人並んで門を潜る。建物の中に案内されダイニングに通された。
「遅くなってしまって夕食には間に合わなくなってしまったけど
食材として王都から持って来た物なの。良かったら皆さんで召し上がって。」
そう言いながらマジックバッグから包みを一つ取り出しスーザンに渡した。
「えっ、何?! 凄く重たいんだけど・・・」
「王都近郊で獲れたらしい?ビッグボアのお肉」
「・・・あ、ありがとう。ちょっと座って待ってて頂戴。
厨房に預けて来るわ・・・」
厨房でなく母のいる執務室に飛び込む。
「これ、今アイラに渡されたんだけど・・・」
「なあに?」
「ビッグボアの肉・・・」
「・・・」
ビッグボアの肉は普通一般人では手に入らない。
獰猛で比較的奥地に生息している事もありその上魔物の中では美味だ。
ほとんど貴族の間でしか流通しない。
上等な部位となると上級貴族でもなかなか手に入らない。
「自分で狩ったのでしょうね・・・」
「そうとしか思えません。」
「やはり勇者様なのでしょうね・・・」
アイラがダイニングで待っているとスーザンと一緒に
40歳前後の女性が入ってきた。
立ち上がって挨拶をする。
「今日はお世話になります。アイラと言います。」
「スーザンの母のアリスよ。明日は私も同行するからよろしくね。」
座って雑談すること暫し
シドさんとスーザンの父親らしい男性が一緒に入ってきたので挨拶を交わす。
「初めましてアイラと申します。」
「急用で遅くなってすまない。スーザンの父のケビンだ。
堅苦しいのは性に合わない。君も寛いでくれ」
ここまでの道中でスーザンさんのお兄さんは王都の支店に
スーザンさんの二人の子供も王都の初等学園に滞在していると聞いている。
食事が始まってケビンさんが思い出したように話し出した。
「そういえば今日の夕方 急に冒険者ギルドから連絡が入って
それで帰りが遅くなったんだが
滅多に入荷しない大物のビッグ「あっ、ごめんなさい!!」うわっ!!
なんだいきなりっ!」
アリスさんがワインのグラスを倒した。
「手が滑って溢してしまったわ。あちらで着替えて頂戴。手伝うから。」
「食事中に?ちょっと掛かっただけだぞ?」
「ええ。シミになるからすぐにっ!」
「参ったなあ。ちょっと席を外すが気にせず続けていてくれ・・・」
「シドも行って手伝ってあげて。」
「あ、ああ・・・」
スーザンさんに言われてシドさんも退席した。
「そういえば私、ここ最近家族そろっての食事に参加する事がなかったわ。
なんか楽しそうでちょっと羨ましいかも。」
「いつもはもっと静かよ。子供が帰って来ると賑やかだけどね。」
暫くして三人が戻りここまでの道中の事を報告しながら食事を終え
明日も馬車で移動なので疲れを残さない様にと早めに休むことになった。
流石オルコット一の商会だけあって風呂が完備されている。
三日ぶりに疲れを癒し床に就いた。




