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15 それぞれの思惑 後


500年前に異世界から召喚された勇者はギリニス王国だけでなく

魔王討伐によってこの世界を救った伝説の人物である。


ギリニス王国のグラント侯爵家が管理する神殿に保管されていた勇者の遺産が

200年前に盗難にあって所在不明となっている事は近隣の国の間でも

周知の事実となっている。


ジェイドの叔母であり現オルコット領主夫人のジュリア元侯爵令嬢は

グラント侯爵家御用達だったグラント領随一の商会会長の

長女アリスとは幼い頃からの顔見知りで親友だった。


ジュリアの隣国ナリアのオルコット領への輿入れが決まった際

親友のアリスに相談役としてオルコット領への同行を希望し

それを受け入れたアリスは中堅の商会を経営していた夫とその両親と共に

領都からほど近いシグ街へ移転しシグルス商会を立ち上げた。


そんな経緯もあって、オルコット領領主夫人ジュリアの親友で

スーザンの母であるシグルス商会の社長夫人アリスは

グラント侯爵家の内情にも精通している。


今回の古文書発見と召喚の儀が行われるらしいという確固たる噂話も

商会の持つ情報網によってそれを手に入れたアリスが

勇者の遺産に所縁のあるジュリアに報告したのである。


その後の経緯を見守っていたアリスの元に王都で新しい噂を耳にしたから

とりあえず帰還すると娘のスーザンから連絡があった。

そして今、娘と娘に同行した二人から報告を受けている。


「すでに召喚に成功し能力の優れた三人の異世界人が

王立学園に編入した事は間違いないようです。

本人たちが周りの生徒に話している事を何人もの生徒が証言しています。」


「異世界人たちは王国の言う通りに大人しく生活しているのね。」

「学園に編入した三人についてはそのようですが

少し、どころかかなり気になる人物と偶然知り合いまして・・・」


「気になる人物?」

「はい。学園の異世界人は三人。共に黒い髪に黒い瞳だそうです。」

「それは神殿に伝わる勇者様と一致する特徴ね。」


「ええ。で、私が急遽帰還するタイミングでリリが体調を崩し

臨時で女性冒険者を雇ったのですが

待ち合わせの場所にやって来たのが

黒い髪に黒い瞳の『アイラ』という名の冒険者でした・・・」

「まあ、この世界では珍しい特徴だけど全くいない訳では無いわね。」


「それが・・・初日に一緒に湯に浸かったのですが

右の腕に鳥の形の痣がありました。」

「右腕に鳥の形の痣!」


「はい。それで二人にも相談してそれとなく動向を探っていたのですが・・・

この世界の常識を知らなさすぎるというか

剣技も独特。使える魔法やスキル、身体能力も常人離れしていて・・・。

実際に手合わせしたこの二人も驚いていました。

本人は自分の能力が人並みでないと自覚しているようには見えないのです。

人物としては嫌みの無い明朗な性格で

かえって警戒心が薄いのが気になります。」


「召喚された勇者様という可能性大ね。」

「はい。護衛はこの街までの契約だったのですが

念のため引き止めておきました。

明日領都まで一緒に行くことになってます。

ジュリア叔母さまに引き合わせる事が出来ればと思っています。」


「そうね。ジュリアなら勇者様について私達より詳しく知っているわ。

ところで肝心のアイラさんはどこに?」

「今は町を探索しながら冒険者ギルドに向かっているはずです。」


「見張りを付けなくて大丈夫なの?急に消息を絶ったりしない?」

「とても良い娘で黙って何処かへ行ってしまう様な事は無いと思って・・・」

「大丈夫ですよ。俺も保証します。

それに探査魔法も使えるようなので隠れて見張っても意味ないですよ。」


「そうなの?勇者様の自由を奪う権利は無いから

失礼の無いように気をつけないといけないわね・・・

そうだわ。明日は私も領主館に同行するわ。

その後の国の動きも気になるし。」

はっきり言って親友のジュリア叔母さまと一緒で母も自由人だ。


「・・・わかりました。

でもアイラにあれこれ詮索するようなこ事はくれぐれも自重して下さいね。

せっかく親しくなれたのに何か気取られでもして

関係が不味くなる様な事は避けたいですから。」

「大丈夫よ。ちゃんと大人しくしてるから。」

「頼みますよ。」



一方、アイラは王都以外の街並みを散策するのは初めてだ。

彼方此方の店を覗きながら教えて貰った道をゆっくりとギルドへ向かう。


王都の混雑した賑わいとは違い落ち着きのある賑わいに

気分にも余裕が生まれる気がする。

ふと、今日仕事外で商会にお世話にらるのなら

手土産を持参した方が良いのだろうか、と日本での風習が頭を過った。


覗いてきた店の中にはケーキ屋なんて気の利いた店は無かった。

食材の店はそれなりに有ったが

王都から来てこの土地の産物ではおかしい気もする・・・

完全に日本人思考である。


その時王都で仕留めたビッグボアをアイテムボックスに

入れたままにしている事を思い出した。

この際ギルドで解体して貰って一部を土産として持って行こうかと思い立った。

食材としてマジックバッグに入れてきたと言えば良いだろう。

そうと決まったら急いでギルドに向かう。解体に時間がかかるかもしれない。



神殿の保管庫の中身が消えた日、王城ではギリニス王国から

(勇者の遺産の一部がハドソン領のダンジョンから見つかったという

噂についての真偽)

を問われた件についての議論がなされていた。


その中で問題になったのがすでに召喚された異世界人の存在である。

古文書のナリア王国での存在を無かった事にするには証拠があっては不味い。

しかし学園にいる三人は既に自分たちが異世界人だと周りに触れ回っている。


優遇を約束する事で公の場で偽証させることが出来れば後は何とでも誤魔化せる。

「ちょっと嘯いてみただけ」と言わせるだけで事実を証明する証拠は無い。

魔力も体力もこの世界では有り得ない程抜きん出ているわけでもない。

寧ろその事を逆手にとって「人並外れた能力を自慢したかった」と理由付ける事も可能だろう。


そんな議論が続く中 ジェフリー魔術師は突然消息を絶ったもう一人の異世界人を思い出した。


異世界人と言うには魔力も体力も普通、料理人という称号だけで逃走して

まだ何処かで生きているのだろうか。

まあ、無用の者がどうなろうと今更考える必要もない。


それよりどうやって隣国の追及を煙に巻くか、そちらに意識を戻す事にした。



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