14 それぞれの思惑 前
一方、アイラより一日早く王都を発ったジェイドは道中これといった問題もなく
予定通り三日後に領都に着いた。
先ずは領主館を訪れて叔母に会い、王都で得た情報を報告する事にした。
叔母と言ってもジェイドが生まれた時にはすでに隣国に嫁いでいたので
顔を合わせるのはこの国に来たばかりの前回と合わせて2回目になる。
「お疲れ様。ハドソン領ではダンジョンで発見された古文書が
勇者の遺産で間違いないだろう、という事で
ちょっとした騒ぎになっているようだわ。
察するにすでに召喚の儀式が行われて成功したのでしょうね。」
「はい。私もクレアから王立学園に『召喚された異世界人だ』と名乗る
三人の編入生がいると聞いています。
成功しているとみて間違いないでしょう。」
「やはりそうなのね。クレアは元気にしてた?」
クレアは王立学園に通うジュリアの娘でジェイドの従妹にあたる。
「はい。学園生活を楽しんでいるから心配しないで、と伝言を頼まれました。
今回の件ではすっかり密偵まがいの事をさせてしまって気が引けます。」
「気にする事はないわ。結構喜んでうわさ話に首を突っ込んでるんだから。
頼まなくても同じよ。そういう年頃なんだし。」
「それで今回の召喚に成功したという事実があれば
勇者の遺産を所有しているのは明白という事で本来の所有者である
我が侯爵家に返還するよう要求できるでしょうか。」
「要求は出来ても『盗みに関わった』という事実が無ければ
取り戻す事は難しいでしょうね。
でもグラント侯爵家の汚点となる事件の真相を明らかにする事は無理でも
奪われた遺産を取り戻す事を諦めるわけにはいかないわ。」
「ギリニス王国として国同士の交渉に持ち込んではどうでしょう。
元々勇者の遺産はギリニス王国の宝です。」
「グラント家としてはすでにその事も視野に入れて動いているでしょう。
国同士の摩擦を懸念してギリニス王国としての動きが見込めない場合は
グラント家単独で動く事になるでしょうね。
ただナリア王国が所有を否定した場合は確固たる証拠を手に入れない限り
交渉のテーブルに着く事さえも上手く躱されてしまうでしょうね。」
「証拠を手に入れるのはかなり難しいでしょう。
あちらが異世界人を抱き込んで召喚したという事実を否定させたら
此方としてはどうしようもありません。
彼らに何のメリットもないのに真実を話す義務はないのですから。」
「グラント家の長年の悲願が叶うかもしれない好機だというのに
八方ふさがりで頭が痛くなってくるわ。藁にも縋りたい気分ね・・・」
「それで俺は件のダンジョンに行って遺産の一部でも見つからないか
調査しようと思っているのですが。ダンジョン近くの町で冒険者や関係者から
古文書発見当時の情報も得られるかもしれない。」
「召喚の儀が行えたという事は勇者の腕輪も見つかっているという事になるわ。
そうなるとすでに他の遺産も手にしている可能性が高いわね。
出立を2,3日先延ばしにしても問題ないでしょ?
今回の情報をくれた商会の関係者が王都から戻って来ると連絡をくれたの。
何か新しい情報を持ってきてくれるかもしれないわ。」
「それならば到着を待っている間にギルドへ行ってダンジョンへの同行者を
探したいと思います。
ハドソン領では信用のおける者を探すのに不安があります。
探している物を知られた場合、妨害に会う事は目に見えています。
オルコット領の冒険者の方が信用が置けそうです。」
「オルコット領とはいえナリア王国の一領土である事に変わりないのだけど・・・
やはり一人では不安?」
「これでもギリニス第二騎士団の団長を務めています。
腕にはそれなりに自信があるのですが、
ダンジョン行きを心配してくれた知人に
同行者を募って入ると言ってしまった手前、
一人で向かうのも気が引けまして・・・」
「まあ、それはジェイドの良い人なの?」
「い、いいえ、そんな事はありません。
偶々知り合って一度だけ市場の屋台で昼飯を奢っただけです。」
「・・・まあいいわ。とにかく2,3日待ってからにしてね。
そろそろお兄様からも何か指示が来るかもしれないし。」
「はい。ナリア国国王宛に噂の真相の確認を促す書状でも
送ってくれていると良いのですが。」
一方こちらはアイラが王都を発った日の王城敷地内の神殿である。
朝早くから蜂の巣を突いた様な騒ぎになっていた。
「保管庫に仕舞いましたのは確かです。ジェフリー魔術師も一緒でした。
朝一番に儀式を執り行えるように昨夕、王城より古文書を預かって参りました。」
「私は許可した覚えは無いぞ。」
「国王は席を外されておりましたので、宰相殿に許可を頂き
拝借いたしました。」
「わ、私めは国王の許可は得ていると伺いました・・・」
「二度目の召喚を行う事はすでに決まっておりましたので
問題ないと判断いたしましたが・・・」
「古文書を持ち出す事と召喚の許可は別物であろう!」
「それは何というか、、、なんとも申し開きしようもございません・・・」
「別に保管していた腕輪も無くなっておるのだな?」
「もともと腕輪を保管していた保管庫に一緒に入れておきましたので・・・」
「・・・他に無くなった物は無いのか?」
「それが、、、恐れながら、保管庫の中身全てが無くなっておりました・・・」
「!!!」
「カギはしっかり掛けてあったのですが、鍵が掛ったまま
中身全てがきれいさっぱり・・・」
「そんな事が有りうるのか?」
「全て盗み出した後に鍵を掛け直したのであれば・・・」
「誰がそんな面倒な事をするのだ!」
「ひょっとして勇者様の祟りでは?」
「何に対してじゃ?疚しい事は無いであろう・・・
いや、隣国の謂わば国の宝を無断で使用した所為か・・・」
「そういえば、ギリニス王国が今回の古文書発見の騒動を嗅ぎつけたようで、
真相を知りたいと書状を送りつけてきました。如何致しましょう。」
「言わん事ではない。如何致すも何も古文書が手元に無いではないか。
元々の所有者に相談もなく無断使用した上に紛失したのだ。
周辺諸国にも言い訳がたたん。
最初から無かったことにするしか無いのではないか?」
「はい。それではそのように書簡を送っておきます。」
「それにしても保管庫の中身が丸ごと消えるとは・・・
あとで無くなったもののリストを持ってくるように。」
「仰せのままに・・・」




