11 旅程 其壱
雇われて初日という事もあり最初は自己紹介の様な話をしていたけれど
スーザンさんはサービスマネージャーという仕事柄もあってか
親しみ易くすぐに打ち解けることが出来た。
暫く他愛もない話で盛り上がっていたけど
初めての馬車の旅でお尻が辛くなってきたので
そっと補助魔法を掛けておく。
街道といっても舗装されているわけではなく、馬や人、馬車によって
踏み均されているだけで揺れや振動は半端ではない。
もっとスピードが上がったら舌を噛みそうで会話どころではなくなりそうだ。
女同士のお喋りも弾み打ち解けて来た頃、馬車が停まった。
「ここで昼休憩ね。いつも同じ場所で昼食を摂るようにしているの。
その方が地形や辺りの様子も知っていて安全が確保しやすいでしょ。」
「常に安全には気を配らなくてはいけないんですね。
新米には勉強になります。」
馬車の扉が開いてニックさんが顔を覗かせた。
「シドが辺りを見回っているから先に食事を摂ってくれ。
他にも何組か休憩しているから大丈夫だと思うが、
飯が終わったら交代して一応外で警戒を頼む。」
スーザンさんが荷物の中から包みを取り出し一つをニックさんに渡した。
ニックさんは御者台で食事を摂るようだ。
私はマジックバッグもどきから道草亭で頂いた包みを取り出した。
「あら、マジックバッグなんて持っているの?凄い物持っているのね。」
「はい。このバッグは冒険者をやっている伯父から貰ったんですけど
容量は小さくてもとても便利で手放せないんです。」
「まあ、おじ様は優秀な冒険者なのね。うちの商会も幾つか所有しているけど
なかなか手に入らない物よね。
そうそう、お昼の食事あなたの分も用意してきたのよ。」
そう言いながらスーザンさんが包みを一つ渡してくれた。
「あっ、ありがとうございます。
昼食についてして確認してしていなかったので
宿の女将さんが気を利かせて持たせてくれたんです。」
「マジックバッグに入れて置いたら日持ちするんでしょ?
そっちのはいざという時の為にとって置いたら?」
「そうします。宿ではとても良くして下さったので
ホームシックにでもなった時に思い出しながら頂きます。
じゃあ、遠慮なくこちらのお昼ご飯を頂きます。」
王都を発つ前に作って貰ったらしい昼食は食べやすいサンドイッチ風のものだ。
長パンに野菜や肉の焼いたものが挟んであり、体力勝負の長旅用に
なかなかのボリュームだ。
「シグの街までは毎回宿を利用するから昼食用に携帯食を準備して貰えるわよ。
行程によっては野営の時も有るから保存食も常備しているけどね。
マジックバッグがあれば本当に便利でしょうね。」
「私のバッグは容量がそんなに無いですけど食事ぐらいなら
何日分かはお預かり出来ますよ。
でも今回は必要なさそうですね。」
「ええ。また次の機会にお願いするわ。
因みに今は何が入っているのか聞いても良いのかしら。」
「野営覚悟で準備していたのでほとんど食材です。
あとは、ランク維持の為にコツコツと採り貯めるている薬草ですね。」
「駆け出し冒険者さんらしいわね。」
「果物もありますよ。食後にどうですか?丸かじりになりますけど・・・」
「ふふ、こう見えてなかなか豪快な食べっぷりなのよ。
でも、ナイフは持っているから切り分けて頂くわ。」
会話しながら食事が終わったので馬車の外に出てシドさんと見張りを交代する。
昼食前に探査魔法で周辺に魔物の気配がない事は確認済みだが、
一応警戒しながら辺りをぶらぶら散策する。
シドさんは馬車でスーザンさんとこれからの行程について打ち合わせしながら
食事を摂っている。
私の剣術の手合わせについても話をしてくれると言っていた。
他の商隊がばらばらと出発し始めた。
シドさんが馬車から出て御者台に座った。
昼を挟んで持ち場を交代するようだ。
見回りをしていたニックさんが戻ってきて騎乗した。
私も馬車に乗り込んだ。
「お帰りなさい。見張りお疲れ様。
剣術の指導、宿に着いて夕食までの時間が空いていたらその時に、
空いていなければ朝起きて朝食までの時間で、という事になったわ。
手合わせを楽しみにしているそうよ。」
「ありがとうございます。嬉しいです。
早く宿に着きたくてお尻の痛いのを忘れそうです。」
「馬車は初めてなの?」
「はい。慣れるまでちょっと辛いですね。」
「慣れてきても長距離移動となるとなかなかと辛いわよ。
それもあって気を紛らわせる話し相手が欲しいのだけどね。
ある意味、『旅は道連れ』ね。」
「わぁ~、その道連れは遠慮したいですね。」
「今更逃がさないわよ~」
午後にはすっかり打ち解けて
気が付けば慣れない馬車の旅も楽しく過ごしていた。




