1 巻き込まれたのはどっち?
設定緩め 恋愛要素は後半
少し手直ししました。
私こと、水樹愛良は母が代表を務める小さな劇団の臨時要員をやっている。
中性的な顔立ちと女性にしては高身長の172センチという事で
男役もよく任される。
今日も人手不足という事で駆り出され青年期末の
冴えない茶髪のフリーターAを演じていた。
ほとんどの役回りはエキストラ。
なぜなら現役高校3年生、一応受験生である。
小さい頃から二人の兄と一緒に剣道と空手の道場に通い、
劇団員に混ざって必然的に演技の勉強もしてきた。
未だにこれといった目標もなくとりあえず大学に行ってから
先の事を考えようかと周りに流されて高校生活を送っている。
で、午前の公演を終え、短い昼休憩時間にコンビニへ行こうと
メイクもそのまま、着替えもせずに休日の街に出た。
裏路地を歩いていると同年代らしきの男女3人組が前方から歩いて来る。
狭い路地をお互い端に寄ってやり過ごそうとしたその時
いきなり眩い光に包まれ眩しさに目を閉じた瞬間浮遊感に襲われた。
浮遊感が収まりそっと目を開けた。
前方に立ち尽くす3人組。
周りを見渡せば違和感しかない世界が広がっていた・・・
いわゆる異世界ってやつ?
ダ・〇○ンチやラ〇○エロの絵画に描かれているような建物の内装、人々
そして扉の脇に控えた剣士たち。
暫し呆気にとられたように固まっていた人々が騒ぎだした。
「おお!召喚に成功したぞ。」
「4名も召喚できるとは!」
「以外に若い者達だな。」
「えっ、ここ何処?」
「まさかラノベでよくある異世界召喚てやつ?」
「ファンタジー世界?魔法とかある?」
三人組の会話?である。
そこで私は我に返る。
チートなんて持っていたら碌なことにならない・・・はず。
それなりにラノベやコミックも読んでいる。
そこで周りが落ち着く前に心の中で唱えてみる。
【ステータス】
・・・出た・・・
HP,MP共に5桁越え。
魔法全属性適正、言語解釈・会話、アイテムボックス、etc.
称号 聖剣士
おお~
ファンタジー!!!
んー、でも比較するもの無いからよく解らない。
この世界の平均てどんなもんかなぁ。
誰かのステータス見られたりするかなと、扉近くの剣士に目を向け
【鑑定】
と念じてみる。
(ベン・ハーティ 男 28歳 HP652 MP102 火属性魔法 称号 剣士)
目の前の召喚された3人を挟んで向こうに見える杖を持った
魔法使いっぽいご老体は?
(ジェフリー・ハドスン 男 55歳 HP88 MP855
召喚魔法、火属性魔法 称号 魔術師)
わー名前と性別まで分かっちゃうのか。
二人ともまんまの称号。火属性が一般的?
時間が無いからとりあえず考えるのは落ち着いてからにしよう・・・
【ステータス偽装】
念じて考える。
名前は そのままミズキ・アイラ 性別 男 年齢 35歳
HP・MPは2桁後半に、火属性魔法、称号 料理人に偽装。
うんうん唸って考えていると
「おい、おっさん大丈夫か。」
「私たち高校の同級生なんだけど、おじさんだけなんか、
その年が離れてるっていうか・・・」
「場違い?俺たちの召喚に巻き込まれたんじゃね?」
「(おっさんて…)あはは、そんな感じかなぁ・・・まいったなあ。
あのう、すみませんがこれはどういった状況なんでしょうか。」
「おお、これはすまなかった。よもや成功するとは思ってもおらず
しかも4人も召喚してしまうとは・・・」
「良かった、言葉は通じるんですね。」
「おじさん、年の割になんていうか若々しい声ですね。」
「ああ、昔からこんな高い声で、声変わりあったかなぁ、なんて感じ・・・。
それより成功したのが偶々なら元の世界に返して貰う方法は有るんですか?」
「もちろん、分からない・・・」
「言い切っちゃたよ。」
「無責任すぎませんか。僕たちは何のために召喚されたんですか?」
「それが・・・偶々ダンジョンから見つかった文献に勇者召喚の魔法の記述があって、異世界から人を召喚なんて出来るわけないとか
そもそも異世界なんて存在しないとかいう論議になったんだが・・・」
「その文献が500年前の魔王の存在した時代のものだったという事で
国王様に献上され、王城の上層部の者達を巻き込んでの論議になってしまったのだが、埒が明くわけもなく・・・」
「それならばいっその事、召喚魔法を試してみればよかろう、という事になったのだ。」
「事態の収拾を諮ってこうして召喚の儀が行われたというわけじゃ。」
「あなた方はすっきり解決したかもしれませんが
なんの前触れもなくいきなり召喚された僕たちはどうなるんですか。
いきなり見ず知らずの異世界に召喚され、家族や知人とも会えないなんて。」
「それは、何というか気の毒な事をしたとしか・・・
とりあえず適性を見せて貰えないだろうか。
こうなってしまった事には責任を感じておる。
いずれそなたらには適材適所の仕事に付いて貰いたい。
勿論、生活基盤が出来る迄の資金と多少の慰謝料は準備する。」
「現在では魔王の存在も確認されておらず、他国との紛争も起こっていない。
平和な時世と言って良いだろう。
そちらの若い御三方は学園などでこの世界の事を学ばれるのもよかろう。」
「私たちは元の世界では学生でしたから、学園に通えるなら取り合えずはそれが良いです。当面の生活の補償もしてもれえるみたいだし。ねえ?」
「ああ、まだバイトくらいしか仕事をしたこと無いし
この世界の事も全く分からないしな。」
「でも、この世界での自分の力って興味あるから適性検査は受けておこうかな。」
「ああ、魔法とかワクワクするもんな。」
「ではこちらの水晶に手を当てて『オープン』と唱えてください。」
「じゃ、ここは年上のおじさんからどうぞ。」
「えっ、そんな気を使って遠慮しなくていいのに。」
「まあまあ、どうぞどうぞお先に。」
「じゃあ、結果見て笑わないでくれよ。僕は巻き込まれただけみたいだから。
オープン」
ミズキ・アイラ 35歳 男 HP95 MP80 火属性魔法
言語解釈・会話 称号 料理人
「ほんとだ、料理人て・・・なんか可哀そう。一応火魔法は使えるんだ。
やっぱ調理場に就職決定?」
「じゃあ次俺やらせて。オープン」
タケル・マエハシ 17歳 男 HP3500 MP550 風属性魔法
言語解釈・会話 称号 剣士
「おお、HPが3500とはやはり異世界の方は桁が違う。まあ、剣士向きなので魔法の適性は魔術師の平均といったところですが。」
「そうか。俺は剣士に適性ありか。」
「じゃ、次私ね。オープン」
ミヤビ・シノハラ 17歳 女 HP800 MP2800 聖属性魔法
言語解釈・会話 称号 聖女
「ええー聖女ってラノベヒロインじゃん。良くもあり悪くもある役どころ?
どうなんだろ。学園に通うとして立ち位置難しそう・・・」
「自分の心構え次第だろ?次俺ね。オープン」
ケンヤ・シノハラ 16歳 男 HP1100 MP3300 土・水属性魔法
言語解釈・会話 称号 魔術師
「やったぁ、俺だけ魔法2属性ね。さすが魔術師」
「おや、お二人はお身内ですか?」
「一応、年子の姉弟です。あまり似てないけど。」
「そうでしたか。御三方とも素晴らしいです。ぜひ学園でこの国の事、剣や魔法の使い方を学んで頂き、近い将来その素晴らしい才能を生かしていただきたい。」
「あのう、僕はどうしたらいいですか?どこか料理人として働けるところを紹介して貰えるでしょうか?」
「ああ、そうじゃった。一般市民としてでは申し訳ないからのう。
とりあえず王宮の調理場で様子見で良いかのう。
暫く過ごしてみてからまた考えるという事で・・・」
「はい。わかりました。とりあえずはこちらの世界に慣れることを目標に生活したいと思います。王宮勤めならそれなりにサポートはして頂けるのでしょ?」
「ああ。そう思ってくれてかまわない。何か不都合があったら職場の上司を通して相談してくれ。」
「はい、よろしくお願いします。」
勤め場所の次は住む場所について考えて貰った。
王宮近くに地方からの勤め人用宿舎があるが、召喚された経緯とこの世界の生活に早く慣れて独り立ちしたい、という思いを材料に街中の民間の下宿での滞在を勝ち取った。
下宿代は無論、王宮持ちで・・・
ここで本当の自分の事がバレるのは不味い気がする。
もう少し仮の姿でこの世界の様子を探りたい。
その為には街の様子も知っておきたい。
王宮の調理場と言っても一か所ではない。
料理人の称号があるからと言っていきなり王族用の調理場なんかに入れるわけがない。
異世界から来たことは分かっている・・・だからこそ得体のしれない人物、と言っていい存在であるのは誰の目から見ても明らかなのだろう。
騎士団専用の食堂もあるらしいが
こちらも集団食中毒は避けなければならない職場だ。
上級役人はやはり重要人物や上位貴族がほとんどなので
得体のしれない者の出番は無い。
官舎の食堂も有るがこちらは朝夕2食提供で慣れないときついらしい。
とりあえず差しさわりの無い王宮勤めの下級役人用食堂に配置された。
下働きの者たちはほとんど弁当や軽食持参だそうだ。
料理人も下働きに近いが、残った食材などで賄を作るので弁当持参の心配は要らない。
異世界から召喚されたという事は混乱を避けるために
極秘事項とする事が決まった。
先ず、召喚されたその日のうちに就職先の食堂へと案内してもらった。
案内してくれたのは召喚に関わった内の一人だったが
食堂の責任者らしき人物に
「明日から見習いで入ってもらう事になったミズキだ。
田舎から出て来たばかりで泊まる場所も決まっていないから
誰か付けて早急に町で宿を探してやってくれ。
何か問題があった場合は魔術師団のジェフリー様に連絡してくれとの事だ。
後はよろしく頼む」
「あの、魔術師団に連絡ですか?」
「ああ。彼の遠縁にあたるらしいのでな。」
「分りました。」
関係のない知らない人に丸投げされた感半端ないんですけど・・・
先行きとても不安になってきた・・・
まあ最初から不安しかないんだけど。




