石像テロ
救は一に、今回の仕事は常東高で深夜行われる事を告げる。この校においてテロが計画されているというのだ。そしてテロに使われる手段も、やはり神生体によって行われるのだという・・・
「なんかソワソワしてて尚且つ嬉しそうじゃーん! どったの一ぇ?」
「っ!? 後ろからは卑怯だろ!」
今日も周囲の同級生から羨望の眼差しを受けて、翠場一は登校する。この目線を鬱陶しいと思う時期もあったが、相方の再が重く考えていない事がその際の救いとなった。
「まあ、良い事があったのは確かだよ。何というか・・・いいトコのバイトに受かったって感じ」
「・・それにしては浮かれ過ぎじゃない? 就活じゃないんだし」
「良いだろ別に。興味のある分野だったんだ」
「目線が泳いでるんだけど。隠し事はらしくな・・ってこらっ! 待てーっ!!」
「秘密―――っ!!」
神話無法地帯
第3話
『石像テロ』
教室で後ろの席に再がいるのは、恐らく一と彼女の仲を察した担任なりの気遣いだろう。だが、今はこの席順が厄介だと思える。
振り向かなくとも、疑い一色の目線が突き刺さって来るのが分かる。正直、授業には集中出来ない。早く終わってくれないかと念じる程だ。
「よしっ、屋上へ行こう!」
訪れた昼休み、大体昼食は教室でそのまま再と向かい合って食べるのだが、今日はそうは思えない。悪い雰囲気で弁当の味を忘れたくはない、そう思う位には食にはこだわりがあるのだ。当然ただ屋上に向かうのでは足跡を辿られる、だから自分なりに複雑な道筋を考えて通り、そして屋上へと辿り着いた―――
「おっ、一じゃないか。爽やかな外で一人飯を堪能したいクチか? ・・そういう気分ではない顔だね」
彼がこの校に来ている事情を聴くのは、二の次だった。再がここに来ていない事を確認した一は、安堵の溜息をつくのだった。
「研修という口実・・・ですか」
「本来なら教師という面目で入った方が動きやすいんだけど、僕19だしね」
「えっ20代だと思ってました!! ・・すいません」
「年齢は気にしてないから大丈夫だよ。むしろ早く三十路にでもなりたいぐらいだ」
そう言って笑う救の表情は、どこか寂しげに映る。彼の事をもっと知りたいのはやまやまだが、今それは聞くべき事じゃない・・・と感じる。
「何でこの校に来たんですか? 神生体がこの校に?」
「正確には来るかもしれない、って所か。この校の特徴って一、分かる?」
「えー・・・・っ、文芸の分野を除いたら平凡な高校、だと思いますよ」
「成程解った。この校の事はまだ初心者だからじゃあ、今日の夜10時あたりよろしく!」
「へっ!? そんないきなり」
救は逃げるような挙動で屋上を去る。
「ガールフレンドがお見えだよーっ、大事にしなーっ!!」
そして入れ替わるかのように、
「見つけたわよ一っ!! 何一人飯と洒落込んでんのよーっ!!」
*
「ああ、助安様、って噂のあの研修生さん?」
「うわ、なんて安直な名前」
やたら人の少ないその日の放課後の、美術部。男子はさておき女子が再を除いて全くいないのは、助安件人と名乗る研修生目当てなのだ、との事である。
「確かに美形ではあるけど・・アイドル化する程かなあ?」
「外から来た人って何だかんだ注目されるからねー。イケメンでデキる人だったら尚更じゃない?」
窓から見える景色はちょうどグラウンド。一人でサッカー部員達を軽やかに翻弄する彼の姿を見ると、まあ、そうかと根拠の無い納得を感じる。
「てか珍しいな。絵描いてんだ」
「一応あたしも部員っ! 実は目指してるモンがあるんだから」
「芸能界にでも行けばいいじゃん。ビジュアル良いんだし」
「それは無し。怒るよっ」
一瞬見せた再のその影を、つい察してしまう。何とも言えない寒気を、一は体感した。
「・・・・ごめ」
「罰ゲーム。謝んなくていいからあの人との関係、あるんでしょ? 教えて」
*
「来れたじゃないか、感心感心。・・その様子だと万全、って訳じゃ無さそうだけど」
そうして迎えた本日22時。夜更かしなど慣れているのに、何故か心身は疲れを感じ、それは間抜け面と評していい顔にも出ている。
「久しぶりかも、ですっ。かあさ・・母と言い合ったなんて」
「良い感じの嘘で乗り切れなかったのか?」
「無理ですよ、母には嘘は通じません。冗談だって通じないのに」
それは一自身、嘘や冗談が下手である事の表れでもある。欠点とも美点とも取れる要素ではあるが、一本人は今この要素を嫌っているのは見て分かった。下手と言うよりは嫌いとも言えるだろう。
「余計な詮索はしないでおくよ、お疲れさん。さ、行こうか」
「とは言っても張り込みみたいなものだけどね」
「何でそれで美術室なんですか」
「ここがカギになるであろう事件だからだよ」
「事件?」
「まずは・・・『ガーゴイル』って知ってる?」
「ああ、普段は石像のフリしてて侵入者が近づくと動いて襲い掛かるっていう」
「合格。何となくの知識はバッチリだね」
一言余計な言葉があった気がして、一は少し不満気になる。
「ガーゴイルってのは生物の名前と言うよりは、技術の名前だね。術式を施した無機物に動物の体液を染み込ませ、動き出すように組成した自立兵器だ」
「そんな兵器がこの校にあるって事ですか? ちょっと飛躍し過ぎじゃ」
「・・証拠が来たみたいだね」
救に促されて窓から外を見てみると、一台のトラックが校へ正面から入って来る。車の色が白一色なのが少々気になるところだが――――
「どこのトラックなんですか?」
「見て分からない?」
「何も描いて無いですけど?」
「そういう事! じゃあ準備しますかっ」
一は救から、ビデオカメラとボイスレコーダーを手渡された。
「これはどういう・・・」
「一の今回の仕事はこれから安全な場所に隠れ、それでいて今晩ここの様子を逐一撮影・録音する事! くれぐれもそれ、壊さないでね」
状況の飲み込めない頼み事に、一は何とも言えない溜息を漏らした。
*
「なあ、本当にこんな仕事で儲かるのか? 危険なのは承知だけど怪しすぎるだろ、夜中の学校に石像置くなんて」
「逆に言えば奇妙でもそれだけで金が入るんだぜ? 美味しい話もあったって割り切ろうや。・・・よう判らん奴も同行してるけど」
「オイソコノ人間ッ! ウルサイカラ黙ッテロ! 金ノ話ナラチャント渡スンダカラヨォ」
「すっ、すいません・・・」
「美術室、着きましたけど・・・どこに置くんすか」
「考エテ無カッタナ・・・ドウスル?」
「ドーセドコニ置イテモ同ジダ、真ン中ニデモ置イトケ」
「なーるほど、学校でテロ、それも美術系の所で発生してるってのはそういう事か」
「何ィ!? マッ眩シッ!!」
美術室の照明が、一斉に点く。
「確かにガーゴイルとして造られた物体は彫刻然とした造形が多い。そりゃあ美術室に潜らせておくには違和感は無いね」
美術室に、獣の彫刻、否、ガーゴイルを運んできた人数は四人。内二人は人間の男性なのは分かるが、後の二人は、
「オマエ臨者ダナッ!! 商売ノ邪魔シヤガッテ!!」
「その少々片言似の口調・・・ゴブリンだね。お前達に一応教えてやろうか。金の為の器物損壊、窃盗行為、あわよくば殺人。それはもう商売じゃなくて犯罪というんだよ」
「黙レ殺スッ!!」
四人の内独特の口調の二人が、覆面を外し、刃を持って救に襲い掛かる。
ゴブリン
分類:準妖精人種
特徴:外見的な特徴は小柄な体格に緑の肌色。種族としては全体的に真っ当な知能は低いが、手先は器用で悪知恵に優れる。
「いかにもなゴブリンらしい動き、少々すばしっこいがそこを注意すれば・・」
容易い、と言いたげな涼しい目でゴブリンを刃をかわし、サンダースピアを生成する。そのまま応戦に入り―――
「チンピラレベルだ」
「痛エッ!! ソレに身体ガッ!!」
「クソォ・・・オレ達ガヤリ合ッテモ敵ワネェカ」
戦闘技術には天と地ほどの差があった。それを悟ったゴブリンは懐から機械めいた物を取り出し、
「目ニモノ見セテヤルッ! 奴ヲ殺セッ!!」
スイッチを押すと同時に、石像の目が光り、動き出し、咆哮を上げる。
「起動させたか・・! そりゃあ教員とか学生には対処できないだろうね」
ガーゴイル
分類:自立起動魔術兵器
特徴:石像に生物の情報を埋め込み、所持者の指令によって起動する。埋め込まれた情報や造形によって役割は様々。
立ちはだかる獣人型のガーゴイルの後ろで、それを運んできた男二人とゴブリン二人が逃げていく。犯行の元をみすみす逃すのは悪手だが、ガーゴイルの攻撃をかわしつつ連中を追う余裕は、今の状況では無い。
「まずは探りってところか・・・溶岩槍、ボルケイトス!!」
救の詠唱と共に、槍は高熱を秘めた赤い物へと変化を遂げた。
ガーゴイルが攻撃を仕掛ける。・・だがそれはほぼ剛腕を振り下ろすだけの単調な戦法だ。とはいえ、
「っ! それなりの材質を使ってるじゃないか」
高熱の槍であってもガーゴイルに決定的な傷は付かない。
「だったらこっちもそれなりの物理で! ・・あんまり好きな戦法じゃ無いけど」
救は槍を手放し、何かを担ぐかの様な構えを取る。
「召喚神具、大鎚! 雷神鎚、ミョルニール!!」
詠唱と共に、その腕の中には電撃を纏った鉄鎚が顕現した。
「重っ・・・やっぱりキツイね、このタイプは」
扱いは槍のようにスマートにはいかない。それなりに腕力のある救であっても、これを持っての戦闘は引きずりながらの動作を強いられる。だが、
「反撃・・・開始っ!!」
身体を回して振るい、叩き込むその一撃は、あっさりと襲い掛かるガーゴイルの片腕を粉々にする。
「やっぱり怯みはしないか、休憩もさせてもらえないね」
痛覚等の感覚を持たない、生物ですら無い「システム」なのだから当然である。
「明日はちょっと肩が痛むかな? じゃ、ちょっと過激にやるか!」
電撃を纏った大鎚・ミョルニールは、無論武器単体の威力は強靭である事に異論は無い。それに加え、その電撃を収束させる事によって鎚を覆う障壁を作り、さらにその強靭さを増す。
「さて、どこから崩してくか!」
一直線に向かってくる救を警戒し、ガーゴイルは跳び上がる。
(後ろを取る? 早とちりしすぎだね、隙を突くならせめて振るってからにしないと)
着地して救の背に向けて伸ばされるガーゴイルの残りの腕は、
「お前みたいな魔術兵器は生物で無い以上、基本頭部は必要無い。基本中の基本知識。騙し討ちしたかったんだろうけど超素人なやり方だったね」
余裕を含ませた動きをもって粉々になった。
*
「はあっ・・・何でこんな事にっ、金が入るんじゃなかったのかっ」
「四ノ五ノ言ウナッ、臨者ハ何トカデキタンダ、一旦態勢ヲ立テ直シテ、」
「夜な夜なセコいテロ行為お疲れさん。悪いんだけどお縄になってもらおーか、こっちも仕事なんでね」
一人の男が、明らかに逃亡犯の行く手を阻むかのように校門の近くに立っている。
「オ前モ臨者カ!? コッ殺スゾ!?」
「校内で圧勝してるアイツより立派なモンじゃねーけどな。てか殺すとか言っといて手が震えてんじゃねーか、殺しどころかケンカも素人だろ?」
ゴブリン達は奇声を上げて斬りかかる、が、何ともそれはたどたどしく読み易い。隙を突くのは容易く、腹に簡単に拳が届く。が、
「あっ、ズルい野郎だな鎧持ちか」
「驚イタダロ! 大金ハタイテ買ッタ上物ダッ!」
隙を突いて首を取る・・・つもりだったのだろうが、やはりその手の動きは荒い。
「掠ってもいねーだろーが、チャンスだったのによ。じゃ、今度はこっちの番だ。安物だが、痛さは保証するぜ」
そう言って取る構えは、格闘術によるものではない。だが、浄姫燈羽の、否、臨者・浄にとっては馴染みのあるやり方、つまりは喧嘩戦法だ。
「かったくるくて唱えたかねーが・・・召喚神具、手甲! でもってっ」
相手の攻撃をかわしつつ、神具の名を唱える。
「凍甲、青竜爪!」
青く輝くカギ爪が浄の両手を纏い、
「ちょっとお痛してもらうぜ!」
再び腹に一打を叩き込む。
「ウグアッ!? 何ダコレッ」
今度の一撃は違う。殴りつけた部分から鎧が凍っていき、やがて砕け、そのまま拳が直に腹に届く。
ゴブリンは何とも間抜けな声を上げながら宙を舞い地に伏し、気を失った。
「さて、もう一人の・・・って土下座か、早えな」
「おっ、部屋での状況は撮れてるね。ありがとう、お疲れ様」
「これ何か意味があるんですか?」
「一応こういうテロ防止も仕事だからね。こういう事記録して提出しないと民間の信用も支援も受けられない、事案が現実離れしてるからね」
確かに今回の件に限定しても、深夜の学校で石像が暴れた・・一般の感覚なら笑い飛ばされて終わりである。そう考えると魔法に近い技を使う臨者は華々しく見えても社会的には裏方に近いかもしれない。
「世知辛い・・・じゃあ今まで証拠の提出はどうしてたんですか」
「オレらは火消しに集中してるからな、状況次第で信じてくれる奴もいたし逆に掌返してあれこれ言う奴もいた。どっちにしろそんなに儲からねえさ」
「だから一には感謝してるんだ、記録係として。僕等の懐事情も少しは余裕が出るかもしれないし、後は近いうち報告書も書いてもらうかも」
「報告書って・・高校生にそんなの任せて良いんですか?」
「うちは出来る人はどんどんこき使うよ? てか創作者志望なら書く事にも慣れないとね」
待ち受けているのは未知の世界だ。だが何故か一の感覚は前向きだ。ただ学校に行って勉強するだけでは出来ない体験がこれからあるのだと感じた。
「・・・さて! 通報した警察も来た事だし、まだやる事はあるよ! 連中への尋問や現場の処理、後は夜食だね! 張り切ってこーっ!」
「夜食!? 食べるんですかもう夜中ですよ」
「あぁこいつ細いクセに結構食うぜ。仕事ある日は大体そうだからな」
既に時刻は午前1時。一は今夜はまるで眠れない事と、帰宅は夜明けごろになるかもしれない事を覚悟した。
to be continued・・・




