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宝を護る幻獣

 臨者という非日常の世界、その一端に触れた一。その感覚が忘れられず、当事者である救に踏み出す事を頼み込む。

「えー・・・っ、どちら様?」

「翠場一君、のお母様ですね? 警察の者で救見と申します。一昨日の害獣の件で彼に伺いたい事があるのですが」

*

「顔が良いくらいで騙されるなんて・・・」

「僕って所謂イケメン、の類なのかい? 自覚無いからそうなら嬉しいんだけど・・・てかあれで騙す騙されるは違うと思うよ、僕の目はちゃんと見てたし、詐欺には引っ掛からないと感じたけどね」

 てっきり専用車か何かで来るかと思ったのだが、今乗っているのは安めの一般車だ。

「それで、今はどこに向かってるんですか?」

「とりあえずは僕の屋敷。今聞きたい事はある?」

 山ほどですよ、と即答したいところだが、何やら前の席の運転手が好ましくない雰囲気を放っている、矢継ぎ早にあれこれ聞くのは拙いのかもしれない。



「何も無いですよ!?」

 30分程が経ち、到着したそこは森の中にある殺風景な駐車場である。周囲を見渡しても木々ばかりで建物の一つも見えない。

「そりゃあね。都合良くご近所様に魔法使いが・・なんてある訳無いでしょ」

「じゃあ何でわざわざ車で」

「本題はこっからさ」

 運転手の男は地面にある鍵穴に鍵を差す。



「——————っ!!」

 自分でも何を言っているか分からない、叫び。車とその周辺の地面がエレベーターの如く降下し始めたのがその原因だ。

「びっくりしてくれて何より。屋敷への秘密の地下通路ってヤツさ。移動が面倒くさいから滅多に使わないんだけどね」

 車はある程度の低さまで降りた後、文字通りの地下通路を走り、やがて昇降機によって地上へと出た。

*

「ようこそ。ありきたりな外観かもしれないが一応僕の屋敷だ」

「・・・確かにそうですね」

 いかにも絵に描いたような金持ちの家、という感じだろうか、第一印象は。洋館風の装飾は、一の感覚では嫌いではない。

「まぁ、とりあえず上がって。認証の類は無いから、気軽に入れるよ」

 そうは言われても警戒位はする。・・・正門の扉を開けるまでに思った事は、やたらとスペースが広い、という事だ。とりあえず庭と思しき場所は学校のグラウンド位はある。手入れはちゃんとされているようには見えるが、これだけ広い土地を持つ事に何のメリットがあるのだろう。


「という訳でまずはようこそ、翠場一君。僕の本名は救見世果。改めて自己紹介だが神生体の管理を行う臨者の一人だ」


神話無法地帯

第2話

『宝を護る幻獣』


「どした、少年?」

 ある程度予想はしていたが、確かにここはそういう所だ。

 あちこち猫や犬が駆けていたり、フクロウが佇んでいるのは別に普通だが、その中に立って会話をする者が混じっていたり、全身をローブで纏って宙を舞う人型の何かが忙しなく動いていたり、同じく宙を舞う人魂のような者が会話をしていたり。

「実在するんですね! お化け屋敷って」


 その直後である。

「痛っ・・!?」

 スポーツ選手の投球の如く飛んできた本の直撃は、ともすれば凶器にも成り得る激痛を一に与える。

「人様の家に案内されといてお化け屋敷はねーだろうが。訂正しろガキ」

 遂に口を開いたのは、運転手を務めていたしかめっ面の男だ。

「浄先輩。発言は本当それだけど暴力は良くない、悪意の無い来客には」

「悪かったな。お前みてーな甘い頭はしてねぇんだ、知ってるだろ」

「・・・すみませんでした。・・この人は?」

 この少年はちゃんと謝れるようだ。男二人は少しばかり顔を緩ませる。

「彼は浄。まぁ、僕の雇った執事だ。プライベートじゃ先輩なんだけど」

「そこまで紹介しなくてもいいんじゃねぇのか。ビビッて辞めるかもしれねえし」

「・・とまあ、口は悪いがとても頼れる男だ。そんなに怖がらないでくれ」

 深く紹介しないのは納得できる。まだ一は客の一人という、バイトや見習いのレベルにはまだ至っていないのだから、馬の骨かもしれない人間にあれこれ話すのはこんな屋敷の主人としてはまず無いだろう。

「じゃあ早速仕事見学・・・と言いたいところだけど、まずは君の事を聞かせてよ」



「へえ、創作活動、か」

 見下さず、期待するでも無く、救はただ真っ直ぐな視線で一の目を見て話す。同年代はさておき、こんな目線で会話してきた年輩はいない。

「何でも良いから話が作りたくて。それもドラマみたいなのじゃなくて」

「ファンタジーもしくはSF、って所か。確かに若者は好きだよね、非現実的な物は」

 非現実、それはどの境界で示せば良いのだろうか。目の前の彼等が言う神生体というのは、自分達が知らなかっただけで彼等にとっては「仕事」扱いなのだから日常的、つまり現実そのものだ。

「でもこの前のあれを見てしまったら、何か俺の中の現実感が変わったみたいで。それを創作に表せないかと思って」

「じゃあ何だ? チャンネルでも立ち上げてオレ達の事を暴露でもするか? まぁそうしようモンなら後日てめーの頭が吹っ飛ぶけどな」

「・・先輩の事は気にしないで。でも僕達は生死に関わる仕事をしているつもりだ。それを面白半分の感想文で世に出されてしまったら笑ってはいられない」

 自分の中の沸き上がる感覚が伝わっていない事に、一は危機感を感じる。本気が遊びに受け取られる、創作者の壁の一つだ。

「あなた達の事を公表するつもりなんて無いんです。ただ俺は、この世界を見てしまった事を夢みたいな体験で終わらせたくない、糧にしたいんです」


 十秒ほど、救は思案するように目をつむり、再び一の目を見て話す。

「全部じゃ無いけど言いたい事は分かった。ついて来て」

*

「広っ・・・」

「ここは獣舎。かつては色んな幻獣を住まわせてたんだが・・・今では彼一頭さ。来いっ、シリウス」



 ユニコーン

 分類:一角馬型幻獣

 特徴:車を易々と超える走力と馬力を誇る。清潔な香りを好み、その角には強力な解毒・退魔作用がある。


「その表情は・・・今更驚く事でも無いだろう?」

「いや、それでもこんなメジャーどころも実在するんだって」

「徐々にではあるが生息域も減ってるんだけどね。しかし君を見ても暴れないとは、僕がついてるとはいえ素質はあるかもね」

 普通の馬よりかは二回り大きい。伝承は事実と違うという事か、はたまたこの個体は育ちが良いのだろうか。

「さて、仕事場に向かおうか」

「・・このユニコーンに乗って、ですか?」

「僕のシリウスは大きいから二人乗りぐらいは大丈夫。とても利口だし君を嫌がっていないから振り落とされる心配も無いよ」

 科学の時代に、馬に乗って出勤するなんて。


 だが一の疑いは、幻獣の力の一片に触れる事で、あっさりと崩される事となる。

*

「なっ何なんですかこれえええっ!?」

「ちょっと甘く見てただろう? これが幻獣の力って奴さ。動物の力を凌駕してるからこそ、そのカテゴリーが与えられるっ」

 救と一を背に乗せ、シリウスと名の付くユニコーンは地を堂々と駆ける。それは高速道路の自動車を何十と容易く追い越し、足取りも躓きや踏み外しの兆候は全く感じられない程に正確だ。

「それでっ、どこに向かってるんですか?」

「遠いどっかの山の頂上、としか言い様が無いね。君達の町から新幹線で行けば、一時間は掛かるんじゃないかな」

 そんな距離を、このユニコーンは駆けられるのか。救の涼しい表情から可能なのだろうと思うが、身体に当たる風の感触は、今は不安を増す要素にしか感じられなかった。

*

「屋敷からで掛かった時間は、大体50分! 券をお金払って買う手続きがある分、新幹線より効率がいいだろう?」

「でも風に当たり過ぎて、疲れますよ・・・」

「僕に付いて行くんだったら、いずれ慣れるよ。さて登ろうか」

 息が切れる寸前まで来ているが、数分の休憩すらも与えてくれなさそうだ。山道として開拓されているから、登る事自体は容易なようだが。


「ユニ・・シリウスは、あの場所に置き去りにして良かったんですか?」

「置き去りは少々心外な言い方だね。後ろを任せただけだよ、下手な番犬よりずっと強いから」

 それにしても随分整備された山道だ。頂上に着くのが容易なのはありがたい、それは良い。

「一体どんなのと戦うんですか?」

「戦う? 臨者は別にモンスターハンターって感じの役職じゃないよ。仕事によってそういう一面があるだけだ」

「でもこの前は魔法みたいな武器を・・」

「あれでも市販の安物なんだけどね。ここだけの話、僕は別に臨者としてそれほど稼げてないんだよ。それに君の言うところの怪物の討封は、もっとキャリアのある臨者に回ってるさ」

「苦労があるんですね、あんな屋敷持ってて」

「どういたしまして。さて、もうすぐ頂上だ。正確に言えばてっぺん付近の大穴なんだけど、報告が正しければ」



「待ってましたよ、大将!」

「彼は、まだ穴に陣取ってるか?」

「頑固に通してくれやしないんす。まるで何かを守ってるようで」

 六人の作業着姿の男が、救と話している。割とスムーズに会話が出来ているようで、ある種の信頼関係を感じさせた。

「それがまぁすごい迫力で。若干暴れはしたんですが、大ケガが出てないのが幸いでさぁ」

「・・あなた達に怪我をさせたら、色々と大変だからね。一、これから中に入るよ」

「僕もですか?」

「当たり前! その為に連れて来たんだから」



 グリフォン

 分類:配合型大幻獣

 特徴:鷲に酷似した上半身と、ライオンに酷似した下半身が外見上の特徴。財宝や希少種を始めとした、「価値のある者」に対しての庇護本能を持つ。恵まれた体格による戦闘能力・飛行能力は高く、時としてその羽根を用いて衝撃波を伴う突風をも放つ。


「何ともまたメジャーな・・・」

「元は父の代から屋敷にいたんだ。名前はカノープス、ちなみに雄」

 宝物を守る、守護獣。RPG的に言えば今一の眼前にいるのは正にそれだ。

「話は遡る事約一か月前、彼に乗って仕事から帰る途中、この山を通りかかった。金の匂いとやらを察知したんだろうが・・・ここ掘れワンワン的な仕草を見せてね」

「じゃあここって、所謂金鉱?」

「そういう事だね。・・・まあ、それなりの金とはいえ掘り当てたのはザックザクって程では無かったけど。それで、最後の金を掘ろうとここらに来た途端、カノープスが暴れだし・・・ここに至るって訳だ」

 カノープスと名付けられたグリフォンは、ただこちらを真っ直ぐ睨んでいるだけだ。警戒してはいるが、逆に襲いかからんとする意思は感じられない。

「でもここにある金はもう僅かなんでしょ? それだけの為にあんな警戒して居座ってるなんて」

「そう思うよね。という訳で一、君の出番だ」

「どういう訳で!? ・・って」

「僕は一応彼の未熟な主人、採掘班はれっきとした大人。当然幻獣と人間には歴然とした力差がある訳だが、それでも成長した人間は何をやらかすか判らない。・・情けない話だが恐らく向こうへ行けるのは君のような未成熟かつ無害そうな子供、という話だ」



「よく断りませんでしたね・・・あの少年」

「本当に。好奇心もしくは冒険心が人より強いんだろうね。それが無謀に直結しなければ良いんだけど」


 救の推察通り、一が近づいてもカノープスは睨みもせず、唸りや身構えも起こさない。

「やっぱり俺が無害そうだから・・? でも何か、それだけじゃ無さそうな気がする」

 そう考えを進める一因は、カノープスの目線である。前述の通り彼は睨みはしない、のだが、何やら観察をするかの目線で一を見つめているのだ。


 そして、カノープスは動いた。

「奥に行け・・・って事?」

 脚と尻尾を横に動かし、スペースを作る。その奥には、大人ぐらいの大きさが辛うじて入れるような、小さな穴が。


 意を決して入り、5分程歩いた先。一は、カノープスが頑なにここに居座った理由を確信した。



 すねこすり

 分類:丸獣型妖怪

 特徴:犬とも猫とも取れる、丸みを帯びた姿の妖怪。人間の足の間を好む、極めて無害な習性であり、生態である。夜行性。



「なるほどね。この家族を守らんとしていた訳だ」

「でも何だってこの山の、洞穴の中なんかに」

「すねこすりは今日、希少種なんだ。生物としては非力で、人でも簡単に捕まえられる。じゃあ何で妖怪という、神生体と扱われてるかというと、この子達は夜行性である以外、生息条件を選ばないんだ」


 一が連れ出した4匹のすねこすりの家族は、嬉しそうに一の足の間を回っている。一見すればただの愛らしい動物に見えるが、

「それで希少種って事は・・・」

「乱獲、だね。非力なのに生息域の広いこの子達の身体の部位は、研究対象にされたり、体温調節に欠かせない高価な衣服の材料にされる。人里を離れて暮らすのも有り得る話だ」

「・・・しかしどうするんです大将。言っちゃあ何ですがこの事を大っぴらにするとこの個体も」

「普通に金塊があった、で誤魔化すさ。しばらくこの子達は家で引き取って、タイミング次第でちゃんとした所で守ってもらう。それで良いだろ、カノープス!」

 カノープスは堂々と立ち上がり、話に納得したかの様に咆哮を上げる。救や作業員が安堵したかの表情を見せる中、一はどこか疑うかのような顔色だった。

*

 その疑念は、屋敷に戻っても晴れず。

「どうした? 少し納得いかない、って顔だね。鉱山から引き揚げてからそんな感じに見えるよ」

「・・ただ保護する。それだけで良いのかな、って」

 救と浄は少し目線を見合わせると、何かが分かったかの様な表情をする。

「少し酷い事言うかもですけど、俺あんまり希少動物の保護って・・乗り気がしないんです。主を絶やさないっていう理由は分かるんですけど、例えば研究対象とかって生態を調べる上では大事じゃないですか。他にも高性能の衣服の材料とか。その方面で需要がある存在なら、絶滅しないなら一匹や二匹ぐらい」

「なるほど。若者らしい現実的・・・っぽい主張だね」

「けど分かってはいねーな、知らねえから」


「先ず研究対象として、だけど。たしかに昔は純粋に幻獣の生態を調べる為にそれなりの数のすねこすりが捕獲される事はあった。ところがね、実は昨今のすねこすりの捕獲理由で研究目的ってのは違法実験を行う為の虚偽の発言が多くなっている」

「違法実験って・・・」

「夜行性である事、人間の足の間を好む事、生息条件を選ばない事。これに目をつけて、爆弾等を埋め込まれてテロの手段に使われた事が多くあったんだ」

 無垢な存在に爆弾を仕込み、人の間に潜り込ませ、起爆させる。所謂爆発テロ。人間の子供の身体に仕込むやり方が存在した事ぐらいは、一もテレビの報道番組などで知ってはいる。

「人間よりも小さいから使い勝手が良いし、同じ人間じゃないから罪悪感も少ない。イカれた理論武装だが、それでもそれを使い続けてるクズの報告はたまにオレ達の所にも来る」

 要は人間に行った暴挙、それが別の種族にすり替わっただけの事である。

「それは衣服の材料の件にしても、だ。高性能の衣服だから当然普通の衣服よりも金銭的価値は高くなる。・・・もうここまで言えば分かるよね」

 一は、今部屋を駆け回っているすねこすりの親子を直視出来なくなっていた。無知から来る無神経さ、人よりも感性があると勝手に思っていた自分が心底恥ずかしくなった。

「君はこんな世界を知らなかった一介の高校生だ。無知は罪、っていう言葉があるけど、君は知る事でそれ以前の自分を恥じる事が出来た。それは糾弾される事じゃ決して無い」

「じゃあ、俺はどうすれば」

「そんな暴挙と戦うのも僕ら臨者の仕事であり、存在理由であり、使命である。・・・まあ付き人見習いその他諸々にいきなり高いハードルを要求するつもりは無いけどね」

「・・・・え?」

 今サラっと重要な事を言われた気がするが。

「鈍いガキだな。・・・オイ本気なのか? こんなのを採用するって」

「今日の一件で必要な要素である、と判断したからね。今の話で反省の素振りゼロだったら落としてたけど」

 正直、嬉しい事ではある、だが呆然ともしている。

「何で俺みたいな無知な奴をっ」

「伸びしろがあるからだよ。それ以外に何か理由要る? 最初からデキる人間なんていないでしょ、特にこの世界は」

「————ありがとうございますっ!!!」

 素直に出た行動と言葉が、それだ。

「・・・土下座かよ。まぁカッコよくねーが、変にスカしてる奴よりは正直で良い」

「一応言っとくと、この世界は命に関わる事が日常茶飯事、ぐらいには厳しいから。首を突っ込んどいて今更泣き言は許さないから、お互い頑張ろ」

「・・・・はい」

*

 日中体験した、異世界に来たかのような出来事。

「・・・でも、夢じゃないんだ」

 家に帰るときに乗せてもらった、グリフォンの感覚がまだ残っている。そこに恐怖を示す感覚はまるで無い。

「神生体って言ったな。次はどんな幻獣とか、妖怪とか・・・出てくるんだろう」

 それはともすれば寝る前の絵本を待つ、無邪気な子供の感覚だ。当事者に厳しい世界と釘を刺されても、この興奮は冷める事は無い。

 そうして、未だこの世界の真意に気付く事無く、良い夢に期待するかの心理のまま、翠場一という男子高校生は自室で眠りへと落ちた。




to be continued・・・


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