勇者と聖女は恋に落ちるもの?
「え?な……なんで?」
「すまないな……シャーロット。俺の為に――――」
『死んでくれ』
「へ?何……を言ってるの?」
ドンッ
「痛ッ……痛い……何で…………なんで私の目の前で……あの2人は……………抱き合っているの……よ」
ここは魔王城、魔王対勇者の戦いが始まり、約1時間が経過した。戦局は魔王の方が遥かに強い。足掻く勇者に苛立ちを覚えた魔王は脅し目的で『いてつくはどう』を発動する。
そして、1人の女は床へと倒れ込み、後ろでは勇者と聖女が抱き合い涙している。倒れた女は2人の姿を見ながらゆっくりと視界が暗くなるのを感じる。
『愛の劇場』は何処へでも出張し開催するのがウリである。
「おい、おい起きろ、まだダメか……もう少し……やるか」
「ん……痛い。」
「おや、目を覚ました。大丈夫か?」
「んっ……あなたは…………ひっ……ま、ま、魔王?」
「まあ、世間ではそう言われているが一応名前があるのだぞ」
「……………………」
「………………………」
沈黙が2人を包む。
「魔王様?名前は?」
「あぁ、俺の名前かアリエルだ」
「私は、シ」
「シャーロットだろ」
「え?何故知ってるの?」
「ん〜。まぁ、そうだな秘密だ」
「ここは?」
シャーロットは辺りを見渡す。必要最低限しかない殺風景な部屋だった。しかし、ベッドは広くフカフカだった。
「ここは、私の寝室」
「え……私はここで何を?」
「大丈夫だ。何もしていない」
「そうではなくて、私は死にかけのボロボロだったわよね」
「そうだな……私のベッドは君が汚したな」
「すいません……あっ……私の大事な」
そっと自身の腹に手を添えるシャーロット。
「それも大丈夫だ。危なかったがギリギリの所にいる。さてどうする?」
「どうするとは?」
「助ける事も……逆もできる」
「…………そんなの助けて欲しいに決まってるわ」
「いいのか?父となるはずの男は他の女をとり、君をわざと私の攻撃の前に押し出したぞ。あの勇者は、君をだな......」
言葉が出ない魔王アリエル。
「いいのよ。前からわかってた。勇者と聖女の関係を。よくある話よ。魔王討伐への旅、苦楽を共にし生死を彷徨い共に生き延びる。次第に惹かれあい、最後は2人の愛の力で〜なんて話。だから言えなかったのよ……彼が隠れ彼女と会っていたのを知ってたから」
「勇者とは何処で知り合った?まぁ、食べながら話そう」
魔王アリエルの差し出された食事を食べながら話す。
「このスープ美味しいわね」
「口に合って良かったよ。」
勇者とは王都の花屋のバイト先、配達に行った帰りに変な男達に絡まれて……その時助けてくれたのが彼なのよ」
カラン……テーブルに落ちるスプーン。
「すまないな……手が滑った。続けて」
「それから仲良くなり、私に魔法の才能が見つかり……彼もまた勇者にね。その頃には私は恋人であり、修行も共に行い大切な仲間でもあったわ。王城で訓練し五年が経ち、魔王討伐の旅に出たの」
「そうかあれから5年か」
「最近なのよ。この子に気づいたのは」
「勇者には?」
「あのね。彼女……聖女は私の国の王女様でね」
「先程の話の通り勇者は聖女であり王女を選んだのだな」
「正解よ」
「しかし、勇者は色んな意味で勇者だと……俺は思うぞ」
パンをムシャムシャ食べるシャーロット。
「ありがとう。王女様は今年で40歳ですからね。私と勇者よりも20歳上です。でも……可愛らしい方ですわ」
「まあ、歳上好きも歳下好きもいるからな愛に年齢は関係ないと昔から言われている」
「ねぇ、勇者の子を持つ私は、ここで終わり?」
「いや……まどろっこしい設定はオチが難しい。ストレートに話すぞ」
「……はい」
「先ずは少し訂正する。お前を助けたのは俺。可哀想にピンクのワンピースはボロボロになったな。よく似合っていたのに残念だ。お前は俺が助けた後、警備隊を呼ぶ為に目を離した隙に勇者が声をかけた……あの男と君に乱暴をしようとした男達は仲間だった」
「え……あの時を見てたの?」
「君の後をずっと彼らは歩いていたんだ。俺はカフェで茶を飲み可愛らしい娘だなと目で追っていたんだよ。そしたらさ……君を物陰に……引き摺り込んで」
「魔王なのにカフェ?」
「あぁ、世の中の流れを知る為だな……」
「なんだか……ふふっ……カフェに魔王ね」
「どうした?」
「御伽話みたいね」
「ある意味、世の中は御伽話で出来ているからな。話がそれたな。それでだな、あの日、君を助けたのは……君に一目惚れをしたから。花束を抱え嬉しいそうに歩く君、花束の代わりにお菓子の袋を抱え同じ道を逆方向へ歩く君。男達に囲われ絶望に染まる君、助かり安堵し涙する君を間近で見た。そしてだな......恋に落ちた君を一日で見たんだ。残念な事に君が恋に落ちたのは勇者だったがね。あの日から君が忘れられなかった。そして先日、恋人に裏切られ傷つき命が消える瞬間の君を見た。だから……私は君を捕まえておく為にね」
「捕まえる為に?」
「私の命を分け与えた」
「は?どうして?」
「だから、君に一目惚れをしたから」
「わかったわ、でもね。私はあなたに殺されそうになったのよ。そう簡単には恋をしないわよ。私は勇者を……今でも……愛してるのよ」
「勘違いは正さないと取り返しがつかない事になルカら言うぞ。私が最後に放った魔法は攻撃魔法ではない、つまり君を……君達を殺そうとしたのは勇者だぞ」
「は?」
「私の魔法『いてつくはどう』は君が自分達にかけた有効な魔法を打ち消す効果だ」
「ふふっ……そうだったのね」
「ん?どうした?」
「今頃、勇者と王女であり聖女はさ……アレよね」
「あぁ、巷で話題の『真実の愛』が魔王を討ち取ったと言う流れに国民は祝福ムードだ」
「…………そうよね」
「君は私に……いやこの際どうでもいい事だ。私と共にいて欲しいと思うのだか」
「断ったら?」
「それでもいいのだよ」
「貴方に寿命は戻せない?」
「あぁ、君が幸せなら問題ない。君らは私が分け与えた寿命分は生きていけるから、ここから出て幸せになってもいいんだ」
「…………いや……その私には待つ人も帰る場所も…...なくてですね」
「ちなみにだが、私の妻ではなく、まずは恋人……いや同居人となるなら、庭に花を植えてもいい。世界中の種や苗木が手に入るし、私の土地は広大で必要なら庭師も雇える。お花屋もやってもいいぞ。私の寵愛は君だけのもので時には人の世界に行きデートもしよう。私がいれば、どの国でも行ける」
「それは魅力的ですね」
「もし、子供を人間界で育てたいなら人間界に住んでもいい。私は毎日魔王城に通う事にする」
「魔王様?」
「アリエルと……アリエルと呼んでほしい」
「…………あのですね」
「シャーロット、私の妻に……君の夫になるチャンスをくれないか?」
「私ね、お花屋さんの妻になるのが夢なの」
「お花屋の妻なのか?自分の店ではなく?」
「えぇ、お花屋さんの店主さんはお花も育てられる。きっと素敵な男性なのよ。だからお花屋さんを営む男性の妻になりたいの」
「そうか……それなら私は魔王のかたわら花屋の主人となろう」
「……ふふっ、見習い店主さんのアリエル様、まずは同居人からお願いします」
「こちらこそ、よろしく同居人のシャーロット」
さて、続きを食べながら今後について話そうか。
「それにしても、とても美味しい料理ね。ここの料理人は素晴らしいわ」
「ありがとう、作った甲斐があるよ」
「アリエル様が?」
「あぁ。私が作った」
「さすが魔王ね。出来ないことはないの?」
「いや、人の心を射止めることだけは苦手だ」
――――おしまい――――
読んいただきありがとうございます。今後の作品の為に感想をいただければ嬉しいですわ。『愛の劇場』シリーズとして、短編をまとめてますので、お時間があれば読んくれると嬉しいですわ。それでは、次回また。