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誰が私を殺した? 昭和に転生した元財務官僚、失われた30年を変える!  作者: 織田雪村


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プロローグ⑨ 暗闘 中編

2026年1月6日午後 閣議後、控室。



片市首相は静かにコーヒーを口に含み、私に目を向けた。


「だいぶ刺々しい空気だったわね。」


反応が予想通りだったから総理の態度は落ち着いたものだ。

私は対応策を進言した。


「ええ、予想通りです。ですが彼らはメンツを潰されたと思っています。

総理もご存じでしょうが、官僚にとって面子を潰されるのはポストを奪われるのと同じくらい、言わば死刑宣告にも等しいのです。

それと、信じがたいかもしれませんが入省年次には異常なこだわりを見せます。現在の幹部5名はいずれも私の先輩ですから、そこも気に入らない点でしょう。

ですが、もう一歩踏み込むべきです。省内の主計局と国税庁の情報回線を分離しない限り、すべて筒抜けです。」


「なるほど……。それをやると、官僚機構の反発は避けられないわね?」


「はい。それは承知の上です。ですが、今しかありません。彼らが政権交代を画策する前に、既成事実を作るべきです。」


片市は小さく息を吐いた。


我が民自党とて一枚岩ではない。

党内には財政規律派とも言うべき”反片市勢力”がうごめいているのだ。

特に前幹事長の明智は国民を前に「何としても消費税を守り抜く」、「減税の余裕はない」とまで踏み込んだ演説をした人物で、野党以上に厄介な抵抗勢力だ。

あの当時、その発言を伝え聞いた時には驚いたが、あの人の性格や為人(ひととなり)を考えたら当然かなとは思った。


要するに彼は党幹事長として、財務省と対立するよりも“協調”を選んだのだ。

もっと言えば、幹事長の権力は人事・選挙資金・補助金に直結するから、財務省と敵対するのは政治的自殺行為だったのだ。


更には野党が消費税減税、家計支援を強く訴えてもいた時期だった。

だからあえて強い言葉で「消費税を守り抜く」と宣言し、 「減税=無責任」であるとレッテルを貼り、それに対して「維持=安定」と印象付けたかったのだと思う。

民意を無視しても財務省との共存を選んだ。そう断じてもいいだろう。国民は反発したし最終的には悪手であったのだが。


ここで首相が私に尋ねた。


「羽柴さん、あなたは財務省を敵に回す覚悟がある?

かつての職場だった財務省への愛着や未練は無いの?」


いまさら何故そんなことを聞かれたのか?

私の覚悟を試しているのだろうか?ならば答えは一つだ。


「愛着や未練など、とうに捨てました。あの組織を内側から見た人間として、現在の歪みを正さない限り…日本は沈みます。」


片市は頷いた。


「ならば始めましょう。聖域の扉を、開くのは今よ。」


私は静かに一礼した。

首相の目には、長年の沈黙を破る者の光が宿っていた。


だが、財務省の権限解体はゴールだが、立ちはだかる壁は高い。



翌1月7日朝、霞が関の財務省庁舎。



主計局会議室では、異様な緊張が漂っていた。


「総理は遂にレッドラインを踏み越えました。これは看過できませんねぇ…」


財務省を実質的に仕切るボスである財務運営統括官の黒田 鉄雄は、低い声で呟いた。

机の上には“分離案”と題された資料。赤鉛筆で大きく×印が付けられている。


「主税局と我々が分断されれば、予算も税も政治家の思惑で動かされる。それでは国家運営は成り立たない」


一人の局長が口を挟んだ。


「つまり、我々の存在意義が否定されたということです」


別の局長が追従する。


「総理には現実を知ってもらう必要があります。数字は嘘をつきませんから。

もっとも…羽柴大臣の存在が厄介です。あの人は元は身内ですから、我々の手の内はお見通しでしょうから。」


黒田はわずかに(わら)った。


「ならば、“数字”で見せてやればいいでしょう。

日銀総裁に命じるのです。

市場に少し揺らぎを与える。為替と金利を同時に動かせば、政権の支持率などひとたまりもないのですよ。」


誰も止めなかった。

その場の空気は、冷たい合理主義と復讐心で満ちていた。

やがて彼らは無言のまま、資料を封筒に入れ、外務省と日銀の一部幹部に送付する手はずを整えた。


「改革などという言葉は、無知な政治家の夢想だということを教えて差し上げましょう。

政治は4年、官僚は40年。どちらが勝つかなど、考えるまでもないでしょう。

しかも…あの政権は1年も持たずに崩壊するのですから。」


目の奥に暗い光を放ちながら放った黒田の呟きが、誰の耳にも残った。



翌1月8日。



永田町の官邸報道室では、マスコミ各社の担当者にメールが届き始めた。


「政府、税制庁構想を検討中。財務省分割案に閣内不協和音」

「片市政権に対し、経済界から懸念の声」


同じ文面、同じ出所不明の“匿名資料”が各紙に同時送信されていた。

内部資料を巧妙に抜粋した内容で、財務省側の立場に沿った反論が練り込まれている。

匿名メールの文末にはただ一行、次の文字が躍っていた。


『財政は政治の玩具ではない』


官邸内が騒然となった。

広報担当秘書官が青ざめて報告する。


「総理、各社が今日のニュースで一斉に流す予定です。出所は……おそらく財務省です。」


片市首相は沈黙し、やがて一言だけ呟いた。


「早いわね。想像以上に。」


彼女は視線を私に向けた。


「羽柴さん。彼らのやり口は知っているでしょう?」


「ええ、想定の範囲内です。ただ、情報が足りませんので財務省内部を探ります。」


「見込みはあるのね?」


「財務省も一枚岩ではありません。私に接触してくるでしょう。旧知の誰かが。」


その予感は、その夜すぐに現実となった。



その日、1月8日の夜、赤坂の小さなバー。



薄暗い店内に、ウィスキーの香りと低いジャズが流れる。

私はカウンター席に座り、目の前のグラスを回していた。


そこへ現れたのは、かつて私の同僚だった財務省国債調査部長の前田 慶一だった。

彼は私の隣に座り、私と同じ酒を注文してから皮肉な笑みを浮かべて言った。


「相変わらずだな、羽柴。だが、政治家になったのみならず、まさか大臣にまで出世して、本当に財務省に戦いを挑むとは思わなかったよ。」


私は気にせず、事実を指摘した。


「俺も、まさかお前が“財務省と国債の番犬”になるとは思わなかった。」


軽い冗談の応酬。だが彼の目の奥は笑っていない。

この男とは、かつて真剣に財務省改革を話し合った気心の知れた相手だが、今は立場が違うのも事実なのだから。


しばしの沈黙の後、前田は言った。


「総理の財務省分離案、あれは本気なんだな?」


「それはニュースで知ったのか?」


「いや、その前に噂話で知った。」


年末に財務省の幹部に言った際には漏れていないらしい。

だが、今回閣議で発表した際には対象人数が多かったからか直ぐに漏れた。ということは…


「さすがに耳が早いな。閣内にご注進するイヌがいたんだろうが、内容は本当の話だ。俺はやるべきことをやるだけだ。」


前田はグラスの氷を鳴らし、声を潜め思い出したくもない男の名前を言った。


「黒田はお前と総理を潰す気だ。

主計・主税・理財のラインが一枚岩になった。今のままじゃ、誰も総理に情報は流さないだろうし、お前に対してもそれは同じだ」


黒田 鉄雄。かつて私の上司だった男だ。

あの男のせいで私は出世コースから外され、地方に飛ばされたのだ。


私は当時のあだ名で呼んだ。


「クロテツか…おっと、今じゃ腹黒田と呼ばれてるんだったか?」


前田は少しだけ皮肉な笑みを浮かべて言った。


「そうだ。……お前に忠告しておく。彼らはサボタージュだけではなく、“市場”を動かすつもりだ。

円をわずかでも揺らせば、世論は総理を無能呼ばわりする。改革なんて一瞬で吹き飛ぶ。」


私は沈黙した。

グラスの液面が、わずかに震えていた。

前田は周囲を見渡し、更に声を潜めて言った。


「お前も知ってるだろう、羽柴。財務省に逆らって生き残った政治家なんていない。」


私は前田に反論するかのように言った。


「だからこそ、やるんだ。俺にはもう、戻る場所なんてない。」


前田は溜息をつき、伝票を置いた。


「……ならせめて覚悟しておけ。聖域に踏み込んだ人間の末路を。まあ俺とお前の仲だ。

俺の首が切られないうちは、ギリギリの情報なら流してやる。

だが、いつまで続けることができるかは約束できない。俺に監視が付いていたとしても不思議じゃないからな。」


そうか。予想以上に彼は危険な立場なのかもしれないな。


私は敢えて短く一言だけ返事をした。


「すまんが頼む。」


店を出た後、私は手帳に短く一行だけ書いた。

“黒田=市場操作の動き。早急に首相へ報告。”

それは前田がさっき私に言った内容だった。


夜の雨が静かにアスファルトを打っていた。

その音は、嵐の前の予兆のように響いていた。



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― 新着の感想 ―
今円安なのは....ソウイウコト!?!?!?!?!?
ここまでで充分に財務省に対して腹が立って来ました!
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