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病院に出る幽霊の正体は、まさかの○○だった件

作者: 鳳仙花

病院のコンビニの前で、事務員の田中さんに出くわした。


「あ、先生。お昼ごはん買いに来たんですか?内科の診察はもう終わったんですね」彼はにこやかに聞いてくる。


「田中さん、こんにちは。ここのコンビニ、カレーおいしいんですよ。白衣に付かないよう気を付けないといけないんですが」


コンビニ横の出入り口から、作業服の男が入ってきた。病院の改装作業で働いている人だろうか。


「斎藤先生もカレーなんて食べるんですね。ところで先生、ちょっとご相談が」


いつもにこやかな田中さんが、珍しく真剣な顔をしている。まさか最近、屋上でこっそりサボっているのがバレてしまったのだろうか。


「なんでしょう」


「最近病棟で幽霊が出るって話、知ってます?」サボりの話でなくてよかった。だが、そんな話は初耳だ。


「え、本当ですか?はじめて聞きました」


「うちの母親、認知症で入院してるじゃないですか。先週金曜日の夜、廊下に小さい子供がいて、話しかけたら消えたって。幽霊だって騒いでて」


「田中さん、それは認知症の症状の可能性が…」子供の声が聞こえたり、座敷わらしが見えるのはレビー小体型認知症ではよくあることだ。


「俺もそう思ったんですよ。でも、看護師さんも見た人がいるらしいんです。その、子供を。母だけじゃなくて他の患者も見たっていう人がいるんです」


「それは気になりますねぇ。私、オカルト的な話好きなんです」複数人の目撃者がいるなら信憑性は高い。この世に解明できない謎があるなら、ぜひ解き明かしてみたい。


「やっぱり斎藤先生って変わってますね」


「何か言いました?」


「あ、いえいえ何でも」


「その件については私の方で少し調べてみます。まあ、十中八九見間違いだとは思いますけど」病院の入院患者はせん妄といって、現実と非現実が曖昧になることがある。看護師も子供の幽霊を見ているという話が気になるが…。


「ちなみに、お母さんが見た子供の様子はどんな感じでしたか?」


「母が言うには、白い服を着た5歳くらいの男の子で、廊下の端に立っていたそうです。声をかけたら、振り返らずにそのまま壁の中に消えていったとか。母だけじゃなく、同じ部屋の高橋さんも見たらしくて、みんな怯えているんです」


「なるほど...実は病院が建つ前、この辺りは古い住宅街だったんです。調べてみると、50年ほど前にこの辺りで子供が行方不明になった事件があったらしいんですよ。大学のオカルト研究会にいたときに調べました」


「マジですか?先生、思ったより本気でオカルト好きなんですね...」


その時、廊下を小柄な白衣の男性が急ぎ足で通り過ぎる。


「あの人、子供かと思った...」田中さんがつぶやく。


「ああ、新しい研修医の伊藤先生ですよ。忙しそうですね」


田中さんと別れて医局でカレーを食べる。遠くから病院の改装工事の音が聞こえてきた。


私は夜勤に入った。雑談がてら看護師たちに聞いてみると、真夜中に廊下で笑い声が聞こえたり、白い服の子供を見たという者が何名かいた。ナースステーションでカルテを確認していると、ベテラン看護師の山田さんが青ざめた顔で駆け込んできた。


「先生、また例の、5階の廊下で足音がしたんです。振り向いたら誰もいなくて...でも、子供の笑い声が...

...」

私はその現場に行ってみたが、その日は何も見つけられなかった。


翌日、私は意気込んで再び夜勤を志願。午前2時、ナースステーションで待機していると、確かに小さな足音が聞こえ、闇の中から白い影が廊下の奥から現れた。小さな子供のようだ。


「き、来た!」


子供の幽霊は壁に向かって歩いていき、そのまま壁に吸い込まれるように消えた。私はゆっくり壁に近づいた。震える手で壁を触ると...壁がわずかに『カチリ』と音を立てて開いた。


斎藤「これは...」


翌日、私は病院長に緊急報告をした。病院の改装工事で見つかったのは、なんと旧病院の時代から残された秘密の通路だった。


「なんてこった。この通路、図面にはないはずだが...」病院長は驚きを隠せていない。


調査の結果、衝撃的な事実が判明した。通路の先には小さな隠し部屋があり、そこにはソファ、冷蔵庫、テレビ、そして大量の漫画本が...。


「これは一体...」私は唖然とした。まるでこれは誰かのくつろぎスペースのようじゃないか。隠し部屋を調べると、真相が判明した。


私は田中さんを呼び出し、母親が見た「幽霊」の正体を説明した。


「実は、白い服の子供の正体は...」


その時、部屋に入ってきたのは、あの日廊下ですれ違った小柄な白衣の男性—研修医の伊藤だった。


「や、やはり見つかってしまいましたか...」伊藤先生は困った顔をしている。


「伊藤先生、幽霊の正体はあなたですね」


伊藤先生は申し訳なさそうにうなだれた。


「私は下垂体機能障害で身長が伸びず、遠くから見ると子供に見えるんです。夜間にこっそりあの通路を使って...」


「でも、なぜそんなことを?」


伊藤先生は顔を赤らめた。


「実は...あそこは僕の『秘密の小宇宙コスモ』なんです」


「え?こすも?」


「研修医は当直が多くて、休む場所もほとんどないんです。研修医室はいつも先輩たちでいっぱいだし...建物の改装工事の時に偶然この空間を見つけて、誰も使っていないようだったので、こっそり改造して...」伊藤先生はもじもじしている。


私はなんとも言えない顔をしてしまった。


「それで、ここをプライベート空間に?」


「はい...当直明けでも家に帰る時間がないときは仮眠したり、ストレスで限界のときは漫画を読んだり...研修医生活、想像以上にハードで」彼は恥ずかしそうに顔を赤らめた。


私は伊藤先生を連れて病院長の部屋に行った。話を聞いた病院長はため息をつく。


「伊藤君、建物を無断で使用するのはルール違反だが...」病院長はまたため息をついた。「まあ、研修医の労働環境改善はしないといけないと思っていたところだ」


数日後、田中さんの母親が退院する日になった。田中さんが聞いてくる。


「先生、あの後どうなったんですか?」


「実はあの『幽霊事件』をきっかけに、病院の研修医の労働環境が見直されることになったんです。伊藤先生は厳重注意を受けましたが、病院側も研修医用の休憩スペースを増設することになりました」


「そんな思わぬ結果に...」


「ええ、伊藤先生の『秘密の小宇宙』は撤去されましたが、私も研修医室の改革が必要だと思っていたので、結果的にはよかったのではないかと」


「でも先生、あの50年前の行方不明事件は本当だったんですか?」


「あ、あれは...その...実は私の創作です」私は頭をかいた。


「えぇ!?」


私は机から文庫本を取り出す。


「私、実は推理小説を書くのが趣味で...ちょうど病院を舞台にした小説を書いていて...」


「先生...」


その時、廊下で伊藤先生が通りかかる。


「あ、斎藤先生、田中さん...」気まずそうな様子だ。


「伊藤先生、新しい休憩室はどうですか?」休憩室はだいぶ広くなったはずだ。


「はい、とても快適です。先生方にはご迷惑をおかけして...」


「母が見た幽霊が伊藤先生だったなんて、驚きました」田中さんが笑う。


「本当にすみません。夜中にこっそり移動していたので...」


「したことはよくありませんが、研修医室が広くなってよかったですね」


「はい。反省しています。でも...」伊藤先生は声をひそめた。「実は新しい秘密の場所を見つけたんです。今度は屋上の物置を...」


「「えぇ!?」」


「冗談です、冗談!」あわてて否定しているが、どうもあやしい。


私たちは笑いながら別れた。その後、病院での幽霊騒ぎは収まったが、時々深夜の病棟で白い影を見たという噂は絶えない。それが伊藤先生なのか、それとも...。


ある夜、病棟の誰もいないはずの廊下から、子供の笑い声が聞こえてきたという。病院の夜勤中、私は屋上に上がると、そこで漫画を読む伊藤先生の姿を見つけた。


「やっぱり...」思ったとおり、今度は屋上をねぐらにしていたようだ。


「あ!斎藤先生!これは、その...」伊藤先生はあわてて漫画を背中に隠した。


「いいんですよ。私も若い頃は似たようなことをしていましたから」


私はそっと扉を閉め、彼の秘密を守ることにした。ただ、その夜も5階の廊下からは、ふたりの子供の笑い声が聞こえたという...。

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