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時刻メモΔt  作者: 千雲
3/3

進め

前回、伊零は自身に起きた「奇妙な既視感」に翻弄されながらも、ついにそれが単なる気のせいではないことを確信する。そして白衣の男との遭遇をきっかけに、旭と共に現実の裏に潜む“異変”の正体へと踏み出すことに。新たな協力者との出会いが描かれます。

白衣の男から逃れた伊零と旭は、住宅地から五ブロック離れたカフェに辿り着いた。

伊零はすぐに旭に事情を説明した。


旭は手をテーブルに置いたまま、どこか緊張した表情で信じがたい様子を見せながら言った。


「つまり……お前、同じ日を二回経験したってことか……?」


伊零は首を横に振る。


「分からない……まだ確認できてないことが多すぎる。心霊現象?幻覚?それともタイムリープ? 何一つ分からない。でも、もしそれが本当なら……どう説明すればいいんだ。正直、もうそっちの方向には考えたくない。もし本当だったら……怖すぎるだろ。」


うつむく伊零に、旭は注文したサンドイッチを置きながら口を開いた。


「なあ伊零、俺はバカだけどさ、もしお前の言ってることが全部事実だとしたら──さっき逃げなかったら終わってたんじゃね?」


伊零は目を見開き、ゆっくりと顔を上げる。旭は続けた。


「今俺たちがやるべきことは、考えるだけじゃないよな。もしこれが本当に超常現象みたいなもんだったらさ、その原因を突き止めなきゃダメだろ?」


伊零はしばらく呆然とし、それから突然笑い出した。


驚いた旭が立ち上がる。


「な、なんだよ!?何がそんなにおかしいんだよ!」


伊零は笑いながら答える。


「いや……なんか、想像できなかったんだ。お前が、そんなに真面目なこと言う日が来るなんて。でも……そうだな。ちょっと考えすぎて、空回りしてたかもな。」


伊零はコーヒーを一口飲み、質問を投げかけた。


「まずは、いくつか確認しよう。旭、お前は4月27日、試験当日を二度経験した記憶ってあるか?」


「ないな。その日で覚えてるのは、試験が終わった直後に、お前が急に焦った顔してたことくらいだよ。」


「さっきの白衣の男に見覚えとか、デジャヴみたいな感覚は?」


「いや、ないな。白雨町ってこんな田舎だし、住んでる人も少ないだろ? 学校も幼・小・中それぞれ2校しかないし、外部の人間はすぐ分かるよ。」


「じゃあ最後の質問。……お前、俺のこと信じてくれるか?旭。」


一瞬、空気が静まり返った。


「正直に言うとさ……この二日間のお前、ちょっと変だった。で、今日いきなり超常現象とか言い出すし、いつものお前なら信じるけど……今の状況だと、正直ちょっと……」


伊零は言葉を失うが、旭は笑ってこう続けた。


「でも、だからこそ信じなきゃって思ったんだよな。」


微かな風が伊零の髪を撫でる。伊零は感慨深く呟いた。


「もしこれが嘘だったら……お前、めちゃくちゃな被害者だな。」


旭はサンドイッチをかじりながら返す。


「……は!?何それ!」


「もう思いついた。行こう。協力してもらう人が何人か必要だ。」


カフェを出た伊零と旭は、街の反対方向へ走り出した。


「おい伊零!協力って誰のことだよ?」


「この通りに、俺の知り合いがいる。あいつなら、たとえ謎が解けなくても、真相に一歩近づけるはずだ。」


「なんか……誰のことか分かる気がする。」


「かもな。」


二人は暗くて人通りのない裏路地へと入る。そこはまるで、誰も住んでいないかのような静けさだった。

伊零は古びた家の前で足を止め、インターホンのボタンを押す。


横のスピーカーから声が聞こえた。


「暗号は?」


「116105109101」


「入って。」


家の中は外の明るさとは正反対で、薄暗く静まり返っていた。


「わっ……意外と中は綺麗なんだな。外見と全然違う。」


「こいつ、変なところで潔癖なんだよ。ちょっとの汚れも許せないタイプの変人だ。」


二人は木造の階段を一歩一歩上がっていく。踏むたびに、年季の入った木がきしむ音がした。

二階にたどり着いた伊零は、ある一室のドアを開けた。だが、部屋には誰もいなかった。


中には高性能なパソコンが置かれており、壁際には本棚が並んでいる。


その時──

ドアが突然「バタン」と閉まり、二人は驚いて振り返った。


「な、なんだ!?ここ、もしかして……罠か?」


その時、憂鬱そうな声が旭の耳元で囁いた。


「勝手に他人の部屋に入るのは、良くないよ……?」


旭は悲鳴を上げて飛びのいた。


「う、幽霊ぃぃぃ!?」


伊零は呆れたように言う。


「お前、何をそんなにビビってんだよ……」


「だ、だって!そこに白髪の幽霊が立ってるんだぞ!」


「うるさいな!そいつが俺の知り合いだって言っただろ!神谷透だ。」


旭はしばらく黙って考える。


「神谷透……ああ!あの神谷夫妻の息子か!そっか、お前、神谷と知り合いだったのか……」


「こいつがゲーム借りたがるから、自然とそうなっただけだよ。」


神谷は椅子に腰掛けながら言った。


「そういう話はどうでもいい。本題に入れよ。お前から来るなんて珍しいじゃないか。」


伊零は真剣な顔で頷き、この二日間に起きた奇妙な出来事について、神谷に語り始めた──

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

日常のすぐ隣にある、見えない歪み。

伊零の違和感は徐々に他者へと波及し、やがて第三者──神谷透を巻き込むことで、物語は「個人の錯覚」から「観測されうる現象」へと変わっていきます。

それが真実なのか、虚構なのか。次回、彼らは最初の“検証”に踏み込みます。



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