思考が、止まらない
前回、伊零は試験終了後に奇妙な出来事に巻き込まれた。
白衣の男とのすれ違い、強烈な既視感、そして時間が巻き戻ったかのような体験——。
あれは夢だったのか、それとも現実だったのか。答えは出ないまま、日常は続く。
そして今回は、またしても“あの男”が現れる。
見えない歯車が少しずつ動き出すなか、伊零はある決断を下す。
「俺めっちゃくそだったよ。」
伊零は今日の出来事を思い返していた。すべてが突然で信じられないようなことだった。薄暗い部屋で、伊零はパソコンデスクの前に座り、何かを検索していた。
「今日、一体何が起きたんだ?全く意味が分からない…」
キーボードを叩きながら思考する中、「あっ、見つけた!」と検索結果を開いた。
「デジャヴ……この概念は19世紀にフランスの心理学者エミール・ボワイエによって提唱された。ある場面に遭遇したとき、それが過去にも体験したかのように感じる現象らしい。だけど、本当にそうなのか?夕暮れまではすべて普通だった。異常なんてなかった。でもあの白衣の男に会った瞬間、突然のめまいが…?」
伊零は頭を抱えてため息をついた。
「最近本当に疲れてて、幻覚でも見てるのかな……旭の言ってたこともちょっと気になるけど、試験後に変な質問するのは別に普通だし、あいつのバカっぷりなんて日常茶飯事だよな。」
窓を開けてベランダへ出た伊零は、夜空を見上げながら呟いた。
「ああ…なんて美しい夜空なんだろう。この優雅な世界にバグなんてあるはずがない。絶対、ただの疲れだよな…」
結局答えは見つからず、伊零は考えるのをやめてそのまま眠りについた。
翌朝、いつも通り伊零は学校に向かって出発した。机の上の時計は「4月28日・7時39分」を示していた。
道を歩きながら、伊零は途中で旭に出会った。
旭は嬉しそうに話しかけてきた。
「よう!伊零!中間試験終わったし最高だよなー!」
伊零も笑顔で答えた。
「そうだね、そろそろ期末試験の準備しないと。」
旭は怯えた顔で言った。
「うわあああ!それ言うなって!」
旭が試験の恐怖についてベラベラ喋っているとき、伊零の視線は旭の背後にある交差点へと向けられた。
昨日見た白衣の男が、再び現れたのだ。
伊零は驚愕し、頭の中で一気に思考を巡らせた。
「あの男…昨日の…いや、“昨日”だったか?今考えてみると、それは時間的に昨日とは呼べない気がする…いや、もしかして…あの男を見るのは初めてじゃない…少なくとも、あの夕暮れの時点では“初めて”じゃなかった…?なんでそんな風に思うんだ?クソっ!この感覚は一体…!」
男はゆっくりと伊零の方へ歩み寄ってくる。伊零の思考はさらに加速した。
「待て…やっぱりおかしい。この地区で俺は一度もこんな男を見たことがない。2日間で2回も遭遇?いや、ありえるのか…?」
伊零は一瞬立ち止まり、周囲の時間が止まったかのように感じた。
「白雨町…この地域の住民はたった500人。ここに16年も住んでいれば、全員の顔を覚えてる。そしてあの男は…誰だ?もしかして、誰かの親戚?いや、確率は低い。ここは市の外れ、人が来るような場所じゃない。つまり、あの男はここに住んでいない。最初の遭遇確率は0.001%、2回目は0.002%…じゃあ、連続で出会う確率は…0.0002%か。」
そして最後の結論に辿り着く。
「もし、あの日…俺が2回、いや、それ以上の時間を体験してたとしたら?共通点…そうか、すべてが現実だったとしたら…その引き金は……お前だ!クソ白衣野郎!」
伊零は結論を出すと、旭の腕を掴んで反対方向に走り出した。
「お、おい!学校はこっちじゃないだろ!?」
伊零は息を切らしながら答えた。
「今は学校どころじゃない!あとで説明する!まずは逃げろ!」
旭は困惑しながらも返した。
「はあ!?伊零…本気か?」
伊零は真剣な目で言った。
「旭、俺を信じろ。」
旭は一瞬戸惑ったが、笑いながら言った。
「お前が言うなら、間違いないな!よし、野球部のエースの力見せてやるぜ!」
2人は意気投合し、全力で走り出した。
その背を見送る白衣の男は、何もせず冷静にメモ帳を取り出し、呟いた。
「あと……二回。」
伊零と旭は全力で五つの街区を駆け抜け、とうとう体力の限界を迎えた。
旭は息を切らしながら言った。
「もう5ブロックも走ったぞ……どんなに早くても、追いつくには時間がかかるはず…!」
地面に倒れ込みながら、伊零も笑いながら答えた。
「はは……そうだといいけどな……とにかく、少しは休めそうだ…」
隣にあるファストフード店を見た伊零は、旭を連れて中に入り、説明を始めることにした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
静かに始まった異変が、少しずつ形を持ちはじめました。
何が真実で、何が錯覚なのか。まだその境界は曖昧なままです。
次回も、引き続き静かに進んでいきます。
よければ、またお付き合いください。