13話 ヤバい魔獣
次の魔獣討伐はそれほど離れていない領地だった。こんなに王都に近いし場所で魔獣か。王都も気をつけないといけないな。
この領地に出る魔獣は数は多くないが一体、一体がかなり強いようだ。
領地に到着し、領主から話を聞く。
「我が領地のほとんどの男は魔獣により、殺されたり、大怪我を負わされています。女子供まで武器を持ち戦っていますが、勝ち目はありません」
「ちょっと待ってください。魔獣が現れたのはまだ2~3日前ですよね?」
「はい。何の予兆もなかったので我々は対処する時間も与えられず、この有様です」
そんなに強いのか?
ツェツィーやキースがいなくて大丈夫だろうか?
アマーリアやエミーリアの実力はよくわからない。俺らしくもなく不安になった。
怪我人の様子を見に病院に向かった。病室のベッドには怪我をした男達が呻き声を上げながら横たわっている、
まるで地獄絵図だ。
さすがのロルフも口数が少ない。
広い病室の向こうの端に白いふわふわが見える。まさか? まさかツェツィーか?
なんでいるんだ?
俺はツェツィーの傍に走り寄った。
「ツェツィー、なんでいるんだ?」
「あぁ、リオ。今回の私の仕事は回復魔法なの。戦闘には参加せず、怪我人を治せと言われたからここに来たの」
なんだ。同じ場所にいたのか。俺は安心している自分に驚いた。
ツェツィーは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「酷いね。軽傷の人はエリアヒールをかけて粗方治したけど、ここにいる人やもっと重症の人は一度では無理だよ。何度もやらないとね」
俺は血にまみれた白い子グマを浄化魔法で綺麗にしてやった。
「ありがと。でも、またすぐに血まみれだよ」
ツェツィーは苦笑している。
「それでも白い方が良い。怪我人達も血まみれのお前より白いお前の方が良い」
自分でも訳のわからないことを言っているようだ。
「わけわからん。そうだ、リオ。上の階の1番重症な人達がいるエリアにアマーリア姉様の好きな人がいるんだ。多分あの様子を見たらアマーリア姉様は使い物にならないと思う。だから、アマーリア姉様は戦力外だと思うよ」
はぁ~、なんだそれ! アマーリアの好きな人は俺じゃないのかよ! 俺は子グマの後ろ首を掴み、俺の目の位置まで引き上げた。
「アマーリア嬢の好きな人って俺じゃないのか?」
「へ?」
ツェツィーは間抜けだ声を出す。
「どこをどう考えればそうなるの? リオな訳ないじゃん。どちらかといえば姉様はリオが苦手だよ」
苦手……。
「暑苦しいしさ」
暑苦しいしい……。
「嫌いかも」
嫌い……。
俺が落ち込んでいるとツェツィーはビョンと飛び降りた。
「忙しいからリオと遊んでいる暇はないんだ。リオも自分の仕事をちゃんとやりなよ」
腹立つ子グマだ。
「わかったよ。キースも来てるのか?」
「いるよ。上の階の姉様の好きな人を治療してる」
俺は上の階に駆け上がった。
上の階は今までいた部屋以上に地獄絵図だった。
生きているのが奇跡のような、ちょっと前の俺みたいなやつらがいた。人数は下の階に比べると少ないが空気は恐ろしく重い、
アマーリアとキースの姿を見つけた。
「キース」
「あぁ、リオ。来たのか」
「酷いな」
「あぁ、魔獣はデカくてとてつもなく強いらしい」
キースは顔色が悪い。
「ここより、お前は魔獣討伐だろ。早くなんとかしろ。ここでくい止めないと王都までやられるぞ」
確かにそうだ。父上に連絡して騎士や魔導士を増やしてもらおう。
アマーリアは泣きながら好きな男の手を握っている。回復魔法を流しているのだろう。不謹慎だがちょっと羨ましいと思う。やっぱりアマーリアもカナリアではなかったのか。
この落胆は魔獣にぶつけよう。
魔獣は夜に出るらしい。それまで領主から魔獣についての情報をもらい。騎士団や魔導士団と作戦を練る。ロルフとエミーリアは魔法剣の手合わせをしている。あのロルフと互角にやり合うとはエミーリアもなかなかだ。
後ろから足をちょんと突かれ、振り向くとツェツィーがいた。
「リオ、あの魔獣達、火を吹くらしいよ。口から氷魔法を入れて内臓から凍らせちゃったらどうかな」
「氷魔法か」
「うん。瘴気は来た時に祓って、泉は凍らせたけど、すでに出ている魔獣は私とキースだけでは無理だからね。リオ、頑張ってね」
なんだそれ? もう浄化しちまったのか?
「結界は? 結界は張ったのか?」
「うん。とりあえずみんなが避難している領主の敷地と病院には張ったよ」
「そうか、俺も重ね張りしとく。お前は回復魔法に魔力を残しとけ」
「ありがと。でも、リオも魔力は温存したほうがいいよ。ほんとに魔獣やばいみたいだから。ほんじゃあね」
ツェツィーは消えた。移動魔法か。
それにしてもどんな魔獣なんだ。戦うしかないのはわかるが、みんな口を揃えて『大きい』『強い』くらいしか言わない。
せめて絵姿でもあればな。
俺は苛立っていた。
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