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1話 リオネルだった頃

 私は王太子だった。


 愛するザラと結婚し、幸せの絶頂だった。まさかジンメル王国が攻めてきて、国が滅びてしまうとは夢にも思ってなかった。


 我が国は平和な国だった。海が近く、近隣国との貿易もうまくいっていた。天候に恵まれていたこともあり、漁業や農業も盛んで、しかも宝石や魔石の採れる山があった。民を守るための社会保障も充実していて、我が国の民は皆、とても裕福で幸せだった。


 私には愛する妻がいた。ザラとは貴族学校で知り合った。ザラは途中から編入してきた男爵令嬢で、男爵が平民のメイドに産ませた子供でずっと市井に住んでいたのだが、子供ができなかった男爵が引き取り男爵令嬢になったのを期に学校に編入してきたのだ。


 最初は貴族としての礼儀やマナーが全く身についていないガサツなザラに嫌悪を抱いていた。しかし、いつしかザラのその自由で奔放なところに惹かれていった。


 私だけでなく、側近達も皆、ザラに惹かれていった。そして私はザラを元平民と虐げ、危害を加えていた婚約者で宰相の娘、ブルーム公爵令嬢のカナリアとの婚約を破棄し、ザラを殺そうとした罪でカナリアや、我が国の宰相であるカナリアの父、母、兄弟だけでなく、すでに嫁いでいる姉達の嫁ぎ先も含めたブルーム公爵家の一族郎党末端まで皆を処刑した。


 ザラを嫌い、カナリアの罪を冤罪だと騒ぎたて、ザラとの結婚を反対した王妃である母は、皆には病だと告げ、離宮に幽閉した。


 私はザラと結婚し、有能な側近達に囲まれ、毎日幸せだった。幸せだったせいで気持ちが緩んでいたのかもしれない。気がついた時にはジンメル王国から攻めこまれて、王宮の中にまでジンメル人兵士が入り込んできた。


 平和な我が国と違い、ジンメル王国は戦いに明け暮れている。我が国の騎士団など、彼の国に兵士達に太刀打ちできるわけがない。あっという間に我が国は戦いに負けた。そして王家の者は皆、捕らえられ処刑された。



◇◇◇



 ここは何処だろう。私は首を刎ねられ事切れたはず。ここは天国だろうか?


「馬鹿か? お前、天国に行けるなんて思っているのか?」


 声のする方に体を向けるとそこには真っ黒いローブを着た男が立っていた。


「お前は誰だ?」


「俺? 俺は天の番人、まぁいわゆる神様だな。今からお前の行き先を決めるのさ。まぁ、天国はないがな」


 男はハハハと笑う。私はむかっとした。


「何故天国は無いんだ? 私は私なりに国に尽くした」


「大量殺人さ。お前はなんの罪もない善良なカナリア・ブルーム公爵令嬢、そして嫁に行った姉達の家まで含めたその一族郎党全て処刑した。だから天国は無い。絶対無い」


 男の言葉に私は苛立った。


「カナリアは私の愛するザラを殺そうとした。学校でもザラに暴言を吐いたり、嫌がらせをしていた。そしてザラを階段から突き落として殺そうとしたんだ。処刑されて当たり前だろ」


 黒いローブの男は口角を上げた。


「やっぱり馬鹿だな。カナリアは飛び級ですでに卒業していてザラが編入してから学校には行っていない。王太子妃教育や公務で毎日忙しいカナリアが何故? どうやって? 学校にいるザラにそんな嫌がらせをすることができる? そんなこと少し考えればわかることだ。お前はカナリアが飛び級で卒業したことは知っていたはずだろう?」


 カナリアが卒業していた? 学校に来ていなかった? そういえばそんなこと……。


「じゃあ、誰かに命じてやらせていたのではないか?」


「お前、そんなにカナリアを悪者にしたいのか? お前はあんなにカナリアを愛していたのではなかったのか? カナリアに一目惚れをし、カナリアしかいらないと無理矢理王命で婚約者にしたのはお前だろう?」


 私はカナリアを愛していた? まさかそんなことがあるわけがない。男は指をパチンと鳴らした。


 途端に、物凄い痛みが私の身体を駆け巡った。


「魔法にかけられたままじゃ、次の世界には行けない。お前はかなり深く魅了の魔法にかかっている。解いてやるよ」


 魅了の魔法? どういうことだ。


 うっ。なんだこの痛みは。死んでいるはずだろう。死んでいるのに何故こんな痛みが……。


「痛いのは身体だけじゃないぜ。魔法が解けてきたら、お前の頭の中を魔法がかけられていた間にお前がやった事の記憶が流れ込んでくる。痛いぞ~心が。身体どころの痛みじゃないだろうな。壊れないようにな」


 男は薄ら笑いを浮かべ私を見ている。身体が痛すぎて気を失いそうだ。


 しばらくすると身体の痛みはずいぶんましになってきた。


 痛みでうずくまっていた私は男に文句を言おうと立ち上がった。その時、頭にズドンと衝撃が走った。


 そう、男が言ったように私が魅了の魔法に掛かっていた間の記憶が流れ込んできたのだ。まるで目の前を映像のように私がしでかしたことを次々に映し出し流れていく。


 男は蔑んだ目で私を見た。


「ザラって女はジンメル王国の間者だったんだよ」


 まさか、そんな。ザラはただの男爵令嬢のはず。間者だなんて……。


「まだ嘘だって顔をしているな。まぁいい。ザラは魅了に引っ掛からなかった宰相やブルーム家の男達が邪魔になったんだろうな。お前は間者の口車に乗せられて国の要だった宰相や有能なブルーム公爵家の者達を消したんだよ」


 嘘だ。そんなことあるわけがない。宰相もカナリアの兄弟達もザラを悪く言った。カナリアや母と一緒にザラを排除しようとした。だから処刑したのだ。


 男はふっと笑い、話を続けた。


「結婚してからは、ザラはどんどんジンメル王国の者を城に引き入れていたのさ。城を落とすためにな。気づかなかったのか? やっぱり無能だな。お前はハニートラップに引っかかり愛する女や国にとって大切な宰相を殺し、王妃を幽閉し、国を潰した馬鹿な王太子ってわけさ。正気に戻ったか?」


 男が話し終える頃には、すっかり魅了の魔法が解け、正気に戻ってしまった私は突きつけられた真実を思い出し気が狂いそうだった。


 私は……私はなんてことをしてしまったのだ。冷たい汗がたらたらと落ちる。


 男は笑っている。


「お前が愛していたのは?」


「カナリア……私が愛していたのはカナリアだ」


「じゃあザラは?」


「ザラ? あんな女……」


 私は自分がカナリアに言ったこと、した事が信じられなかった。


 カナリアに酷い事をした。


 カナリアを傷つけた。


 カナリアを……殺した。


 うぁーーーーーーー


 私は叫んだ。叫び続けた。








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