表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/27

再会

お久しぶりです。

しばらく更新が止まっていてすみません。

本日より再開したいと思います。

よろしくお願いいたします。


翌日、窓から差し込む夕日を浴びながら、誰もいない学園の廊下を俺は歩いていた。

図書室や裏庭、空き教室など、ヒロインが男とイチャつきそうな……つまり、ゲームのイベントが発生しそうな場所を放課後に見て回るのがほぼ日課となっている。


しかし、この学園が無駄に広いせいか、今のところ収穫はゼロのままだった。


「はぁ………」


つい、溜息が口から漏れてしまう。


俺が知りたいのは、ヒロインが誰とどのくらい親密になっているのかということ。


(ゲームみたいに好感度が表示されていれば楽なんだけどな)


さすがはエロゲーのヒロインというべきか、入学から一ヶ月も経っていないのに、すでにマーガレットは攻略キャラたちと交流を深めている。

おそらく、先日のアルバートとの視察もゲームのイベントの一つなのだろう。


(アルバートの個別ルートと、逆ハーエンドさえ避けられれば……)


昨日のように、アルバートが絡むとセリーナはすぐに暴走してしまう。

逆に、アルバートがマーガレットと関わらなければ、セリーナが暴走することはなく、彼女が断罪される確率は低くなるはず……。


ゲームでは、カールソン侯爵家の一人娘・・・としてずいぶん甘やかされて育ったセリーナ。

そのせいでワガママで自己中心的な性格となり、マーガレットがどの攻略キャラと交流していても、必ず邪魔をしに現れていた。


そう、ゲームのセリーナはマーガレットの存在自体が気に食わないとでもいうような振る舞いだったのだ。

そこは『悪役令嬢』という役割だから仕方がなかったのかもしれない。


しかし、俺のであるセリーナは、アルバートさえ関わらなければ愚かな振る舞いをすることはないはずだ。

それほど俺というイレギュラーがセリーナに与えた影響は大きかった。


(たぶん、この世界とゲームの一番の相違点が『リアム』なんだろうな)


前世の俺……ウィリアムは、名前はなくともゲームの設定に組み込まれていたキャラクターだった。

だが、今世の俺……悪役令嬢セリーナの弟なんて、そもそもゲームには存在していない。


例の見習い神様が無理やりねじ込んだであろうことは簡単に予測がついた。


そのため、セリーナの家庭環境はゲームと変わってしまったのだ。

さらに、俺がセリーナを破滅から救うためにずっと面倒をみてきたことで、セリーナの性格すらもゲームとはずいぶん違ったものになっている。  


(あとは、マーガレットがヒューゴを選んでくれれば俺の気も楽になるんだけど……)


明日の放課後、ヒューゴと二人でカフェテリアに行く約束を思い出し、もう一度溜息を吐く。

想像するだけで気が滅入る案件だ。

そもそも、俺ではなくマーガレットを誘えばいいものを……。


ヒューゴとマーガレットが恋人になれば、ヒューゴが俺に構うこともなくなり、セリーナの断罪を回避することができて……。

つい、そんな都合のいい考えが頭に浮かんでしまう。


(それか、残りの攻略キャラ……宰相の子息グレイソンと最強魔術師……)


そこまで考えたところで、「師匠!」と俺を呼ぶ懐かしい声と、銀髪と赤い瞳を持つ少年の姿が脳裏に浮かび上がる。


──その時だった……。


「ああ、そこのきみ……!」


後ろから聞こえた声に思考は中断され、そのままくるりと振り返る。


「あ………」


視界に飛び込んできたのは、黒を身に纏った背の高い美丈夫。

その長く伸びた銀髪は夕日を浴びてきらきらと輝き、まるでルビーのような紅い瞳が俺を真っ直ぐに見つめていた。


途端に心臓がドキリと跳ね上がる。


しかし、そんな俺の様子に構うことなく、相手はゆっくりとした足取りでこちらに近づく。

俺はそんな彼から目を離せないまま、心臓だけがバクバクと早鐘を打ち続けている。


(シリウス………?)


この国の最強魔術師でゲームの攻略キャラでもある男……シリウス・バートランド。

それは、前世で俺の弟子だった少年の成長した姿でもあった。


「教員室の場所を教えてもらえないだろうか?」


目の前に立つシリウスの声が耳に届くが、その言葉の意味を理解するまで数秒を要する。

そして返事をしようとパカリと口を開くが、なぜか言葉が出てこない。


ここはゲームの本編ど真ん中、攻略キャラのシリウスといずれ会える日が来ることはわかっていた。

だが、まさかこのような不意打ちでの再会など、予想だにしていなかったのだ。


「君……? どうかしたのか?」

「あ……い、いえ……」


ようやく喉からかすれた声が出る。


「教員室は本館の二階です。……ご案内いたしましょうか?」


そして、なんとか精神を立て直し、ぎこちないながらも案内を申し出る。


「ああ、助かるよ」


互いに名乗ることもなく、並んで廊下を歩き出した。


ちらりと右隣を伺うと、すっかり大人になったシリウスの横顔が視界に入る。


(立派になったなぁ……。あの頃は背だって同じくらいだったのに)


今では、体格だって騎士と言われても驚かないくらいにがっしりとしている。


それに、歩く姿勢も、話す口調も、堂々たる態度も何もかもが貴族然としており、彼が孤児であったことなど微塵も感じさせなかった。


その姿を見て、前世の俺が死んだあともシリウスが努力を続けたであろうことを実感し、勝手に感傷の涙が競り上がってきそうになる。


(ううっ……耐えろ、俺!)


もちろん、前世のことをシリウスに明かすつもりはない。

まず、信じてもらえないということもあるが、シリウスは師匠ウィリアムの死を乗り越え、最強魔術師として立派に活躍しているのだ。

わざわざ過去を掘り返す必要はないし、お互いに別々の人生を歩んでいけばいい。


(それでも、こんな近くで大人になったシリウスと会えたのは嬉しかったな……)


前世の俺の死が報われたような心地になる。


それからも特に会話をすることはないまま歩き続け、本館の入口へ辿り着く。


「ここが本館です。こちら側の階段から……あっ!」


隣のシリウスを見上げるように声をかけた瞬間、俺は足元の段差に気付かず躓いてしまう。


しかし、咄嗟に伸びたシリウスの腕が俺の腰に巻き付くように支えてくれた。


「大丈夫か?」

「は、はい……」


すると、今度はシリウスの腕が触れている箇所からじわじわと熱を帯びていく。


(え………?)


その熱はすぐに全身に広がり、身体の内側が燃えるように熱くなった。


「ぐっ………」


あまりに強烈な熱に思わず喉が鳴り、身体が強張こわばる。

だが、それも一瞬のことで、あっという間に俺の身体からその熱は消え去ってしまった。


(何だったんだ……?)


突然の身体の変化について行けず、呆然としながらも荒い息を繰り返す。

ようやく強張っていた身体から力が抜けると、俺を支えるシリウスに寄り掛かっている現状に気がつく。


「す、すみません!」


まるで抱き合うような距離に驚き、慌てて身体を起こして謝罪の言葉を口にした。

しかし、シリウスの紅い瞳は大きく見開かれ、呆気に取られたような表情のまま固まっている。


「あ、あの………?」


戸惑いながら声をかけると、シリウスが俺からゆっくり身体を離す。


「……怪我はなかったか?」

「はい。ありがとうございました」


それでもシリウスの視線が俺から外れることはなく、じっと見つめられることに若干の居心地の悪さを覚えた。

そんな空気を変えようと口を開く。


「じゃあ、教員室へ……」

「いや、ここまでで構わない。それより君のことが知りたい」

「え?」

「ああ、俺の名前はシリウス・バートランドだ。明日からこの学園で特別講師を務めることになっている」

「あ……俺は、リアム・カールソンです」

「ここの学生で間違いないか?」

「はい。一年生で……」


早口でまくし立てるようなシリウスの勢いに押され、正直に名前と所属を告げてしまう。


「そうか……。リアム、いい名前だ」


そう言って、シリウスは目を細め満足気に微笑む。


「これからよろしく頼むよ、リアム」

「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」


こうして、俺は思わぬタイミングで前世振りにシリウスとの再会を果たしたのだった。


9月に再開すると言いながらもう11月……本当にすみません。

2日に1話更新のペースになると思います。

(止まっている間も読みに来てくださってありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ