因縁
※本日二話目の投稿です。
よろしくお願いいたします。
「ヒューゴ様!?」
振り向くと、体格のいい青髪の男子生徒がこちらへ駆け寄ってくるところだった。
「えっと、アルバート殿下は……?」
アルバートの護衛も兼ねているはずなのに、なぜか一人きりのヒューゴにそう質問をする。
「殿下は教室に戻られたよ。その時に他の護衛と交代したんだ」
「そうでしたか……」
常にアルバートに付きっきりだと思っていたが、同じような役割の生徒が他にもいるらしい。
(せっかく、ガゼボから立ち去ったのに……)
まさか、ヒューゴが一人で追いかけて来るとは思わず、内心溜息を吐く。
「久しぶりだな、リアム。会えて嬉しい」
琥珀色の目を細め、心底嬉しそうに微笑むヒューゴ。
「僕もヒューゴ様にお会いできて嬉しいです」
「俺のことはヒューゴと呼んでくれて構わないと、以前から言っているだろう?」
「僕はもう子供ではありませんし、礼儀は弁えないと……」
「学園内では身分に関係なく皆が平等だ。だから、リアムも気安く話してくれ」
「…………」
そう言われても、俺はヒューゴと一定の距離を取りたいがために礼儀を払っているのだ。
しかし、そんな俺の気持ちはヒューゴに全く伝わっていない。
攻略対象の一人、ヒューゴ・トリフォノフ。
短く刈り上げた青髪に凛々しい琥珀色の瞳を持ち、制服を着ていても逞しい体つきが一目でわかる。
トリフォノフ公爵家の次男である彼は、幼い頃から剣の才能を発揮し、今ではアルバートの護衛を任されるほどであった。
俺はセリーナの弟という立場もあって、アルバートとは幼い頃から何度も顔を合わせている。
そのうち、アルバートの護衛となったヒューゴとも顔を合わせるようになったのだ。
言うなれば幼馴染のような……いや、本来は幼馴染のように親しくなってもよかったところを、俺が拒否している関係だ。
(髪と瞳の色はあの人と同じでも、顔立ちはやっぱり父親譲りだな……)
ヒューゴの顔を見つめながら、そんなことを考える。
──ヒューゴの父と母……トリフォノフ公爵夫妻とは前世で面識があった。
卒業パーティーが開催されたホールの中心に寄り添う男女。
長い青髪をきれいに結い上げたドレス姿の令嬢は、その琥珀色の瞳から大粒の涙を流し、婚約者に暴力を振るわれていたと訴える。
そんな彼女を隣で支えている男は、前世の俺を蔑むように睨みつけ、男の風上にも置けない奴だと声高に非難した。
そう、トリフォノフ公爵夫妻は、前世で俺を断罪して結ばれた公爵子息と伯爵令嬢だったのだ。
(あの時はまさかと思ってたけど……)
前世で乙女ゲームの記憶を取り戻した時に、ヒューゴの名前で薄っすら勘付いたことは否定しない。
しかし、前世の俺……ウィリアムはゲーム本編に関係がないからと、それ以上は深く考えなかった。
ヒューゴの性格は素直で明るく真っ直ぐで、彼自身に何ら問題はない。
ただ、元婚約者と浮気相手との愛の結晶であるヒューゴを見ると、苦い前世の記憶が嫌でも呼び起こされてしまう。
そういった理由で、俺はヒューゴから距離を取っているのだが……。
「学園には慣れたか?」
「はい。ようやく慣れてきました」
「それはよかった。そうだ!中庭のカフェテリアにはもう行ったのか?」
「いえ、まだ……」
「あそこのクロワッサンは絶品なんだ!リアムが入学したら食べさせてやりたいとずっと思っていた」
なぜか、昔からヒューゴはやたら俺に構ってくる。
「よし、明日の放課後にカフェテリアで待ち合わせをしよう!」
「えっ!? でも……」
「明日は予定でもあるのか?」
「え、ええ。そうなんです」
「じゃあ、明後日にしよう!」
「…………」
(頼むから一定の距離を取らせてくれ!)
そんな願いも虚しく、ヒューゴは俺との距離をぐいぐい詰めてきてしまう。
結局、半ば無理矢理にカフェテリアでの食事を約束させられ、ようやくヒューゴから解放されたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
現在、夏休みと書籍化作業が重なってしまい、この作品の続きは9月からの再開を予定しております。
すみません。
また読みにきてくださると嬉しいです。