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二度目の転生

読んでいただきありがとうございます。


※長くなってしまったので本日は二話に分けて投稿します。

「アルバート様!」


穏やかな昼下がり、怒りを含んだ女生徒の声が庭園に響いた。


「やあ、セリーナ。一体どうしたんだい?」


しかし、それに応える男子生徒は動じる素振りを見せない。


ここは、貴族の子息・息女が通う王立学園。

そんな学園の庭園で、金髪碧眼の眉目秀麗な男子生徒……この国の第二王子アルバート・トワライナスは、ガゼボのベンチに腰掛け、ゆったりと読書を楽しんでいた。

その隣には、学友兼護衛でもある公爵子息のヒューゴが控えている。


このガゼボはアルバートお気に入りの場所であり、一部を除き、他の生徒が近付くことはない。


そこへ、アルバートの婚約者であるセリーナが怒りに満ちた表情で乗り込み、刺々(とげとげ)しい口調で詰問を始めたのだ。


「一昨日、南地区でデシャン男爵令嬢とご一緒だったとお聞きしたのですが?」

「ああ、そうだよ」

「なっ!?」


あっさりと認めたアルバートに、セリーナはその紫の瞳を大きく見開く。


「なぜ、婚約者のわたくしを差し置いて、あのような女と……!?」


怒りで声を震わせるセリーナ。

アルバートは無言のまま口元に笑みをたたえ、セリーナを観察するかのように見つめている。


その余裕ぶった態度が癇に障ったのか、セリーナの顔はみるみる赤く染まり、さらに大きな声をあげた。


「アルバート様は、あの女に騙さ……」

「ちょっと待ってくださーい!」


その時、セリーナの言葉を遮るように、少し高めの男性の声が響き渡る。


そこに現れたのは、ずいぶんと愛らしい顔立ちの黒髪黒目の男子生徒だった。


「アルバート殿下、ヒューゴ様、突然の乱入をお許しください」


黒髪黒目の男子生徒が頭を下げる。


「ああ、構わないよ」


そう言って、アルバートは乱入者である俺……リアム・カールソンを見つめながら、愉しげに微笑んだ。


「リアム?どうしてここへ?」


今まさにアルバートへ怒りをぶち撒ける寸前だったセリーナは、俺の乱入によって気が削がれた様子。

その隙を逃さないよう、俺はセリーナに向けて口を開く。


「姉さん!また勝手に暴走して!」

「ぼ、暴走だなんて!」

「どうせ噂を聞いて、その足でここに来たんだろ?」

「…………」


どうやら図星だったらしく、セリーナは露骨に俺から目を逸らす。


「一昨日の話は、アルバート殿下が南地区へデシャン男爵令嬢とデートに行ったわけじゃない。視察に行ったんだよ」

「視察?」


俺の言葉を聞いたセリーナは、慌ててアルバートへ視線を向ける。

すると、セリーナの視線を受けたアルバートはゆっくりと頷く。


流れている噂は、アルバートが南地区でデシャン男爵とお忍びデートをしていたというものであった。

しかし、それが視察であるならば、意味合いはずいぶん変わってくる。


「デシャン男爵令嬢と二人きりでは……?」

「いや、幾人もの護衛が配置されていたよ。ただし、周りからは私とデシャン男爵令嬢の二人きりで歩いているように見えただろうけどね」

「そう……でしたか……」


平民の暮らしを知るための視察。

そこで、平民出身のデシャン男爵令嬢が案内役を買って出てくれたのだという。


アルバートの口から真相を聞いたセリーナは、見るからにホッとした表情を浮かべた。


「読書中にお邪魔してしまい、申し訳ありません」


そう言って頭を下げたセリーナの顔には、すでに淑女の仮面が貼り付けられている。


(なんとか間に合った……)


この噂を耳にした瞬間、セリーナが暴走することを予見した自分自身を褒めてあげたい。


姉のセリーナは王子妃教育を受け、ちょっとやそっとじゃ動じない精神と表情筋を手に入れたはずなのに、アルバートのことになるとすぐにポンコツ化してしまうのだ。


「誤解が解けて何よりだ。せっかく来てくれたんだし、セリーナとリアムもゆっくりしていけば?」

「いえ、わたくしはこれで失礼いたします」


アルバートの申し出をキッパリと断る姿は可愛げがないように見えるが、勘違いで突撃をしたことが恥ずかし過ぎて、今すぐにこの場を立ち去りたいのが本音だろう。

その証拠に、表情は取り繕っていても、セリーナの耳が赤くなってしまっている。


それに、俺もこの場をすぐに立ち去りたい理由がある。


「アルバート殿下、ヒューゴ様、僕もこれで失礼いたします」


そうして、二人揃ってアルバートたちの前から逃げるように立ち去った。



◇◇◇◇◇◇



「姉さん、何度も何度も言ってるけど、考えなしに即行動はよくないよ!」


ガゼボから離れた庭園の入口付近で、俺とセリーナは二人きりの反省会を開いていた。


「だってぇ……。アルバート様が他の令嬢とデートしてたって聞いたら、居ても立ってもいられないじゃない?」

「気持ちはわかるけど、いきなり本人に突撃するのはやめよう?」

「だってぇ……。本人に聞かないとずっとモヤモヤしちゃうしぃ」

「うん。気持ちはわかるんだけどね。殿下を怒鳴りつけるのはやめよう?」


俺はなるべく穏やかな口調を心掛けながら、諭すようにセリーナへアドバイスをする。


「怒鳴りつけるつもりはなかったんだけどぉ……。アルバート様に見つめられると緊張しちゃって、どうしたらいいのかわかんなくなっちゃうの……」


そう言って、セリーナはしょんぼりとする。


長く艷やかな黒髪に紫の瞳を持ち、妖艶な雰囲気を漂わせるセリーナ。

それに加え、第二王子の婚約者という立場と、王子妃教育による威圧感も相まって、周りには近寄り難い印象を持たれてしまう。

しかし、素の彼女は、アルバートに恋するただのポンコツ乙女であった。


「そういう時こそ深呼吸が大事だよ」

「でも、アルバート様のお顔を見ていたら呼吸そのものを忘れちゃうのよねぇ……」

「…………」


そう言いながら、セリーナは両手で頬を押さえ、感嘆の溜息を漏らしている。


たしかに、アルバートの容姿は、同性である俺の目を惹くほどに美しい。


(さすが攻略対象・・・・だな……)


そう、ここは乙女ゲーム『甘やかな箱庭』の世界。


シリウスを庇って命を落とした俺は、リアム・カールソンに転生し……なぜか、再びこの世界のゲーム本編ど真ん中にいる。


「あっ!リアムも可愛い顔してるわよ。ただ、アルバート様のお顔立ちが規格外ってだけで……」

「はいはい。ありがとう姉さん」


セリーナの慌てたようなフォローの言葉に、俺は苦笑いを浮かべながら答えた。

幼い頃からセリーナの世話ばかり焼いているせいで、どうやら俺は重度のシスコンだと誤解されているらしい。


今世の俺は黒髪黒目だが、真っ白な肌にぱっちりとした大きな瞳は日本人だった頃の顔立ちと似ても似つかず、ウィリアムだった頃の容姿とも全く違っている。

背丈も平均よりは低めで、筋肉の付きづらい華奢な体格のせいか、幼い頃から女の子によく間違えられていた。


そんな俺には、ウィリアムの時とは違って物心がつく頃から前前世と前世の記憶があった。

そのため、俺の姉セリーナが、ゲーム内では悪役令嬢であったことにも割と早くに気づけたのだ。


乙女ゲーム『甘やかな箱庭』は、平民のマーガレットがデシャン男爵の娘であったことが発覚し、この王立学園に入学するところからスタートする。


攻略対象は全部で四人。


第二王子アルバート、公爵子息ヒューゴ、宰相の子息グレイソン、そして魔術師シリウスである。


アルバートとヒューゴとセリーナは三年生、グレイソンは二年生、マーガレットと俺が一年生だ。


俺はゲームを実際にプレイしたことがないので、前前世の姉による断片的な情報しか知り得ない。

それによると、ヒロインのマーガレットはその天真爛漫な魅力をふんだんに振り撒き、学園のいたる場所で攻略キャラたちとイチャイチャしまくるストーリーらしい。


そこに立ち塞がるのが、我が姉セリーナである。


悪役令嬢らしくマーガレットをいじめ倒し、最後には断罪されてしまうキャラクター。

しかも、そこはエロゲーなので、悪役令嬢のバッドエンドもそういった描写が盛りだくさんだったようだ。


(セリーナが断罪されて酷い目に遭うなんて……)


ただ一途にアルバートを想い、厳しい王子妃教育に耐え、努力を重ねるセリーナの姿をずっと側で見てきた。

そんな頑張り屋のセリーナのバッドエンドは受け入れがたい。


(それに、昔の俺みたいな思いもしてほしくないな)


何を隠そう、前世で俺は冤罪によって婚約破棄をされ王都を追放されている。

だから、余計にセリーナへ感情移入してしまうのかもしれない。


しかし、ゲームをプレイしたわけではない俺は、ヒロインがどのように行動し攻略対象たちと仲を深めていくのかがわからない……。


つまり、完全なる手探り状態でセリーナの断罪を回避しなければならないのだ。


とりあえず、悪役令嬢っぽい言動にならないようセリーナに注意を続け、アルバートの好感度が下がらないよう尽力することくらいしかできていない。


(今回も、セリーナがアルバート殿下を怒鳴りつけていたら危なかった……)


まさに間一髪である。


「そろそろ教室に戻るわね。リアムはどうするの?」

「俺は……もう少し休憩してからにするよ」


もしかしたら、ガゼボでアルバートとマーガレットのイベントが起きているかもしれない。

念のため確認をしようと庭園に残った俺は、去っていくセリーナの後ろ姿を見送った。


「リアム!」


その時、俺の名を呼ぶ声が後ろから聞こえてくる。




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