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反抗期

動くたびにサラサラと揺れる銀髪、吸い込まれそうな紅い瞳に陶器のような肌を持つ美少年が、優雅な仕草で紅茶を口にしている。


(立派になったなぁ……)


シリウスと出会ってから三年が経とうとしていた。


十四歳になったシリウスの背はぐんぐん伸びて、今では俺の背丈とほぼ変わらなくなってしまった。

テーブルを挟み向かいに座るシリウスを見つめ、しみじみと感傷めいた気分になる。


「何?」

「いや、所作もずいぶん綺麗になったと思ってさ」


ジロリとシリウスに睨まれ、慌てて言い訳めいた言葉を口にする。


俺は魔法だけでなく、貴族のマナーもシリウスに教え込んでいた。

なぜなら、ゲームのシリウスには様々な功績によって爵位が与えられていたからだ。


シリウスが俺を貴族だと見抜いたように、所作一つで素性がバレてしまうこともある。

孤児だったシリウスが、他の貴族たちからあなどられることがないように指導を試みたのだが……。


(こんなにもさまになるなんて)


その華やかな美貌も相まってか、黙っていれば貴公子にしか見えない。


「師匠が細かいことにグチグチうるせぇからだろ」

「…………」


そう、黙ってさえいれば……。


反抗期なのか何なのか、きちんとした言葉遣いを習得させたはずなのに、最近の会話はこのような口の悪さである。


ただ、俺のことは変わらず師匠と呼んでくれていた。


それまでは『あんた』呼びだったものを、言葉遣いの指導の際に変更させたのだ。


本当は『ウィリアムさん』と呼ばせたかったが、他人行儀で嫌だとシリウスがごねた。

じゃあ、『ウィリアム兄さん』はどうだと提案すると、兄弟は嫌だとシリウスはまたごねる。


どうやらシリウスだけの特別な呼び名がいいらしい……。


そこで、ゲームの設定資料集を思い出し、師弟関係を現す『師匠』はどうかとシリウスに提案をする。


『まあ、師匠なら……。その代わり、俺以外の弟子を取るんじゃねぇぞ!』

『言われなくても俺の弟子はシリウスだけだよ』

『……だったら、師匠って呼んでやる』


そんな会話があり、どうにか師匠呼びで落ち着いたのだ。


それからのシリウスは魔法だけでなく、貴族のマナーも凄まじい勢いで習得していった。


彼の成長速度には驚かされるばかりだったが、まだ精神的には幼い部分があるようで、雨の日になると雷が鳴りそうで怖いからと俺のベッドに潜り込んでくる。


さすがに年齢的にも体格的にもどうかと思うのだが、眉を下げて潤んだ瞳で見つめられると、どうにも可哀想な気持ちが湧き上がり……結局、許してしまっていた。


まあ、見た目はどんどん大人になっても、俺に甘えた姿を見せるシリウスが可愛いというのもある。


(これが父性ってやつなのかもなぁ)


しかし、いつまでもこのままじゃいられない。


「さあ、これを片付けたら出掛けるよ」


俺は紅茶を飲み干すと、立ち上がりながらシリウスに声を掛ける。


「今日もギルド?」

「ああ。月末は依頼が増えるからね」


シリウスが不服そうな表情で俺を見つめる。


ギルドとは冒険者ギルドのことで、そこに冒険者として登録すると様々な依頼を受けることができるのだ。


俺はこの森に住むようになってすぐに冒険者登録をし、時々依頼を受けては金を稼いでいた。

といっても、俺一人で受けることのできる依頼は薬草採取などの簡単なものばかり。

それでも、魔石製作と合わせると、この森で二人暮らしをするには十分な報酬だった。


だが、シリウスが十四歳となった今、これからのことを考えなければならない。


この国では十五歳になると魔術師団への入団が認められている。

俺は貴族だったので王立学園への入学を優先したが、平民出身の魔術師たちは十五歳で魔術師団に所属する者も多い。


シリウスは読み書きや簡単な計算はできるので、今さら学園に通う必要はないだろう。

それよりも、どこかの魔術師団に所属し、その腕をさらに磨くことのほうが重要だ。


そこで、かつての恩師……俺を王立魔術師団へ推薦してくれたモルガン伯爵へ手紙を書いた。

シリウスの身の上を説明したうえで、魔術師としての才能の塊である彼の後見人となり、王立魔術師団への入団試験を受けさせてやってほしいと……。


残念ながら、王都を追い出された俺の名前を出すと、その時点でシリウスの入団が白紙になる可能性が高いため、モルガン伯爵にシリウスを託すことにしたのだ。


しかし、この話をシリウスにした途端、彼は猛反発した。

いくらシリウスのためだと伝えても聞く耳をもたず、互いの意見は平行線のまま……。

そして、反抗期のような態度が始まってしまう。


(きっと、環境が変わることが不安なんだろうな……)


だけど、こればかりはこちらも譲れない。

もちろん、ゲームのシナリオ通りに……という気持ちもあるが、こんな素晴らしい才能をこんな所で埋もれさせるわけにはいかないという使命感のほうが強かった。


(立派な魔術師になって、周りからも尊敬されて、可愛いヒロインちゃんとイチャイチャできる未来のほうがシリウスにとっていいはずだ……)


あとは、王都までの路銀や、王都でのシリウスの生活費を稼ごうと、薬草採取以外の依頼も請け負うようになったのだった。


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