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雷雨

時刻は昼を過ぎた頃、庭に出てシリウスの魔法の訓練を始める。


目を閉じて立つシリウスの周りには、いくつもの小さな水球がふよふよと浮かんでいた。


「さあ、始めよう」


俺の声を合図に、水球がシリウスの身体を中心にあらゆる方向へ動き始める。

しかし、いくつかの水球同士がぶつかり、形を崩した水の塊が地面に落ちた。


「ゆっくりでいい。集中して」


無言のままシリウスが頷くと、スピードを落とした水球は、まるで太陽を中心に回る惑星のようにシリウスの周りを旋回する。


「そう、上手いぞ」


その動きのまま水球は再びスピードを上げていく。


──シリウスと出会ってから半年が経っていた。


出会った頃のシリウスは身も心もボロボロに見えて、魔法を教えることよりも彼自身のケアを最優先したほうがいいんじゃないかと俺は考えた。


美味しいものを食べ、身体を動かし、ぐっすりと眠る。


そんな日々を過ごしているうちに、警戒心丸出しだったシリウスもいつしか自然な笑顔を見せるようになり、俺が側にいてもリラックスしている姿に安堵した。


今ではガリガリだった身体に肉が付き、パサパサだった銀髪は艷やかに輝いて、健康的な美少年へと成長を遂げている。


そんなシリウスに、魔法を学んでみないかと提案したのが先月のこと。

これから生きていく上で魔法を使えることは武器になると伝えると、シリウスは「あんたが教えてくれるなら……」と、了承してくれたのだ。


それからは、毎日のように魔法の訓練を続けている。


(さすがだなぁ)


どんどんスピードを上げていく水球を見つめながら、シリウスの才能に惚れ惚れしてしまう。


将来は最強の魔術師になるのだから、かなりの魔力を持っているであろうことはわかっていた。

それだけでなく、自身の身体に巡る魔力の流れを感じ取り、それを扱うセンスがずば抜けているのだ。


普通なら、水球を一つ創り出すだけで一ヶ月はかかるだろう。


(この調子だと、あと数年で俺が教えることはなくなるな……)


そんなことを考えながら訓練を続けていると、次第に空が分厚い雲に覆われ、辺りはどんどん暗くなっていく。

これは一雨ありそうだと、訓練は中止にして、シリウスとともに家に入った。


予想通り、三十分もしないうちに雨が降り始める。


仕方なく、室内でできる訓練……魔石への魔力注入に切り替えた。

魔石と呼ばれる石は、一定量の魔力を吸収することができるもの。

この魔石さえあれば、魔術師でなくとも魔法を使うことができるのだ。


ただし、魔力を注入し過ぎると魔石は砕け散ってしまう。一気に魔力を注入するのも同じく。

ゆっくりと少しずつ……しかし、砕ける限界ギリギリまで魔力を注入するという、こまやかな技術が必要となる。


ちなみに、この魔石製作が我が家の家計を支えてくれているので、訓練にも金にもなるお得な内職だった。


夜になるにつれて雨はその激しさを増していく。 

ベッドに入る頃には横殴りの雨が窓を打ち付け、その雨音に加えて雷が鳴り響いた。


「うわっ!」


バリバリととどろく落雷に、思わず声を上げてしまう。


すると、バタバタと慌ただしい足音が聞こえ、ノックも無しに寝室の扉が勢いよく開かれた。


「なあ!さっきの雷……ここに落ちたりしねぇよな?」


パジャマ姿のシリウスが不安そうな表情でこちらを見つめる。


「大丈夫だよ」

「雷を避ける魔法はないのか!?」


雷を扱う魔法はあるが、それは自然現象で起こる雷をどうこうできるものではない。

魔法で水を生み出すことはできても、雨を降らせることはできないのと同じだ。


「心配しなくても、この家に落ちたりしないから」


シリウスにそう告げた途端、またバリバリと威圧するような落雷の音が響いた。


「ひっ……!」


小さく悲鳴を上げたシリウスは泣きそうな表情になっている。

そんなシリウスの姿を見ていたら、前世の子供時代を思い出してしまった。


あれはたしか、夏のホラー特集を見ていた日……。

夜、一人でトイレに行けなくなり、隣の部屋の姉を叩き起こして付き添ってもらい、そのまま一緒のベッドで眠ってもらった。


姉は文句を言いながらも、仕方なく付き合ってくれたことを覚えている。


「怖いならここで一緒に寝る?」

「え?」


物置部屋を改装した場所が、シリウスの寝室になっている。

この落雷の音を聞きながら、部屋に一人きりでは眠れないだろう。


「ちょっと狭いのは我慢してね。ほら、おいで」


俺はベッドの右端に寄り、一人分のスペースを空けてやる。


戸惑った様子のシリウスだったが、やはり落雷には耐えきれずに、そろそろとベッドに入ってきた。


「大丈夫。朝になれば雷も収まっているさ」


すると、無言のままシリウスが俺の身体にピタッとくっつく。 

その甘えるような仕草が可愛くて、そっと銀の髪を撫でてやる。


「おやすみシリウス」


そうして、シリウスと二人身を寄せ合って眠りについたのだった。



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