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それぞれの結末

読んでいただきありがとうございます。

最終話となります。

よろしくお願いいたします。

「リアムに何をしていた?」


シリウスがヒューゴを見下ろしながら問いかける。


怒鳴っているわけでも、声を荒げているわけでもない。

ただ、抑揚のないシリウスの低い声が響き、それが余計に恐ろしく感じた。


「うっ……くそっ……」

「リアムに覆いかぶさって何をしていたか聞いているんだ。答えろ」

「ぐああああああっ!」


苦痛塗れの悲鳴がヒューゴの口から放たれる。

見たところシリウスはヒューゴに一切触れていない。

ならば魔法で何かしらの攻撃を加えているのだろう。


「シ……げほっ……シ、シリウスっ……!」


俺が咳き込みながらも声を掛けると、ようやくシリウスがこちらを振り返った。

だが、俺の姿を映した紅い瞳は大きく見開かれ、その表情が憤怒に染まっていく。

そして、シリウスが右手をヒューゴに向けて振るった。


「あああああああっ!!」


地面に横たわるヒューゴの身体がビクビクと痙攣し、その口から再び苦痛の叫びが響き渡る。


「シリウス! 何をやっているんだ!」


俺は慌ててシリウスに駆け寄ると、必死に右腕を掴む。


「やりすぎだ!」

「師匠の首のあと……こいつが師匠の首を絞めたんだ……師匠を殺そうと……」

「シリウス?」


何事かをぶつぶつと呟くシリウス。

その瞳は昏く淀み、こちらを見ようともしない。


「師匠を殺そうとする奴なんて……死ねばいい!」

「なっ!?」


魔法を発動する気配を察知した俺はシリウスの真正面に回り、ヒューゴを背に庇うような位置で両腕を広げた。


「シリウス、落ち着け!」

「どうして師匠がそいつを庇う? そいつが師匠を殺そうとしたんだろ?」

「これ以上やるとヒューゴが死ぬ!」

「だから、殺されかけたあんたが何でそいつを庇うんだって聞いてるんだよ!!」


目の前の激昂したシリウスの姿が揺らぎ、魔力の気配とともにチリチリと肌に痛みを感じる。


(魔力が漏れ出てる……?)


その瞬間、シリウスの身に何が起きているのかを理解し、背筋に冷たいものが走った。


「シリウス! このままじゃ魔力が暴走する! 落ち着け!」

「だってこいつは師匠を殺そうとしたんだ! やっと取り戻したのに……。俺から師匠を奪おうとする奴も、俺の師匠を傷付ける奴も全部全部消えてなくなればいい!」

「シリウス!!」


俺は名前を呼びながら、シリウスの身体に抱きついた。


「俺は生きてる!」

「でも、こいつは……!」

「お前が俺を助けてくれた! お前は間に合った! 今度こそちゃんと間に合ったんだ!」

「間に合った……?」

「大丈夫。お前のおかげで俺は生きてる」

「…………」

「もうお前を置いていったりしない」


抱きしめたシリウスの身体から力が抜け、だらりと腕が落ちる。

辺りに漂っていた凝縮された魔力の気配も霧散し、俺は深く息を吐き出した。


「師匠………」

「ははっ。師匠呼びは辞めたんじゃなかったのか?」

「うん。リアム……もう、どこにもいかないで」


今にも泣き出しそうなシリウスの声に、俺はしっかりと返事をする。


「わかった。ずっとシリウスの側にいるよ」

「やっと……やっと、その言葉が聞けた……」


そう言って、シリウスの腕が俺の背に回される。


俺が想像していた以上に、シリウスはウィリアムの死に傷ついていた。

そのことをまざまざと思い知らされる。


そんなシリウスの想いを俺はしっかりと受け入れた。

これからは師匠と弟子ではなく、シリウスを愛する者として側にいるのだと……。


そして、チラリとヒューゴに視線を向けると、気を失っているが息はあるようだ。


(よかった、生きてる)


生きていてよかったというより、シリウスがヒューゴを殺さなくてよかったという感情のほうが強いが……。


その時、ざわざわと話し声がこちらに近づいてくることに気がつき、俺は慌ててシリウスから離れる。


「やはり、この辺りのようだ……」

「殿下にもしものことがあれば……」


そして現れた教師陣は俺たちの姿を見て驚き、さらに倒れているヒューゴの姿に目を剥いたのだった。



◇◇◇◇◇◇



俺がヒューゴに襲われた事件のおおよその決着が着いたのは数カ月後のこと……。


まず、シリウスが俺を助けに現れたのは偶然ではなかった。

詳しい原理はわからないが、俺の魂にはシリウスによってしるしが刻まれているらしく、リアムとして初めてシリウスと対面した際にそのしるしが反応したそうだ。

それからは、俺の魂の居場所……つまり、俺がどこにいるのかがシリウスにはわかるようになったらしい。


あの日、約束の時間になっても部屋を訪れない俺を心配したシリウスが俺の位置を探り、庭園まで探しにきたところで、ヒューゴに馬乗りになられている俺を発見したというわけだった。


どうやら、シリウスには俺がヒューゴに……その、性的な意味で襲われているように見えたらしく……。

問答無用でヒューゴを魔法で吹っ飛ばしたのだ。


そんなシリウスの魔法が魔導具に感知され、学園の教師陣に通達される。

庭園のガゼボエリアには、アルバートの身に何かあった時のための措置として、学園側が用意した魔導具がいくつも設置されているからだ。


その後、ヒューゴがリアムの首を絞めていたため急遽魔法を使用したこと、興奮してなおも暴れるヒューゴを大人しくさせるために魔法で気絶させたのだとシリウスが教師陣に事情を説明した。


高位貴族の子息が絡んだ暴力事件のため、学園側は秘密裏に専門機関へ連絡を取り、すぐに現場検証が行われる。

気絶していたヒューゴは目覚めてから取り調べが行われ、シリウスがリアムに不埒な真似をしたこと、リアムと真実の愛で結ばれているのは自分だと強く主張した。


(本当に懲りないな……)


真実の愛とは双方が想い合っているから成立するもの。

当然、俺はヒューゴとの関係を否定する。

なにより、俺の首にはヒューゴの手によって絞められた痕がくっきりと残っていた。


どんな事情があろうと、相手の首を絞める行為が認められるはずがない。


俺は攻撃魔法が使えず、体格差もあり、ヒューゴから首を絞められた際に抵抗は難しいだろうと判断される。

そして、そんな俺を助けるためにシリウスが魔法でヒューゴを攻撃したことの正当性が認められたのだ。


いくらトリフォノフ公爵家でもヒューゴの失態を揉み消すことはできなかった。

ヒューゴはまだ学生のため、家同士の話し合いによって彼を表舞台から遠ざけることで一応の決着が着く。


ヒューゴは病気を理由に学園を退学、そのまま領地で療養するという表向きの説明が生徒たち伝えられた。

だが、本当の理由はどこからか流れてきた噂という形で人々の話題に上がる。


元々、シリウスのせいでトリフォノフ公爵夫妻の『真実の愛』に疑惑の目が向けられていた。

そこへ、ヒューゴが『真実の愛』を理由に暴力沙汰を起こしたのだ……。

トリフォノフ公爵家の名声は地に落ちてしまったと言える。


(真実の愛か………そんなもの、当人同士で理解していれば十分だと思うんだけどな)


それからしばらくは、俺自身も無駄に注目を集める羽目になってしまった。

こちらをチラチラと見ながら、何やらコソコソと囁き合う生徒たち……。

中には、俺がヒューゴを誘惑しただのと陰口を叩く奴もいた。


そんな噂も徐々に薄らいできた頃、セリーナとアルバートが無事に卒業を迎える。

もちろん、卒業パーティーでセリーナの断罪劇が起こることもなく、二人は仲睦まじい様子でパーティーを楽しんでいた。


マーガレットはどの攻略キャラとも結ばれることはなく、セリーナの派閥に守られながら卒業生たちに祝いの言葉を述べる。


講師として勤めるのは一年間だけの約束だったシリウスも、卒業パーティーが終わると同時に学園を去り、王立魔術師団員として再び忙しい日々を過ごす。


皆がゲームとは全く違う道を歩み出したのだ。


──そして、俺はそのまま代わり映えのない学園生活を送り……二年の月日が経った。


一ヶ月後に卒業式を控えたある日、俺は学園内に用意されていたシリウス専用部屋の前に立つ。


シリウスが学園を去ってから訪れることのなかったその部屋の扉をノックをすると、間髪入れずに扉が開いてシリウスが顔を出す。

以前と変わらず、俺が来ることを見越して扉の前で待機していたらしい。


「リアム……さあ、中へ」


促されるままに部屋へ足を踏み入れると、すぐに扉が閉められ二人きりとなる。


「シリウス、久しぶり」

「ああ。会いたかった」


ゆっくりと細められる紅い瞳に、俺も笑みを返す。


あの事件のせいで俺だけでなくシリウスにも注目が集まってしまい、さすがに教師と生徒の恋愛をおおやけにするわけにはいかず、ほとぼりが冷めるまで学園内ではなるべく接触せずに過ごしていた。


シリウスが講師を辞めたあとは、互いの時間が合わずに手紙のやり取りばかりが続き、まるで遠距離恋愛のようになってしまう。


二人の立場なんて全て捨てて、森の小さな家で二人きりの生活をしてもいいとシリウスは主張するが、これまでのシリウスの努力を簡単に捨てさせることが俺にはできなかった。

だから、この二年の間に俺は父を説得し、シリウスも裏から色々と根回しをし、ようやく俺とシリウスの婚約の目処が立ったのだ。


「卒業パーティーでこれを身に着けてほしい」


そう言って渡されたのは、シリウスの瞳と同じ輝く紅いルビーがあしらわれたシルバーの指輪。


「シリウス……」


婚約の証に胸が沸き立つ俺に、続いてシリウスが小さな箱を差し出した。


「あとは、これも……」


箱の中には紅いルビーがあしらわれたシルバーのタイピンが……。

そのあとも、シリウスの髪と瞳の色を模したカフスボタンにハンカチーフにタキシードまで……。


「シリウス……これはやり過ぎじゃないか?」

「リアムは俺のものだって周りに知らしめたいんだ」


真剣な表情のシリウスに思わず俺は笑ってしまう。


前世を含めるとずいぶんシリウスを待たせてしまった。

だからこそ、これからの未来は俺がシリウスを幸せにしたいと……そう心に決めている。


「ああ、そうだな。これからずっと俺はシリウスのものだ。一緒に幸せになろう」


そして、俺はシリウスに歩み寄り、その頬に手を添えて唇を重ねるのだった。


初めて書いたBL作品をなんとか年内に完結することができました。

途中でお休みしてしまってすみません。

感想やいいねも励みになりました!

最後まで読んでくださりありがとうございました!

皆様、よいお年を!!


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― 新着の感想 ―
完結お疲れ様でした! 9月くらいに作品を発見してそれ以来更新を追っていました。 新鮮で面白かったです! 2人のその後も気になったりしました!
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