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新たな関係

カフェテリアでマーガレットと別れ、そのまま学園内のシリウス専用部屋へと向かう。


その道すがら、頭の中では先程のマーガレットの言葉が何度も繰り返される。


(盲目的な愛か………)


自分で言うのも何だが、シリウスの俺への感情に近いものがあると思う。

命懸けで俺の魂を転生させて、それからさらに十五年……ずっと俺を想い続けていたシリウス。


(そんなシリウスの気持ちに俺は応えられているのかな……)


そう、俺がドキリとしたのは、マーガレットの「愛されることを当たり前のように受け取る」という言葉のほうだった。


今の俺はシリウスからの告白に返事ができず、二人きりで過ごしたいという彼の要望通りにしているだけ。


(しかも、それを案外悪くないと思ってるんだよなぁ……)


たしかに最初は驚いたし、受け止めることに葛藤もあった。

あと、シリウスからのスキンシップには未だに慣れずに心臓がバクバクする。


そのせいなのか、俺の中にあった前世の幼いシリウスの幻影はいつの間にか消え去り、大人になった現在いまのシリウスばかりが色濃く残る。

そんな感情の変化に俺は戸惑うばかりで、肝心のシリウスには何一つ伝えていなくて……。


(ズルいよな………)


だからこそ、マーガレットの言葉が刺さったのだろう。


そんなモヤモヤとした気持ちのまま、シリウスの部屋の前に到着してしまった。

俺が扉をノックすれば、間髪入れずに扉が開いてシリウスが顔を出す。

やはり、俺が来ることを見越して扉の前で待機していたらしい。


「師匠……!」


俺を見るなり喜びが顔から溢れるシリウス。


「さあ、中へ入って」

「ああ」


言われるがまま部屋の中に入ると、途端にシリウスが俺の顔を覗き込んだ。


「………っ!?」


端正な顔がいきなり近付いたことに俺はビクリと身じろぎする。


「師匠、何かあった?」

「え?」

「何か悩みがあるなら聞かせてほしい」

「…………」


そんなに表情かおに出ていたのだろうか……。

しかし、悩んでいた理由が目の前の男についてなので、何と言ったらいいのかわからず、開きかけた口を閉じる。


そんな俺の態度が気にさわったのか、シリウスの表情が険しくなった。


「なあ、まだ俺は頼りない? もう、あの頃みたいに師匠に守ってもらわなくても、大抵のことなら俺の力で解決できるのに?」


その言葉にハッとする。

ついさっきこじれまくったセリーナたちを見たばかりだ。


「違うんだ。シリウスが頼りないんじゃなくて……その、俺自身の問題というか……俺の気持ちをどうシリウスに伝えればいいのかがわからなくて……」

「……どういうこと?」

「俺が受け身過ぎるんじゃないかと……」


先程のカフェテリアでの出来事を説明し、マーガレットの言葉にひどく動揺したことをシリウスに伝えた。


「シリウスの気持ちは嬉しかったんだ。ただ……そこからどうすればいいのかがわからない。言い訳になるけど、俺は恋愛経験が無いに等しいから、シリウスに触れられるだけで緊張するし、逆にどうすればシリウスが喜ぶのかもわからなくて……」


なんとも要領を得ない俺の言葉。

それでも、声に出さなければ俺の気持ちは何一つ伝わらず、ただシリウスを不安にさせてしまうだけ。


シリウスは真っ直ぐに俺への気持ちをぶつけてくれているのだから、せめて俺のこのぐちゃぐちゃな気持ちもそのまま言葉にして伝える。


(でも、呆れられたかもな………)


前世と合わせただけでもいい大人になるくらい生きていて、こんな情けない発言はどうなのかと自分でも思う。


しかし、そんな俺の予想に反して、シリウスは紅い瞳を細め、嬉しそうに微笑んだ。


「あのさ、今の師匠の言葉だけで俺は相当嬉しいんだけど……」

「え? どこが?」

「だって、俺のことを『恋愛対象』として見てくれてるってことだろう?」

「あ………」


言われてみれば、俺はシリウスとの恋愛を『あり得ない』と思っているわけではない。

むしろ、恋愛関係を望むシリウスと、どんなふうになりたいのかを悩んでいると言える。


「それに、アルバート殿下とセリーナ嬢の関係と俺たちは全く違うし、ピンク髪の言ってることもわかるけど……」


そこで言葉を一旦止めたシリウス。

その紅い瞳が射貫くように俺を見つめる。


「あんたが大人になった今の俺をちゃんと見てくれている。大丈夫、ただそれだけで俺の想いは報われているから」


その瞬間、胸の奥から温かい何かが湧き上がる。


自分でもよくわかないまま……一歩、二歩とシリウスに近づき、そして彼の身体をぎゅっと抱きしめた。

いや、体格差から俺が抱き着く形になる。


「師匠!?」


シリウスの戸惑う声が頭上から降ってきた。

だけど、俺はそのまま自身の感情を噛み締める。


(この気持ちはきっと……『いとしい』だ)


前世のシリウスに対しても似たような感情をいだいた記憶がある。

それはきっと家族愛に近いものだった。

だけど、今は目の前のシリウスに対して、全く違う感情で抱きしめたいと……そう強く想ったんだ。


俺は軽く息を吸い、言葉を選びながらシリウスに語りかける。


「その、少しずつだけど俺の中にもいろんな気持ちが育ってて……。だから、時間はかかるかもしれないけど、これからシリウスと新しい関係を築いていきたいって思ってる」

「…………」


すると、しばらくの沈黙の後、そっと俺の背中にシリウスの腕が回された。


「だったら、これからは師匠を名前で呼んでもいい?」

「名前?」


俺に前世の記憶があるとわかってから、シリウスはずっと師匠と呼んでいた。


「うん。名前で呼びたい……」


シリウスの甘えるような声に、胸がくすぐったくなる。


(形から入るのもいいかもしれない……)


そう思った俺は名前呼びを了承する。


そのあとは並んでソファに座り、とりとめのない会話を続けた。

だけど、俺の名前……「リアム」と呼ぶシリウスの声はひどく甘く、それだけで俺の顔は熱くなる。


そして、シリウスは探るようにそっと俺の指に触れ、俺も応えるように指を絡めた。

ゆっくり、ゆっくり……けれども確実に俺とシリウスの距離は近づいていく。



「それじゃあ、また明後日に会いに来るから」


部屋から廊下に出ると、俺との別れを惜しむシリウスに次の約束を告げる。

すると、俺の左手にするりとシリウスの右手が添えられ、軽く持ち上げるとシリウスの唇が俺の手の甲に触れた。


「あ………」


まるで貴公子のような愛情表現に、俺の頬に熱が集まっていく。

そんな俺をじっと見つめたまま、シリウスは口を開いた。


「ああ。またな、リアム」

「う、うん……」


そしてシリウスと別れた俺は、ふわふわとした心地のまま廊下を一人歩く。


(なんだあれ……格好つけすぎだろ……)


そう思いながらも、実際は見惚れるくらい似合っていた。

シリウスと新たな関係に踏み出してみたが、慣れない甘さに俺はひたすら赤くなるだけで……。


「リアム!」


その時、後ろから掛けられ声に俺はピタリと足を止める。


「え?」


振り向くと、ヒューゴが俺に駆け寄ってくるところだった。

途端に、俺の心臓が跳ね上がる。


(いつからここに……!?)


シリウスの専用部屋があるこの校舎には生徒がほとんど近寄らない。

だが、立ち入り禁止というわけではなく……。


(もしかして………見られた?)


この学園では、シリウスと俺は講師と生徒の関係。

さすがにさっきのやり取りを見られてしまうのは不味い。


「ひ、ヒューゴ様……」


動揺を悟られないよう笑顔を作るが、わずかに声が上擦ってしまう。

しかし、対するヒューゴはいつもと変わらない態度で、彼の口からシリウスの名前が出てくることはなかった。


(よかった……)


ヒューゴに見られていなかったことに、俺は内心ホッと息を吐くのだった。



読んでいただきありがとうございます。

次回は12/23(月)に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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