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想い

「なあ、また一緒に暮らさないか? それなら師匠だって安心できるだろ?」

「は?」


もう二度と禁術を使わないようさとしただけなのに、なぜシリウスと一緒に暮らす話になるのだろう……。

話が飛躍し過ぎて一瞬呆けてしまった。


「ちょ、何を馬鹿なことを言ってるんだ!?」


本音を言えば、バッドエンドを阻止するために見張れるものなら見張りたい。

しかし、そのことと一緒に暮らすというのは全く別の話だ。


「前世と違って俺たちには立場ってものが……」

「じゃあ、ずっと一緒にいられる立場になればいい?」

 

俺を見下ろすシリウス。

だけど、まるで迷子のような表情に胸をぎゅっと掴まれた。


「俺は、もう二度と師匠から離れたくない」


その紅い瞳が真剣に訴えかけてくる。


禁術を使ってまで俺のことを転生させたシリウス。

それほど慕ってくれていたのだと、師匠の立場として嬉しく思う。


だけど、俺たちはあの頃のように、森の中の小さな家で身を寄せ合う関係には戻れない。


「シリウス、気持ちは嬉しいけど……」


しかし、そんな俺の言葉を遮るようにシリウスが口を開いた。


「なら、せめて俺と過ごす時間を作ってほしい」

「え?」

「師匠に見せたいもの、食べたいもの、やりたいことがいっぱいあるんだ。師匠が転生したら一緒にってずっと考えていて……」

「…………」


そんなシリウスの健気な言葉に、ちょっとくらいなら……と気持ちが傾く。

しかし、俺の無言を拒否と受け取ったのか、続くシリウスの声が一段低くなった。


「それとも、師匠は俺よりあのピンク髪の女を選ぶの?」

「は?」

「何年も一緒に暮らして、やっと再会できた俺よりも……あの女のほうが大事?」


なぜだか風向きが怪しくなってきた。

まるで浮気を責められているような気分になる。


まあ、浮気をされたことはあっても、したことはないんだが……。


「それは……比べるものじゃないけど、俺もずっとシリウスのことを大切に思ってるよ」

「だったら、もっと俺の側にいてほしい。あの女は風避けになる男なら誰だっていいんだろ? でも、俺は師匠じゃなきゃ嫌だ! 師匠じゃなきゃダメなんだ!」

「………っ!」


そう言われた途端、ぶわりと顔に熱が集まった。


貴族らしい口調も表情もすっかり崩れたシリウスが、ただひたすらに俺を求めている。


(シリウス………)


こんなにも強く誰かに求められたことは初めてで……。


思わず俯き、顔を見られないよう腕で隠す。


「師匠?」

「いや、あの………」

「もしかして……照れてる?」

「…………」


シリウスが無言のまま俺の腕を掴んで引っ張り、俯く俺の顎に手を添えてぐいっと上を向かせた。

あっという間に顔を晒すことになった俺は、恥ずかしさでシリウスから視線を逸らすことしかできない。


「師匠、可愛い……」


そう呟いたかと思うと、シリウスの整った顔がゆっくりと近づいてくる。

そして、俺の額や頬、耳などにチュッチュッと音を立てながら口付けを落としていく。


「な、な、何して……!?」


突然のことに戸惑い、声が思いっきり裏返った。


「だって師匠が可愛いから」

「可愛いって……中身は俺だぞ!?」


たしかに、これまで生きてきた三回の人生で、容姿だけをいうならば現在のリアムが断トツだろう。


背が低く男にしては華奢な体型に、真っ白な肌と長い睫毛に大きな瞳……。

姉のセリーナにも数え切れないくらい可愛いと言われてきた。


だが、ウィリアムの転生した姿だと知っているシリウスが、俺を可愛いと言うのは何か違う気がする……。


「生まれ変わる前の師匠も可愛かった」

「いや、可愛くないだろ!? あの頃はシリウスのほうが可愛かったし……」

「うん。師匠にとってあの頃の俺が子供にしか見られてないのはわかってた。でも、今は……」


シリウスの手が俺の手首を掴み、そのままグイッと引っ張り上げられた勢いで、彼の胸の中に飛び込む形になってしまった。


そして、再びシリウスの腕の中に捕らえられる。


「俺はあの頃から早く大人になって師匠と対等になりたかった。だから、ようやく願いが叶って嬉しい」

「シ……リウス……?」

「これからは思い出の中じゃない、今の俺を見てほしい」


そのままシリウスの顔が近づき、また額や頬に口付けを落とされるのかと反射的に目を瞑る。

すると、唇にしっとりとしたものが触れる感触が……。


「んぅ……!?」


咄嗟に目を開くと紅い瞳が間近に迫り、俺はようくシリウスとキスをしているのだと気づいた。


慌てて離れようとするも、俺の後頭部をシリウスの手が押さえ、腰にはシリウスの腕ががっちりと巻き付いている。


シリウスとキスをしている……その事実に頭の中が茹だっていく。

そして、息苦しさにも耐えられず、シリウスの胸板をドンドンと強く叩くと、ようやく唇が離された。


酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す俺。

対して、シリウスは息一つ乱さずまま口を開く。


「師匠、キスの時は鼻で息をしないと」

「…………」


それぐらいわかっているの意味を込めてシリウスを睨み付ける。

知識はあったが、突然のキスで実践に至らなかっただけだ。


「やっぱり……俺とのキスが初めて?」

「うるさい!」


思わずシリウスを怒鳴りつける。


前前世では彼女ができないまま死んでしまったし、前世で婚約者はいたが、キスをするような関係になる前に浮気されて婚約破棄……。


たしかにシリウスの言う通りなのだが、簡単に認めるには俺のなけなしのプライドが許さない。

しかし、俺の態度にいろいろ察したらしいシリウスは、その整いすぎた顔を破顔させて喜んでいる。


そんなシリウスに腹立たしい気持ちになった。


「なんでこんなこと……冗談でもたちが悪い」

「冗談? 俺が冗談で師匠にこんなことをするとでも?」

「…………」


そうだ。

シリウスは冗談で俺にキスをするような奴じゃない。


(だったら、なんで……?)


シリウスは俺の弟子で、このゲーム世界の攻略キャラのはずで……。


「じゃあ、マーガレットは……?」

「はあ?」


思わず口を衝いて出てしまったヒロインの名前に、シリウスは思いきり不機嫌な声を上げる。


「この状況で他の女の名前を……」

「違う違う違う! そういう意味じゃない! その、シリウスはマーガレットのことを気に入ってると思ってたから……」


慌てて言い訳めいた言葉を口にする。


「俺は、師匠が死ぬ前から今までずっと一途に想ってきたんだ。今さら他の女に目移りするはずがないだろう?」


そう訴えるシリウスの気持ちは、先程のキスも含めると疑いようもなく……。


(シリウスはずっと俺のことが好きだった……?)


まるで世界がひっくり返るような衝撃。


(あんな子供の頃から? だから俺を転生させた……?)


そして、生まれ変わった俺と出会うまで、ずっとずっと俺のことを……。


シリウスの想いをようやく理解した俺は、再び顔を赤らめるのだった。



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