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二人の時間 ①

翌日の放課後、シリウスからの頼み事に付き合うため、俺は一人で魔術講義室へ向かう。


これまで、放課後のほとんどをゲームのイベント捜索のために費やしてきた。

まあ、収穫は全くと言っていいほど無かったのだが……。


(これからはマーガレットに直接探りを入れればいいし、ちょうどいいタイミングで時間が空いたな)


どれくらいの頻度で手伝うことになるのかわからないが、引き受けたからにはシリウスが納得いくまで付き合ってやるつもりだ。


(といっても、今の俺に手伝えることなんてたいして無いとは思うんだけどな……)


あれから何度考えてみても、シリウスの行動は不自然で不可解だった。

一体何の目的があって俺に近づくのか……。


(うーん……)


心当たりは一つしかない。

だが、俺から明かさない限り、前世のことなんてバレるはずがないのに……。


(単に俺のことが気に入ったから……とか?)


それにしては距離の詰め方が強引すぎる。


もちろん、マーガレットのようなタイプがいることは理解しているが、シリウスは昔から警戒心が強いはずで……。


結局、そんな考えがぐるぐると堂々巡りし、何も解決しないまま魔術講義室の扉の前に立っていた。


(まあ、なるようになれだ)


軽く深呼吸をしてからノックすると、すぐに扉が開いてシリウスが顔を出す。


「リアム! 来てくれたんだな」


俺の姿を見るなり嬉しそうに笑うシリウス。

あまりにも素直なその反応に驚くとともに、柔らかな笑みに思わず目を奪われてしまった。


「さあ、中に入ってくれ」

「し、失礼します………」


なんとなく左胸を手で押さえ、促されるまま中へ足を踏み入れる。


だだっ広い魔術講義室にシリウスと二人きり……。


緊張を誤魔化すように講義室内を見渡す。

魔術講義室は他の講義室よりも教卓周りのスペースが広く作られている。

これは、教師が生徒たちに手本となる魔法を実演するために必要だからだ。


(懐かしいな)


前世の俺もこの学園に通っていた。

その時はもちろん魔術を専攻しており、この講義室には数え切れないくらい足を運んでいたのだ。


いつまでも感傷に浸るわけにはいかず、さっそく本題へと頭を切り替える。


「もう授業は開始しているんですか?」

「いや、来週からの予定だ」


この学園に通う生徒たち皆が貴族で、基本的な魔力の扱いについてはすでに学んでいる。

だから、シリウスが教えるべきことは基本ではなく応用になるのだが……。


「俺は学校で魔法を学んだわけではないからな。応用と言われても何を教えてやればいいのかわからん」

「………よく講師を引き受けましたね」

「世話になった人からの頼みで断りきれなかった」

「…………」


たしか、俺は生徒役の練習台として呼ばれたはずなのだが……。


まさかのシリウスはノープラン。

これでは練習どころか、授業内容を考えるところから始めなければならない。


「何かアドバイスをくれないか?」

「えっと……」


突然の無理難題に戸惑う俺。

しかし、眉を下げ、困りきった表情のシリウスに見つめられると……。


(魔法の応用か………)


俺は必死に頭を働かせた。


これでも数年だがシリウスに魔法を教えた経験がある。

自分で魔法を発動するよりも、誰かに魔法を教えることのほうが数倍労力を使う。

しかも、十数人が相手ととなると、全員の興味を引くような工夫が必要になるはずだ。


前世の学園時代を思い返してみるが、その時の講師は魔術研究所の職員で、実技より座学が多かった記憶がある。

つまり、講師により授業内容に個性が出るということ。


「バートランド先生ならではの視点で授業ができたらいいのですが……」

「俺の視点?」

「はい。紅竜レッドドラゴンを討伐できる程の魔術師に普通の授業を求めているとは思えないので」


俺の言葉に、シリウスはその目を大きく見開いた。


「リアムは俺が紅竜レッドドラゴンを討伐したと知ってくれていたんだな」

「え? そんなの当たり前ですよね?」


シリウスは国の英雄で、魔物の大規模侵攻での活躍を知らない者なんてこの国にはいないはずだ。

それなのに……。


目の前のシリウスは心底嬉しそうに顔を輝かせている。

まるで、褒めてもらいたくて仕方がない子供のような表情に、つい頭を撫でてやりたくなるのは前世に引っ張られているからか。


(やっぱり、シリウスの側にいると調子が狂うな……)


シリウスと死に別れてから十五年。

彼の活躍を耳にするたび、ウィリアムの死を乗り越えて立派に成長したのだと誇らしい気持ちになった。


だけど、実際にシリウスを目の前にすると、これまでどんな時間を過ごしてきたのだろうかと胸に不安が入り混じっていく。


しっかりご飯は食べていたのか? 心を許せる友人は?   お前を褒めてくれる奴はいたのか?


今さらどうしようもないことでも、知りたいと思ってしまう。


「バートランド先生の経験を生徒たちに伝えるのはどうでしょう?」

「俺の?」

「ええ。先生の活躍を新聞や報道で知っていても、実際に本人の口から語られるなら生徒たちも興味を示すでしょうし、それに絡めた魔法を教えれば喜ばれると思います」

「そういうものか?」

「はい」


すると、少しだけ考える素振りをしたあと、シリウスが伺うような視線を俺に向ける。


「リアムも……俺の過去を知りたいと思ってくれるか?」

「はい。俺も知りたいです」

「そうか……」


それからは、シリウスが魔術師団に入団した頃の話を中心に、生徒に教える魔法とそれに絡めたエピソードを書き出していく。


中には、入団したシリウスに喧嘩を売って返り討ちにあった貴族の話など、授業に使えないものも多々あったが……。


そういった危うい話は授業中に決して口にしないようシリウスに言い含めると、彼は素直に返事をする。


(これじゃあ、どっちが生徒かわからないな……)


そう、この時の俺は生徒ではなく、すっかり教える立場で考えてしまっていた。

しかも、入学したばかりの魔術を専攻してもいない生徒が、まるで誰かに魔法を教えた経験があるような素振りで……。


この時の俺は気づいていなかった。


そんな俺の姿をシリウスがどんな目で見ていたのかを……。


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