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一度目の転生

※こちらの作品はBLです!苦手な方はご注意ください。

※R15は念のため


設定はゆるめですので、気楽に読んでくださいね。


(あー、なるほど。こういうことかぁ……)


薬草を摘みに森へ入ると、木の根元に座り込む少年に遭遇した。

年の頃は十歳くらいだろうか……。銀髪に紅い瞳を持つ彼の姿を目にした瞬間、俺の前世の記憶が蘇り、同時に幼い子供の声が頭の中に響く。


『さあ、頼んだよ!』


そして、前世の記憶から選び抜かれた情報だけが脳裏に浮かび上がり、この世界における自身の役割・・を理解した。 


俺の役割……それは、この少年を保護し、生きるすべを教えること。

しかし、俺の存在に気付いた少年は警戒心をあらわにし、こちらを睨みつけている。


「ねえ、君どうしたの?」

「近寄るな!!」


俺は目の前の少年に声を掛けるが、ひどく興奮した様子で拒絶されてしまう。


「でも、怪我してるだろ?」

「うるさい!あっちにいけ!」

「…………」


少年の手足には打撲の跡や擦り傷があり、転んでしまったのか右膝からは血も流れている。


それに、丈の短い服から見える手足はガリガリに痩せていて、顔色も悪く、見るからに不健康そうだった。

役割であってもなくても、このまま放って置くことはできそうにない。


(さて、どうしようか……)


彼を無理矢理連れて行くことはできる。

しかし、初対面から乱暴な真似をすると、今後の信頼関係に影響が出るかもしれない。


(逃げられても困るし……)


そのルビーのような紅い瞳に浮かぶのは、不安、警戒、怯え……。


まずは警戒を解くべきだと、俺はふところから護身用のナイフを取り出した。

その瞬間、少年の顔に緊張が走る。


しかし、俺はそのナイフをさやから出さずに、そのまま少年に向けて放り投げた。


「なっ……!?」


カシャンと音を立ててナイフは少年の足元に落ちる。


「そのナイフは君にあげるよ。これで俺の武器はなくなった」


そう言いながら、俺は両手を軽く上げて何も持っていないことをアピールする。


「何のつもりだ!」

「目の前に怪我をした子供がいれば、誰だって助けたいと思うさ」


少年は驚いたように目を見開く。


「近くに俺の家があるんだ。そこで手当てをしてあげるから、ナイフを持って付いておいで」


そして、俺はくるりと彼に背中を向ける。


──マジで刺されたらどうしよう……。


一瞬、そんな考えが頭に浮かぶが、前世の記憶が確かならば、彼はそんなことはしないはずだ……たぶん。


ちらりと後ろに視線を遣ると、少年は足元のナイフを拾ってのろのろと立ち上がる。

その顔には困惑の色が広がっていた。


「ここから十五分くらい歩くから」


そう声をかけ、俺はゆっくりと歩き始める。

すると、かなりの距離を空けながらも、少年は俺の後ろを黙って付いて来てくれた。


(よかった……)


それから森の中を歩き続け、もうすぐ家に着くかという頃、ドサッという音が後ろから聞こえた。

振り向くと、少年が地面に倒れ込んでいる。


「大丈夫!?」


慌てて駆け寄ると、少年はナイフを握り締めたまま真っ赤な顔で荒い呼吸を繰り返していた。


「ごめん!このまま運ぶよ!」


そのまま少年を抱き上げると、急いで家へと向かう。



◇◇◇◇◇◇



自室のベッドに少年を寝かせ、水をなんとか飲ませてから、濡れたタオルで顔や首回りの汗を拭いてやる。

その時にちらりと見えた胸元は肋骨が浮き出ており、これまでの彼の生活を思うと胸に石が詰まったような心地となった。


それから、手足の傷口に薬を塗り込んでガーゼを当てる。

よほど熱が辛いのか、彼はいつの間にか眠ってしまっていた。


(目が覚めたら熱冷ましを飲ませるか……)


それより先に、胃に優しいスープを用意しておいたほうがいいのかもしれない。


そんなことを考えながらベッド脇の椅子に座り、寝息を立てる少年……シリウスの顔を見つめる。


──シリウスを助けた理由、それは神と名乗る者に強引に転生させられてしまったからだった。


日本で暮らす平凡な男子高校生だった俺は、信号無視で突っ込んできたトラックに撥ねられてしまう。

そして、目覚めると何もない真っ白な空間が広がっていた。

そこに、神だと名乗る野球ボールサイズの光輝く球体が現れ、俺がすでに命を落とし魂だけの存在になったことを告げられる。


『そこで君に頼みたいことがあるんだ』


そんな驚愕の事実を受け入れる時間すら与えずに、球体は幼い子供のような声で話を続けた。


この世にはいくつもの世界があり、それぞれの世界が滅びてしまわぬように神が調整をしているのだという。

この球体は神といっても見習いらしく、練習用に初めて世界を一つ任されたが、うっかり重要な人物の魂を逃がしてしまったらしい。


『このままだと肉体が滅びちゃうから、早急に新しい魂を入れないとダメなんだよぉ』

『はぁ……』


自身の状況すら受け止めきれていない俺にそんなことを言われても、溜息のような相槌しか出てこない。


『だから君の魂を使わせてもらうね』

『は……?』

『大丈夫、大丈夫。魂だけなら違う世界を行き来することができるんだ』

『いや、ちょっと!』


さすがに抗議の声をあげるが、球体はこちらの話なんて聞いてくれない。


『君のような、他人を守るために自身の命を差し出せる魂がたまたま見つかってよかったよ』


その言葉に、目の前を歩いていたベビーカーを押す女性に迫るトラックと、そんな彼女たちを助けるために無我夢中で背中を押して、代わりに自身が撥ねられてしまったことを思い出す。


『あの親子はどうなった?』

『ああ、君のおかげで助かったみたいだよ。次の世界でも彼の命を救ってあげて』

『彼……?』

『そう!この世界の最重要人物だから。彼に出会ったらボクが知らせるから安心してね。それじゃあ!』


そう言うと、自身の周りに細かい光の粒が舞う。


『だから、待てって!ちゃんと説明を……!』

『この役目を終えたら、次の転生先は君の望む人生を約束するよ』


その言葉を最後に、今の今まで前世も球体とのやり取りも忘れて、俺はウィリアム・イリックとして生きてきたのだ。


そして、シリウスと出会った瞬間に脳裏に浮かんだのは、前世の姉の言葉の数々……。


(たしかタイトルは『甘やかな箱庭』だったな)


それは前世の姉がハマっていた乙女ゲーム(十八禁)で、登場キャラを主人公にした二次創作にまで姉は手を出していた。

そのモデルや売り子などに駆り出されていたのが、弟である前世の俺。

そのせいで、ゲームをプレイしていなくとも登場キャラや大まかなストーリーは把握している。


シリウスはそんな乙女ゲームに登場する攻略キャラの一人だ。


ゲームのシリウスは大人の姿だったので、本編が始まるのはずっと先になるのだろうが、俺が転生させられたのは『甘やかな箱庭』の世界だったらしい。


神がプレイするゲームの世界に入り込んだのか、それともゲームだと思っていた世界が実在するものだったのか……詳しいことはわからない。

ただ、見習い神様の練習に用意された世界がエロゲーなのはどうかと思う。


(でも、まあ……たしかに、シリウスはこの世界の最重要人物だな)


エロゲーだが、バッドエンドでは世界が滅びるらしいので、攻略キャラのシリウスをここで死なせるわけにはいかない。


『孤児だったシリウスは売り飛ばされそうになって、逃げ出した先で師匠に出会うのよ!』


ゲームの設定資料集に書かれていたシリウスの生い立ちを力説する前世の姉。


シリウスと出会った瞬間に、この記憶が蘇って……いや、あの球体がこの記憶を蘇らせたのだとしたら、設定通りにシリウスの師匠となるのが転生した俺なのだろう。


ちなみに、このシリウスの師匠という人物は、イラストも名前もなく設定資料内に存在が示されているだけ。

だが、この設定を元に、姉は師弟愛をテーマにした作品を一冊描き上げている。


(姉ちゃんの描いてたキャラとはずいぶん違うけど……)


姉が描いていた師匠は筋肉質のイケオジだったが、俺は二十歳になったばかりの若造だった。

身体つきも華奢で、明るい茶色の髪に焦げ茶の瞳という平凡な見た目をしている。


しかし、魔術師としての実力はそれなりにあると自負していた。


(だから俺が師匠なんだろうな)


ゲームでのシリウスは、この国で最強の魔術師という設定だった。

つまり、俺から魔法を学び、それをきっかけに魔術師としての道を歩むことになるのだろう。

そうでなければ、孤児であるシリウスが独学で最強にまで登り詰めるのは難しい。


(まあ、次の転生先は俺の希望を聞いてくれるみたいだし……)


あの球体に無理矢理押し付けられた役割だったが、実際のシリウスを前にすると、このまま見捨てる気にはなれなかった。

それに、役割を全うすることでシリウスは最強魔術師となり、俺の来世は安泰となる。


──だったら、シリウスを立派に育ててみせようじゃないか!


そう俺は決意したのだった。



初めてBL作品を書いてみました。

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― 新着の感想 ―
(転生前)お姉ちゃん…18禁ゲームの二次創作の売り子を、高校生の弟にさせるんじゃありません!メッ! …神見習いが説明不足で主人公が苦労しそうな予感がヒシヒシと。先の展開が楽しみです!
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