表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本全国鐵輪巡礼 ~駅夫と羅針の珍道中~  作者: 劉白雨
第拾壱話 刈和野駅 (秋田県)
86/180

拾壱之弐


 星路羅針を揺り起こし、旅寝駅夫は博多到着を知らせた。

 既に列車はホームに入っており、乗客たちは我先にと出口へ向かっていた。


「どうだ、気分は。」

 駅夫が羅針に体調を尋ねる。

「ああ、お陰でゆっくり眠れたよ。体調もだいぶ良くなったかな。」

 羅針が伸びをしながら応える。その表情は、武雄温泉駅で見た土気色した青黒い顔色とは異なり、薄らと赤みがかって、血色もだいぶ良くなったようだ。

「それなら良かった。もし、体調悪くなったらすぐ言えよ。契約書にもあるだろ『健康や安全に関わる問題が発生した場合、速やかに同行者に報告すること。』って。」

 駅夫が、平櫻と締結した契約書の第7条3項を暗唱する。

「確かに、その一文を入れたな。良く覚えてたな。」

 羅針が感心したように言う。

「当たり前だろ。俺だって契約者の一人なんだから。」

 実はそれ位しか覚えていないのだが、駅夫はそう言ってドヤ顔をする。

「そうだったな。頼りにしてるよ。」

 駅夫の言葉を信じて、羅針もそう言って微笑み、荷物を纏めて、降車客の後に続いて列車を降りた。


 このルーレット旅何度目かの博多駅である。

 来訪回数も東京駅に次ぐ位に多く、もうだいぶ見慣れたものではあるが、聞こえてくる博多弁、漂ってくる匂い、人々の動くリズム、そのどれもが、旅情を掻き立て、ここが地元ではないことを二人に想起させる。


「取り敢えず、まずは電器屋だけど、その大荷物は流石に大変だろ、ロッカーにでも置いてくるか?」

 羅針が駅夫の背中に鎮座している巨大なリュックを見て、提案する。

「そうだな。そうしてくれると助かる。」

 駅夫も重そうにリュックを背負い直しながら、頷いた。


 流石九州第一の都市に鎮座する博多駅である。行き交う人の多さは、長崎や諫早の比ではもちろんない。平日頭だというのにこの混みようだから、休日はどうなっているのか。とは言いつつも、新宿や渋谷などを見慣れた二人にとっては、これ以上のレベルを知ってはいた。しかし、それでも多いと感じるのは、何度も来ているとはいえ、まだ慣れない土地だからなのだろうか。

 匂いや音もそうだ。豚骨の匂いや、博多弁の響きももう慣れたはずなのに、どこかまだ馴染めない。自分たちが旅行客であり、他所者であることを否応なく突きつけてくる、そんな気が二人はしていた。


 コンコースに降りてきて、新幹線改札口から外に出ると、コインロッカーの案内に従ってロッカーを探す。空きはなかなか見つからなかったが、それでもなんとか一つ空きを見付け、貴重品と必要なものを小さなリュックに詰め替えて、そこへ放り込む。


「ここのコインロッカーってスマホで空きが確認出来るんだって。」

 駅夫がコインロッカーの上に掲げられた広告を見て、声を上げる。

「へぇ。今のコインロッカーってそんなことが出来るのか。すげぇな。」

 羅針も感心したように言う。

「それに、ほら鍵がいらない、ってか、ないんだよ。全部スマホで出来ちゃう。」

「へぇ、すげぇ時代になったな。ってお前ちゃんと使えたのか。」

 羅針は、駅夫が機械音痴だったことを思い出し、慌てて聞いた。

「ああ、なんか、言われたとおりにやったら出来た。」

 駅夫は、こともなげに言った。どうやら、懇切丁寧に案内画面が出たらしい。

「そうか、それなら良かった。じゃ、電器屋へ行くか。付き合って貰って悪いな。」

「良いってことよ。」

 二人は、筑紫口から外に出ると、駅の目の前にある全国展開の電器屋へと向かった。


 二人が店内に入ると、あのいつもの音楽に、いつもの雰囲気で、全国どこも変わらないというのは、ありがたくもあり、どこか侘しくもある。ただ、歌詞がいつも行く店とは異なって、博多バージョンになっているのは、なんか楽しく感じた。

 店内で聞こえてくる言葉が完全に博多弁であるのが、いつもの店とは違うんだと意識させられた。二人が聞き取れたのは、「本日限り、スマホケースはぜーんぶ半額ばい!」ぐらいで、後は大声で早口だったためか、何を言っているのかほぼ分からなかったが、スマホコーナー全体でセールをしていることは、その熱量から良く分かった。

 二人は、その喧噪の中をエスカレータまで来て、案内板を確認し、修理受付が地下にあるのを見付け、エスカレーターで地下一階へと降りた。


 タブレットの修理をお願いしたい旨を、受付カウンターで告げると、担当者が奥からやってきた。

 羅針は、例の壊れたタブレットをバッグから取り出し、店員に見せた。

 すると店員は眉間に皺を寄せて、「ちょっとこれは酷いですね。どうされたんですか。」と聞いた。

「はい、上からバッグを落としまして。」羅針は壊れた状況を説明した。

「分かりました。……画面だけでなく、筐体がだいぶ逝ってますね。この状態だと修理が利くかどうかというよりも、殆どの部品を交換ということになると思いますので、新品をご購入なさった方が良いと思いますが、どうなさいますか。」

 壊れたタブレットを確認した店員が、申し訳なさそうに羅針へ伝えた。

「そうですか。ちなみに修理をするとしたら、どれぐらいの金額と期間がかかりますか。」

「この状態ですと、見積もりをとってみないと何とも言えませんが、通常、筐体だけの修理でしたら2~3万円程度ですが、内部も総交換となると、10万は下らないかもしれません。もちろん金額は前後すると思いますし、内部の状態にも依りますが、それ位はご予算を見て置かれた方が良いとおもいます。それと、修理期間も1ヶ月前後はお時間を頂くと思います。」

 店員は丁寧に説明してくれた。

「そうですか。分かりました。もし、新品を購入するとして、同レベルのスペックだとおいくらぐらいになりますか。」

 羅針には、この苦楽をともにしてきたタブレットを、少しでも直してやりたいという気持ちもあったが、金額と修理期間を聞いて気持ちがぐらついた。新品に乗り換える時期ではないかという気持ちも少なからず湧き上がってきたのだ。


「このスペックですと、もうだいぶ古い型になりますので、数万でご購入頂けます。もし、このクラスのと言うことであれば、発売当時は最高レベルのスペックだったと思いますので、現在最高クラスのタブレットですと30万円前後の物があります。しかし、それですと、タブレットというよりパソコンの要素が強くなってしまうので、お客様がどのような用途でご利用になるかでも、選択肢は変わってくるかと思います。例えばノートパソコンに乗り換えられるとかですね。」

「そうですか。ノートパソコンは別に持っているので、タブレットは主に本を読んだりするのに使ってるんです。最近では動画を見たりすることもあるので、それ位のスペックがあれば充分なんですが。」

「なるほど、それでしたら5万円もしないものからございますが、もしある程度のスペックをご要望でしたら、10万円前後の物がお勧めではございます。」

「そうですか。修理するよりは安くて確実にスペックも上がるとなれば、新品購入を考えた方が良いと言うことですね。」

「そう言う事になりますね。」

「ちょっと電話で相談させて貰えますか。」

 羅針はそう言って、電話を掛けることを断った。店員は了承して席を外してくれた。


 羅針は、平櫻が契約している保険会社の担当者に電話を掛けた。

「……星路です。お世話になっています。ちょっとご相談がありまして、お電話させて頂きました。今大丈夫ですか。……ありがとうございます。今電器屋に修理に来ていまして……。」

 そう言って羅針は、店員と話した内容を担当者に伝えた。担当者の方はそれであれば、新品の購入でも構わない旨、了承してくれた。

「ありがとうございます。では、振り込みの手続きは教わったとおりで。……はい。では、よろしくお願いします。……はい。失礼します。」

 羅針は電話を切ると、再び店員を呼んだ。羅針の心は決まったようだ。


「はい。お待たせしました。いかがでしたか。」

 先程の店員が別の客対応を終えて戻って来た。

「はい、新品を購入することにしました。お手数をおかけしましたが、修理はしないということで。」

「そうですか。かしこまりました。こちらのタブレットはどうされますか。お持ちになりますか、それとも私どもの方で処分しましょうか。」

「処分料とかは?」

「特に必要ありません。」

「それならお願いします。」

 羅針は、中に入れっぱなしにしていたメモリーカードを取り出し、タブレットを店員に託した。店員に礼を言って、タブレットコーナーに向かい、新品のタブレットを物色する。


 暫くパンフレットを見たり、展示品を見たりしていたが、どれもピンとこなかった。すると、先程対応してくれた店員が、寄ってきて相談に乗ってくれた。

「お客様、いかがですか。お決まりになりましたか。」

「いや、どうもどれが良いか決めかねてます。」

「そうですか。先程お客様がおっしゃったスペックですと、こちらのモデルで充分なんですが、動画とかご覧になるってお話でしたので、出来れば処理能力が一段か二段ぐらい高めの物をお求めになった方が、後々長くご使用頂けるかと思います。もし、それですと、こちらのモデルや、こちらのモデルもお勧め出来ます。只お値段が多少お高くなりますので、ご予算に合わせてと言うことになりますが。いかがでしょうか。」

 店員が指し示してくれた商品は、羅針も目星を付けていた物だったが、あまりにスペックが良すぎるので、迷ってはいたのだ。

「なるほどね。やはりこの辺りのものということになるんですね。」


 羅針は、メモリ、ストレージ、マイクロSDスロットなど、いくつか要望を確認し、店員と相談の上、少しオーバースペックだったが、気に入ったものを一台購入した。もちろん領収書も忘れない。ポイントカードを提示して、ポイントも付けて貰った。結構痛い出費だが、後から返ってくると思えば、この痛みも癒えるというものだ。ましてや新品の高スペック品である。羅針の顔は自ずと綻んだ。


 店員に対応の礼を言って、椅子に座って待っていた駅夫に「お待たせ」と声を掛けた。

「どう、修理は。ってその紙袋は、まさか新品購入したのか。大丈夫なのか?」

 駅夫が羅針の手に下がっている紙袋を見て、目を見開いた。心配したのは保険が利くのかどうかである。

「ああ、保険会社の担当者に電話で確認してOK貰ったから、大丈夫だよ。」

 羅針はそう言って頷く。

「そうか、それなら良いけど。本当にあのボロタブレットが新品になっちまったな。」

「まあな。修理の値段と期間を言ったら、あのタブレットにもこのぐらいの価値が生まれたって事だ。」

「なんだそれ。なんだか良く分からないけど、まあ、新しくなって良かったじゃねぇか。」

「ああ。殆ど本読むだけでしか使わないから、チョー、オーバースペックなんだけど、ありがたい話だよ。」

 羅針はそう言ってニコニコ顔である。


「で、この後は、街ぶらか。体調はどうだ。って、聞くまでもないか。新しい玩具手に入れて絶好調みたいだしな。」

 駅夫はそう言って、笑った。

「う~ん、頭が……。」

 羅針が調子の悪いフリをする。

「ほら、仮病使ってないで、ラーメン食べに行くぞ。俺は腹減った。」

 駅夫が、羅針の背中を押して、出口へと向かう。時刻はとっくに13時を回っていた。


「で、どこのラーメン屋に行くんだ。」

 駅夫が聞いてくる。

「なんだ、決めてなかったのか。てっきり行きたい店でもあるのかと思ってた。ちょっと待ってろ。」

 羅針はそう言ってスマホでサクッと検索した。

「博多駅周辺でもこんだけあるな。近いところだと駅ビルの中にいくつか、徒歩数分圏内でも20件は出てくる。どうする。」

 羅針が、スマホの検索結果を見て言う。

「どうせなら人気のある美味い店に行きたいよな。」

 駅夫が羅針のスマホを見て言う。

「そりゃ、そうだけど、どこも一長一短だぞ。人気があるのはやっぱり駅ビルに入ってる店だけど、駅ビルっていう立地で下駄を履いてる可能性があるからな。」

「そうなのか。それじゃ、駅から遠けりゃ良いのか。」

「って訳でもないだろ。美味けりゃ便が悪くても客足は伸びるだろうけど、選択肢が他にないからって理由もあるぞ。」

「なんだよそれ、結局どこ行っても同じって事か。」

「まあそういうこと。結局自分の口に合うか合わないかだからな。」

「お前、ホントそういう所あるよな。なんて言うか良く言えば中立、悪く言えばどっちつかずの日和見。」

 羅針があまりに正論過ぎて、駅夫は呆れたように言う。

「そう言うなって、こればっかりは好き嫌いだからな。他人が何人好きでも、自分が嫌いだったらその店はマズい店だろ。逆に誰も好きじゃなくても、自分が美味いと感じたら、そこは名店じゃないか。」

「それはそうなんだけどよ。で、俺たちはどこへ行けば良いんだ。」

「ん?ああ、結局どこ選んでも一緒なら、まずは人気の店に行くのが手だろうな。話の種にはなるからな。それが嫌なら、店舗の見た目で選ぶか、立地で選ぶか、口コミで選ぶかそんなところかな。」

「そんな適当な。分かったよ、じゃ、もう決めるの面倒くさいから、ルーレットにしようぜ。そんなアプリあるんだろ。」

 駅夫がとうとう痺れを切らし、面倒くさくなって、そんなことを言いだす。

「ルーレットアプリならあるよ。これだろ。」

「なんだよ、インストール済みかよ。手際良いな。」

「まあな。」羅針がドヤる。「取り敢えず、項目数でルーレット回すから、出た数字が行く店の番号と言うことで良いよな。」

 そう言って、羅針が即席でルールを決める。

「ああ、それで良いよ。」

 駅夫が頷いた。

「それじゃ、回すぞ。」羅針は、ラーメン店リスト数の20軒に合わせて、項目数20でルーレットを回す。そして出た店が、「駅ビルの中の店だな。」と羅針がリストに照らし合わせて店名を読み上げる。


「結局、駅ビルの中か。まあ、初の本場で食べる博多ラーメンだ、初心者向けとしてはハードルが低くて良いのかもな。」

 駅夫がそう言って納得する。

「ほら、行こうぜ。」

 羅針が駅夫を促すように歩き始めた。


 駅ビル博多デイトスの二階にある博多めん街道の一角、一番を謳ったラーメン屋に二人は向かった。

 途中に居並ぶラーメン屋はどこも待機列が発生していて、どの店も人気が高いのが窺える。この博多めん街道に足を踏み入れてから、既に豚骨の独特な、濃厚で食欲をそそる香りが、何かを焦がしたような香ばしい匂いと共に、辺りに充満していた。


 目的のラーメン屋に到着すると、数組が待機していた。いずれにせよ、ルーレットで引いた店である。当たるも八卦当たらぬも八卦、美味いかどうかは神のみぞ知り、そして己の舌で見極めることになる、と言う訳で、二人とも意を決して入店する。と、その前に店の前で食券を購入してからだ。

 券売機には、トッピングが全部載ったスペシャルとか、チャーハンとセットのお勧めとか、果てはチャーハンと餃子がスペシャルとセットになった満足セットなるものまであって、色々迷うところだ。

 結局、羅針は煮卵の載ったラーメンを、そして駅夫は欲張ったのかトッピングが全部載ったスペシャルの食券を購入した。二人とも博多ラーメンの醍醐味である替え玉の購入も忘れない。


 食券を購入して、待機列で待つと、ものの10分位で順番が回ってきた。

 席に着くと、店員さんにまず麺の固さを聞かれたので、二人とも通ぶって〔ばりかた〕とか〔生〕とか言ってみたかったが、ここは日和って〔かた〕を注文する。

 ラーメンが来るまで、羅針の蘊蓄講座が始まった。

「博多ラーメンってそもそも、そんな呼び名はなくて、1970年代後半にとあるラーメン屋の女将が名称を考案して広まったというのが、定説みたいだね。」

「へぇ、考案したってのがすげぇな。でも福岡ラーメンじゃなくて、博多ラーメンってのもなんか地元愛を感じるじゃん。」

「だよな。で、博多ラーメンと言えば豚骨だけど、これは1940年代に中洲なかすの屋台で始まったらしい。」

「中洲って、あの屋台が並ぶって有名な中洲か。」

「そう、その中洲。そこから、色んな店が独自の豚骨ラーメンを出すようになって、それが博多っ子の胃袋を掴んだんだろうな。今じゃ博多になくてはならないグルメに進化したってことらしいよ。」

「へぇ。まあ、博多に来たらこの豚骨の匂いがどこからともなく漂ってくるからな。匂いで誘われるってのは、まず間違いないな。」

「だよな。俺たちもその口だし。」そう言って羅針は笑い、話を続けた。「そうそう、博多ラーメンと言えば、替え玉ってのがあるけど、これもあるお客が麺が足らなくなって、麺だけをお替わりしたら、他の客も真似するようになって、広まったって話だよ。」

「へぇ。でも、他の地域のラーメン屋では聞かないから、やっぱり麺をお替わりしたくなる様な味なんかな。」

「かも知れないな。」


 そんな話をしていたら、二人の前にラーメンが運ばれてきた。

 羅針のは煮卵に、高菜とチャーシューが載った、ほぼオーソドックスなものだが、駅夫が頼んだのは、チャーシュー、ワンタン、煮卵、高菜と全部が載ったスペシャルである。


 二人ともまずはスープから。

 豚骨にしてはさらりとしていて、それにも関わらず濃厚でパンチのある豚骨味はしっかりある不思議なスープだ。もちろん豚骨の独特な匂いはあるが、臭みはない。

「これは、美味いな。都内で食べた豚骨ラーメンとはやっぱり一線を画すな。」

 羅針が感心したように呟く。

「確かに。この味は都内では食えないな。やっぱり本場で人気店なだけはあるよ。」

「だな。駅ビル舐めてた。」

 羅針はそう言って笑った。

「だぞ、人気があるからには、それなりに理由があるってことだ。例え下駄を履いてたとしても、マズかったら、人気が落ちてテナントから叩き出されるだろうからな。」

 駅夫が至極もっともなことを言う。

「まあ、そうだな。お前の言うとおりだよ。予想が良い方に外れたってことで。」

「良しとするか。」

 二人はそう言って笑う。


 〔かた〕で頼んだ麺も、普段とは違う食感に躊躇ったが、やはり豚骨スープには合うのか、これがまた美味く感じるのだ。

「そう言えば、ここって紅ショウガがないんだな。」

 駅夫がふと気付いたように言う。

「そうだ。博多ラーメンと言えば紅ショウガって聞いてたけど、今は違うのかな、それともこの店の方針なのかな。」

 羅針もそう言えばという風に呟く。

「さあな、それとも、この高菜が紅ショウガの代わりとか。」

「かも知れないな。紅ショウガなくても全然問題ないよ。この高菜が良いアクセントになってくれてるし、むしろ紅ショウガ味にしてしまうのはもったいないかも知れない。」

 羅針はそう言って分析するが、兎にも角にも美味いことに変わりはない。


 結局二人は替え玉もペロリと平らげ、スープまで飲み干してしまった。

「美味かったな。」

 駅夫が腹をさすりながら、満足げに水を飲んでいる。

「ああ、確かに美味かった。これが本場の味なんだな。」

 羅針も満足げに水を飲んだ。


 二人は、腹一杯になったところで、店員にごちそうさまを言って、店を後にし、腹ごなしに街ぶらをすることにした。羅針が行きたいと言っていた場所に足を向ける。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ