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日本全国鐵輪巡礼 ~駅夫と羅針の珍道中~  作者: 劉白雨
第拾話 諫早駅 (長崎県)
71/182

拾之壱


 朝6時、いつもの通り星路羅針はきっちりと目を覚ました。

 この宿のふかふかベッドは寝心地も良く、昨日風呂から上がって、ベッドに横になった途端、闇に吸い込まれるように眠りに就き、そして、今の今まで夢の中にいたのだ。

 こんなにぐっすり眠れたのは、久しぶりかも知れない、と羅針は思った。


 羅針がベッドから起き上がり、洗面台の方へ行こうとした時、隣のベッドでゴソゴソと旅寝駅夫が起きだしてきた。

「ん~お~は~よ~。」

 大きな欠伸をしながら、駅夫が挨拶した。

「おはよ。今日も温泉か。」

「ん~そぅ。」

 眠そうに目をこすりながら、駅夫が応える。

「じゃ、早速朝風呂に行くか。」

 羅針は、洗面用具を用意して、湯籠に入れる。もう一つの湯籠も持ってきて、駅夫に渡す。

 目は覚めたのに身体が起きないのか、駅夫がまだベッドの上でウダウダしていた。

「ほら、置いていくぞ。」

 羅針が駅夫を促す。

「まってくれぇ。」

 駅夫が寝惚けたような声で言い、漸くベッドから降りて、自分の荷物から洗面道具を取り出して湯籠に移した。

 駅夫が準備出来たのを見て、羅針は入り口のドアを開けて、駅夫を引っ張り出し、そのまま大浴場へと向かう。

 足取りのおぼつかない駅夫を背中から見守りながら、羅針がついていく。


 今日の朝風呂の先客は二人程いた。駅夫と羅針も早速寝汗を流し、露天風呂に浸かる。

「やっばりこっちの方が気持ち良いな。」

 駅夫は漸く目が覚めたのか、頭にタオルを載っけて、はっきりした口調で、気持ちよさそうに呟く。

「だな。朝の風が心地良いし。今日も良く晴れそうだ。」

 羅針は青く透き通る天空を見上げて、応えた。


 結局長風呂をしてしまった二人は、そのまま朝食へと向かう。

 席に着いた二人の目の前に並んだ料理は、ほとんど昨日と変わりないが、小鉢の内容が変わったのと、蒸し料理が出てきた。

 養老豆腐や味付けされた喉黒の切り身などもあり、これはこれで日本酒がいきたくなる、なかなかの一品だ。

 今日は運転することはないから、朝からいっても良いのだが、と羅針が思っていると、駅夫が親指と人差し指で輪っかを作り、酒を飲む仕草をしている。どうやら、考えていることは同じだ。羅針がサムズアップを返すと、早速二人はドリンクコーナーに行って銘酒を注いでくる。

 席に戻り、小鉢を肴に日本酒をちびりちびりとやると、二人ともやっぱこれだよなという顔で、うなずき合う。本当に美味いものは言葉なんていらない。二人はまさにそれを体現していた。

 最後に味噌汁と御飯、そして温泉卵を頂き、ヨーグルトで締めた。


 ほろ酔い気分の二人は、昨日と同様、中庭を酔い醒ましに散歩する。今朝は兄弟だろうか、男の子が二人、母親に見守られながらアスレチックを楽しんでいた。駅夫と羅針はまるで自分たちの子供の頃を見ているかのような、そんな気がした。


「俺たちにもあんな頃があったんだよな。」

 駅夫が懐かしそうに言う。

「まあな。もう半世紀も経つんだぜ。ホント早えよなぁ。」

 羅針も過ぎ去った時の長さに思いを馳せた。

 生まれた時から、一緒にいる二人にとっては、長くもあり、また短くもある、この半世紀という年月であった。


 散歩を終えた二人は、部屋で荷物の片付けをし、ベッドを整え、部屋の片付けをし、出発の準備を整える。羅針は朝のルーティンを中止した。

 8時45分頃階下に降り、チェックアウトを終え、土産物屋を覗いた後、送迎車で駅まで送って貰う。


 羽咋駅に到着すると、運転手さんにお礼を言って、二人は駅の中へと向かう。

 駅の券売機で金沢までの切符を購入し、レトロ感満載の改札口にあるラッチの中に立っている駅員さんに改札をして貰う。

 こんな光景も、今や都会では絶対見られない。昔はどこの駅へ行っても改札口では、パンチをカチカチ鳴らす音が響き渡り、駅の喧噪として風景の一つを担っていたが、今や、ピッという機械音だけである。やはり人間味のある、駅員さんによる改札は、温かみがあって、旅情を掻き立ててくれる。


 跨線橋を渡り2番ホームへ向かうと、丁度列車の接近放送が流れた。能登に縁のある女性歌手の歌で、永続性や、想いを受け止めて欲しい、という花言葉を持つ花の名前がタイトルとなった曲である。どこかもの悲しく、どこかノスタルジックな気持ちにさせ、旅愁を掻き立てる名曲である。


 入線してきたのは521系100番台で、羽咋に来る時にも乗った列車と同系である。

 列車に乗り込んだ二人は、もちろん、駅夫はかぶりつきへ、そして羅針は座席に陣取った。扉が閉まり、運転手の「出発、進行。」の喚呼で、列車が動き出す。

 先程聞いた接近放送の曲のせいか、これで羽咋駅と別れるのかと思うと、何か故郷を出て行く郷愁のようなものを感じ、ぐっと込み上げてくるものがあった。羅針は、目に浮かんだものを手でそっと拭い、まるで今生の別れを惜しむかのように、車窓を目に焼き付け、羽咋に別れを告げた。

 特に思い入れがある思い出が出来た訳ではないのだが。それでも、思い出は思い出である。そう羅針は思い、流れていく車窓を眺めていた。


 車窓はすぐに田園風景へと変わり、長閑な景色が広がっていく。左手にはなだらかな丘陵地帯である宝達丘陵が連なり、朝の陽射しを背に受けていた。右手には日本海に面した千里浜が広がるはずだが、流石に距離があるのか、やはり列車からは見えない。


 二人とも、一度通った路線であるにもかかわらず、見落としがないかチェックでもするように車窓を眺めた。やはり、太平洋側と違う、独特な日本海側の景色というものは、二人にとって新鮮でありながらも、どこか懐かしさを感じる、そんな風景なのだろう。

 やがて津幡つばた駅に到着し、IRいしかわ鉄道に合流すると、金沢駅まではもう間もなくである。


 金沢駅に降り立った二人は、新幹線の乗り換えまで時間があるため、もう一度鼓門を見て、駅構内の銘店街へと立ち寄った。

 流石北陸最大の都市、金沢の駅である。観光客、ビジネスパーソン、そして地元の買い物客などが、土曜日の朝ということもあり、ごった返していた。人々が行き交う足音はもちろん、ガラガラとキャリーケースを引く音や、知人を呼ぶ声、そして客を呼び止める売り子の声や、スピーカーから流れてくる迷子のアナウンスなど、様々な音が渋滞していた。


 二人がまず訪れた、コンコースに面したお土産物屋さんには、お菓子の詰め合わせが多く置いてあったが、日本酒や工芸品なども揃っていた。

 ぐるっと一廻りし、更に改札口裏手にある銘店街にも足を伸ばし、様々なお土産物屋を見て廻ったが、かなり奥まで続いていたので、流石に廻りきれなかった。


 金沢と言えば、全国シェア99%の金箔工芸があるが、そこで思わず足を止めた二人は、流石に値段も張るし、持ち歩くのは厳しいので、目を楽しませるだけで済ませようとしていた。ところが、店員さんに捕まってしまった。

「何かお探しですか。」

「いえ、只見て廻ってるだけなんですよ。」

 店員の第一声に、駅夫がさらっと応える。

 店員さんは、その一言で察したのか、販売モードから宣伝モードに移行し、金沢金箔のことを簡単に教えてくれた。

 店員さんによると、金箔とは約1万分の1㎜まで薄くしたものを良い、「空気と水以外はなんでも貼れる」のだそうだ。

 確かに最近では、美容パックになっていたり、お菓子やアイス、食品にも貼られていたりするのを、良くテレビやネットで見かける。そのことを羅針が口にすると、店員さんの宣伝モードが講義モードにパワーアップし、熟々と金箔の歴史を教えてくれた。


 日本では古来より各地で必要とされ、中国などの影響を受けながらその製造方法を発展させてきたという。江戸時代に入り、平和な時代が続くと、財力のある加賀藩は、伝統工芸に力を入れ、その中にこの金箔作りも含まれていたという。しかし、江戸幕府の政策により、京都以外での箔打ちが禁止されていたため、純度の悪い素材から密造していたそうで、逆境の中で磨かれた金箔作りの技術が、今では国内で右に出るものはいないのだという。


 店員さんの説明を聞き、折角ならとは思ったが、そう簡単に手が出るものでもなく、手頃な値段のものは触手が伸びず、店員さんに勉強になったお礼を言って、金箔工芸屋を後にした。


 結局二人の手には、能登銘菓の味噌饅頭と、蟹づくしの駅弁が入った袋がぶら下がっていた。二人にとっては花より団子、工芸品より食い物である。散々マス寿司と迷ったが、蟹の魅力には抗えず、蟹が一面に敷き詰められている弁当に軍配を上げたのだった。


 そろそろ時間も良くなったので、二人は新幹線改札口を潜り、ホームへと上がった。

 13番線ホームに上がった二人は、2号車の乗車位置に並んだ。かなり人も多く、どの乗車口も既に人が列をなしていた。

 6月とはいえ、徐々に気温が上がって、生ぬるい風が通り抜けていくような今の時間帯でも、線路ごと駅全体が屋根に覆われたこの金沢駅は、とても過ごしやすい。豪雪対策の屋根ではあるが、真夏の暑さ対策としても功を奏しているのではないだろうか。


 時間になり、敦賀行きのE7系かがやき505号が到着した。

 東京から来た列車を降りる人もかなりいたが、入れ替わりで乗り込む人も結構いた。全席指定なので慌てる必要はない。二人が指定したのは15Aと15Bで、今回は海側だ。海側は3列シートなので気が引けたが、隣同士で座れる席はそこぐらいしか空いてなかったので、羅針は仕方なくそこを取った。だが、前回山側だったので、ある意味幸運だったのかも知れない。


 座席に座ると、待ちきれなかったのか、駅夫は早速味噌饅頭を一つ口に放り込んだ。

「これ美味いぞ。」

 そう言って、駅夫は目を丸くしている。あまり期待していなかったのか、心底驚いた様子だった。

 羅針は、今朝出来なかったルーティンをやろうと、まずはパソコンを広げ、電源を入れようとしていた。駅夫の言葉を聞いて、「ホントか。」と言い、一つ貰って頬張った。

「確かに、これは美味い。生地にも味噌が練り込まれているのか、甘塩っぱい味が何とも言えないし、餡はこれ、いんげん豆なのか、味噌が絶妙なバランスで混ざってて、後味が芳醇になるのも良いな。それでいてあっさりしている。これは店員さんも勧めるわけだ。」


 先程金沢駅の土産物屋でブラブラしていると、寄ってきた店員さんが、

「お土産ですか」と聞くので、

「自分たちで食べる用です」と応えると、

 それならということで、あまり日持ちのしないこの味噌饅頭をお勧めしてくれたのだ。初めて聞く名前と、味噌と饅頭という取り合わせに、戸惑いを隠せなかったが、「能登の民にとっての至極の一品なんです。是非。」と言われてしまえば、断る理由もない。


「言われるがままに買ったけど、正解だったな。」

 駅夫が2つ目を頬張りながら言う。

「ああ。こんなに美味いなら、もう少し大きい箱のにすれば良かったな。」

 羅針もパソコンを操作しながら2つ目を頬張る。

「確かにな。でも、次またこれを食べたいって思うぐらいが丁度良いんだよ。飽きるほど食べたら、もう二度と買いたくなくなるじゃん。」

 そう言って駅夫が既に2つ目を呑み込んだ。

「そうだな。また金沢行ったら、これ買おうな。」

「だな。」

 そう言って6個入りの味噌饅頭を二人であっという間に平らげてしまった。


 車窓に田園風景が広がる北陸の地を列車は爆走する。

 駅が近づくと街が広がり、駅が遠ざかると田園が広がる。一昨日通ったばかりの路線ではあるが、そんな風景を駅夫は窓にかぶりついて楽しんでいた。

 一方、羅針は、今朝出来なかった毎日のルーティンである、カメラのデータをハードディスクに移したり、昨日の纏めなんかをおこなっていた。


 やがて恐竜の街福井駅に到着すると、皆恐竜目当てなのだろうか、子供連れの客がかなり降りていき、何か物寂しくなる程車内は静かになった。

 福井を出ると途端にトンネルが多くなる。田園風景が見えたなと思ったら、またすぐにトンネルだ。トンネルとトンネルの間にある越前たけふ駅を一瞬で通過すると、新北陸トンネルへと突入する。このトンネルを過ぎれば、終点の敦賀駅は間もなくである。


 敦賀駅に到着すると、人々は足早に下へ下へと向かう。特急に乗り換える人、在来線に乗り換える人、もちろん敦賀駅で下車する人と、3方向に分かれていく。

 大きな荷物を持ち、旅の疲れと期待感に満ちた表情でエレベーターに乗る乗客たちは、まるで川の流れに身を任せる魚たちのように、下へ下へと下っていき、各々の目的地へと向かっていった。

 二人はその流れに乗らず、駅構内ブラブラコースへと分離する。

 冷房が効いた車内から降りてきた二人は、もわっとする熱気に顔を顰めたが、金沢駅同様ホームを覆うように設置された屋根が陽射しを遮っているため、これでも過ごしやすいのだ。この日の敦賀は、6月にもかかわらず、予想最高気温が真夏日の30度を越えていたため、金沢駅でも感じたが、この屋根は本当にありがたい。


 この敦賀駅は港町をテーマにして造られたといわれ、屋根の形状は船をモチーフにしており、ホームの床は船の甲板を模した木目調のタイルとなっていた。

 二人はそんなホームの写真を撮り、降車客の流れが一段落いちだんらくした頃、漸く階下へと向かった。一昨日来た時は多少時間があったとはいえ、コンビニとお土産屋をひやかしただけで素通りしたので、今日はもう少し時間があるし、駅構内を更に探索することにした。


 この敦賀駅は、歴史的にこれまで単なる通過駅に過ぎなかったが、現在はすべての列車のターミナル駅となり、貨物列車以外は、文字通りすべてここで終点となる。

 元々敦賀港の玄関口であり、大陸横断、ヨーロッパーへ向かう交通の重要拠点として利用されてきた国際的な港町の玄関口であるこの敦賀駅が、近年ではその役割を減らし、北陸圏の最西端、関西圏の最北端として、国内での重要な役割を担っていた。そして、北陸新幹線の開通である。地元にとっては今後の発展が楽しみではあるだろう。

 しかしながら、今後関西圏まで新幹線が延伸した際に、訪問客が増加すれば良いが、逆に乗換え客も訪問客もいなくなれば、大打撃を被り、ひっそりしてしまう可能性だってあるのだ。おそらく関係者を始め、観光客目当ての商売をしている人にとっては、戦々恐々といったところだろう。

 昭和時代5千人を超えていた一日平均乗車人員が、現在では3千人を切るまでに減少しているこの現状を、今回のこの北陸新幹線開業が打破してくれるのか、来年度の統計発表を待つまでその行方は分からないが、やはり気になるところではある。


 さて、階下に降りてきた二人は、多少は冷房が効き、乗換え客の流れが一段落した乗換え改札口へと向かった。

 学校の体育館の二倍かそれ以上はありそうな、広いコンコースは、天井部分が北前船の帆をモチーフにしているといい、茶色の湾曲した木を模した骨組みと白い天板が設えてあった。

 この広いコーンコースのあちこちには、二人と同じように、駅を見て廻っているカメラを持った観光客や、動画撮影をしているのか、ウェアラブルの小型カメラを構えて何かを喋りながら歩く人が散見された。

 また、移動に疲れたのか、壁に寄りかかって飲み物を飲んで休んでいる人や、家族や仲間がお手洗いにでも行っているのか、大きな大量の荷物を番している人もいた。


 改札を抜け、コンビニとお土産物屋の辺りまで看板を見たり、電子公告を見たり、写真を撮ったりしながら、フラフラとぶらついてきた二人は、更に足を伸ばして在来線ホームを跨ぐ跨線橋に降りて来た。エスカレーターと申し訳程度の距離を動く歩道を使い、在来線の上を通り過ぎていく。

 窓の外には、かつて大量の特急列車や寝台列車、そして貨物列車が発着したであろう巨大な駅が広がっていた。

 新幹線を含めると7面15線を有するが、特急が発着する専用ホームを除いても、目の前に広がっているのは3面7線の巨大なターミナル駅である。そのほとんどが留置線や引込線であり、旅客営業には利用されていないとはいえ、それだけの線路が必要な程、かつては重要な拠点であったという証拠が、そこにはあった。


 在来線沿線の観光案内の看板が掲げられたエスカレーターを降りると、西口に出てきた。

 二人は改札を潜り、外に出て、表から福井駅を眺める。

「でかいな。」

 駅夫が目の前に広がるロータリーを見て、開口一番驚いたように言う。

「確かにでかいな。流石北陸の拠点駅だけあるよ。」

 羅針も感心したように言う。

 この駅を拠点に運行しているバスや、タクシープールに駐車している数多くのタクシー、そして送迎の一般車が、入れ替わり立ち替わり、ひっきりなしにロータリーを利用していた。

 更に、芝生が敷かれた広場を中心にした商業施設もあり、店舗案内の看板には、飲食店や物販、お土産物屋なども入っていた。中には港町らしく、魚を使ったハンバーガーを販売する店もあったが、店内を見て廻る時間は流石にないし、今は弁当もあるので、またの機会と言うことにし、今回はスルーした。


 駅前の写真を撮ったり、記念撮影をしたりして、駅舎の中に戻ると、左手にハピラインふくいのお客様サービスセンターがあった。それを見た羅針は、先に行こうとする駅夫を呼び止めた。

「駅夫、ここでハピラインふくいの鉄印貰おうぜ。」

「えっ、鉄印ここで貰えるのか。」

 駅夫が驚いたように振り返る。

「多分な。」

 そう言って、羅針はサービスセンターの中へと入っていき、窓口の人に鉄印を貰えるか聞いてみた。ところが、あっさりまだ販売していないと言われたのだ。どうやら、鉄印帳のホームページに名を連ねてはいるが、開業したばかりで販売体制が整っていないようだ。


「御免。販売してないって。」

 羅針ががっかりしたように、遅れてサービスセンターの中に入ってきた駅夫に告げる。

「えっ、そうなの。それは残念だな。でも、やってないんじゃしょうがないじゃん。また販売するようになってから来ようぜ。」

 駅夫は再び驚いたような顔をし、がっかりした顔をする羅針を慰めた。

「そうだな。仕方ないが、そうするか。」

 そう言って羅針は窓口の人にお礼を言って、サービスセンターを後にした。駅夫も窓口の人に会釈をして、羅針の後を追いかけた。


 そろそろ特急の発車時間が迫ってきたので、二人は特急専用ホームの方へと跨線橋を渡って向かった。


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