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日本全国鐵輪巡礼 ~駅夫と羅針の珍道中~  作者: 劉白雨
第拾肆話 館腰駅 (宮城県)
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拾肆之拾


 仙台国際空港のターミナルビル三階で昼食を終えた、旅寝駅夫と星路羅針、平櫻佳音の三人は、一人乗りの電気自動車を借りるために、一階にあるレンタカーの窓口へと降りてきた。

 手続きを始める前に、三人は羅針がいつも携帯しているアルコールチェッカーで呼気を測った。三人ともアルコール濃度は0%と出たため、これで一応一安心(ひとあんしん)である。

 もちろん、こんな簡易チェッカーで完全に安心できるわけじゃない。だが、引っかかるようなら運転する資格はないし、引っかからなければ一応の基準にはなる。羅針にとっては、安全運転の御守りのようなものだった。


 レンタカーの受付窓口で、一人乗りの電気自動車を借りる手続きをする。手続きは然程問題なく進み、無事三台を借りることが出来た。

 案内された駐車場の一角に充電スペースがあり、そこに充電コードに繋がれた車が並んでいた。色は白を基調にし、水色のラインがあしらわれた、可愛い見た目の車だ。大きさは一人用の座席に車体を被せましたという程小さく、180㎝近くある駅夫には窮屈そうだがなんとか乗れたようだ。


「よし、それじゃ道は俺が先導するから、お前が殿しんがりな。平櫻さんは私と駅夫の間を走ってください。安全運転で行きましょうね。」

 羅針が駅夫と平櫻に言う。

「了解。」

「分かりました。」

 駅夫と平櫻が応える。


 三人は駐車場を出ると、ターミナルビル前の直線を抜けて、アクセス線の高架を潜ると、コーナーの途中で名取市道広浦(ひろうら)北釜きたがませんに出る道路を左折する。皆慣れないだろうからと、羅針は二人が遅れないように、スピードを若干抑え気味で走る。

 この一人乗り自動車の操作系は基本普通の自動車と変わらないし、アクセルとブレーキも当然変わらない。

 しかし、車幅1m程の車体の真ん中に設置された座席に座り、真ん中に付いたハンドルを操作するのが奇妙な感じで、羽咋はくいで乗ったトゥクトゥクはバイクのようなハンドルだったが、これは普通の自動車のように丸いハンドルなので、余計に違和感を覚えた。

 更に、サイドブレーキが椅子の右側下に付いているのと、シフトレバーがハンドル左脇に付いているのが、普通の車と違うところだろうか。

 ウインカーとワイパーが同じバーで操作が出来て、正面にあるデジタル速度計が、普通の自動車のようにゴチャゴチャと色々表示されず、すっきりしているのは、見やすくて良い。


 運転自体は然程難しくはない。小さいこともあり、取り回しも楽だし、小回りも利く。ただ、カーブでは充分にスピードを落とすように、レンタカーの受付係に念を押された。車体が軽いためか、外に膨らんで倒れてしまうのだそうだ。

 もちろん、道交法では右左折は徐行、当然そんなスピードは出さないが、やってしまう人はいるらしい。

「保険には加入していますが、補償限度額を超えた場合はお客様のご負担になります。」

 そう店員に言われたので、もちろん安全運転は必須である。スピードの出し過ぎで転ぶなんて言語道断である。

 羅針は、そんなことを考え、後ろの二人をサイドミラーで確認しながら、速度を調整する。


 貞山堀に架かる橋を渡ると、防潮堤として造られた名取市道広浦北釜線に出る。この道路は津波から街を守るために嵩上げ道路として、名取市道閖上南北線と共に整備された道路で、二路線合わせて全長6.6㎞の道路である。

 海抜5mまで嵩上げされたその道路は、まだ真新しく、片側一車線の道路に幅の広い歩道が陸側にあった。

 以前は道幅も狭く、歩道もない道路が多かったことから、避難に手間取ったらしい。それを教訓に、道路幅を拡幅し、歩道もきちんと設けたという。

 道路の陸側には仙台空港を始め田畑が広がる豊かな田園地帯となっているが、海側には草がボウボウと覆い茂る荒れ地になっていて、かつて町があり、人の営みがあったことなど信じられない程である。ポツリと見えるビニールハウスが佇んでいる姿が、どこか寂しそうだ。


 ちなみに、この名取市道広浦北釜線と平行して流れる貞山堀は、阿武隈川あぶくまがわ河口の岩沼市納屋(なや)から松島湾の塩竈市しおがまし牛生町ぎゅうちょうまでを結ぶ運河で、総延長は33㎞に及び、江戸時代から運河として活用されてきた。現在はボートの練習場や、市民の憩いの場としても活用されている。


 三人は一列になって、制限速度いっぱいで、ゆっくりと、かわまちてらす閖上に向かってひたすら走る。

 ちょっとした段差でも跳ね上がり、決して乗り心地が良いとは言えないこの一人乗り電気自動車だが、バイクに比べたら安定感はあるし、身体を覆う車体が、風から身を守ってくれるのは嬉しい限りである。エアコンのないのが玉に瑕だが、それでも夏は幌式のドアを開けて走れば、風を感じることは出来るし、冬は厚手の服を着込めば、風を除けてくれる分、バイクよりはマシだろう。


 カタログには最高速度が時速60㎞とあり、一般道なら問題ないが、満充電で57㎞しか走行しないため、長距離には向かないようだ。ちょっと街乗りでという用途なら充分であるし、100Vで充電出来るため、どこへ行っても充電は出来る。ただし、満充電まで6時間はかかるようだが。


 幸い、そんな非力な電気自動車でも、道は空いている上、羽咋で出会でくわしたような、いきったバカはおらず、快適なドライブである。

 道路は左へゆっくりとカーブを描き、再び貞山堀に架かる橋を渡り、更に進むと八間堀はちけんぼり増田川ますだがわを渡り、川沿いに右折すると、名取市道閖上南北線へと入る。そのまま突き当たりまで走りきると、名取川にぶつかり、左折するとそこに漸くかわまちてらす閖上が現れる。


 10分程のドライブを楽しんだ三人は、駐車場に入ると、三台並べて止める。

「お疲れ様。」

 羅針が二人に声を掛ける。

「お疲れ。」

「お疲れ様です。こうやって並べると、本当に可愛いですね。」

 駅夫と平櫻が応え、平櫻はそう言って動画を撮っている。

 羅針もカメラを取りだして、写真を撮る。結局三人は、車をバックに記念撮影をした。


 撮影を満足した三人は、平櫻が行きたいと言っていた、かわまちてらす閖上に向かう。

 このかわまちてらす閖上は、生まれ変わった閖上のまちを照らす、水辺のテラスが賑わう商店街である。飲食店や鮮魚店、土産物屋などが並び、SUP、笹かまぼこの手焼き、焼きマシュマロ体験に、クルージング体験など、アクティビティも楽しめる。

 濃い緑を基調とした長屋形式の平屋の建物が二棟あり、それぞれ十数店舗ずつ入っていて、閖上だけでなく、名取、仙台、延いては宮城の名産が手にい入る。

 羅針が館腰駅に決まった時に、検索した名取市観光のホームページで紹介されていたのが、ここのことだったのだと、今になって思い至った。


 閖上地区には、かつて五千人が住む街であったが、津波によってすべてが流された。

 津波に呑み込まれた中学校の映像はテレビでも度々報じられ、十四名の生徒が犠牲になった。多くの悲しい記憶が、この閖上地区を覆っていたが、ここかわまちてらす閖上を始めとする、復興への取り組みが、この地域に明日への希望をもたらしているのだろう。人々が集い、賑わう姿が、そこにはあった。

 現在閖上地区の人口は三千人を超え、かつての賑わいを取り戻そうとしていた。


 ゆりあげとは、風や波で砂地の砂が揺り上げられることを意味する言葉で、元々漢字は当てられていなかった。

 この閖上という漢字が当てられたのは、江戸時代前期、四代目仙台藩主の伊達綱村だてつなむらが、大年寺だいねんじを参拝した際に、山門から見えるこの〔ゆりあげ浜〕を望み、名前の漢字を近侍きんじに尋ねたところ、漢字はないと言われ、そこで綱村が「門の内から水が見える故に、門の中に水と書いて閖上と呼ぶように」と言ってこの漢字が生まれたとされる。

 諸説はあるようで、〔淘上ゆりあげ〕〔淘揚ゆりあげ〕などが当てられていたのを縁起が悪いとして〔閖〕の字に変えたという話も残っているようだ。


 とにかく、海にゆかりのあるこの地区は、仙台藩直轄の港として、仙台に魚介類を販売して栄えた。農業と漁業がおこなわれる、半農半漁の地域であり、現在も農業と漁業が営まれ、仙台の恵みの源として、多くの水産物や農産物を供給している。


 三人は、取り敢えず、ぐるりとどんな店舗があるのか見て廻った。結構人出もあったが、混み合うほどではなく、のんびりと店を見て廻ることが出来た。

 名取川沿いには散策出来る遊歩道もあり、白い文字で〔BLUE♡〕とかたどられたオブジェがあり、〔宮城の海を大切に〕とあった。

 このオブジェのハートの部分には、水中が再現されていた、水面は美しく見えるが、水中には多くのゴミが年々増えていることを啓蒙するためのオブジェだという。


「確かにな。震災瓦礫もあるんだろうけど、それだけじゃないからな。」

 パンフレットにあったオブジェの説明書きを読んで羅針が言う。

「そこら辺に不法投棄やポイ捨てされたゴミが、流れ流れて海に辿り着くんだろ。そりゃこうなるわな。」

 海中を模したハートの中に置いてるあるゴミを見て、駅夫もそれは当然だよなと言わんばかりだ。

「一部の心ない人のせいなんですけどね。そう言う人に、このオブジェの趣旨が伝わらないのは悲しいですね。」

 平櫻もそう言って嘆く。

「だいたい、そう言うヤツの頭の中は、たいていとっちらかってるからな。ゴミ捨て場のように。」

 駅夫が吐き捨てるように言う。

「だな。海を汚すことで、生態系が変わり、水産資源が獲れなくなっていくということが分かってない。」

 溜め息交じりに羅針が言う。

「で、高騰したら人のせいにするんですよね。」

 平櫻が続ける。

「自分たちのせいなのにな。……それが分からないから、ポイ捨てを止めない。」

 駅夫は呆れたようにそう言ってシュラッグのポーズをする。

「付ける薬がないからな。」

 羅針も呆れたように言った。


「ところで、平櫻さん、写真撮ってあげようか。」

 駅夫が気分を変えるように提案する。

「ありがとうございます。お願いします。」

 そう言って平櫻は、動画の撮影を羅針にお願いし、駅夫にスマホを渡すが、駅夫は、写真撮影を羅針に任せ、自分は動画の撮影を引き受けた。

「俺が撮るのかよ。……なんか、以前もこんなことあったような……。」

 羅針の脳裏には、諫早のバス停で、女の子たちに写真撮影を駅夫が安請け合いして、結局羅針が撮影することになったことを思いだしていた。

「そう、写真はお前の方が得意だろ。」

 駅夫がそう言ってサムズアップをしている。


 羅針はブツクサ言ってるが、写真家魂に火が着いたのか、平櫻にポーズを取らせた。

 最初はオブジェの脇に直立不動で平櫻は立っていたが、羅針の指示で軽く腰を傾けた。片手を髪に触れながら柔らかく微笑む平櫻に、まるでそよ風に揺れるような自然体の魅力が宿った。その表情からは大人の女性としての自信と、大人になりきれていない少女のようなあどけなさを併せ持った魅力が、羅針の目には映った。


 羅針は、平櫻から預かったスマホだけでなく、自身の一眼でも思わず撮影した。

 スマホの写真は露出もピントも何もかもきちんと調整されていたが、一眼で撮った方は、一眼ならではの背景のボケや、微細な表情のニュアンスがスマホとは一線を画していた。どちらが良いかではなく、どちらも写真として成立していたが、平櫻は、一眼で撮ってもらった方を好んだ。

 もちろん、羅針はその一眼で撮った写真を平櫻に送信する。

「ありがとうございます。スマホの方も素敵なんですけど、星路さんのカメラで撮った方は、何かモデルさんになったような気がするんですよね。」

 平櫻は嬉しそうにお礼を言った。


 その後は、駅夫と羅針も交代で平櫻に撮影してもらった。今度は平櫻が二人にポーズを注文する。

「そう言えば、諫早の時にさ、彼女たちの中に、平櫻さんの妹さんもいたんだよな。」

 駅夫も諫早の一幕を思い出していたのか、そう言う。

「らしいね。ビビったけどね。」

 羅針がそう言って笑う。

「すみません、ウチの妹がご迷惑を掛けて。」

 平櫻が謝った。

「そんなのは全然良いですよ。ただ世間って狭いなって思っただけですから。」

「そうそう、気にはしてないから。俺たちも楽しませて貰ったし。」

 羅針と駅夫が言う。

「でも、やっぱり姉妹なのかな、ポーズの取らせ方が同じなんだよな。」

 駅夫が笑いながら言う。

「確かに、そうかも。」

 羅針も頷く。

「えっ、そうなんですか。やだ、恥ずかしい。」

 平櫻はそう言って照れ臭そうに笑う。


 記念撮影を済ませた後は、駅夫が気になっていた、手焼き笹かま体験をしたいと言う。

「羅針、これやろうぜ。」

 駅夫が看板を指差して強請ねだる。

「折角だしな。平櫻さんもやりますか?」

 羅針は頷き、平櫻にも聞く。

「ええ、是非。」

 平櫻も頷く。


「すみません、笹かまの手焼き体験って今できますか。」

 駅夫が店に入っていって、店員に聞く。

「はーい、できるよー。何人さんかな?」

 店員が頷き、確認した。

「三人です。あ、それと……」

 駅夫は答えると、平櫻を見た。

「動画の撮影をしても良いですか。私、平櫻というものなんですが、動画サイトに動画を投稿していまして。体験しているところを動画で撮影したいのですが。よろしいでしょうか。」

 そう言って平櫻は自分の名刺を手渡す。

「おお、いいよー、いいよー。」

 店員は快く承諾してくれた。

 三人は料金を支払い、竹串が刺された焼かれていない笹かまを手渡された。


 店員は壁に貼られた焼き方の手順を指して、

「だいたいこいづの通りやれば、うまく焼けるよー。二分半くらいしたら、焼き目がついてふっくらしてくるからさ。そしたらひっくり返してみてなー……。

 何回もひっくり返したくなるけど、時間ばっかかかってなかなか焼けねえから、気をつけてなー。」

 店員が丁寧に説明してくれた。

「羅針二分半な。」

「了解。」

 駅夫の言葉に、羅針がスマホでタイマーをセットする。


 火に掛けると、最初はなかなか反応がなく、三人は竹串に手を掛けたくなったが、ぐっと我慢した。

「忍耐力が試されているな。」

 駅夫が言う。

「そうですね。こういうのホント待てないんですよね。」

 平櫻が何度も手を伸ばしたくなるのを堪えるように、自分の手で自分の手を押さえつけていた。


 焼き器の前は暑くて、三人とも汗を掻いてきた。

「まるでサウナだな。」

 駅夫が言う。

「これも忍耐力を鍛える試練という訳か。」

 羅針が額の汗を拭いながら言う。


 そうこうしているうちに、漸く二分半が経ち、羅針のスマホからアラームが鳴る。

「よし、時間だ。」駅夫が真っ先に自分の笹かまの焼き具合を確認し、「お、良く焼けてるじゃん。これでひっくり返して良いんですよね。」駅夫は薄らと焼き目が全体に付いているのを見て、店員に確認する。

「はーい、大丈夫だよ。ひっくり返したら今度は二分くらい焼いでみてな。ちょっとずつふっくらしてくるから、焼き過ぎねよう気をつけてなー。」

 続いて羅針、平櫻と確認し、店員さんにお墨付きを貰う。


 再び二分の我慢比べだ。

 しかし、今度は笹かまに反応があった。少しずつではあるが、お餅のようにじわりじわりと、全体が膨らみ始めたのだ。

 相変わらず三人はソワソワしていたが、どうにか二分を待ちきった。

「良し、時間だ。」

 駅夫は、羅針のスマホのアラーム音を聞くと、喜び勇んで、竹串に手を伸ばし、焼け具合を確認する。

「如何ですか。」

 店員に確認する。

「はーい、いい感じに焼けてるねぇ。大丈夫だよー。」

 店員は、ニコニコと笑顔で言う。

「じゃ、私たちも。」

 平櫻も待ちきれなかったのか、自分の笹かまに手を伸ばして、焼け具合を確認した。

「どうでしょうか。」

「はーい、大丈夫だよー。」

 平櫻の分も大丈夫そうだ。

「私のはどうでしょうか。」

 羅針も店員に確認する。

「はーい、あんたのも大丈夫だよー。」

「ありがとうございます。」


「そのまま食べてみてなー。ふっくらした食感が美味しいよー。熱いから気をつけてなー。」

 店員の勧めに、三人はお礼を言った。

「匂いが違いますね。」

 平櫻が焼きたての笹かまに鼻を近づける。

「確かに、香ばしい匂いが良いね。」

 駅夫も鼻を近づけて言う。

「本当だ。さっき食べたのとは明らかに違うな。」

 羅針も昼飯で食べた笹かまと匂いからして違うことに驚いた。


 三人は「いただきます。」と言って、一口頬張った。

 弾力が凄くて、なかなか噛み切りにくかったが、熱いのを堪えて漸く口に入れた。

「あっつ。でも美味い。」

 駅夫が驚いている。自分で焼いたので、余計に美味いのかも知れない。

「本当です。何も付けてないのに、さっき食べたのよりも美味しい。弾力も凄い。」

 平櫻も目を見開いている。

「表面の歯応えと、もちもち感、それにこのふっくらとした食感が相まって、食べ応えが生まれてるんだよな。それに、この旨味はさっき食べたのとは段違いですね。」

 羅針も分析癖が再び発動している。


「実はね、道の向こうに酒造があってさ、そこの純米酒使ってるんだよー。それで、こいづの食感と旨味がぐっと出てくるんだよー。」

 店員が説明をしてくれる。

「それが旨味に繋がっているんですね。」

 平櫻が感心したように言う。

「私たち車なんですが……。」

 酒と聞いて、羅針が言葉を濁して聞く

「アルコールは入ってないから、安心してなー。」

 店員がにこやかに答える。

「それなら良かった。」

 羅針はホッと胸を撫で下ろす。

「良かったな。危うく車をここに置いていくことになるところだったな。」

 駅夫が笑う。

「だな。」

 羅針は頷いた。


 三人は、余程ここの笹かまが気に入ったのか、自分用にいくつかと、実家用に配送をお願いした。

「親はビックリするだろうな。いつも突然送られてくるからな。」

 駅夫はそう言って笑っている。

「えっ、お前連絡入れてないの。俺は一応連絡入れてるぞ。」

 羅針が驚いたように言う。

「マジ。お前がそう言うコトするから、俺が怒られるんだよ。『隣のラー君はいつもしっかりしてるのよ。それに比べてあんたは。』ってね。」

 駅夫がそう言って嘆く。

「へえ、星路さん、ラー君って呼ばれてるんですか。」

 平櫻が驚いて言う。

「そう、小さい時からウチのお袋はラー君って呼んでるんだよ。」

 駅夫が言う。

「お前のお袋さんだけだよ、そうやって呼ぶの。お前だってウチの母ちゃんにエッ君て呼ばれてるじゃん。」

 羅針はそう言って反撃する。

「へえ、旅寝さんはエッ君ですか。可愛いですね。」

 平櫻は良いことが聞けたと喜んでいる。

「あっ、こいつバラしやがった。平櫻さん、他言無用だからね。」

 駅夫が平櫻に圧を掛ける。

「は、はい。言いませんよ、誰にも。それにしても……。」

 平櫻は真剣に頷きながらも、笑いを堪えずにいた。

「お前が悪いんだからな。」

 羅針が駅夫のせいにする。

「違うよ、お前が事前連絡してるって言うからだろ。」

 駅夫も言い返す。

「まあ、まあ、ラー君もエッ君も次に行きましょ。」

 平櫻は笑って言う。

「あっ、平櫻さんまで。」

「平櫻さんもかい。」

 羅針と駅夫が声を揃えて言う。三人はその後一頻り笑った。


 三人は笹かま屋さんの店員にごちそうさまとお礼を言って店を出た。

 他にも、お団子屋さんでえびせん付きのお団子をいただいたり、焼きマシュマロの体験をしたり、ジェラートや、赤貝のお寿司、しらすのおむすびなどをいただいたりと、今にも雨が降りそうな雨模様の天気ではあったが、幸いポツリとも来てないので、オープンテラスを存分に楽しんだのだった。




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