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日本全国鐵輪巡礼 ~駅夫と羅針の珍道中~  作者: 劉白雨
第拾弐話 静和駅 (栃木県)
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拾弐之拾弐


 赤塚山の山頂で撮影を終えた旅寝駅夫と星路羅針、平櫻佳音の三人は、登ってきた道とは別の、真っ直ぐ降りる階段を一段一段足元に気を付けながら、羅針を先頭に平櫻、駅夫の順で降りていた。

 山道はプラスチック製の擬木ぎぼくが打ち込まれていて、歩きやすくはなっていたが、濡れた地面に落葉もあったため、やはり足は取られ、滑りながらも、転ばないように十分注意しながら三人は降りていった。


「無事に降りてきたな。」

 漸く麓のアスファルトに足を着けた駅夫が、安堵の溜め息をつく。

「そうだな。何事もなくて良かったよ。平櫻さん大丈夫ですか。」

 羅針は駅夫に応えてから、平櫻を気遣う。

「はい。大丈夫です。ちょっと疲れましたけど。まだ大丈夫です。カイロをいただいたお陰です。」

 平櫻が無理をしているのか、作ったような笑顔を見せている。

「一応、昨日も言っていたとおり、この近くにはラーメンか、アジアンか、ハンバーガーがありますが、行きたいお店はありますか。」

 羅針が昨日予定を組んだ時に平櫻と確認していた飲食店を列挙する。

「出来れば温かいものが食べたいですね。もちろんお二人に食べたいものがあれば、それに合わせます。」

 平櫻は遠慮気味にそう言う。

「分かりました。駅夫はどうする。」

 羅針は駅夫にも確認する。

「俺は何でも良いよ。地元のものが食べられるなら。」

 駅夫はそう言って羅針に任せる。

「了解。それじゃ、ラーメンにするか。佐野ラーメンだから一応郷土料理だ。どうだ。」

 羅針は駅夫に確認する。

「良いね、佐野ラーメン。カップ麺でしか食べたことないから、本場の佐野ラーメンは是非食べてみたいね。」

 駅夫がそう言ってサムズアップをする。

「平櫻さんはどうですか。佐野ラーメンで良いですか。」

 羅針が平櫻にも確認する。

「ええ。もちろん構いません。」

 平櫻がそう言って頷いた。

「それじゃ、ラーメンと言うことにしますか。平櫻さん、後15分位で着きますが、辛いようならタクシー呼びますか。」

 羅針が気遣って聞く。

「いえ、それほど辛い訳じゃないので大丈夫です。ありがとうございます。」

 平櫻はそう言って断り、羅針の気遣いに礼を言った。


 産廃処理業者なのか、それとも資材置き場なのか、色んな資材が置いてある業者の敷地の入口で話をしていた三人は、大通りへ向けて歩き出した。県道11号を抜けて、国道50号のバイパス沿いを歩いて行く。

 畑を左手に見ながら、国道を飛ばしていく車を横目に、雨の中を歩く。畑から上がってくる匂いなのか土が発酵したような匂いと、雑草やアスファルト、排気ガスの匂いが入り混じった、独特の匂いが三人の鼻をつく。


「羅針、これもペトリコールとか言うのか。」

 駅夫が鼻をクンクンやりながら、この独特な匂いについて尋ねる。

「さあな。でも、そうなんだろうな。ゲオスミンが含まれていれば、ペトリコールだろうとは思うけど。」

 羅針も自信はないが、おそらくそうだろうと応える。

「そうか。まあ、分析出来なきゃ特定は出来ないか。そりゃそうだよな。スマホで匂いが特定出来たら良いんだけどな。流石にそう言う機能はないか。」

 残念そうにそう言って駅夫は特定するのを諦めた。

「何でも出来るからって、匂いセンサーまでスマホに取り付けたら、スマホがいくらになると思ってるんだよ。」

 駅夫の突拍子もない発想に、羅針がダメ出しをする。

「でも、それって夢がありますよね。何の匂いか分かるだけでも便利ですし、有害物質の臭いを判別してくれれば、危険を回避出来たりしますもんね。それに、私なら化粧品の匂いを分析して欲しいですね。そうすれば、自分が付けている化粧品が何の匂いなのか、分からなくなることがなくなるじゃないですか。」

 平櫻がそんなことを言って、駅夫の発想を称賛する。

「平櫻さんは優しいな。お前も見習えよ。」

 駅夫が羅針を詰ると、先を歩く当の羅針は肩を竦めていた。


 三人は国道50号のバイパスに沿って歩いて行くと、喫茶店の看板が見えてきた。

「もうすぐですね。」

 羅針は後ろを付いてくる平櫻に声を掛ける。

「はい。」

 平櫻は雨が顔に掛からないように俯き気味に歩いていたが、その足取りはしっかりしているようだった。その後ろを付いてくる駅夫は、あちこちキョロキョロしながら付いてくる。

 喫茶店には車が停まってはいたが、休みなのか、それとももう閉店しているのか、窓にはカーテンがしっかりと閉まっていて、灯りも点いていなかった。


 そのひっそりとした喫茶店を過ぎると、すぐにラーメン屋が現れた。こちらは駐車場もほぼ埋まっており、営業中であることが分かった。

 何かの店の居抜きなのか、ラーメン屋と言うよりも洋菓子店という方がしっくりくるような外観をした、妻入切妻造の屋根に白い壁が特徴的な建物で、これまた建物の雰囲気とは不釣り合いな、白地に赤い文字でラーメンと書かれ、上下に双喜紋そうきもんがあしらわれた、入口に掛かった暖簾が、三人を出迎えてくれた。


 三人は、漸く着いたことに安堵し、吸い込まれるように店内へと入っていく。

 入口の扉を開けると、ラーメンを茹でた時に立つ独特な匂いや、餃子を焼いた時に立ち昇る匂いが、三人を包み込む。

 店内を見渡すと、カウンター席と小上がり席、それにテーブル席もあった。店内は清潔感に溢れ、掃除が行き届いているようだ。

 

 三人が雨具を仕舞っていると、「いらっしゃいませ。」と店員が来て人数を聞いて来た。羅針が三人だと伝え、平櫻が店の外観と食べているところを動画撮影しても良いか尋ねた。

 店員は厨房で調理している、店長にしては若く見える男性に、許可を確認しに行った。

 厨房にいた、黒いシャツを着て、青い縦縞のエプロンをした男性は、丁度麺を湯がいている最中で、菜箸で寸胴の中の麺を掻き回していた。

 三人を一瞥した男性は、にこりと微笑んで、「良いですよ」と声を掛けてくれた。三人は頭を下げて礼を言った。

 平櫻は折り畳みのハンガーを取り出し、脱いだ雨合羽を入口の脇にある傘立ての後ろに干して置いても良いか店員に確認し、許可を貰った。

 そして三人は、案内されたテーブル席へと着いた。


「取り敢えず温かいラーメンにありつけそうで良かった。」

 駅夫がそう言って、テーブルに備え付けの使い捨てお手拭きを使っていた。

「ああ。ちょっと冷えたからな。温かいラーメンはありがたいな。」

 そう言って羅針も手を拭く。

「すみません、私が寒がりだったばっかりに。」

 手を拭いた後、平櫻が恐縮したように頭を下げる。

「良いんですよ。暑い寒いは人それぞれなんだから、しかたないですし。」

 羅針がそう言って気にしていないことを伝える。

「そうそう、むしろ無理して悪化してしまうことの方が迷惑だし、心配なんだから、体調不良は早めに対処すればなんとかなるんだし。気にしない気にしない。これぐらい迷惑でもなんでもないんだから。心配はするけどね。」

 駅夫はそう言って、照れ臭そうに笑う。

「ありがとうございます。ご心配をお掛けしました。……あっ、ここは水がセルフなんですね。私取ってきます。」

 平櫻は礼を言って頭を下げたあと、照れ隠しなのか、気付いたように水を汲みに行く。


「彼女大丈夫かな。」

 駅夫が呟くように聞く。

「水汲みが?それとも体調が?」

 羅針が聞く。

「もちろん両方。」

「体調は様子を見る限り大丈夫そうだな。飯を食って身体が温まれば問題ないだろ。水汲みは……って。」

 羅針が水汲みに言及しようとしたところで、三つのコップを危なっかしそうに持って、そろりそろりと歩いてくる平櫻が目に入った。

 羅針は慌てて立ち上がり、「一つ持ちましょう」と声を掛けた。

 平櫻はコップを取られるとバランスが崩れてしまうとでも思ったのか、「大丈夫です。」と言って、羅針を断り、なんとかテーブルまで到達出来た。

「ありがとう。」

「ありがとうございます。」

 駅夫と羅針は平櫻に礼を言う。

「どういたしまして。これぐらいお安い御用です。」

 平櫻はそう言って照れ臭そうに微笑んだ。

 危なっかしく運んできたのをお安い御用と言ったことに、二人は引っかかり、目を見合わせたが、無事に運んできたのでそれ以上は何も言わなかった。


 三人は一息()いた後、メニューから、駅夫はチャーシュー麺の醤油味に餃子とチャーハン、羅針は生姜ラーメンの塩味に餃子とチャーハン、そして平櫻は醤油味のチャーシュー麺と塩味の生姜ラーメン、それに味玉とチャーシューをそれぞれトッピングして、餃子とチャーハンを付けた。

 流石にもう、平櫻の注文に驚くことはしない二人だったが、ラーメンの数が人数より多いためか、店員の女性は二度も注文を確認し直していた。


 注文を待つ間、駅夫の「羅針、佐野ラーメンってどんなラーメンなんだ」と言う一言で、早速羅針の蘊蓄時間が始まった。

「佐野ラーメンは、佐野市を中心に食べられているラーメンだけど、基本は太い竹を使って打った青竹打ちの平麺が特徴で、全体重をかけて打つ麺は特にコシが強いらしい。麺の太さや形、それからスープに関しては店によって異なっていて、特に決まりはないみたいだけど、一応佐野ラーメンの定義を作った団体によると、スープは醤油味と決めていたみたいだね。

 今は誰も守っていないのか、それともその定義自体がなくなってしまったのか、それは分からないけど、色んな味が楽しめるみたいだね。それこそ、醤油を始め、塩、鶏ガラ、味醂を入れた甘めのものとか、中には豚骨なんていうのもあるらしいよ。ちょっとイメージ湧かないけどね。」

 羅針が一気呵成いっきかせいに蘊蓄を並び立てる。


「じゃ、厳密に言ったら塩味を頼んだお前は佐野ラーメンじゃないってことじゃん。」

 駅夫が揚げ足を取るように指摘する。

「まあね。でも、ほら、食は自由だから。それにお前が頼んだチャーシュー麺だって海苔が入っていただろ、佐野ラーメンの具材は基本的にチャーシュー、メンマ、ナルト、長ネギだから、海苔は入っていないんだよ。だから、お前の頼んだものも厳密には佐野ラーメンじゃないんだよ。」

 そう言って羅針は駅夫をけむに巻く。

「ん?まあ、それはそうだけど。……そうなの?」

 駅夫は狐に抓まれたような顔をしていたが、不安になったのか、平櫻に聞く。

「えっ、私ですか。……どうなんでしょうね。私は両方頼んでますからね。両方とも佐野ラーメンであって欲しいなって思いますけど。」

 そう言って平櫻は特定するのを避けて、にこりと笑った。

「なんだよ、平櫻さんはこいつの味方か。……もしかして賄賂のせいか。賄賂のせいだな。」

 駅夫がまた訳の分からないことを言い出す。

「賄賂って何だよ。」

 羅針が咎める。

「さっきゼリーとカイロをあげてただろ。あれを賄賂と言わずしてなんと言うんだ。」

 駅夫はキィーっと歯噛みするような表情を作る。

「そんな。あれは星路さんのご厚意で、感謝はしていますけど、それで贔屓するとかそんなことはしませんから。」

 平櫻が困ったように一生懸命否定する。

「あほっ、平櫻さんを困らせるようなこと言うんじゃないよ。それにゼリーはお前にもやっただろ。」

 羅針がそう言って駅夫を小突く。

「ごめん、ごめん、平櫻さん冗談だから、本気にしないでよ。」

 駅夫がそう言って手を合わす。

「もう、脅かさないでくださいよ。」平櫻は冗談だと知ってホッとした途端、「それじゃ、お詫びに旅寝さんのチャーシュー全部いただいても良いですか。」そう言ってにこりと笑う。

「えっ、ちょっと待って、それじゃただのラーメンになっちゃうじゃん。せめて一枚だけは残してよ。」

 駅夫は再び平櫻に向かって手を合わせた。

「冗談ですよ。お返しです。」

 平櫻はそう言って笑い出した。

「なんだよ、冗談か。焦ったぁ。その笑顔が怖いんだよな。」

 駅夫は大袈裟に額の汗を拭くフリをして笑う。

 それを見ていた羅針も声を出して笑った。


 そんなことを言って巫山戯ていた三人の元に、いよいよラーメンが運ばれてきた。チャーハンと餃子はどうやら後のようだ。

 いただきますをした三人は、それぞれのラーメンにまずはレンゲを着けてスープからいただく。

「この醤油味、ちょっと濃いめだけど、コクもあっていける。美味いよ。」

 醤油味のチャーシュー麺を頼んだ駅夫が唸る。

「塩は良い塩梅あんばいだよ。汗を掻いた身体には染みるね。生姜の風味も良い感じだよ。これは美味いね。」

 塩味の生姜ラーメンを頼んだ羅針も唸る。

 両方を頼んだ平櫻はそれぞれのスープを飲み比べている。

「確かにお二人の仰るとおりですね。醤油は濃いめですが、あっさりした感じで美味しいです。塩は、さっぱりしていて、すっきりした味わいですね。生姜の風味も良い感じです。こちらも美味しいですね。」


 スープを堪能した三人は、早速麺へと箸を伸ばす。

「中太麺だけど、言うほど縮れてなくて、ちょっと長めなのかな。スープと良く絡んで、塩味が小麦の味をしっかりと引き出していて、麺の味をしっかり感じられる良いラーメンだと思うな。」

 羅針が一口麺を啜って、感想を言う。

「確かに小麦の味はしっかり感じられるな。でも、醤油の味が小麦の味とマッチしているのか、引き出していると言うより、共存しているって感じがする。」

 駅夫がそう言って、二口三口と食べ進める。

「確かに縮れ麺と言うには縮れ具合が少ないような気がしますけど、この位の縮れ方がこのスープには良く合ってるような気がします。醤油も塩も、小麦の味を引き立てていますね。お二人の仰るとおり醤油の方は小麦の味と共存している感じですし、塩の方は引き出しているって感じ、まさにその通りですね。とても美味しいです。

 具材も丁寧に仕上げられていますし、チャーシューの柔らかさ、煮卵のトロトロ感、ワンタンも餡の旨味がスープと絡んで、こちらも美味しいですよ。」

 平櫻の食レポが停まらない。

「流石水を得た魚だな。さっきまで寒さで震えていたとは思えないや。」

 駅夫がからかうように言う。

「余程お腹がすいてたんですね。」

 羅針もそう言って笑う。

「もう、止めてくださいよぉ。」

 そう言って平櫻は恥ずかしそうに笑う。

「良いって、良いって、気にせずにやってよ。おじさん二人は美味しそうに食べる君の姿に見とれてるんだから。」

 駅夫がそう言って笑いながら、平櫻を冗談半分でじっと見る。

「駅夫、あまりセクハラ紛いのことするなよ。チャーシュー全部取られるぞ。」

 羅針もそう言って笑う。

「もう。本当にチャーシュー取っちゃいますよ。」

 平櫻がそう言って駅夫のどんぶりに箸を伸ばそうとする。

「わっ、それは勘弁してくれ。」

 駅夫が慌ててどんぶりを引っ込める。

「ほら、遊んでないで、ちゃんと食べなよ。」

 羅針が二人を諫めるように言う。

「星路さん、他人事ひとごとじゃないですよ。あなたのもいただきますからね。」

 平櫻が今度は羅針のどんぶりに箸を向ける。

「ごめん、ごめん。ごめんなさい。それは勘弁してください。」

 羅針は慌ててどんぶりを手でガードする。

 真剣な眼差しをしていた平櫻は、とうとう我慢出来なくなったのか、堪えきれずに笑い出した。

「いつもお二人がやってる茶番ってのをやってみましたぁ。」

 そう言って平櫻はペロッと舌を出しておどけてみせた。

 駅夫と羅針は目を見合わせ、一瞬固まってしまったが、すぐに理解して笑い出した。

「これはやられた。」

「一本取られました。」

 駅夫と羅針はそう言って二人ともおでこに手を当てる。それはまるで双子のようにシンクロしていた。

「本当に、こう見ると兄弟のようですね。」

 平櫻が素直な感想を言って微笑んだ。


 やがてチャーハンと餃子が届き、鶏油ちーゆの利いたチャーハンと、餃子の街宇都宮のDNAを引き継いだような餃子が、三人を満足させた。


 食べ終わった三人は、お腹が満腹になり、身体はすっかり温まっていた。

 三人は水を飲みながら、この後の予定について話し合っていた。

「この後どうしますか。線路の東側から、北西部を歩いてくれば、静和地区の一周が完了しますが、平櫻さんの体調が問題なければ、このコースで散策を続けますが。」

 羅針が平櫻と昨日から立てていた予定のコースを、平櫻に再確認する。

「もう体調は充分大丈夫です。エネルギーチャージも完了しましたし。」

 そう言って平櫻は細い腕に力こぶを作ろうとする。

「力こぶ出来てないけど、大丈夫?」

 駅夫がすかさず突っ込む。

「もう。ポーズだけですよ。」

 平櫻がそう言って口をとがらす。

「それだけ元気なら大丈夫だ。」

 駅夫が笑いながら言う。

「そうだな。まあ、無理は禁物ですから、少しでも調子悪くなったら言ってくださいね。後は町の中を歩くだけですから、無理する必要もないですから。」

 羅針がそう言って平櫻を気遣いながらも、釘を刺す。

「はい。分かりました。」

 平櫻も羅針の言葉の意味が分かったのか、今度は真剣に話を聞いていた。

「よし、それじゃ後半戦だな。締まっていこうぜぇ。」駅夫が掛け声をかけるが、羅針も平櫻もスルーしたので、「なんだよ、二人とも。そこはオーだろ。」と駅夫が詰る。

「さっ、平櫻さん行きましょうか。」

「はい。星路さん行きましょう。」

 羅針と平櫻は、目配せして駅夫をスルーしていたのだ。

「お前らぁ。……って、待てよ。いつから結託してたんだよ。」

 駅夫は二人が結託していることに気付いて、詰ろうとするが、二人は既にレジの方に歩いて行った。駅夫は慌てて荷物を持って、二人の後を追いかけた。


 会計は羅針が纏めて済ませ、その場で電子決済を平櫻とスマホでおこなった。

 三人は、忙しそうに調理を続けていた店長と、会計をしてくれた店員に、ごちそうさまと、撮影の礼を伝えた。平櫻は自分の名刺を店員に渡し、動画の宣伝も忘れなかった。店員が名刺をもらったことを伝えると、それまで黙々と調理していた店長は「動画拝見します。ありがとうございました。お気を付けて。」とにこやかに言ってくれた。


 駅夫と羅針は傘を差し、平櫻は干して置いた雨合羽を着ると、店を後にした。

 降り続く雨は、止む気配もなく、外は国道を行き交う車の音と、雨音だけが響き渡っていた。





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